第12章
結晶界は先刻話した通り、すべてが白化した世界である
ほぼ絶滅したような世界だが、まだスピリアは生きていた
『エクレールラルム!!』
ライの光の思念術がゼロムに炸裂する
それを皮切りに、リョウが前に出てゼロムを切り裂いた
『本当にライが言ったとおりゼロムが蔓延ってるな』
『これでも少なくなった方だと思う。』
同じくコハクがそのスラリとした美しい見事な足技でゼロムを破壊して言った
『いや相変わらずコハクさんの足技迫力あるな。今度ご教授願おうかな』
ロリセが目の前の花型のゼロムを銃で焼き払う。よく燃えてるなぁ~と若干棒読みで聞こえた気がするのは気のせいではないだろう
『はは!頼もしいったらないよ。』
シングが自身のソーマ、アステリアでゼロムを同じくカルセドニーと肩を並べて切っていく
『私たちも負けていられないな!戦友!』
『そうだね!カル!!』
シングが前に飛び出し、ゼロム目掛けて切り込んでいく。すると後ろから高まる思念の力を感じた
『明澄なる光念、罪深き者に裁きを!レイ!!』
カルセドニーの援護射撃で怯んだゼロムをシングが更に切り裂く
『これで終わりだ!星影連波!!』
シングの三日月型の衝撃波が残りのゼロムを破壊し、その場は静寂を取り戻した
『ケガしたやつらは……いねぇな。』
ヒスイがゴーグルを外し、ゲイルアークを戻し、辺りを見渡した
『大丈夫みたいね。』
イネスも片をつけたらしく、フォルセウスをどかりと置いた
『みんな強いねぇ。』
ベリルがライの横で言う
『ベリル、援護助かったよ』
ライはベリルの頭をぽんぽんと叩いた
『へへ~ん。ま、未来の大巨匠のボクがいれば百万力だろうけどね♪』
『百人力な』
『う、うるさいな!いいだろ別に!!』
ライの突っ込みに、ベリルは顔を真っ赤にして抗議した
『…なんだか、シングたちと再会したライはとても楽しそうですよね』
エステルがライたちのやり取りを見ながら言った
『そうだね、でもその気持ち私わかるよ?私もギルドのみんなといるとすごく楽しくてワクワクするの!』
リルハの言葉にルーシィとグレイはふと微笑みを浮かべた
『さ、この先にあるワンダリデルまであと一息だ。誰もいないところだが、街の機能は生きている。しばらくそこを拠点にするぞ』
ライが武具解放した銃をしまった時、時空間が歪む感覚と共に叫び声が響きわたった
『不幸だぁあぁぁあぁ!!!』
『ちょっと当麻ぁああぁ!!?下!下人がいるわよ!!避けなさい!!』
『無理!!』
まだ年若い少年と少女の声である
その叫び声はだんだんと近くなってきており
『リョウ!危ないです!』
エステルの忠告はすでに遅く
『いっ!!?』
見事にリョウの上にその少年と少女は着地したのだった
『……ふ………不幸だ………』
その一言を最後に、リョウの意識は闇に閉ざされた
結晶都市ワンダリデル
この結晶界唯一の都市であり、かつてはたくさんの人で賑わっていた。
しかし今はほぼ人もいなく、街の機能だけ生きている状態であった
街の機能は、以前シングたちが訪ねた時に復活させている
街のなかは安全なので、ゼロムが出てくることもないのである
そんな部屋の一室でリョウは目を覚ました
『ここは……僕どうしたんだっけ?』
ぼんやりする頭を抑えてリョウは起き上がった
『気がついたか、リョウ?』
聞きなれた声が、部屋に響いた
『あ、ライ……なんかごめん。もしかして運んでくれた?』
リョウは横の棚に置かれていた眼鏡の無事を確認したのちかけ直す
『いや、お前を運んだのは俺じゃない。』
『え、あ。そうなの?』
すると部屋のドアが開き、1人の少年が顔を覗かせた
『あ、リョウ。起きたのか。』
リョウに声をかけた少年は特徴的なツンツン頭の黒髪で、制服を着た何処にでもいる普通の少年だった
『へ!?か、上条!!?え?嘘、なんでお前がここに!』
『あ、やっぱり知り合いだったのかお前と上条……』
ライが頭をがしがしと掻き
『上条と御坂からある程度のことは聞いたよ。何でも、地割れに巻き込まれてここに辿り着いたんだと』
『上条たちも!?他のみんなは?』
リョウの質問に上条こと上条当麻はとりあえず適当に座り
『俺と美琴はたまたま一緒にいたから、はぐれることはなかったけど、一方通行と彩音ちゃん、垣根たちはわからない』
『そっか……でも上条と御坂の無事は確認できてよかったよ……』
とりあえず上条当麻という少年は、とある学園都市に住居を構える高校生である。しかし極度の不幸体質であり、よく不良に絡まれたり厄介ごとに巻き込まれてしまう体質だ
それはリョウもにたようなところもあり、何らかの形で二人は出逢ったのだろう。
『ところでこれからライはどうするの?』
『予定通りここの施設を借りて、リルハちゃんを星霊に合わせてあげる手はずを整える。だからしばらくここを拠点にして、敵への対策も考えるつもりだ』
ライはゾフェルで手に入れた魔導鉱石を弄びながら笑んでみせた
『とにかくみんな連戦で疲れてるはずだから、ここで休んで貰ってるよ。静かなとこだが、街の機能は生きてるしな。風呂も入れるしベッドもある』
『それは助かるね。』
ライの言葉にリョウと上条は安心した笑みを浮かべた
『んじゃ、俺は早速準備に取りかかるわ。リョウと上条も好きに街を見て回るといい』
『そうさせてもらうよ。いこ、上条!』
『俺は構わないけど、お前はいいのか?』
『大丈夫!僕のタフさ知ってるでしょ?』
リョウはにこりと上条に笑んだ
その光景をライは微笑ましそうに見たのち、部屋を出ていこうとすると声をかけられた
『ライもあまり無理はしちゃダメだからね!』
『うるせぇな嫁かよ。わかってるってば』
ライはそう言い残し、ひらひらと片手を振って出ていった
『リルハちゃん、準備できた?』
ワンダリデルの研究施設に、ライとリルハは足を運んでいた。
『うん。でもこれで本当にいいの?』
リルハの手には蒼を基調とした宝石が握られていた
『うん。その鉱石は特殊な鉱石でな。持ち主のスピリア、つまり心に反応する"思念石"っていうんだ』
『……思念石……』
リルハは不思議な光を放つ思念石を見つめる
『その石にありったけの想いを込めていつも一番身近に、君を助けてくれてる存在をイメージしてみて。後はこっちに任せてくれればいい』
ライは機械にこの間手に入れた魔導鉱石とリルハの星霊の鍵をセットした
まずはこの魔導鉱石に星霊の鍵の魔力をコピーする。うまくいけばそれを元に魔導鉱石は姿を変える。
そしてリルハの想いがつまった思念石をコアクリスタルにする。
そのコアクリスタル、星霊の鍵、魔導鉱石で作ったアクセサリーが合わされば、星霊の鍵は機能を取り戻し
魔導鉱石で出来た『ガワ』つまりは本体となるアクセサリーがあれば今まで通り星霊が呼べるようになる
そのアクセサリーは星霊界と契約者を繋ぐための道標というわけだ
ソーマリンクと同じ機能と思ってくれていい
『私、頑張るね。ライお兄ちゃん!』
『そんなに気負わなくてもリルハちゃんなら出来るさ』
そんな会話をしている間にも、コピーは進んでいる。リルハは『うん!』と頷いたのち、言われた通りにその思念石に魔力を注ぎ始めた
『……リルハ』
心配で一緒についてきていたルーシィが小さく名前を呼んだ
魔力を注ぎ続けると、リルハの手のひらにある思念石が強い光を放ち始める
どれだけそうしていたかはわからないが、しばらくするとその思念石には術式が刻まれていた
『リルハちゃん、もういいよ』
『んにっ?』
ライの呼び掛けに、リルハは恐る恐る瞳を開いた。するとそこには淡い光を放ちながら、その中心に術式が刻まれた美しい蒼海の色をした思念石があった
『せ、せいこうしたの?』
『あぁ。思念石の中心に術式が刻まれてるだろ?それが成功の証さ。その思念石貸してくれるか?』
そしてタイミングを見計らったかのように、魔導鉱石の方も出来上がった
リルハはそっとライに思念石を渡す
どうやら魔導鉱石はペンダントになったようである
『んで、次はこのペンダントの枠にこの思念石を入れて』
ライは慣れた手つきで思念石をペンダントの枠に嵌め込んだ。
あらかじめ今まで立ち寄った街の宿で、皆が寝静まった頃合いを見計らい、加工はほどこしておいたのだ
『すごい!ぴったりだわ!』
ルーシィがそれを見て驚いた
『誰が加工したと思ってんだ?』
ルーシィの言葉に苦笑しながらリルハにそのペンダントをかけてやり、星霊の鍵も返した。リルハは星霊の鍵を見つめたのちルーシィを見やった。するとルーシィは優しい笑みを浮かべたのち、しっかり頷いた。リルハは一度瞳を閉じ、しばらく精神統一したのち
『…開け!白羊宮の扉!!アリエス!!』
リルハの呼び掛けとともに、鍵から光が溢れ出し現れたのは桃色の髪にもこもこしたワンピースを着た羊を思わせる女性だった
『す、すみません……』
何故か謝りながら出てきた羊の女性、もといアリエスにリルハは感極まって飛び付いた
『アリエス!!本当にアリエスだ!』
『えっ、あっ……リルハさま?ご無事で!』
アリエスの方もリルハに気付いたらしく、同じようにリルハを抱きしめた
どうやら目論見は成功したようである
『アリエス!久しぶりね!』
『ルーシィさんもご無事でしたか……よかったですぅ……』
再会を喜び会う3人に、ライはとりあえず当面の戦力が少し充実したと思った。
もちろんリルハもルーシィも今まで頑張ってくれていたし、充分すぎる戦力だが、敵の戦力がまだわからない以上、用心するに越したことはない
先日、とある情報筋からライの元に飛び込んできた情報に、上条と御坂たちの存在もあった。
あとは一方通行と彩音、垣根たちだが同じ世界に落ちてくれていることを祈るばかりである
『ライお兄ちゃん、ありがと!すごく嬉しい!これでもっと役に立てるね!』
リルハの言葉に我に返ったライは
『いや、当然のことしたまでだよ。期待してるよ。リルハちゃんたちには』
『あたしも出来るだけ迷惑かけないように自分の身は自分で守るわ』
ルーシィの一言にリルハは
『大丈夫。ルーシィお姉ちゃんも、みんなも私が守るよ』
『頼もしいな』
ライは微笑んだ
『ライ!大変です!』
エステルが酷く慌てたように研究所に駆け込んできた
『エステル?』
はぁはぁと息を整えながら、エステルはライに視線を戻し
『街の外にゼロムと魔物が!ライが張ってくれた結界で中には来れないようですが、何だか様子がおかしくて』
『ひょっとして……』
ライがなにか思い当たる節があるのかエステルを見る
『ゼロムと魔物の中心に女の人が……それで駆け付けたグレイが顔色を変えたんです。ジュビアって』
『え!!?』
ほぼ同時にルーシィとリルハは声をあげた。
『わかった。すぐ行く。ひょっとしたら、そのジュビアって子、ゼロムに取りつかれてデスピル病になってるのかも』
『デスピル病、ですか?』
『あぁ。ゼロムに取りつかれた人間が発症するスピリアを暴走させる病気だよ。』
ライの説明に
『確か、スピリアって心のことよね?』
ルーシィが質問してきた
『そうだ。そのデスピル病に関しては俺やシングたちみたいなソーマ使いでないと対処できない。行くぞ』
結界の外に出て、まず目にしたのはゼロムと魔物だった。
確かにエステルの言うとおり、中心に青い髪にウェーブがかかった女性がいた
『やっぱりママ!』
『なるほど、あの子がリルハちゃんのお母さんか』
『ライか。そうみたいだ。グレイから聞いた特徴と完全に一致した』
バルハイトを構えたカルセドニーがライに視線を向けた
『……リルハちゃん………グレイさま…………どこ……………』
虚ろな瞳でジュビアは譫言のように呟いた
『ママ!私とパパはここにいるよ!目を覚まして!』
リルハの言葉もすでに届かないようだ。おそらく既にゼロムが彼女の心の中に入り込んでいる
『リルハちゃんたちはリョウたちと一緒に辺りのゼロムと魔物を一掃してもらえるか?俺とシングたちで彼女のスピリアに入り込んで直接の原因を叩き潰してくるから』
リルハが心配そうにライを見上げる
『それでジュビアが助かるなら何でもいい。頼めるか?』
グレイの言葉にシングは
『もちろんさ!必ずリルハちゃんのお母さんとグレイの奥さんを助けてみせるよ!』
『うん!任せて!』
シングとコハクはすでに自身のソーマを武具解放している
『リルハ、専門家がいるんだからそんな顔しなくてもきっと大丈夫よ!信じましょう!星霊だって呼べるようした貴女なら大丈夫!』
ルーシィの言葉にリルハの瞳は確固とした意思を灯した
そんな話をしていると何体かのゼロムが吹き飛ばされた。吹き飛ばしたというか反射に近かった
『この能力!』
上条が思い当たり、攻撃のあった方向へ視線を移すとそこには白髪の髪を揺らして、1人の桃色の髪をリボンで結んだ御坂と同い年ぐらいの少女がいた
『なンで、この俺がこンなババアなンか姫様抱っこしなきゃなンねェンだ!!』
『誰も頼んでないよ!お姫様抱っこなんて!!』
『彩音ちゃん!あと一方通行!』
上条がびっくりしたように声を上げた
よし、上条たちの仲間ならここの戦力は充分である。更に一方通行の反射の能力で一気にジュビアへの道は開かれた
『話纏まった?なら、辺りのゼロムと魔物は頼んだぜ!』
ライも自身のソーマを武具解放し
『いこうみんな!リルハちゃんのお母さんにスピルリンクだ!』
シングの合図と共に、ライたちソーマ使いはジュビアにスピルリンクした
ジュビアのスピリアの中は悲しみで溢れていた
『なんか悲しみの雨がざっぶ~んしたようなスピリアだねぇ』
ベリルが辺りを見ながら言った。
『そうね。マリンさんの時とよく似ているわ。』
イネスも同じく視線を游がせ、ジュビアのスピリアを見渡す
『きっとずっとリルハちゃんとグレイを探してこの結晶界をさ迷っていたんだね』
コハクが何とも言えない表情で言った
『だな。とにかく、早くリルハとグレイを安心させてやるためにも』
ヒスイの言葉にシングは強くうなずき
『奥へ進もう!』
恐らく直接的に影響させているゼロムはジュビアのスピリアの一番奥だろう
『何があるかわからないし、今さらだけど注意しような』
ライである
『そうだな。なんせ、スピリアの中で負ったダメージは我々の身体にそのまま残るのだからな』
カルセドニーも剣は抜いたまま警戒は怠らないようにと皆に念を押した
襲いかかってくるゼロムを切り伏せ、時には打ち抜きながら、ライたちは足を動かす
奥に行くにつれ、空気はどんどん重苦しいものになっていく
『だいぶ奥まできたけど、まだ大元のゼロムは出てこないね』
シングがふと口にした
『そうだな。でも気は抜くなよ?どここからともなく現れてくるのがゼロムだからな』
ライも辺りを警戒しながら歩みを進める
やがて最深部に辿り着いた。そこには予想通り巨大なゼロムが鎮座していた
『いた!きっとあいつだ!』
シングがゼロムを一番に見つけた
するとその巨大なゼロムもシングたちに気付いたのか、自身の体内から雑兵ゼロムを産み出した
『くるぞ!!』
カルセドニー、イネス、シングは前衛に、コハク、ヒスイ、ベリル、ライは後衛に下がった
まずは雑兵ゼロムからである
『下手したら永久にゼロム産んでそうなやつは、なるべく最優先で産ませないようにするわよ!』
イネスの指示に、シングとカルセドニーはまず肩を揃えて、親玉ゼロムに駆け出した。
『カルセドニーそっち任せた!』
『了解だ!』
ライは地上から思念術で援護、飛べるカルセドニーは空中から標的を狙うようだ
『蒼破刃!!』
カルセドニーの空中からの蒼破刃でまず怯ませる
『レイ!!』
さらに怯んだゼロムをライは上空から無数の七色の光を降らせてゼロムを貫く
しかしこの程度で倒れるゼロムではない。カルセドニーとライに向かい、左右の腕から伸びる刃で二人を吹き飛ばす
『っ!あぶね!』
カルセドニーとライはなんとか受け身を取りリカバリングした
『唄え、火の炎念!!バーンストライク!!』
コハクの炎の思念術が辺りに増殖した小型ゼロムを焼き払う
どうやら思念術には弱いようで、コハクの炎の思念術は効果覿面らしい
『コハクナイスだ!雨雲雀!!』
敵の頭上から矢を降らせ、小型ゼロムを撃ち抜きヒスイは叫ぶ
『ベリル!』
ライのご指名にベリルはニヤリと笑い
『準備はバッチリさ!ネガティブゲイト!!』
親玉ゼロムに強烈な闇属性の思念術を炸裂させた
『グォォオォ……』
苦しそうな声をあげながら、親玉ゼロムは尚も抵抗を見せる
『なかなかタフね!でも!』
イネスのフォルセウスによる重い一撃はその巨体を見事に吹き飛ばし
『勝てない相手じゃない!!』
シングは親玉ゼロムへの道が開けたと同時に、奴に駆け出す
それを見かねた小型ゼロムがまた親玉ゼロムを庇うようにバリケードを張った
『無駄だよ!!』
シングはそう言うが、特に小型ゼロムには目もくれず、まっすぐと親玉ゼロムに走っていく
端から見れば無謀に見えるが、シングには大丈夫だという確信があった
『邪魔なんだよ!!沈め!!プリズムフラッシャ!!』
ライの一瞬の思念力の高まりと共に、小型ゼロムのバリケードのすぐ真上から虹色の光の雨が無数に降り注ぐ
小型ゼロムのバリケードと親玉ゼロムもろとも貫くライを見て全員が相変わらず敵には容赦ないと思った
『シング!!』
ライの声と共に、シングは自身のソーマ、アステリアに思念力を注ぎ込んだ
『輝け、オレのスピリアッ!行っけえぇ!』
目にも止まらぬ連続攻撃がゼロムをどんどん切り裂いていく
『切り裂け!はぁッ!まだだ!……うおお!!
…………決める!これで終わりだ!!翔旺神影斬!!』
更に敵を浮かせて敵を切り刻み、最後に上空から連続ヒットする突きを叩き込んだ
その圧倒的な速度を誇る奥義に、ゼロムはひとたまりもないというような断末魔の叫びを上げて沈み、やがて爆発した
『これがオレたちの絆の力だ!』
本当に頼もしい仲間たちだとライは思った
付き合いが長いせいか、シングたちといる時は素の自分でいられる
ライはこの感覚が心地よくて大好きだった。
彼らとならどんな困難も乗り越えれる。そう確信しているのだから
あとでもう一人この場にはいないクンツァイトの様子でも見に行くとするかと思っていた時だった
『コハク!危ない!』
ベリルの叫びにライはハッと我に返り振り返った。目の前の光景に戦慄する
見るとそこにはまだ息のあったゼロムが今、正にコハクとヒスイに飛びかかるところだった
―――――このままでは!!
ライが思念を練り込もうとした時、急にそのゼロムの身体を一筋の光が貫き、そのゼロムは絶命した
『……!?』
何が起きたのかライも、その場にいた全員も全くわからなかった
『今のベリルか?』
恐らく思念術の類いと思われるがライは疑問に思ったことを口にした
『ぼ、ボクじゃないよ………それにあんな高度な思念術、ボクには無理だ……悔しいけど。でもあの思念力……』
ベリルは帽子のツバを下ろし深く被った
『コハク、ヒスイ、大丈夫か?』
カルセドニーが駆け寄り、ケガがないか確認する
『俺は大丈夫だ!コハクは?』
『私も大丈夫……でも今の思念術……』
貫かれたゼロムを呆然と見ながらコハクは呟くように声を出した
『今のでゼロムは全滅できたわね。外が気になるわ。まずはジュビアさんの外に出ましょう』
イネスの提案に、皆は揃ってジュビアのスピリアからリンクアウトした
『ライさん!みんな!おかえりなさい!』
ライラがジュビアの治療をしながら全員を迎えた
『ライラちゃん、リルハちゃんのお母さんは?』
ライが治療をしているライラに近寄った
『はい。皆さんのおかげでなんとか大丈夫みたいです。気を失っているだけのようだから』
グレイの膝の上で眠っているジュビアを見て、ライは胸を撫で下ろした
『ライ、実はリルハが……』
グレイがふとリルハに視線を向ける
『リルハちゃんがどうかしたか?』
まさか重傷でも負ったのかとライもリルハに視線を向ける
リルハはじっとライ、それからシング、コハク、ヒスイ、イネス、ベリル、カルセドニーと一人ずつに視線を向けていきやがて口を開く
『皆さん……御無事で何よりです』
リルハの突然の一言に皆は揃ってうなずいた
しかしなんとなく優しいその口調に違和感と疑問が過った
よく見てみると、リルハの瞳がいつもの深い蒼ではなくエメラルド色に近かった
更にライたちにはこの雰囲気になんとなく覚えがあるようにも感じたのだ
先ほどの思念術のこともあり、ライとシングたちは妙な感覚に襲われる
リルハを信じてないわけではない
当たり前である
しかしこの雰囲気といつもと違う魔力の波に、更に違和感を覚えた
そんなシングたちに納得したかのようにリルハは『あ、いけない』と小さく呟いた
『驚くのも無理はありませんね。何せ私は今、クンツァイトのスピリアの奥深くに眠っているはずなのですから』
クンツァイト、という名前にシングたちは目を見開いた
『……もしかして……』
コハクが思わず口元に手をやる
リルハはにこりと優しく微笑み
『やっぱり、コハクは気付いてくれましたね。ライも』
『……リチアなの?』
コハクが信じられないと言った顔で彼女、リルハを見やる
『…なっ、リチアだと!?』
逆にヒスイはさも驚いた顔をした
『ヒスイ、今私はスピリアだけの存在。本体は今もクンツァイトの中で眠っていますわ』
『つまりはリチアは今、リルハちゃんに身体を借りてる状態ってことか?』
ライの一言に、全員が納得した顔をしたがまだ半信半疑の状態である
『さすがライです。その通りです。懐かしい。皆と旅を終えてまだそう長い時は経ってませんものね』
すると今まで黙っていたルーシィが
『どういうこと?その、リルハの身体にリチアって子のスピリアが同居してたってこと?』
『その、戦ってる時に不思議な感じはリルハちゃんからしてたけど』
ライラの言葉に、リルハ、もといリチアが振り返り
『私が目覚めたのは、つい先日でした。しかしここではまたゼロムが出るかもしれません。一度ワンダリデルにある私の部屋に行きませんか』
すると同じくことの成り行きを見守っていたリョウが
『僕たちも突然のことでなにがなんだか……でも、リルハちゃんの身体を借りたリチアさんに助けられたんだ。』
続いてロリセが
『そうですね。倒しても倒しても、そのジュビアさんに取りついたゼロムが仲間を呼び寄せまくってあたしらギリギリだったしな……』
『まぁリルハたちのおかげで助かったのは事実だしね』
リタである
『そうか……上条たちも大丈夫だったか?』
ライは上条に振り返り
『あぁ。俺たちは合流した一方通行と彩音ちゃんのおかげでなんとかな』
すると白髪の少年、一方通行が
『けっ……好きで助けたンじゃねェよ……』
舌打ちをしていた
『もう一方通行ってばそんなこと言っちゃダメでしょ』
彩音は呆れ混じりにため息を吐いた
『少し黙れよババア』
『なんですって?』
今にもバトルを繰り広げそうな彩音と一方通行に御坂は
『ちょっと一方通行。あたしの親友にババアとか言わないでよ!焼くわよ』
まぁ上条たちにしてみればいつもの光景なのか、上条は苦笑していた
『とにかく街に戻るんだろ?疲れた……』
ウィンルである
『おっとそうだな。ならワンダリデルに戻ろうぜ』
ライは思い出したようにソーマをしまった
『ジュビアは俺がつれてくよ。部屋借りていいよな。ライラ、治療ありがとうな』
グレイがジュビアをお姫様抱っこしてライラに礼を言った。
『気にしないで。しばらくしたら目を覚ますと思います』
ライラはにこりと微笑んだ。ウィンルは何故か少し面白くなさそうな顔をしていたが
ライはその光景を見ながら同じように微笑んだ
『ライ、どうしたんです?』
エステルが不思議そうに首をかしげた
『いや、なんでもないよ。』
エステルは尚も不思議そうにしていたが、とりあえずは全員揃ったところで再びワンダリデルに戻っていった
ほぼ絶滅したような世界だが、まだスピリアは生きていた
『エクレールラルム!!』
ライの光の思念術がゼロムに炸裂する
それを皮切りに、リョウが前に出てゼロムを切り裂いた
『本当にライが言ったとおりゼロムが蔓延ってるな』
『これでも少なくなった方だと思う。』
同じくコハクがそのスラリとした美しい見事な足技でゼロムを破壊して言った
『いや相変わらずコハクさんの足技迫力あるな。今度ご教授願おうかな』
ロリセが目の前の花型のゼロムを銃で焼き払う。よく燃えてるなぁ~と若干棒読みで聞こえた気がするのは気のせいではないだろう
『はは!頼もしいったらないよ。』
シングが自身のソーマ、アステリアでゼロムを同じくカルセドニーと肩を並べて切っていく
『私たちも負けていられないな!戦友!』
『そうだね!カル!!』
シングが前に飛び出し、ゼロム目掛けて切り込んでいく。すると後ろから高まる思念の力を感じた
『明澄なる光念、罪深き者に裁きを!レイ!!』
カルセドニーの援護射撃で怯んだゼロムをシングが更に切り裂く
『これで終わりだ!星影連波!!』
シングの三日月型の衝撃波が残りのゼロムを破壊し、その場は静寂を取り戻した
『ケガしたやつらは……いねぇな。』
ヒスイがゴーグルを外し、ゲイルアークを戻し、辺りを見渡した
『大丈夫みたいね。』
イネスも片をつけたらしく、フォルセウスをどかりと置いた
『みんな強いねぇ。』
ベリルがライの横で言う
『ベリル、援護助かったよ』
ライはベリルの頭をぽんぽんと叩いた
『へへ~ん。ま、未来の大巨匠のボクがいれば百万力だろうけどね♪』
『百人力な』
『う、うるさいな!いいだろ別に!!』
ライの突っ込みに、ベリルは顔を真っ赤にして抗議した
『…なんだか、シングたちと再会したライはとても楽しそうですよね』
エステルがライたちのやり取りを見ながら言った
『そうだね、でもその気持ち私わかるよ?私もギルドのみんなといるとすごく楽しくてワクワクするの!』
リルハの言葉にルーシィとグレイはふと微笑みを浮かべた
『さ、この先にあるワンダリデルまであと一息だ。誰もいないところだが、街の機能は生きている。しばらくそこを拠点にするぞ』
ライが武具解放した銃をしまった時、時空間が歪む感覚と共に叫び声が響きわたった
『不幸だぁあぁぁあぁ!!!』
『ちょっと当麻ぁああぁ!!?下!下人がいるわよ!!避けなさい!!』
『無理!!』
まだ年若い少年と少女の声である
その叫び声はだんだんと近くなってきており
『リョウ!危ないです!』
エステルの忠告はすでに遅く
『いっ!!?』
見事にリョウの上にその少年と少女は着地したのだった
『……ふ………不幸だ………』
その一言を最後に、リョウの意識は闇に閉ざされた
結晶都市ワンダリデル
この結晶界唯一の都市であり、かつてはたくさんの人で賑わっていた。
しかし今はほぼ人もいなく、街の機能だけ生きている状態であった
街の機能は、以前シングたちが訪ねた時に復活させている
街のなかは安全なので、ゼロムが出てくることもないのである
そんな部屋の一室でリョウは目を覚ました
『ここは……僕どうしたんだっけ?』
ぼんやりする頭を抑えてリョウは起き上がった
『気がついたか、リョウ?』
聞きなれた声が、部屋に響いた
『あ、ライ……なんかごめん。もしかして運んでくれた?』
リョウは横の棚に置かれていた眼鏡の無事を確認したのちかけ直す
『いや、お前を運んだのは俺じゃない。』
『え、あ。そうなの?』
すると部屋のドアが開き、1人の少年が顔を覗かせた
『あ、リョウ。起きたのか。』
リョウに声をかけた少年は特徴的なツンツン頭の黒髪で、制服を着た何処にでもいる普通の少年だった
『へ!?か、上条!!?え?嘘、なんでお前がここに!』
『あ、やっぱり知り合いだったのかお前と上条……』
ライが頭をがしがしと掻き
『上条と御坂からある程度のことは聞いたよ。何でも、地割れに巻き込まれてここに辿り着いたんだと』
『上条たちも!?他のみんなは?』
リョウの質問に上条こと上条当麻はとりあえず適当に座り
『俺と美琴はたまたま一緒にいたから、はぐれることはなかったけど、一方通行と彩音ちゃん、垣根たちはわからない』
『そっか……でも上条と御坂の無事は確認できてよかったよ……』
とりあえず上条当麻という少年は、とある学園都市に住居を構える高校生である。しかし極度の不幸体質であり、よく不良に絡まれたり厄介ごとに巻き込まれてしまう体質だ
それはリョウもにたようなところもあり、何らかの形で二人は出逢ったのだろう。
『ところでこれからライはどうするの?』
『予定通りここの施設を借りて、リルハちゃんを星霊に合わせてあげる手はずを整える。だからしばらくここを拠点にして、敵への対策も考えるつもりだ』
ライはゾフェルで手に入れた魔導鉱石を弄びながら笑んでみせた
『とにかくみんな連戦で疲れてるはずだから、ここで休んで貰ってるよ。静かなとこだが、街の機能は生きてるしな。風呂も入れるしベッドもある』
『それは助かるね。』
ライの言葉にリョウと上条は安心した笑みを浮かべた
『んじゃ、俺は早速準備に取りかかるわ。リョウと上条も好きに街を見て回るといい』
『そうさせてもらうよ。いこ、上条!』
『俺は構わないけど、お前はいいのか?』
『大丈夫!僕のタフさ知ってるでしょ?』
リョウはにこりと上条に笑んだ
その光景をライは微笑ましそうに見たのち、部屋を出ていこうとすると声をかけられた
『ライもあまり無理はしちゃダメだからね!』
『うるせぇな嫁かよ。わかってるってば』
ライはそう言い残し、ひらひらと片手を振って出ていった
『リルハちゃん、準備できた?』
ワンダリデルの研究施設に、ライとリルハは足を運んでいた。
『うん。でもこれで本当にいいの?』
リルハの手には蒼を基調とした宝石が握られていた
『うん。その鉱石は特殊な鉱石でな。持ち主のスピリア、つまり心に反応する"思念石"っていうんだ』
『……思念石……』
リルハは不思議な光を放つ思念石を見つめる
『その石にありったけの想いを込めていつも一番身近に、君を助けてくれてる存在をイメージしてみて。後はこっちに任せてくれればいい』
ライは機械にこの間手に入れた魔導鉱石とリルハの星霊の鍵をセットした
まずはこの魔導鉱石に星霊の鍵の魔力をコピーする。うまくいけばそれを元に魔導鉱石は姿を変える。
そしてリルハの想いがつまった思念石をコアクリスタルにする。
そのコアクリスタル、星霊の鍵、魔導鉱石で作ったアクセサリーが合わされば、星霊の鍵は機能を取り戻し
魔導鉱石で出来た『ガワ』つまりは本体となるアクセサリーがあれば今まで通り星霊が呼べるようになる
そのアクセサリーは星霊界と契約者を繋ぐための道標というわけだ
ソーマリンクと同じ機能と思ってくれていい
『私、頑張るね。ライお兄ちゃん!』
『そんなに気負わなくてもリルハちゃんなら出来るさ』
そんな会話をしている間にも、コピーは進んでいる。リルハは『うん!』と頷いたのち、言われた通りにその思念石に魔力を注ぎ始めた
『……リルハ』
心配で一緒についてきていたルーシィが小さく名前を呼んだ
魔力を注ぎ続けると、リルハの手のひらにある思念石が強い光を放ち始める
どれだけそうしていたかはわからないが、しばらくするとその思念石には術式が刻まれていた
『リルハちゃん、もういいよ』
『んにっ?』
ライの呼び掛けに、リルハは恐る恐る瞳を開いた。するとそこには淡い光を放ちながら、その中心に術式が刻まれた美しい蒼海の色をした思念石があった
『せ、せいこうしたの?』
『あぁ。思念石の中心に術式が刻まれてるだろ?それが成功の証さ。その思念石貸してくれるか?』
そしてタイミングを見計らったかのように、魔導鉱石の方も出来上がった
リルハはそっとライに思念石を渡す
どうやら魔導鉱石はペンダントになったようである
『んで、次はこのペンダントの枠にこの思念石を入れて』
ライは慣れた手つきで思念石をペンダントの枠に嵌め込んだ。
あらかじめ今まで立ち寄った街の宿で、皆が寝静まった頃合いを見計らい、加工はほどこしておいたのだ
『すごい!ぴったりだわ!』
ルーシィがそれを見て驚いた
『誰が加工したと思ってんだ?』
ルーシィの言葉に苦笑しながらリルハにそのペンダントをかけてやり、星霊の鍵も返した。リルハは星霊の鍵を見つめたのちルーシィを見やった。するとルーシィは優しい笑みを浮かべたのち、しっかり頷いた。リルハは一度瞳を閉じ、しばらく精神統一したのち
『…開け!白羊宮の扉!!アリエス!!』
リルハの呼び掛けとともに、鍵から光が溢れ出し現れたのは桃色の髪にもこもこしたワンピースを着た羊を思わせる女性だった
『す、すみません……』
何故か謝りながら出てきた羊の女性、もといアリエスにリルハは感極まって飛び付いた
『アリエス!!本当にアリエスだ!』
『えっ、あっ……リルハさま?ご無事で!』
アリエスの方もリルハに気付いたらしく、同じようにリルハを抱きしめた
どうやら目論見は成功したようである
『アリエス!久しぶりね!』
『ルーシィさんもご無事でしたか……よかったですぅ……』
再会を喜び会う3人に、ライはとりあえず当面の戦力が少し充実したと思った。
もちろんリルハもルーシィも今まで頑張ってくれていたし、充分すぎる戦力だが、敵の戦力がまだわからない以上、用心するに越したことはない
先日、とある情報筋からライの元に飛び込んできた情報に、上条と御坂たちの存在もあった。
あとは一方通行と彩音、垣根たちだが同じ世界に落ちてくれていることを祈るばかりである
『ライお兄ちゃん、ありがと!すごく嬉しい!これでもっと役に立てるね!』
リルハの言葉に我に返ったライは
『いや、当然のことしたまでだよ。期待してるよ。リルハちゃんたちには』
『あたしも出来るだけ迷惑かけないように自分の身は自分で守るわ』
ルーシィの一言にリルハは
『大丈夫。ルーシィお姉ちゃんも、みんなも私が守るよ』
『頼もしいな』
ライは微笑んだ
『ライ!大変です!』
エステルが酷く慌てたように研究所に駆け込んできた
『エステル?』
はぁはぁと息を整えながら、エステルはライに視線を戻し
『街の外にゼロムと魔物が!ライが張ってくれた結界で中には来れないようですが、何だか様子がおかしくて』
『ひょっとして……』
ライがなにか思い当たる節があるのかエステルを見る
『ゼロムと魔物の中心に女の人が……それで駆け付けたグレイが顔色を変えたんです。ジュビアって』
『え!!?』
ほぼ同時にルーシィとリルハは声をあげた。
『わかった。すぐ行く。ひょっとしたら、そのジュビアって子、ゼロムに取りつかれてデスピル病になってるのかも』
『デスピル病、ですか?』
『あぁ。ゼロムに取りつかれた人間が発症するスピリアを暴走させる病気だよ。』
ライの説明に
『確か、スピリアって心のことよね?』
ルーシィが質問してきた
『そうだ。そのデスピル病に関しては俺やシングたちみたいなソーマ使いでないと対処できない。行くぞ』
結界の外に出て、まず目にしたのはゼロムと魔物だった。
確かにエステルの言うとおり、中心に青い髪にウェーブがかかった女性がいた
『やっぱりママ!』
『なるほど、あの子がリルハちゃんのお母さんか』
『ライか。そうみたいだ。グレイから聞いた特徴と完全に一致した』
バルハイトを構えたカルセドニーがライに視線を向けた
『……リルハちゃん………グレイさま…………どこ……………』
虚ろな瞳でジュビアは譫言のように呟いた
『ママ!私とパパはここにいるよ!目を覚まして!』
リルハの言葉もすでに届かないようだ。おそらく既にゼロムが彼女の心の中に入り込んでいる
『リルハちゃんたちはリョウたちと一緒に辺りのゼロムと魔物を一掃してもらえるか?俺とシングたちで彼女のスピリアに入り込んで直接の原因を叩き潰してくるから』
リルハが心配そうにライを見上げる
『それでジュビアが助かるなら何でもいい。頼めるか?』
グレイの言葉にシングは
『もちろんさ!必ずリルハちゃんのお母さんとグレイの奥さんを助けてみせるよ!』
『うん!任せて!』
シングとコハクはすでに自身のソーマを武具解放している
『リルハ、専門家がいるんだからそんな顔しなくてもきっと大丈夫よ!信じましょう!星霊だって呼べるようした貴女なら大丈夫!』
ルーシィの言葉にリルハの瞳は確固とした意思を灯した
そんな話をしていると何体かのゼロムが吹き飛ばされた。吹き飛ばしたというか反射に近かった
『この能力!』
上条が思い当たり、攻撃のあった方向へ視線を移すとそこには白髪の髪を揺らして、1人の桃色の髪をリボンで結んだ御坂と同い年ぐらいの少女がいた
『なンで、この俺がこンなババアなンか姫様抱っこしなきゃなンねェンだ!!』
『誰も頼んでないよ!お姫様抱っこなんて!!』
『彩音ちゃん!あと一方通行!』
上条がびっくりしたように声を上げた
よし、上条たちの仲間ならここの戦力は充分である。更に一方通行の反射の能力で一気にジュビアへの道は開かれた
『話纏まった?なら、辺りのゼロムと魔物は頼んだぜ!』
ライも自身のソーマを武具解放し
『いこうみんな!リルハちゃんのお母さんにスピルリンクだ!』
シングの合図と共に、ライたちソーマ使いはジュビアにスピルリンクした
ジュビアのスピリアの中は悲しみで溢れていた
『なんか悲しみの雨がざっぶ~んしたようなスピリアだねぇ』
ベリルが辺りを見ながら言った。
『そうね。マリンさんの時とよく似ているわ。』
イネスも同じく視線を游がせ、ジュビアのスピリアを見渡す
『きっとずっとリルハちゃんとグレイを探してこの結晶界をさ迷っていたんだね』
コハクが何とも言えない表情で言った
『だな。とにかく、早くリルハとグレイを安心させてやるためにも』
ヒスイの言葉にシングは強くうなずき
『奥へ進もう!』
恐らく直接的に影響させているゼロムはジュビアのスピリアの一番奥だろう
『何があるかわからないし、今さらだけど注意しような』
ライである
『そうだな。なんせ、スピリアの中で負ったダメージは我々の身体にそのまま残るのだからな』
カルセドニーも剣は抜いたまま警戒は怠らないようにと皆に念を押した
襲いかかってくるゼロムを切り伏せ、時には打ち抜きながら、ライたちは足を動かす
奥に行くにつれ、空気はどんどん重苦しいものになっていく
『だいぶ奥まできたけど、まだ大元のゼロムは出てこないね』
シングがふと口にした
『そうだな。でも気は抜くなよ?どここからともなく現れてくるのがゼロムだからな』
ライも辺りを警戒しながら歩みを進める
やがて最深部に辿り着いた。そこには予想通り巨大なゼロムが鎮座していた
『いた!きっとあいつだ!』
シングがゼロムを一番に見つけた
するとその巨大なゼロムもシングたちに気付いたのか、自身の体内から雑兵ゼロムを産み出した
『くるぞ!!』
カルセドニー、イネス、シングは前衛に、コハク、ヒスイ、ベリル、ライは後衛に下がった
まずは雑兵ゼロムからである
『下手したら永久にゼロム産んでそうなやつは、なるべく最優先で産ませないようにするわよ!』
イネスの指示に、シングとカルセドニーはまず肩を揃えて、親玉ゼロムに駆け出した。
『カルセドニーそっち任せた!』
『了解だ!』
ライは地上から思念術で援護、飛べるカルセドニーは空中から標的を狙うようだ
『蒼破刃!!』
カルセドニーの空中からの蒼破刃でまず怯ませる
『レイ!!』
さらに怯んだゼロムをライは上空から無数の七色の光を降らせてゼロムを貫く
しかしこの程度で倒れるゼロムではない。カルセドニーとライに向かい、左右の腕から伸びる刃で二人を吹き飛ばす
『っ!あぶね!』
カルセドニーとライはなんとか受け身を取りリカバリングした
『唄え、火の炎念!!バーンストライク!!』
コハクの炎の思念術が辺りに増殖した小型ゼロムを焼き払う
どうやら思念術には弱いようで、コハクの炎の思念術は効果覿面らしい
『コハクナイスだ!雨雲雀!!』
敵の頭上から矢を降らせ、小型ゼロムを撃ち抜きヒスイは叫ぶ
『ベリル!』
ライのご指名にベリルはニヤリと笑い
『準備はバッチリさ!ネガティブゲイト!!』
親玉ゼロムに強烈な闇属性の思念術を炸裂させた
『グォォオォ……』
苦しそうな声をあげながら、親玉ゼロムは尚も抵抗を見せる
『なかなかタフね!でも!』
イネスのフォルセウスによる重い一撃はその巨体を見事に吹き飛ばし
『勝てない相手じゃない!!』
シングは親玉ゼロムへの道が開けたと同時に、奴に駆け出す
それを見かねた小型ゼロムがまた親玉ゼロムを庇うようにバリケードを張った
『無駄だよ!!』
シングはそう言うが、特に小型ゼロムには目もくれず、まっすぐと親玉ゼロムに走っていく
端から見れば無謀に見えるが、シングには大丈夫だという確信があった
『邪魔なんだよ!!沈め!!プリズムフラッシャ!!』
ライの一瞬の思念力の高まりと共に、小型ゼロムのバリケードのすぐ真上から虹色の光の雨が無数に降り注ぐ
小型ゼロムのバリケードと親玉ゼロムもろとも貫くライを見て全員が相変わらず敵には容赦ないと思った
『シング!!』
ライの声と共に、シングは自身のソーマ、アステリアに思念力を注ぎ込んだ
『輝け、オレのスピリアッ!行っけえぇ!』
目にも止まらぬ連続攻撃がゼロムをどんどん切り裂いていく
『切り裂け!はぁッ!まだだ!……うおお!!
…………決める!これで終わりだ!!翔旺神影斬!!』
更に敵を浮かせて敵を切り刻み、最後に上空から連続ヒットする突きを叩き込んだ
その圧倒的な速度を誇る奥義に、ゼロムはひとたまりもないというような断末魔の叫びを上げて沈み、やがて爆発した
『これがオレたちの絆の力だ!』
本当に頼もしい仲間たちだとライは思った
付き合いが長いせいか、シングたちといる時は素の自分でいられる
ライはこの感覚が心地よくて大好きだった。
彼らとならどんな困難も乗り越えれる。そう確信しているのだから
あとでもう一人この場にはいないクンツァイトの様子でも見に行くとするかと思っていた時だった
『コハク!危ない!』
ベリルの叫びにライはハッと我に返り振り返った。目の前の光景に戦慄する
見るとそこにはまだ息のあったゼロムが今、正にコハクとヒスイに飛びかかるところだった
―――――このままでは!!
ライが思念を練り込もうとした時、急にそのゼロムの身体を一筋の光が貫き、そのゼロムは絶命した
『……!?』
何が起きたのかライも、その場にいた全員も全くわからなかった
『今のベリルか?』
恐らく思念術の類いと思われるがライは疑問に思ったことを口にした
『ぼ、ボクじゃないよ………それにあんな高度な思念術、ボクには無理だ……悔しいけど。でもあの思念力……』
ベリルは帽子のツバを下ろし深く被った
『コハク、ヒスイ、大丈夫か?』
カルセドニーが駆け寄り、ケガがないか確認する
『俺は大丈夫だ!コハクは?』
『私も大丈夫……でも今の思念術……』
貫かれたゼロムを呆然と見ながらコハクは呟くように声を出した
『今のでゼロムは全滅できたわね。外が気になるわ。まずはジュビアさんの外に出ましょう』
イネスの提案に、皆は揃ってジュビアのスピリアからリンクアウトした
『ライさん!みんな!おかえりなさい!』
ライラがジュビアの治療をしながら全員を迎えた
『ライラちゃん、リルハちゃんのお母さんは?』
ライが治療をしているライラに近寄った
『はい。皆さんのおかげでなんとか大丈夫みたいです。気を失っているだけのようだから』
グレイの膝の上で眠っているジュビアを見て、ライは胸を撫で下ろした
『ライ、実はリルハが……』
グレイがふとリルハに視線を向ける
『リルハちゃんがどうかしたか?』
まさか重傷でも負ったのかとライもリルハに視線を向ける
リルハはじっとライ、それからシング、コハク、ヒスイ、イネス、ベリル、カルセドニーと一人ずつに視線を向けていきやがて口を開く
『皆さん……御無事で何よりです』
リルハの突然の一言に皆は揃ってうなずいた
しかしなんとなく優しいその口調に違和感と疑問が過った
よく見てみると、リルハの瞳がいつもの深い蒼ではなくエメラルド色に近かった
更にライたちにはこの雰囲気になんとなく覚えがあるようにも感じたのだ
先ほどの思念術のこともあり、ライとシングたちは妙な感覚に襲われる
リルハを信じてないわけではない
当たり前である
しかしこの雰囲気といつもと違う魔力の波に、更に違和感を覚えた
そんなシングたちに納得したかのようにリルハは『あ、いけない』と小さく呟いた
『驚くのも無理はありませんね。何せ私は今、クンツァイトのスピリアの奥深くに眠っているはずなのですから』
クンツァイト、という名前にシングたちは目を見開いた
『……もしかして……』
コハクが思わず口元に手をやる
リルハはにこりと優しく微笑み
『やっぱり、コハクは気付いてくれましたね。ライも』
『……リチアなの?』
コハクが信じられないと言った顔で彼女、リルハを見やる
『…なっ、リチアだと!?』
逆にヒスイはさも驚いた顔をした
『ヒスイ、今私はスピリアだけの存在。本体は今もクンツァイトの中で眠っていますわ』
『つまりはリチアは今、リルハちゃんに身体を借りてる状態ってことか?』
ライの一言に、全員が納得した顔をしたがまだ半信半疑の状態である
『さすがライです。その通りです。懐かしい。皆と旅を終えてまだそう長い時は経ってませんものね』
すると今まで黙っていたルーシィが
『どういうこと?その、リルハの身体にリチアって子のスピリアが同居してたってこと?』
『その、戦ってる時に不思議な感じはリルハちゃんからしてたけど』
ライラの言葉に、リルハ、もといリチアが振り返り
『私が目覚めたのは、つい先日でした。しかしここではまたゼロムが出るかもしれません。一度ワンダリデルにある私の部屋に行きませんか』
すると同じくことの成り行きを見守っていたリョウが
『僕たちも突然のことでなにがなんだか……でも、リルハちゃんの身体を借りたリチアさんに助けられたんだ。』
続いてロリセが
『そうですね。倒しても倒しても、そのジュビアさんに取りついたゼロムが仲間を呼び寄せまくってあたしらギリギリだったしな……』
『まぁリルハたちのおかげで助かったのは事実だしね』
リタである
『そうか……上条たちも大丈夫だったか?』
ライは上条に振り返り
『あぁ。俺たちは合流した一方通行と彩音ちゃんのおかげでなんとかな』
すると白髪の少年、一方通行が
『けっ……好きで助けたンじゃねェよ……』
舌打ちをしていた
『もう一方通行ってばそんなこと言っちゃダメでしょ』
彩音は呆れ混じりにため息を吐いた
『少し黙れよババア』
『なんですって?』
今にもバトルを繰り広げそうな彩音と一方通行に御坂は
『ちょっと一方通行。あたしの親友にババアとか言わないでよ!焼くわよ』
まぁ上条たちにしてみればいつもの光景なのか、上条は苦笑していた
『とにかく街に戻るんだろ?疲れた……』
ウィンルである
『おっとそうだな。ならワンダリデルに戻ろうぜ』
ライは思い出したようにソーマをしまった
『ジュビアは俺がつれてくよ。部屋借りていいよな。ライラ、治療ありがとうな』
グレイがジュビアをお姫様抱っこしてライラに礼を言った。
『気にしないで。しばらくしたら目を覚ますと思います』
ライラはにこりと微笑んだ。ウィンルは何故か少し面白くなさそうな顔をしていたが
ライはその光景を見ながら同じように微笑んだ
『ライ、どうしたんです?』
エステルが不思議そうに首をかしげた
『いや、なんでもないよ。』
エステルは尚も不思議そうにしていたが、とりあえずは全員揃ったところで再びワンダリデルに戻っていった