第11章
『ライ!久しぶりだね!元気にしてた!?』
宿屋につくなり、開口一番に聞いたのは聞きなれた少年の声だった
『よーシング、コハク!久しぶりだな!』
部屋のドアをあけて、そこに確認できたのは黒髪のスラリとした足の少女と、茶髪の赤と青のジャケットをきている少年だった
『少しは連絡くらい欲しいな。ライってば一度出ていくとなかなか連絡つかなくなるし』
黒髪の少女、コハクが眉をはの字にさせてライを見つめてきた
『あ、うん。ごめんなコハク』
するとシングが、リョウたちに近寄り
『初めまして!俺、シング・メテオライト!よろしく!』
『わたしはコハク・ハーツ。よろしくね!』
シングとコハクがリョウたちに自己紹介したのを確認して、イネスが二人に視線をずらした
『ヒスイとベリルはまだみたいね』
『多分、あちこちで魔物とかゼロムが大量発生してるからここまで来るのに手間取ってるんじゃないかな?』
コハクの言葉に、イネスは『そうね』と一言口にした
すると今まで黙っていたリルハが口を開いた
『あの、この世界にきてからよく聞くゼロム、ってなんなんですか?この世界にのみ生息する魔物の名前ってことぐらいしか』
それにはライが答えた
『ん。ま、正確には魔物ではなく兵器だな。』
『兵器?』
ルーシィが首を傾げた
『ゼロムは人の心、俺たちの世界ではスピリアって名前なんだけどそれに寄生してそのスピリアを喰らって活動する』
『!!?』
ライの言葉に当然のごとく息を呑んだ仲間たちだった
『つまりは、心を喰らって生きてるタチの悪い生物兵器ってところか』
『心を喰らって生きるって聞いただけでもゾッとしないわね。』
リタとグレイの言葉にライは『全くのことで』と肩をすくめた
『そ、そのゼロムってやつがこの世界には、うようよいるってこと?こ、こわすぎる………』
ルーシィは自身の両腕を抱え込み真っ青な顔をしていた
『でも、そんな危険な敵が徘徊してる中、ライの友達はここに向かってるんですよね?大丈夫なんです?』
エステルだ
『大丈夫さ。あいつらも俺と同じソーマ使いだからな。簡単には殺られたりはしないさ』
口元を吊り上げ、ライは微笑んだ。
『そっか、なら大丈夫だね』
リョウの一言にシングたちは頷きあった
『それで、これからどうするんですか?とりあえずそのヒスイさんとベリルさん、だっけ?を待ってから結晶界に行くまでは理解できた』
ロリセである
『移動手段はあるの?』
ライラが小さく手を上げて言ってみた
『それは問題ないわ。カルセドニーに頼めば』
イネスがにこりと微笑んだ
どういった手段で別の世界に飛ぶのか全く検討がつかないが、イネスが大丈夫だと言うなら大丈夫そうだと一同は思った
とりあえず、各々ヒスイとベリルの到着を待つまで各自自由行動となったので、一旦解散となり夕方まで好きに過ごすことになった
『ねぇライ!よかったら町を案内してくれない?』
ライが部屋で武器の手入れをしていたところ声をかけたのはリョウだった
『あぁ。かまわないよ。』
『ここって、軍本部があるんだよね?』
『あぁ。まぁ普段は入れないけど、遠くから見るぐらいならできると思う』
城の方は誰でも入城可能だが、軍本部は普段は立ち入り禁止である
ライもちょうど街の様子を見て回ろうとしていたところなので、その申し出を快く受けたのだった
『俺もいいか?せっかく異世界にきたわけだし、ジュビアになにか土産でも、とな』
照れ臭いのか、頭をがしがしと掻くグレイの言葉に、ライはもちろん、とにこやかに微笑んだ
エストレーガはこの非常事態にも関わらず、いつも通り機能している
恐らくパライバとカルセドニーの采配だろう。この二人にこの世界の二大都市の帝都と聖都の守りを任せていればほぼ間違いはないとライは思っている
ただ心配事も存在する
敵の実態がいまだ掴めないことである。
恐らく情報操作が得意な存在があちら側には存在しているのだろう
これだけ派手に行動を起こしといて実態が掴めないのは少し不安を感じることも少なくはない。
ただライには、このやり方を好んだ相手に少なからず覚えがあるような気がした。だが確信は持てなかった。
そもそもヤツらはすでにこの世には存在していないのだから
可能性を考えればいくらでも出てくるが、どれも辻褄が合わない
確証が持てるまでは口にしたくなかった
『やっぱり帝都ともなるとたくさんの物があるねぇ』
『そうだな。この世界を治めてるのは実質帝都だからな』
先の統一戦争で先代の皇帝が結晶騎士団と軍と協力して世界を統一した歴史があり、その後先代と息子が行方不明になり姪であるパライバが即位したのだった
ライは両親をその統一戦争で亡くしていた
ソーマを用いる結晶騎士団の貢献や、目立った対抗勢力がなかったことから帝国支配はあっさりと受け入れられた
しかし、その帝国支配の犯人は先代の身体を乗っ取っていたある緋色の髪の男だった
ライは弟と妹と共に、聖都プランスールにある孤児院に連れられそこで何年か過ごしたのち、結晶騎士団に入団した経緯を持つ
まだ幼かったパライバともその時出逢ったのだった
ある事件が切っ掛けで、ライは騎士団を退団することになるがそれはまた別の話で追々語ることになるだろう
とりあえず今は、帝都も機能しているようだし、安心していた時であった
『きゃあぁあっ!!』
『!!?』
路地裏の方から明らかに女性の叫び声が聞こえきた
すると路地裏の方から、子供を抱えた女性が走ってきた。何かに追われているようである
ライは彼女を追いかけるそれに見覚えがあった
ゼロムだ
『ゼロム!』
『あれが!?』
女性を追いかけるゼロムは2体である
躓き、女性は子供ごと地面に倒れてしまった
『グレイ!念のためコハクとシング連れてこい!たしか道具屋にいるはずだ!』
『わかった!』
それを聞くとグレイは道具屋に走り出した
『僕は?』
『当然、ゼロムの相手!』
『やっぱりそうなるよね?まぁいいや!』
するとゼロムたちは、女性からライとリョウに標的を変え、特徴的な泣き声と共に飛び掛かってきた
『蒼破!!』
『アイスニードル!』
リョウの衝撃波とライの氷の刃がゼロムに命中する。しかし兵器であるのでなかなか耐久性はあった
『いっ!?硬い!』
『まぁ兵器だからな。風と水には耐性があるようだな』
ゼロムはその体の結晶から赤い閃光を発射してきた
ライとリョウはそれを左右に別れてかわす。流れ弾は地震で倒壊したのだろうと思われる瓦礫に直撃して粉塵をあげた
『あれ食らったらヤバそうだね』
『リョウさんそれ今さら!』
そんなくだらないやり取りをやっている間にもゼロムの攻撃は止まない。
しかも一般人を庇いながらであるのでやりにくいことこの上ない
どうしたものかと考えあぐねているその時だった
『天地を揺るがす乙女の怒りっ!!サンダーブレード!!』
一体のゼロムを雷の剣が貫き、敵を絶命させた
『怒りの嵐念、ぶちかますぜ!クロスウィンド!!』
サンダーブレードで感電していた片方のゼロムはクロスウィンドで切り裂かれ消え去った
『………助かったぁ…………』
ライが顔を引き吊らせながら思念術が飛んできた方向を振り返ると、そこにはゴーグルをつけた黒髪の青年と、頭に奇妙な模様の入った帽子に、金髪のお下げを揺らし、手に巨大な絵筆を持った少女が立っていた
『おいおい、しばらく見ねぇうちに腕鈍ったんじゃねぇのかぁ?ライ』
黒髪の青年が歩みより、悪態をつく
『うるせぇよいいところ持っていきやがって。』
続いてお下げの少女もライに歩みより
『感謝しなよぉ?もう少しで二人とも御陀仏だったんだからさ』
少女も同じようにライに悪態をついた
『助かったよ、ベリル、ヒスイ』
ヒスイに手を引かれ、ライは立ち上がった
『あ、もしかして君たちが……』
リョウがヒスイとベリルに視線を向けた
『あぁ。こいつのダチ。ヒスイ・ハーツだ。イネスから話は聞いてるぜ』
『ボクはベリル・ベニトだよ!よろしく!』
ヒスイとベリルはライの仲間の二人である
『リョウ・ウバルチフだよ。よろしく!───ん?ハーツ?』
リョウはにこりと二人に挨拶をしたが、ヒスイの名前に聞き覚えのある名前があった。首を傾げているとシングの声が聞こえた
『ライ!リョウ!』
続いて聞こえたのはコハクの声だ
『お兄ちゃん!ベリルも!』
コハクも駆け付けたようである
『コハク!大丈夫だったか!?』
ヒスイはコハクの姿を見つけるやいなや、オーバーリアクションである
『大丈夫だよ、無事でよかった……』
そんな二人を見つめながら、ライは苦笑した
『コーハークーー!!!逢いたかったよ〜!!!』
ベリルがコハクの姿を確認するや否や、コハクとベリルはしっかりと抱きしめ合っていた
『私もだよベリル!』
何とも微笑ましい光景だと見守っていたライに助けた親子が頭を下げてきた
『すみません、ありがとうございました』
ライの手を借り、女性はなんとか立ち上がった
『気にしないでくれ。今は魔物もゼロムも大量発生しているから、あまり家からでない方がいい』
ライの言葉に、女性は『そうですね……』と頷いた
『本当にありがとうございました。何かお礼を……』
『いや、そんなの必要ないよ。好きでやっただけだし。怖かったな。よく頑張ったな。』
ライが泣いている子供の頭を優しく撫でる姿に女性はにこりと微笑めば、子供はしばらくして泣き止み、ライを見上げる。
そして『おにいちゃんたち、ありがと〜!!』と腕を振り、その場を去っていった
『さて、とりあえずヒスイとベリル……だっけ?これでライの仲間は全員揃ったのか?』
グレイだ
『あぁ。あと1人は結晶界にいるんでな』
『その結晶界にはどうやって行くの?』
リョウが改めて聞いてきた
『カルセドニーのソーマを使う。あのソーマは飛行挺に変化する特殊なソーマだからな。そしてあの月を目指す』
ライは空中にある白い月を指さした
『月!?』
さも驚いたグレイの反応を見る。
『そうさ。あの月は実は月じゃねぇ。結晶界そのものだ』
ヒスイの言葉にライたち以外は至極驚いた顔を見せていた
そう。リョウたちが上空に見ていた白い月は、月ではなく結晶界(クォーティア)そのものである
ある事件により、世界そのものが巨大な兵器によりそのスピリアを食い尽くされ、白化してしまった世界である
万物にはスピリアが宿るといわれる。あの白い月はすべてのスピリアを食い尽くされてしまったスピリアを持つものの成れの果てらしい
『そのスピリアを食い尽くした魔物って』
『あぁゼロムだ。今しがた見たばかりのヤツらとは桁が違うデカさだったけどな……』
この分だと、もしかしたら『アレ』も……
ライは眉間に皺を寄せ、唇に自分の手を持っていく
シングたちはそのライの仕草の意味する理由は知っている
なにか考え事をしているときのライの癖である
ヒスイは軽くため息をつき
『まあ、結晶界にいけばなにか解るかも知れねぇな。コランダームもあっちにはいるし』
ライの背中をバシンと叩いてヒスイが言った
『いたっ!………あぁ、そうだな』
ヒスイの手痛い行動にライはすこしだけ噎せてしまった
とある惑星のある大陸には打ち捨てられた城があった
長いこと使われていなかった城である
そこの重い扉をある人物が開いた
顔から首にかけてある傷は、男の顔を不気味に飾り立てていた
『ご苦労だったな、グレゴール』
階段の上から、男の声が聞こえた
『すまん。とはいっても、ことごとく失敗している。奴らなかなかの手練れだな』
傷の男、グレゴールは頭をガシガシと掻きながらもう一人の男に近寄った。すると男はヒラリと階段の手摺から飛び降りてきた。
美しい銀の髪を靡かせ、片方の瞳は隠れているが端正な顔立ちの男である
『かまわない。すでに次の手は準備してある。『奴ら』を解き放つよう命が下った』
銀の髪の男にグレゴールは一瞬だけ眉を寄せ
『俺はあまり奴らは好きではないな。得体の知れない世界の奴らを招き入れるのはと思ってな』
『だが奴らは信頼できる。それに、あの男は同じ『アレ』の使い手だ』
『……なんだと?』
グレゴールは訝しげに銀の髪の男を見つめた
『……ならば同じ使い手同士潰しあってもらった方が楽だ』
『なるほどな。』
グレゴールはそう相槌を打ったが銀の髪の男は怪しく微笑むだけだった
『奴には何かと因縁があるようでな。またとない機会だ。俺は少し城を開ける。少し気になることがある』
『例の件か。』
そう。この城はとある筋から買い取り使っている。ここは人気も少なく滅多なことで見つかることはない
『グレゴール、お前は引き続きいつも通り魔物を操り、奴らを撹乱しろ。俺たちの目的は1つだ』
『わかっているよ……』
グレゴールの了承を得て、銀の髪の男はふと不敵に微笑み、『ではな』と言い、その城を後にした
『……グレゴールさんよ、いつも損な役回りだな』
銀の髪の男が去ったのち、柱の影から声がした
『……リズフィールか』
柱から出てきたのは長髪にバンダナの男である。その傍らには黒髪の美しい髪、男と同じ色のバンダナをした長身の女性が現れた
『下の名前はよしてくれや、こっ恥ずかしくてダメだ』
『お前たちを出すということは、団長もいよいよ本気の狩りを始めるということか』
『らしいな。まぁ俺らとしても例の男は気になるのでね。久しぶりに同族の人間に逢えるっていうから、俺もこいつも楽しみでよ。な、シィム』
シィムと呼ばれた女性は『そうですね』と短く答えただけだったが
『……いいか。万が一失敗するようなことがあれば』
『怖いねぇ。まぁ当面はここもバレることはねぇだろ。ちゃんと料金分は働くさ』
リズフィール、もといゼルファイナはニヤリとほくそえんだ。
『さぁ…て。ショータイムの始まりだぜ。』
ゼルファイナの手にはいつからか闇を纏った大剣が鈍い光を放っていた
宿屋につくなり、開口一番に聞いたのは聞きなれた少年の声だった
『よーシング、コハク!久しぶりだな!』
部屋のドアをあけて、そこに確認できたのは黒髪のスラリとした足の少女と、茶髪の赤と青のジャケットをきている少年だった
『少しは連絡くらい欲しいな。ライってば一度出ていくとなかなか連絡つかなくなるし』
黒髪の少女、コハクが眉をはの字にさせてライを見つめてきた
『あ、うん。ごめんなコハク』
するとシングが、リョウたちに近寄り
『初めまして!俺、シング・メテオライト!よろしく!』
『わたしはコハク・ハーツ。よろしくね!』
シングとコハクがリョウたちに自己紹介したのを確認して、イネスが二人に視線をずらした
『ヒスイとベリルはまだみたいね』
『多分、あちこちで魔物とかゼロムが大量発生してるからここまで来るのに手間取ってるんじゃないかな?』
コハクの言葉に、イネスは『そうね』と一言口にした
すると今まで黙っていたリルハが口を開いた
『あの、この世界にきてからよく聞くゼロム、ってなんなんですか?この世界にのみ生息する魔物の名前ってことぐらいしか』
それにはライが答えた
『ん。ま、正確には魔物ではなく兵器だな。』
『兵器?』
ルーシィが首を傾げた
『ゼロムは人の心、俺たちの世界ではスピリアって名前なんだけどそれに寄生してそのスピリアを喰らって活動する』
『!!?』
ライの言葉に当然のごとく息を呑んだ仲間たちだった
『つまりは、心を喰らって生きてるタチの悪い生物兵器ってところか』
『心を喰らって生きるって聞いただけでもゾッとしないわね。』
リタとグレイの言葉にライは『全くのことで』と肩をすくめた
『そ、そのゼロムってやつがこの世界には、うようよいるってこと?こ、こわすぎる………』
ルーシィは自身の両腕を抱え込み真っ青な顔をしていた
『でも、そんな危険な敵が徘徊してる中、ライの友達はここに向かってるんですよね?大丈夫なんです?』
エステルだ
『大丈夫さ。あいつらも俺と同じソーマ使いだからな。簡単には殺られたりはしないさ』
口元を吊り上げ、ライは微笑んだ。
『そっか、なら大丈夫だね』
リョウの一言にシングたちは頷きあった
『それで、これからどうするんですか?とりあえずそのヒスイさんとベリルさん、だっけ?を待ってから結晶界に行くまでは理解できた』
ロリセである
『移動手段はあるの?』
ライラが小さく手を上げて言ってみた
『それは問題ないわ。カルセドニーに頼めば』
イネスがにこりと微笑んだ
どういった手段で別の世界に飛ぶのか全く検討がつかないが、イネスが大丈夫だと言うなら大丈夫そうだと一同は思った
とりあえず、各々ヒスイとベリルの到着を待つまで各自自由行動となったので、一旦解散となり夕方まで好きに過ごすことになった
『ねぇライ!よかったら町を案内してくれない?』
ライが部屋で武器の手入れをしていたところ声をかけたのはリョウだった
『あぁ。かまわないよ。』
『ここって、軍本部があるんだよね?』
『あぁ。まぁ普段は入れないけど、遠くから見るぐらいならできると思う』
城の方は誰でも入城可能だが、軍本部は普段は立ち入り禁止である
ライもちょうど街の様子を見て回ろうとしていたところなので、その申し出を快く受けたのだった
『俺もいいか?せっかく異世界にきたわけだし、ジュビアになにか土産でも、とな』
照れ臭いのか、頭をがしがしと掻くグレイの言葉に、ライはもちろん、とにこやかに微笑んだ
エストレーガはこの非常事態にも関わらず、いつも通り機能している
恐らくパライバとカルセドニーの采配だろう。この二人にこの世界の二大都市の帝都と聖都の守りを任せていればほぼ間違いはないとライは思っている
ただ心配事も存在する
敵の実態がいまだ掴めないことである。
恐らく情報操作が得意な存在があちら側には存在しているのだろう
これだけ派手に行動を起こしといて実態が掴めないのは少し不安を感じることも少なくはない。
ただライには、このやり方を好んだ相手に少なからず覚えがあるような気がした。だが確信は持てなかった。
そもそもヤツらはすでにこの世には存在していないのだから
可能性を考えればいくらでも出てくるが、どれも辻褄が合わない
確証が持てるまでは口にしたくなかった
『やっぱり帝都ともなるとたくさんの物があるねぇ』
『そうだな。この世界を治めてるのは実質帝都だからな』
先の統一戦争で先代の皇帝が結晶騎士団と軍と協力して世界を統一した歴史があり、その後先代と息子が行方不明になり姪であるパライバが即位したのだった
ライは両親をその統一戦争で亡くしていた
ソーマを用いる結晶騎士団の貢献や、目立った対抗勢力がなかったことから帝国支配はあっさりと受け入れられた
しかし、その帝国支配の犯人は先代の身体を乗っ取っていたある緋色の髪の男だった
ライは弟と妹と共に、聖都プランスールにある孤児院に連れられそこで何年か過ごしたのち、結晶騎士団に入団した経緯を持つ
まだ幼かったパライバともその時出逢ったのだった
ある事件が切っ掛けで、ライは騎士団を退団することになるがそれはまた別の話で追々語ることになるだろう
とりあえず今は、帝都も機能しているようだし、安心していた時であった
『きゃあぁあっ!!』
『!!?』
路地裏の方から明らかに女性の叫び声が聞こえきた
すると路地裏の方から、子供を抱えた女性が走ってきた。何かに追われているようである
ライは彼女を追いかけるそれに見覚えがあった
ゼロムだ
『ゼロム!』
『あれが!?』
女性を追いかけるゼロムは2体である
躓き、女性は子供ごと地面に倒れてしまった
『グレイ!念のためコハクとシング連れてこい!たしか道具屋にいるはずだ!』
『わかった!』
それを聞くとグレイは道具屋に走り出した
『僕は?』
『当然、ゼロムの相手!』
『やっぱりそうなるよね?まぁいいや!』
するとゼロムたちは、女性からライとリョウに標的を変え、特徴的な泣き声と共に飛び掛かってきた
『蒼破!!』
『アイスニードル!』
リョウの衝撃波とライの氷の刃がゼロムに命中する。しかし兵器であるのでなかなか耐久性はあった
『いっ!?硬い!』
『まぁ兵器だからな。風と水には耐性があるようだな』
ゼロムはその体の結晶から赤い閃光を発射してきた
ライとリョウはそれを左右に別れてかわす。流れ弾は地震で倒壊したのだろうと思われる瓦礫に直撃して粉塵をあげた
『あれ食らったらヤバそうだね』
『リョウさんそれ今さら!』
そんなくだらないやり取りをやっている間にもゼロムの攻撃は止まない。
しかも一般人を庇いながらであるのでやりにくいことこの上ない
どうしたものかと考えあぐねているその時だった
『天地を揺るがす乙女の怒りっ!!サンダーブレード!!』
一体のゼロムを雷の剣が貫き、敵を絶命させた
『怒りの嵐念、ぶちかますぜ!クロスウィンド!!』
サンダーブレードで感電していた片方のゼロムはクロスウィンドで切り裂かれ消え去った
『………助かったぁ…………』
ライが顔を引き吊らせながら思念術が飛んできた方向を振り返ると、そこにはゴーグルをつけた黒髪の青年と、頭に奇妙な模様の入った帽子に、金髪のお下げを揺らし、手に巨大な絵筆を持った少女が立っていた
『おいおい、しばらく見ねぇうちに腕鈍ったんじゃねぇのかぁ?ライ』
黒髪の青年が歩みより、悪態をつく
『うるせぇよいいところ持っていきやがって。』
続いてお下げの少女もライに歩みより
『感謝しなよぉ?もう少しで二人とも御陀仏だったんだからさ』
少女も同じようにライに悪態をついた
『助かったよ、ベリル、ヒスイ』
ヒスイに手を引かれ、ライは立ち上がった
『あ、もしかして君たちが……』
リョウがヒスイとベリルに視線を向けた
『あぁ。こいつのダチ。ヒスイ・ハーツだ。イネスから話は聞いてるぜ』
『ボクはベリル・ベニトだよ!よろしく!』
ヒスイとベリルはライの仲間の二人である
『リョウ・ウバルチフだよ。よろしく!───ん?ハーツ?』
リョウはにこりと二人に挨拶をしたが、ヒスイの名前に聞き覚えのある名前があった。首を傾げているとシングの声が聞こえた
『ライ!リョウ!』
続いて聞こえたのはコハクの声だ
『お兄ちゃん!ベリルも!』
コハクも駆け付けたようである
『コハク!大丈夫だったか!?』
ヒスイはコハクの姿を見つけるやいなや、オーバーリアクションである
『大丈夫だよ、無事でよかった……』
そんな二人を見つめながら、ライは苦笑した
『コーハークーー!!!逢いたかったよ〜!!!』
ベリルがコハクの姿を確認するや否や、コハクとベリルはしっかりと抱きしめ合っていた
『私もだよベリル!』
何とも微笑ましい光景だと見守っていたライに助けた親子が頭を下げてきた
『すみません、ありがとうございました』
ライの手を借り、女性はなんとか立ち上がった
『気にしないでくれ。今は魔物もゼロムも大量発生しているから、あまり家からでない方がいい』
ライの言葉に、女性は『そうですね……』と頷いた
『本当にありがとうございました。何かお礼を……』
『いや、そんなの必要ないよ。好きでやっただけだし。怖かったな。よく頑張ったな。』
ライが泣いている子供の頭を優しく撫でる姿に女性はにこりと微笑めば、子供はしばらくして泣き止み、ライを見上げる。
そして『おにいちゃんたち、ありがと〜!!』と腕を振り、その場を去っていった
『さて、とりあえずヒスイとベリル……だっけ?これでライの仲間は全員揃ったのか?』
グレイだ
『あぁ。あと1人は結晶界にいるんでな』
『その結晶界にはどうやって行くの?』
リョウが改めて聞いてきた
『カルセドニーのソーマを使う。あのソーマは飛行挺に変化する特殊なソーマだからな。そしてあの月を目指す』
ライは空中にある白い月を指さした
『月!?』
さも驚いたグレイの反応を見る。
『そうさ。あの月は実は月じゃねぇ。結晶界そのものだ』
ヒスイの言葉にライたち以外は至極驚いた顔を見せていた
そう。リョウたちが上空に見ていた白い月は、月ではなく結晶界(クォーティア)そのものである
ある事件により、世界そのものが巨大な兵器によりそのスピリアを食い尽くされ、白化してしまった世界である
万物にはスピリアが宿るといわれる。あの白い月はすべてのスピリアを食い尽くされてしまったスピリアを持つものの成れの果てらしい
『そのスピリアを食い尽くした魔物って』
『あぁゼロムだ。今しがた見たばかりのヤツらとは桁が違うデカさだったけどな……』
この分だと、もしかしたら『アレ』も……
ライは眉間に皺を寄せ、唇に自分の手を持っていく
シングたちはそのライの仕草の意味する理由は知っている
なにか考え事をしているときのライの癖である
ヒスイは軽くため息をつき
『まあ、結晶界にいけばなにか解るかも知れねぇな。コランダームもあっちにはいるし』
ライの背中をバシンと叩いてヒスイが言った
『いたっ!………あぁ、そうだな』
ヒスイの手痛い行動にライはすこしだけ噎せてしまった
とある惑星のある大陸には打ち捨てられた城があった
長いこと使われていなかった城である
そこの重い扉をある人物が開いた
顔から首にかけてある傷は、男の顔を不気味に飾り立てていた
『ご苦労だったな、グレゴール』
階段の上から、男の声が聞こえた
『すまん。とはいっても、ことごとく失敗している。奴らなかなかの手練れだな』
傷の男、グレゴールは頭をガシガシと掻きながらもう一人の男に近寄った。すると男はヒラリと階段の手摺から飛び降りてきた。
美しい銀の髪を靡かせ、片方の瞳は隠れているが端正な顔立ちの男である
『かまわない。すでに次の手は準備してある。『奴ら』を解き放つよう命が下った』
銀の髪の男にグレゴールは一瞬だけ眉を寄せ
『俺はあまり奴らは好きではないな。得体の知れない世界の奴らを招き入れるのはと思ってな』
『だが奴らは信頼できる。それに、あの男は同じ『アレ』の使い手だ』
『……なんだと?』
グレゴールは訝しげに銀の髪の男を見つめた
『……ならば同じ使い手同士潰しあってもらった方が楽だ』
『なるほどな。』
グレゴールはそう相槌を打ったが銀の髪の男は怪しく微笑むだけだった
『奴には何かと因縁があるようでな。またとない機会だ。俺は少し城を開ける。少し気になることがある』
『例の件か。』
そう。この城はとある筋から買い取り使っている。ここは人気も少なく滅多なことで見つかることはない
『グレゴール、お前は引き続きいつも通り魔物を操り、奴らを撹乱しろ。俺たちの目的は1つだ』
『わかっているよ……』
グレゴールの了承を得て、銀の髪の男はふと不敵に微笑み、『ではな』と言い、その城を後にした
『……グレゴールさんよ、いつも損な役回りだな』
銀の髪の男が去ったのち、柱の影から声がした
『……リズフィールか』
柱から出てきたのは長髪にバンダナの男である。その傍らには黒髪の美しい髪、男と同じ色のバンダナをした長身の女性が現れた
『下の名前はよしてくれや、こっ恥ずかしくてダメだ』
『お前たちを出すということは、団長もいよいよ本気の狩りを始めるということか』
『らしいな。まぁ俺らとしても例の男は気になるのでね。久しぶりに同族の人間に逢えるっていうから、俺もこいつも楽しみでよ。な、シィム』
シィムと呼ばれた女性は『そうですね』と短く答えただけだったが
『……いいか。万が一失敗するようなことがあれば』
『怖いねぇ。まぁ当面はここもバレることはねぇだろ。ちゃんと料金分は働くさ』
リズフィール、もといゼルファイナはニヤリとほくそえんだ。
『さぁ…て。ショータイムの始まりだぜ。』
ゼルファイナの手にはいつからか闇を纏った大剣が鈍い光を放っていた