第10章
まだ早朝とも取れる時間帯である
朝靄が立ち込めるダングレストの橋の上、静かな川の流れを聞きながらライは自身のソーマから銃を武具解放した
『………これから原界に帰るんだな。』
ライは自身のソーマ『ヴァルキュリア』を見つめる
『どうした緊張してるのか?』
ジルファが中から話しかけた
『んー……まぁそんなとこ?』
『お前な、あいつらとはしょっちゅう連絡取ってるし、ソーマリンクしてるじゃん』
そう。ライは原界の生まれである
少し前には、原界の仲間たちと世界を救う旅になんて出たこともあった
ライが出逢ったシングという少年とは
キュノスという街で出逢った
その時コハクは感情という感情をすべて失っていたので、ヒスイとシングの仲は悪かったと記憶している
まだソーマを持ったばかりの初心者だったシングとヒスイを見張っていろと、ライが世話になっている女社長、イネスに同行するようにと言われていたのがシングたちと旅をするきっかけになったのだった
『……懐かしいな。昨日のことのように思い出せる』
何はともあれ、久しぶりの原界に気持ちが逸るのは押さえられないようである
そうしてると後ろに人の気配を感じた
『ライおはよ。早いなぁ……』
リョウである
『お前こそ早いじゃん』
『僕はだいたいこれぐらいの時間だよ。で、いつもの日課』
リョウは自分の愛刀、一刀リョウ断をつきだして見せた
『ちゃんと手入れしてんだろうな?』
『最近はちゃんとやってるよ?』
『最近は、か。』
ライはつい苦笑してしまった
『って、ことだからライ付き合ってもらえる?』
『……俺でよければいいけど』
そういうとライは、自身のソーマから銃を武具解放した
『ありがとう!』
『いや、別に……』
ライもライで訓練は欠かしていないつもりだが、それでもまだまだ足りてないような気がする。ソーマはその使用者のスピリア、人間の世界の言葉では『心』を示す
それを表す武器である。想いが強ければ強いほどその輝きは増していく
ライの世界では、魔力などの呼称は『思念力』と呼ばれている
それを用いた術は『思念術』と言うのだ
テルカ・リュミレースでいう『魔術』と思ってくれてよい
ライはリョウの剣を受け止め、弾き返す
『ふむ。ちゃんと手入れはしてるようだな。感心感心』
『言ったじゃん、そう……』
僕ってどんだけ信用ないのと言っていたようだが、ライはそれをスルーした
まだ朝が早いこの時間帯だ
いくら中心部から離れているとはいえ、武器同士がぶつかり合う音はよく響き渡った
何度か撃ち合わせたあと、口を開いたのはリョウだった
『ライ、ひょっとして気持ち昂ってる?』
『えっ?』
どうして、とでも言いたそうなライを尻目にリョウはにへっと笑った
『いつもより荒いというか重いというか』
『…………へぇ』
ライはたっぷりとした間のあと、そのリョウの剣を思念術で勢いよく弾き、彼を後退させた
『わわっ!術はズルい!!それに今のちょっと本気だったでしょ!?』
『……さてなぁ……』
含み笑いを見せたライに、リョウは相当焦ったようだ
『これぐらいにしようぜ。そろそろみんな起きてくる時間帯だろ』
時計を見るといつの間にか針は7時を指していた
『本当だ。付き合ってくれてありがとう』
なんだかうまくはぐらかされたように思えるが、そろそろ腹も起き出す時間帯である
二人は武器をしまい、宿屋への道を戻り始めた
『今日はライの仲間に逢えるんだね。楽しみだなぁ』
『騒がしい連中だけどな。まぁ悪い奴らじゃないから安心しろ』
準備を完璧にすませてから、ライたちは街から少し離れた場所まで足を運んだ。
『全員揃ったみたいだな。準備はいいか。』
ライが集まった仲間たちを一人一人見ながら言った
『うん。揃ったみたいだね』
リョウがうなずいて、OKの合図を出した
『リョウ、エステリーゼ様のこと、頼んだよ。ぼくたちも片付いたら後を追うつもりだ』
『任せて!そっちこそ、ユーリのこと、頼んだから』
フレンとリョウの会話を横に聞きながら、ライはヴァルキュリアを解放した
『新しい世界、興味があるわね。それだけの技術をもったライの世界、研究者としては見てみたいわ』
リタも相変わらずのようである
『……結晶界ってとこにいけば、また星霊のみんなと逢えるんだね。ライお兄ちゃん』
『あぁ。保証するよ。まぁ、リルハちゃん次第だけどね』
そういいながら、ライは自身の愛刀、ヴァルキュリアに思念力を注ぎ始めた
『あたしたちで力になれるかはわからないけど、リルハのためなら何でもやるわよ!ライ、なにか手伝えることがあれば言ってね!』
ルーシィだ。
『ありがとう、ルーシィお姉ちゃん!』
『今更なにが来ても別に驚かねーけど、また新しい世界か……。ま、そっちで見つかったらラッキーだな……』
ロリセである。
『ロリセには、探してる人とかいねぇのか?』
グレイが不思議に思って聞いてみた。
ユーリのこともあるので、グレイも気になったようだ
『…ここに来る前一緒だった幼なじみがいつの間にか消えてて。まあよっぽどのことがねー限り大丈夫だとは思うけど……』
と、ロリセは頭をガシガシと掻いた
『原界に戻ったら、そのロリセちゃんの幼なじみのこと、騎士団に聞いてみようぜ。』
『ライの世界にも、騎士団があるの?』
これに興味を示したのはリョウである
『あぁ。騎士団と軍両方使えば情報ぐらい入ってくるだろ』
騎士団と軍を顎で使えるライの正体が気になるところではあるが、今は気にはしてはいけない気がした
ライ本人のことは、ライが話したくなった時にでも聞けばいいのだから
『ところで、そろそろ準備はいいか?』
ライは改めて皆に振り返って問いかけた、と、皆の方に視線を向けると何故か皆の瞳がキラキラしているようであった
『…どうしたよ…』
ちょっと引きながらライは聞き返す
逢ったばかりとは思えない一致団結ぶりに逆にこちらの毒気を抜かれていくような気がする
まるでかつて共に旅をした仲間たちのようだとライは思っていた
逆に頼もしいと思い、ライはヴァルキュリアをヒュンと横に薙ぐ
すると切り裂いた空間から、溢れる思念力とともに、虹色の光が瞬きだした
『空間を切り裂いた!?こんなことって!』
目の前の光景に、リタは信じられないという表情を浮かべ、その反応にライは彼女を一瞥する
『このソーマ、ヴァルキュリアはちょっと特殊でな。何故か空間を行き来できる能力を持っているんだ』
『じゃあ、ライは今までこうやって世界に渡っていたんだね』
フレンが裂けた空間を見ながら言う
『まぁな。』
『これも思念術の一種なのね』
ルーシィが空間を見つめている。
『順番に一人ずつ空間の中に入ってくれ。照準は、原界の帝都の外れに合わせてあるから』
『帝都の近くなのに、なんで街の中じゃないの?』
ルーシィの質問に、ライは『街の中にいきなり団体様が現れたらびっくりするだろうが、住人が』とだけ答えといた
『ひとつだけ断っとくけど、こんな状況だ。恐らく、俺のいた世界も同じようになってる』
被害はライの仲間がある程度防いでくれてるはずだが、それでも危険なのは変わりない。下手したら交戦の真っ只中に入ることになるかもしれないのだ
いつでも、武器を抜ける準備はしておくようにと釘を指し、全員がその亀裂に飛び込んだとのち、その亀裂はあっという間に閉じてしまったのだった。
『……行ってしまったか。さて、僕たちもダングレストの後始末の続きを……』
全員を見送って、フレンがそう踵を返すとこちらに駆けてきたのはソディアだった。
『フレン騎士団長!!それに凜々の明星の皆さんもお揃いでしたら、少しよろしいですか?』
と、ソディアから呼ばれて残った凜々の明星とエルリィたちは首を傾げた
『…どうしたんですか、ソディアさん。またトラブルですか?』
そうソディアに聴いてきたのはエルリィだった。
◆◇◆◇
空間を通り抜け、目の前に広がったのは青空だった
『………うわぁ…………』
どうやらライたちが降り立った場所は丘の上のようだ
リルハが空を見上げて、一番に気付いた。
『ん?あれ?なんか……』
『どうしたの、リルハ』
ルーシィが不思議そうにリルハを覗き込んだ
『なんだろ。なんか不思議な感じが』
リルハの言葉に、ライがふと彼女をみた
『…月が二つあるからだろ。ほら、あそこ』
ロリセが空を指さし、そこに全員が目を向けると、確かに二つの月が存在していた
『なんだか神秘的なところですね。それに、風がすごく気持ちいい』
エステルが髪を押さえながら言った
丘を臨み、東側に視線を向けると遠目だが城のようなものが見える
『あそこに城みたいなのが見えるわね。もしかしてあそこが?』
リタの声に、ライはうなずいた
『…あぁ。あれがこの世界の中心にある帝都……エストレーガのマクス城だよ。女性の皇帝が今は治めている』
『女性の、皇帝様なんですね……』
エステルがマクス城を見つめる。
恐らく、立場がよく似た存在に少し興味があるのだろう
ライも、きっとエステルと彼女は気が合うんじゃないかと思っている
『よし、なら日が暮れないうちに帝都に行くぞ。そこに俺の知り合いが、うん。何人かいるからな』
実のところ、その帝都には『今は』ライは近寄りたくはない。何故かというとすぐにわかるとは思うが、感じるのだ。ソーマリンクを通して、似知った気配が4つある
『ライ、どうしたの?なんか顔色が悪いような気がするんだけど』
リョウの問いかけに、視線は明後日の方向を僅かにさ迷ったのち
『…なんでもねぇ。気にするな。とにかくいくぞ。魔物もいるから気をつけてな』
ライの一言に、仲間たちはとりあえずうなずいたのだった
丘を越えて、坂をくだっていく。丘に魔物はいなかったが街道にはちらほら魔物もうろついているのが見てとれる。
『そこら中に魔物がいるのね』
リタがふと辺りを見渡しながら言った
『異変が起きて以来、魔物たちが活発化しちまってな。この辺りの魔物はこちらから手を出さない限りは大人しい奴らばかりだった。でも今は……』
エストレーガ方面に向かう途中も、魔物たちが時折襲いかかってきたりしている。気絶させるだけに今回は止めておいたが
しばらく歩いていると、街道の空気が一変する
魔力の高まる感覚がこの先の魔物の狩場から感じ取れた
『この先は魔物の狩場だ。気をつけろ』
『狩場!?』
ルーシィの声に、ライは人差し指を立てて静かにするように注意を促した。ルーシィは慌てて口元を隠し、狩場といわれる場所を見つめた
『きゃあぁあ!!』
すると道の先から女性の叫び声が聞こえた
『ルーシィか?』
『あたしじゃないわよ!』
グレイの言葉に、ルーシィはついツッコミを入れてしまう
『急ぐぞ!』
ライたちは武器を解放して狩場に走っていった
魔物の狩場といわれる場所は、その名の通り、魔物が狩場にしている場所である
その真っ只中にいたのは銀の美しい髪を揺らし、赤を基調とした服のライと年の変わらなさそうな女性だった。しかしあと二人姿が見てとれた
1人は黄昏色の髪に、黒の帽子をかぶった女の子。その傍らに黄昏色の彼女を守るように剣を構えた、蒼の髪の少年だった
『イネス!!』
ライはヴァルキュリアを手にしたまま、イネスと呼ばれた女性に襲いかかる魔物を思念術で切り裂いた
『ライ!遅いわよ!』
イネスの凛とした声が響き渡り、ライはイネスと背中合わせに陣形を取った
『帰って来るなり、何だよこの騒ぎ!エストレーガから出るなと言ったはずだが?』
『あんたが出かけてから、色々あったのよ!って、しばらく見ないうちにまた増えたわね。とにかく話はあと!』
イネスはそのスタイルの良さからは考えられない大きさのアックスブレイド、イネスのソーマ『フォルセウス』を易々と振り抜きながら、魔物たちを蹴散らした
かなり戦い慣れている
ライはイネスとは反対側の敵を撃ち抜いていく。二人が武器を振るうたびに轟音と共に魔物たちはどんどん倒されていった
その光景に他の仲間たちはただ驚いていた
つばぜり合う音が消える頃には、凶暴な魔物たちは退散したようだ
そう時間は経っていないはずであるが、やはり同じく死線を潜り抜けてきただけあり、二人の連繋は完璧だった
無駄なく、まるで舞い踊るように武器を振るう姿は相手すら魅了したのだった
『あの、助けてくださりありがとうございました』
一段落したあと、黄昏の髪の少女が頭を下げてきた
『気にしないでくれ。で。何でイネスがここに?』
ヴァルキュリアを仕舞いながら、ライは改めて気になったことを聞いてみた
『…異世界からの来訪者よ。この二人を迎えにいくようにマリンさんから頼まれたの』
『…あいつからか…』
ライは納得したように二人の方を見やった
『紹介が遅れました。私はライラ・ティアルと言います。』
『…ウィンル』
黄昏色の少女、ライラはにこやかに笑みを浮かべてくれたが、ウィンルの方はついと視線をずらしてしまった
そんなウィンルにエステルは近寄り
『私はエステリーゼって言います。気軽にエステルって呼んでください』
『あ、えと……うん』
エステルがそういうと、ウィンルは少し気恥ずかしそうに頬を少し染めた
『あたしはロリセ=シュトラウスです。まぁあたしのことは気にしないでくれ』
『リルハだよ!』
『あたしはルーシィ』
『グレイだ、よろしくな』
『リタ・モルディオ』
それぞれの自己紹介にイネスはにこりと微笑み
『私はイネス・ローレンツ。運び屋日々寧日の社長よ。ライとは色々と、あるのよね』
『何もねぇよ!ただ一緒に旅した仲間ってだけの話だろ』
イネスの言葉にライは盛大なため息を吐き出した
後ろでリルハが『色々?』と首をかしげていたが、誤解される前にライは全力でそれを否定した
『なんかライのイメージがここにきて180度変わってきてる気がする。あ、僕はリョウ=ウバルチフです。よろしくお願いします、イネスさん』
『あら、もしかして貴方がライがよく話してくれる異世界で逢ったっていう友達のリョウくん、かしら』
異世界という単語に、全員が反応したがイネスの方は特に追及もせずににこやかに笑うだけだった
恐らく事情は察しているということだ
『とりあえず、エストレーガに戻ろう。色々話さなきゃならないこともあるしな』
『それなら、マリンさんのとこにシングがいたわね』
なら、目的地は決まった。
『これからエストレーガのマクス城に向かうぞ。』
『確か、この原界(セルランド)の中心の帝都の城だったね』
リョウのことばに、ライは頷いた
『そこにオレの仲間がいるみてぇだ。あと、皇帝陛下にも逢いにいくぞ』
いきなり皇帝陛下に逢いにいくという、ライの言葉に全員は緊張を走らせるが、ライラとウィンルを迎えにいくように言ったのも皇帝陛下らしいのでどのみち行くようになる手筈だが
『どんな人なのかしら……』
ルーシィがふと口にした
『マリンさんは、うちのお得意様よ。よく贔屓にしてくれてるの。』
『贔屓って、あ。そうか。運び屋でしたっけ』
ロリセがいうと、イネスは『そうよ♪』とまたにこやかに笑った
『あいつは悪いやつじゃないよ。』
皇帝陛下をあいつ呼ばわりするライもライだが、個人的に何か繋がりがあるのかもしれないとリョウは思った
『また襲われないうちに、帝都に向かいましょう。この大陸でも、まだだいぶ被害が少ない場所だから。何はともあれ、落ち着ける場所が欲しいし』
こうしてイネスの案内のもと、ライたちは再びエストレーガに向かうことになった
帝都エストレーガは周りを城壁に囲われた城下町だ
目の前の鉄壁の城塞を仲間たちは見上げていた
『えっと……帝都って壁なの……?』
リルハの最もな質問に、ライは苦笑しながら答えた
『帝都は街を城壁に囲まれた都市なんだ。』
『なるほど、鉄壁の城塞の中にある大都市なんだね。』
リョウが興味深そうに見上げている
そういえば、シングも初めてエストレーガに来た時にリルハと同じ事を言っていたのを思い出した
『マクス城は広場を抜けた先にあるわ。』
城門は開け放たれており、ちらほら人影も見かける
おそらく、被害の大きな土地から避難してきた人たちもたくさんいるだろう
『どこもかしこも同じ状態なのね』
リタだ。
『そうね。各地の被害状況を知るためにも軍本部と結晶騎士団が連携して積極的に情報を集めているわ。』
『結晶騎士団?』
グレイが訝しげに聞いてきた
『橋上聖都プランスールに本部を置いて住民を守ってる騎士団だよ。まぁ以前は軍と騎士団に深いいざこざもあったが、今はマリンや俺の知り合いの幼なじみの隊長のおかげで、両軍の溝はなくなってきている』
『ライにも騎士団の人に幼なじみがいるんだ?なんかフレンとユーリみたいな関係だね』
リョウが最もな答えを口にした。ライは『まぁそんなとこ』と返す
『正確には弟子でしょ?』
イネスの突っ込みにライは黙り込んだ。
この会話は帝都の町並みに夢中になっている他の者たちには聞かれてはいなかったようだ
しばらく歩いて、城の前に到着する
豪奢な扉を無遠慮に開けると、長い渡り廊下がある
『彼女は?』
『恐らく謁見の間だと思うわ。』
リョウたちに関しては、自分の知り合いということですんなりと通してもらった
『顔パスって正にこう言うことだな』
ロリセは小さく呟いた
長い渡り廊下を歩き、階段を登るとすぐに謁見の間への扉にはたどり着いた
『ジルファーン様、ローレンツ様、陛下とカルセドニー様がお待ちです。奥へ』
見張りの兵士が道を開ける。ありがとうと一言残し、そのまま謁見の間への扉をくぐる
すると一番に聞こえたのは涼しげな声だった
『イネスご苦労様でした。そしてライ、お久しぶりです。ご無事で何よりですわ』
青を基調としたマントを羽織り、真っ直ぐにこやかに皆を迎えたのはこの原界を統治するパライバ=マリン=ド=レその人だった
リルハはその声がよくにている人を思い出していた。
グレイとルーシィもまさかこんな場所にいる訳がないのにと思っていたので、本当にその似すぎている彼の人の声は謎の安心感を覚えずにはいられなかったのである
『マリン、久しぶりだな。元気そうでよかった。カルセドニーも』
パライバのすぐ横に控えていた金髪碧眼の青年にライは軽く手を振ってみせた
『久しぶりだな。ライ。はじめまして、異世界の来訪者たち。私はカルセドニー・アーカム。結晶騎士団の指揮を任されている者だ』
カルセドニーはその青の瞳で全員を見つめた。いきなり結晶騎士団の指揮を任されている存在に出くわしたのは皆はかなり驚いていたが、パライバの『そう身構えないでください』という言葉に少しだけ肩を撫で下ろした
『皆さんの状況はよく存じ上げておりますわ。このエストレーガにも、亀裂に飲み込まれてこの世界にたどり着いた民もたくさんいます』
その言葉に反応したのはリタであった
『待って。この天変地異が同時期に全部の世界で起こってるっていうの?』
かなり非化学的だが、今まで出あってきた仲間たちの話も同じようなことを話していた
『そのようです。私たちはある人物からの言伝で今の天変地異のことを聞きました。貴方がたもよく知る人物です。しかし彼らの言葉と今のこの天変地異の話を統合した結果、様々なことが辻褄が合うのです』
パライバの言葉を引き継いだのはイネスだった
『…例を挙げれば、見たことのない魔物の存在ね。覚えがあるでしょう?』
そういえば、各世界にしか生息しない魔物たちが度々ライたちの前に何度も表れた。つぎはカルセドニーが口を開き
『つまりはこう私たちは考えた。何者かが各世界で人為的に天変地異を引き起こし、各世界の要人達を消そうとしていると。』
『そういえば、船の上で暗殺者をけしかけられた。あちらは俺たちを知っていたようだったからな』
『あの武器にマークをつけた人たちだね。』
リルハが思い出したように手を合わせた
その紋様の組織の名前は傷のない剣(オルガブレイド)という
暗殺や裏の仕事を代行して行う組織らしい。
『ってことは、そのオルガブレイドって奴等に誰かが僕たちを暗殺するように依頼したんだね。』
リョウの言葉に、カルセドニーは頷いた
『私たちの仲間も命を狙われている。』
『!?』
その言葉にわずかに動揺を見せたのは他でもないライ自身であった
『まさか俺以外にシングたちまで…』
『シングたちなら無事だ。彼らの強さは知っているだろう。シングとコハクならエストレーガの宿屋にいる。後で顔を見せるといい』
『ベリルは?』
ライは今名前の上がらなかった一人の少女を思い出した
『今ヒスイとエストレーガに向かっているわ』
イネスだ。ライはほっと胸を撫で下ろした
『えっと。それであたしたちはどうすればいいんですか?確かにちょっとびっくりしたけど、こうして無条件で通されたってことは手伝って欲しいことがあるんですよね』
ロリセの的を射た発言に、パライバとカルセドニーは顔を見合わせ、うなずきあった
『私たちに君たちがもとの世界に帰れるように協力をさせてほしい。探し人の情報も入り次第渡す。君たちの目的はそれだろう?』
カルセドニーの言葉に、この場の全員
が息を呑んだ
『俺たちは最初からそうするつもりだぜ、なぁ、みんな』
ライが全員を振り返る
『うん!そうだね!』
リルハだ
『あたしもグレイも喜んで協力するわよ!』
ルーシィとグレイも同意した
『まぁ探し人の情報をタダでもらえるなら、協力しない手はねぇかな』
ロリセも頭を掻きながら同意した
『どのみちこの原因を根っから調べるつもりだったから、あたしはかまわないわ』
リタだ
『わたしもです。探してる人がいるんです』
エステルだ
『私は、治癒術に覚えがありますから、けがをしたらいつでも言ってくださいね』
『ライラは無理をするなっていつも言ってる。』
『無理をしてるのはウィンルでしょ?』
ライラの言葉
『僕はライがいるならついてくよ。僕の剣直せるのライだけだし』
どうやら全員乗り気のようだ
『ありがとう、感謝します。一緒に原因を探りましょう』
パライバが立ち上がり、皆に手を差し出した
そして敵に反撃する戦力は確実に揃ってきていたのだった
朝靄が立ち込めるダングレストの橋の上、静かな川の流れを聞きながらライは自身のソーマから銃を武具解放した
『………これから原界に帰るんだな。』
ライは自身のソーマ『ヴァルキュリア』を見つめる
『どうした緊張してるのか?』
ジルファが中から話しかけた
『んー……まぁそんなとこ?』
『お前な、あいつらとはしょっちゅう連絡取ってるし、ソーマリンクしてるじゃん』
そう。ライは原界の生まれである
少し前には、原界の仲間たちと世界を救う旅になんて出たこともあった
ライが出逢ったシングという少年とは
キュノスという街で出逢った
その時コハクは感情という感情をすべて失っていたので、ヒスイとシングの仲は悪かったと記憶している
まだソーマを持ったばかりの初心者だったシングとヒスイを見張っていろと、ライが世話になっている女社長、イネスに同行するようにと言われていたのがシングたちと旅をするきっかけになったのだった
『……懐かしいな。昨日のことのように思い出せる』
何はともあれ、久しぶりの原界に気持ちが逸るのは押さえられないようである
そうしてると後ろに人の気配を感じた
『ライおはよ。早いなぁ……』
リョウである
『お前こそ早いじゃん』
『僕はだいたいこれぐらいの時間だよ。で、いつもの日課』
リョウは自分の愛刀、一刀リョウ断をつきだして見せた
『ちゃんと手入れしてんだろうな?』
『最近はちゃんとやってるよ?』
『最近は、か。』
ライはつい苦笑してしまった
『って、ことだからライ付き合ってもらえる?』
『……俺でよければいいけど』
そういうとライは、自身のソーマから銃を武具解放した
『ありがとう!』
『いや、別に……』
ライもライで訓練は欠かしていないつもりだが、それでもまだまだ足りてないような気がする。ソーマはその使用者のスピリア、人間の世界の言葉では『心』を示す
それを表す武器である。想いが強ければ強いほどその輝きは増していく
ライの世界では、魔力などの呼称は『思念力』と呼ばれている
それを用いた術は『思念術』と言うのだ
テルカ・リュミレースでいう『魔術』と思ってくれてよい
ライはリョウの剣を受け止め、弾き返す
『ふむ。ちゃんと手入れはしてるようだな。感心感心』
『言ったじゃん、そう……』
僕ってどんだけ信用ないのと言っていたようだが、ライはそれをスルーした
まだ朝が早いこの時間帯だ
いくら中心部から離れているとはいえ、武器同士がぶつかり合う音はよく響き渡った
何度か撃ち合わせたあと、口を開いたのはリョウだった
『ライ、ひょっとして気持ち昂ってる?』
『えっ?』
どうして、とでも言いたそうなライを尻目にリョウはにへっと笑った
『いつもより荒いというか重いというか』
『…………へぇ』
ライはたっぷりとした間のあと、そのリョウの剣を思念術で勢いよく弾き、彼を後退させた
『わわっ!術はズルい!!それに今のちょっと本気だったでしょ!?』
『……さてなぁ……』
含み笑いを見せたライに、リョウは相当焦ったようだ
『これぐらいにしようぜ。そろそろみんな起きてくる時間帯だろ』
時計を見るといつの間にか針は7時を指していた
『本当だ。付き合ってくれてありがとう』
なんだかうまくはぐらかされたように思えるが、そろそろ腹も起き出す時間帯である
二人は武器をしまい、宿屋への道を戻り始めた
『今日はライの仲間に逢えるんだね。楽しみだなぁ』
『騒がしい連中だけどな。まぁ悪い奴らじゃないから安心しろ』
準備を完璧にすませてから、ライたちは街から少し離れた場所まで足を運んだ。
『全員揃ったみたいだな。準備はいいか。』
ライが集まった仲間たちを一人一人見ながら言った
『うん。揃ったみたいだね』
リョウがうなずいて、OKの合図を出した
『リョウ、エステリーゼ様のこと、頼んだよ。ぼくたちも片付いたら後を追うつもりだ』
『任せて!そっちこそ、ユーリのこと、頼んだから』
フレンとリョウの会話を横に聞きながら、ライはヴァルキュリアを解放した
『新しい世界、興味があるわね。それだけの技術をもったライの世界、研究者としては見てみたいわ』
リタも相変わらずのようである
『……結晶界ってとこにいけば、また星霊のみんなと逢えるんだね。ライお兄ちゃん』
『あぁ。保証するよ。まぁ、リルハちゃん次第だけどね』
そういいながら、ライは自身の愛刀、ヴァルキュリアに思念力を注ぎ始めた
『あたしたちで力になれるかはわからないけど、リルハのためなら何でもやるわよ!ライ、なにか手伝えることがあれば言ってね!』
ルーシィだ。
『ありがとう、ルーシィお姉ちゃん!』
『今更なにが来ても別に驚かねーけど、また新しい世界か……。ま、そっちで見つかったらラッキーだな……』
ロリセである。
『ロリセには、探してる人とかいねぇのか?』
グレイが不思議に思って聞いてみた。
ユーリのこともあるので、グレイも気になったようだ
『…ここに来る前一緒だった幼なじみがいつの間にか消えてて。まあよっぽどのことがねー限り大丈夫だとは思うけど……』
と、ロリセは頭をガシガシと掻いた
『原界に戻ったら、そのロリセちゃんの幼なじみのこと、騎士団に聞いてみようぜ。』
『ライの世界にも、騎士団があるの?』
これに興味を示したのはリョウである
『あぁ。騎士団と軍両方使えば情報ぐらい入ってくるだろ』
騎士団と軍を顎で使えるライの正体が気になるところではあるが、今は気にはしてはいけない気がした
ライ本人のことは、ライが話したくなった時にでも聞けばいいのだから
『ところで、そろそろ準備はいいか?』
ライは改めて皆に振り返って問いかけた、と、皆の方に視線を向けると何故か皆の瞳がキラキラしているようであった
『…どうしたよ…』
ちょっと引きながらライは聞き返す
逢ったばかりとは思えない一致団結ぶりに逆にこちらの毒気を抜かれていくような気がする
まるでかつて共に旅をした仲間たちのようだとライは思っていた
逆に頼もしいと思い、ライはヴァルキュリアをヒュンと横に薙ぐ
すると切り裂いた空間から、溢れる思念力とともに、虹色の光が瞬きだした
『空間を切り裂いた!?こんなことって!』
目の前の光景に、リタは信じられないという表情を浮かべ、その反応にライは彼女を一瞥する
『このソーマ、ヴァルキュリアはちょっと特殊でな。何故か空間を行き来できる能力を持っているんだ』
『じゃあ、ライは今までこうやって世界に渡っていたんだね』
フレンが裂けた空間を見ながら言う
『まぁな。』
『これも思念術の一種なのね』
ルーシィが空間を見つめている。
『順番に一人ずつ空間の中に入ってくれ。照準は、原界の帝都の外れに合わせてあるから』
『帝都の近くなのに、なんで街の中じゃないの?』
ルーシィの質問に、ライは『街の中にいきなり団体様が現れたらびっくりするだろうが、住人が』とだけ答えといた
『ひとつだけ断っとくけど、こんな状況だ。恐らく、俺のいた世界も同じようになってる』
被害はライの仲間がある程度防いでくれてるはずだが、それでも危険なのは変わりない。下手したら交戦の真っ只中に入ることになるかもしれないのだ
いつでも、武器を抜ける準備はしておくようにと釘を指し、全員がその亀裂に飛び込んだとのち、その亀裂はあっという間に閉じてしまったのだった。
『……行ってしまったか。さて、僕たちもダングレストの後始末の続きを……』
全員を見送って、フレンがそう踵を返すとこちらに駆けてきたのはソディアだった。
『フレン騎士団長!!それに凜々の明星の皆さんもお揃いでしたら、少しよろしいですか?』
と、ソディアから呼ばれて残った凜々の明星とエルリィたちは首を傾げた
『…どうしたんですか、ソディアさん。またトラブルですか?』
そうソディアに聴いてきたのはエルリィだった。
◆◇◆◇
空間を通り抜け、目の前に広がったのは青空だった
『………うわぁ…………』
どうやらライたちが降り立った場所は丘の上のようだ
リルハが空を見上げて、一番に気付いた。
『ん?あれ?なんか……』
『どうしたの、リルハ』
ルーシィが不思議そうにリルハを覗き込んだ
『なんだろ。なんか不思議な感じが』
リルハの言葉に、ライがふと彼女をみた
『…月が二つあるからだろ。ほら、あそこ』
ロリセが空を指さし、そこに全員が目を向けると、確かに二つの月が存在していた
『なんだか神秘的なところですね。それに、風がすごく気持ちいい』
エステルが髪を押さえながら言った
丘を臨み、東側に視線を向けると遠目だが城のようなものが見える
『あそこに城みたいなのが見えるわね。もしかしてあそこが?』
リタの声に、ライはうなずいた
『…あぁ。あれがこの世界の中心にある帝都……エストレーガのマクス城だよ。女性の皇帝が今は治めている』
『女性の、皇帝様なんですね……』
エステルがマクス城を見つめる。
恐らく、立場がよく似た存在に少し興味があるのだろう
ライも、きっとエステルと彼女は気が合うんじゃないかと思っている
『よし、なら日が暮れないうちに帝都に行くぞ。そこに俺の知り合いが、うん。何人かいるからな』
実のところ、その帝都には『今は』ライは近寄りたくはない。何故かというとすぐにわかるとは思うが、感じるのだ。ソーマリンクを通して、似知った気配が4つある
『ライ、どうしたの?なんか顔色が悪いような気がするんだけど』
リョウの問いかけに、視線は明後日の方向を僅かにさ迷ったのち
『…なんでもねぇ。気にするな。とにかくいくぞ。魔物もいるから気をつけてな』
ライの一言に、仲間たちはとりあえずうなずいたのだった
丘を越えて、坂をくだっていく。丘に魔物はいなかったが街道にはちらほら魔物もうろついているのが見てとれる。
『そこら中に魔物がいるのね』
リタがふと辺りを見渡しながら言った
『異変が起きて以来、魔物たちが活発化しちまってな。この辺りの魔物はこちらから手を出さない限りは大人しい奴らばかりだった。でも今は……』
エストレーガ方面に向かう途中も、魔物たちが時折襲いかかってきたりしている。気絶させるだけに今回は止めておいたが
しばらく歩いていると、街道の空気が一変する
魔力の高まる感覚がこの先の魔物の狩場から感じ取れた
『この先は魔物の狩場だ。気をつけろ』
『狩場!?』
ルーシィの声に、ライは人差し指を立てて静かにするように注意を促した。ルーシィは慌てて口元を隠し、狩場といわれる場所を見つめた
『きゃあぁあ!!』
すると道の先から女性の叫び声が聞こえた
『ルーシィか?』
『あたしじゃないわよ!』
グレイの言葉に、ルーシィはついツッコミを入れてしまう
『急ぐぞ!』
ライたちは武器を解放して狩場に走っていった
魔物の狩場といわれる場所は、その名の通り、魔物が狩場にしている場所である
その真っ只中にいたのは銀の美しい髪を揺らし、赤を基調とした服のライと年の変わらなさそうな女性だった。しかしあと二人姿が見てとれた
1人は黄昏色の髪に、黒の帽子をかぶった女の子。その傍らに黄昏色の彼女を守るように剣を構えた、蒼の髪の少年だった
『イネス!!』
ライはヴァルキュリアを手にしたまま、イネスと呼ばれた女性に襲いかかる魔物を思念術で切り裂いた
『ライ!遅いわよ!』
イネスの凛とした声が響き渡り、ライはイネスと背中合わせに陣形を取った
『帰って来るなり、何だよこの騒ぎ!エストレーガから出るなと言ったはずだが?』
『あんたが出かけてから、色々あったのよ!って、しばらく見ないうちにまた増えたわね。とにかく話はあと!』
イネスはそのスタイルの良さからは考えられない大きさのアックスブレイド、イネスのソーマ『フォルセウス』を易々と振り抜きながら、魔物たちを蹴散らした
かなり戦い慣れている
ライはイネスとは反対側の敵を撃ち抜いていく。二人が武器を振るうたびに轟音と共に魔物たちはどんどん倒されていった
その光景に他の仲間たちはただ驚いていた
つばぜり合う音が消える頃には、凶暴な魔物たちは退散したようだ
そう時間は経っていないはずであるが、やはり同じく死線を潜り抜けてきただけあり、二人の連繋は完璧だった
無駄なく、まるで舞い踊るように武器を振るう姿は相手すら魅了したのだった
『あの、助けてくださりありがとうございました』
一段落したあと、黄昏の髪の少女が頭を下げてきた
『気にしないでくれ。で。何でイネスがここに?』
ヴァルキュリアを仕舞いながら、ライは改めて気になったことを聞いてみた
『…異世界からの来訪者よ。この二人を迎えにいくようにマリンさんから頼まれたの』
『…あいつからか…』
ライは納得したように二人の方を見やった
『紹介が遅れました。私はライラ・ティアルと言います。』
『…ウィンル』
黄昏色の少女、ライラはにこやかに笑みを浮かべてくれたが、ウィンルの方はついと視線をずらしてしまった
そんなウィンルにエステルは近寄り
『私はエステリーゼって言います。気軽にエステルって呼んでください』
『あ、えと……うん』
エステルがそういうと、ウィンルは少し気恥ずかしそうに頬を少し染めた
『あたしはロリセ=シュトラウスです。まぁあたしのことは気にしないでくれ』
『リルハだよ!』
『あたしはルーシィ』
『グレイだ、よろしくな』
『リタ・モルディオ』
それぞれの自己紹介にイネスはにこりと微笑み
『私はイネス・ローレンツ。運び屋日々寧日の社長よ。ライとは色々と、あるのよね』
『何もねぇよ!ただ一緒に旅した仲間ってだけの話だろ』
イネスの言葉にライは盛大なため息を吐き出した
後ろでリルハが『色々?』と首をかしげていたが、誤解される前にライは全力でそれを否定した
『なんかライのイメージがここにきて180度変わってきてる気がする。あ、僕はリョウ=ウバルチフです。よろしくお願いします、イネスさん』
『あら、もしかして貴方がライがよく話してくれる異世界で逢ったっていう友達のリョウくん、かしら』
異世界という単語に、全員が反応したがイネスの方は特に追及もせずににこやかに笑うだけだった
恐らく事情は察しているということだ
『とりあえず、エストレーガに戻ろう。色々話さなきゃならないこともあるしな』
『それなら、マリンさんのとこにシングがいたわね』
なら、目的地は決まった。
『これからエストレーガのマクス城に向かうぞ。』
『確か、この原界(セルランド)の中心の帝都の城だったね』
リョウのことばに、ライは頷いた
『そこにオレの仲間がいるみてぇだ。あと、皇帝陛下にも逢いにいくぞ』
いきなり皇帝陛下に逢いにいくという、ライの言葉に全員は緊張を走らせるが、ライラとウィンルを迎えにいくように言ったのも皇帝陛下らしいのでどのみち行くようになる手筈だが
『どんな人なのかしら……』
ルーシィがふと口にした
『マリンさんは、うちのお得意様よ。よく贔屓にしてくれてるの。』
『贔屓って、あ。そうか。運び屋でしたっけ』
ロリセがいうと、イネスは『そうよ♪』とまたにこやかに笑った
『あいつは悪いやつじゃないよ。』
皇帝陛下をあいつ呼ばわりするライもライだが、個人的に何か繋がりがあるのかもしれないとリョウは思った
『また襲われないうちに、帝都に向かいましょう。この大陸でも、まだだいぶ被害が少ない場所だから。何はともあれ、落ち着ける場所が欲しいし』
こうしてイネスの案内のもと、ライたちは再びエストレーガに向かうことになった
帝都エストレーガは周りを城壁に囲われた城下町だ
目の前の鉄壁の城塞を仲間たちは見上げていた
『えっと……帝都って壁なの……?』
リルハの最もな質問に、ライは苦笑しながら答えた
『帝都は街を城壁に囲まれた都市なんだ。』
『なるほど、鉄壁の城塞の中にある大都市なんだね。』
リョウが興味深そうに見上げている
そういえば、シングも初めてエストレーガに来た時にリルハと同じ事を言っていたのを思い出した
『マクス城は広場を抜けた先にあるわ。』
城門は開け放たれており、ちらほら人影も見かける
おそらく、被害の大きな土地から避難してきた人たちもたくさんいるだろう
『どこもかしこも同じ状態なのね』
リタだ。
『そうね。各地の被害状況を知るためにも軍本部と結晶騎士団が連携して積極的に情報を集めているわ。』
『結晶騎士団?』
グレイが訝しげに聞いてきた
『橋上聖都プランスールに本部を置いて住民を守ってる騎士団だよ。まぁ以前は軍と騎士団に深いいざこざもあったが、今はマリンや俺の知り合いの幼なじみの隊長のおかげで、両軍の溝はなくなってきている』
『ライにも騎士団の人に幼なじみがいるんだ?なんかフレンとユーリみたいな関係だね』
リョウが最もな答えを口にした。ライは『まぁそんなとこ』と返す
『正確には弟子でしょ?』
イネスの突っ込みにライは黙り込んだ。
この会話は帝都の町並みに夢中になっている他の者たちには聞かれてはいなかったようだ
しばらく歩いて、城の前に到着する
豪奢な扉を無遠慮に開けると、長い渡り廊下がある
『彼女は?』
『恐らく謁見の間だと思うわ。』
リョウたちに関しては、自分の知り合いということですんなりと通してもらった
『顔パスって正にこう言うことだな』
ロリセは小さく呟いた
長い渡り廊下を歩き、階段を登るとすぐに謁見の間への扉にはたどり着いた
『ジルファーン様、ローレンツ様、陛下とカルセドニー様がお待ちです。奥へ』
見張りの兵士が道を開ける。ありがとうと一言残し、そのまま謁見の間への扉をくぐる
すると一番に聞こえたのは涼しげな声だった
『イネスご苦労様でした。そしてライ、お久しぶりです。ご無事で何よりですわ』
青を基調としたマントを羽織り、真っ直ぐにこやかに皆を迎えたのはこの原界を統治するパライバ=マリン=ド=レその人だった
リルハはその声がよくにている人を思い出していた。
グレイとルーシィもまさかこんな場所にいる訳がないのにと思っていたので、本当にその似すぎている彼の人の声は謎の安心感を覚えずにはいられなかったのである
『マリン、久しぶりだな。元気そうでよかった。カルセドニーも』
パライバのすぐ横に控えていた金髪碧眼の青年にライは軽く手を振ってみせた
『久しぶりだな。ライ。はじめまして、異世界の来訪者たち。私はカルセドニー・アーカム。結晶騎士団の指揮を任されている者だ』
カルセドニーはその青の瞳で全員を見つめた。いきなり結晶騎士団の指揮を任されている存在に出くわしたのは皆はかなり驚いていたが、パライバの『そう身構えないでください』という言葉に少しだけ肩を撫で下ろした
『皆さんの状況はよく存じ上げておりますわ。このエストレーガにも、亀裂に飲み込まれてこの世界にたどり着いた民もたくさんいます』
その言葉に反応したのはリタであった
『待って。この天変地異が同時期に全部の世界で起こってるっていうの?』
かなり非化学的だが、今まで出あってきた仲間たちの話も同じようなことを話していた
『そのようです。私たちはある人物からの言伝で今の天変地異のことを聞きました。貴方がたもよく知る人物です。しかし彼らの言葉と今のこの天変地異の話を統合した結果、様々なことが辻褄が合うのです』
パライバの言葉を引き継いだのはイネスだった
『…例を挙げれば、見たことのない魔物の存在ね。覚えがあるでしょう?』
そういえば、各世界にしか生息しない魔物たちが度々ライたちの前に何度も表れた。つぎはカルセドニーが口を開き
『つまりはこう私たちは考えた。何者かが各世界で人為的に天変地異を引き起こし、各世界の要人達を消そうとしていると。』
『そういえば、船の上で暗殺者をけしかけられた。あちらは俺たちを知っていたようだったからな』
『あの武器にマークをつけた人たちだね。』
リルハが思い出したように手を合わせた
その紋様の組織の名前は傷のない剣(オルガブレイド)という
暗殺や裏の仕事を代行して行う組織らしい。
『ってことは、そのオルガブレイドって奴等に誰かが僕たちを暗殺するように依頼したんだね。』
リョウの言葉に、カルセドニーは頷いた
『私たちの仲間も命を狙われている。』
『!?』
その言葉にわずかに動揺を見せたのは他でもないライ自身であった
『まさか俺以外にシングたちまで…』
『シングたちなら無事だ。彼らの強さは知っているだろう。シングとコハクならエストレーガの宿屋にいる。後で顔を見せるといい』
『ベリルは?』
ライは今名前の上がらなかった一人の少女を思い出した
『今ヒスイとエストレーガに向かっているわ』
イネスだ。ライはほっと胸を撫で下ろした
『えっと。それであたしたちはどうすればいいんですか?確かにちょっとびっくりしたけど、こうして無条件で通されたってことは手伝って欲しいことがあるんですよね』
ロリセの的を射た発言に、パライバとカルセドニーは顔を見合わせ、うなずきあった
『私たちに君たちがもとの世界に帰れるように協力をさせてほしい。探し人の情報も入り次第渡す。君たちの目的はそれだろう?』
カルセドニーの言葉に、この場の全員
が息を呑んだ
『俺たちは最初からそうするつもりだぜ、なぁ、みんな』
ライが全員を振り返る
『うん!そうだね!』
リルハだ
『あたしもグレイも喜んで協力するわよ!』
ルーシィとグレイも同意した
『まぁ探し人の情報をタダでもらえるなら、協力しない手はねぇかな』
ロリセも頭を掻きながら同意した
『どのみちこの原因を根っから調べるつもりだったから、あたしはかまわないわ』
リタだ
『わたしもです。探してる人がいるんです』
エステルだ
『私は、治癒術に覚えがありますから、けがをしたらいつでも言ってくださいね』
『ライラは無理をするなっていつも言ってる。』
『無理をしてるのはウィンルでしょ?』
ライラの言葉
『僕はライがいるならついてくよ。僕の剣直せるのライだけだし』
どうやら全員乗り気のようだ
『ありがとう、感謝します。一緒に原因を探りましょう』
パライバが立ち上がり、皆に手を差し出した
そして敵に反撃する戦力は確実に揃ってきていたのだった