CASE:神
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「だ、だって……わたしみたいななんの取り柄もない地味なやつが彼女だなんて、きっと神くんに迷惑がかかるもん……」
「ふうん」
友人がきつく目を細める。その感情をうまく読み取れなくて、結花は一気に不安な気持ちになった。
「ね、結花。あんたは自分のことそう思ってるのかもしれないけどさ、人が人に抱く感情なんてさまざまなんだよ。あんたはそうなのかもしれないけど、周りは違うかもしれない。神くんだって、あんたをそんな風に思ってたら好きになったりしないでしょう?」
「迷惑じゃないってこと?」
「告白された時点でそんなくっだらないこと考えなくていいってこと。それ、あんたを好きだって言ってくれてる神くんのことも侮辱してるのよ?」
「そ、そんなつもりは……っ!」
「まあ、今のはちょっと拡大解釈だけど。――別にいいんじゃない? 付き合ってることを隠したまま、神くんがいつまでもフリーだと思ってる女の子に何人もアタックさせて、結局結花と神くんが付き合ってたことなんて最初からなかったように他の女の子に神くんが取られちゃうなんて結末も、あんたにはお似合いかもね」
「ヒィ……! わ、わたし、神くんにやっぱり付き合ってること内緒にするのやめたいって言ってくる!」
「そうだね。ウサギの穴ならいつでも用意しといてあげる。ああ、衣装ダンスでもいいか」
友人は意地悪く言うと、にっこりと微笑んだ。
結花の話がもうとっくに妄想でないことに気づいているくせに、あえて異世界への入り口を用意しておくだなんて、なんて意地の悪い。
「ありがとう、ウサギさん」
「どういたしまして」
精一杯の嫌味を笑顔で受け流され、結花はがっくりとうなだれた。
その日の放課後、結花は宗一郎に内緒でこっそり体育館に来ていた。
まだ中では宗一郎が誰かと自主練習をしているようだ。
結花は宗一郎に見つからないように体育館の入り口の影に身を隠すと、そこの石段に腰掛けた。
わざわざ声を掛けたりして、宗一郎の練習の邪魔をしたくはなかった。
それに、付き合ってる事を内緒にしたいとお願いしたのは結花の方なのに、一週間も経たないうちに自分の方が耐えられなくなってしまったなんて聞いたら、いくら心の広い宗一郎でもあきれてしまうかもしれない。
そう思うと、少しだけこわかった。
オレンジ色の夕陽が空の向こうに吸い込まれて、濃い青の色が空を占める。
冷たい風が頬を撫ぜて、なんだか急に心細い気持ちになった。
体育館から漏れてくる明るい光が結花のすぐ横の石段を強く照らして、その光と影のコントラストが、まるでくっきりと世界を分ける境界線のように見えた。
光射す場所と、その陰の場所。宗一郎と、結花。
「神さーん! 自主練、パス出し付き合いますよ!」
暗い思考に沈みそうになったとき、体育館の中から明るい声が響いてきた。
こっそり中を覗くと、頭にヘアバンドを巻いた後輩と思しき少年が、宗一郎に元気良く駆け寄っていくのが見えた。
「ありがとう、ノブ。それじゃあお言葉に甘えてよろしく頼むよ」
こちらからでは宗一郎の表情は見えないが、きっと微笑んでいるんだろうことが声でわかる。
結花はその表情を思い浮かべた。
宗一郎にちゃんとした笑顔を向けてもらったのは、もしかしたらあの告白された日が最後だったかもしれない。
教室ではバレないことに必死になって、いつもこっそりメールでのやりとりだけで、そういえば付き合う前よりも宗一郎の顔をちゃんと見ていない。
なにやってんだろう。
再び入り口の陰に身を潜めて、結花は短く息を吐く。胸が一気に重くなった。
こんなの本末転倒だ。今すぐにでもこんなことはやめなくては。そうでないと、友人の言っていたように、きっとすぐに宗一郎に愛想を尽かされてしまう。
沈んだ心に気合を入れたとき、ふいにまた少年の声が耳に飛び込んできた。
「ふうん」
友人がきつく目を細める。その感情をうまく読み取れなくて、結花は一気に不安な気持ちになった。
「ね、結花。あんたは自分のことそう思ってるのかもしれないけどさ、人が人に抱く感情なんてさまざまなんだよ。あんたはそうなのかもしれないけど、周りは違うかもしれない。神くんだって、あんたをそんな風に思ってたら好きになったりしないでしょう?」
「迷惑じゃないってこと?」
「告白された時点でそんなくっだらないこと考えなくていいってこと。それ、あんたを好きだって言ってくれてる神くんのことも侮辱してるのよ?」
「そ、そんなつもりは……っ!」
「まあ、今のはちょっと拡大解釈だけど。――別にいいんじゃない? 付き合ってることを隠したまま、神くんがいつまでもフリーだと思ってる女の子に何人もアタックさせて、結局結花と神くんが付き合ってたことなんて最初からなかったように他の女の子に神くんが取られちゃうなんて結末も、あんたにはお似合いかもね」
「ヒィ……! わ、わたし、神くんにやっぱり付き合ってること内緒にするのやめたいって言ってくる!」
「そうだね。ウサギの穴ならいつでも用意しといてあげる。ああ、衣装ダンスでもいいか」
友人は意地悪く言うと、にっこりと微笑んだ。
結花の話がもうとっくに妄想でないことに気づいているくせに、あえて異世界への入り口を用意しておくだなんて、なんて意地の悪い。
「ありがとう、ウサギさん」
「どういたしまして」
精一杯の嫌味を笑顔で受け流され、結花はがっくりとうなだれた。
その日の放課後、結花は宗一郎に内緒でこっそり体育館に来ていた。
まだ中では宗一郎が誰かと自主練習をしているようだ。
結花は宗一郎に見つからないように体育館の入り口の影に身を隠すと、そこの石段に腰掛けた。
わざわざ声を掛けたりして、宗一郎の練習の邪魔をしたくはなかった。
それに、付き合ってる事を内緒にしたいとお願いしたのは結花の方なのに、一週間も経たないうちに自分の方が耐えられなくなってしまったなんて聞いたら、いくら心の広い宗一郎でもあきれてしまうかもしれない。
そう思うと、少しだけこわかった。
オレンジ色の夕陽が空の向こうに吸い込まれて、濃い青の色が空を占める。
冷たい風が頬を撫ぜて、なんだか急に心細い気持ちになった。
体育館から漏れてくる明るい光が結花のすぐ横の石段を強く照らして、その光と影のコントラストが、まるでくっきりと世界を分ける境界線のように見えた。
光射す場所と、その陰の場所。宗一郎と、結花。
「神さーん! 自主練、パス出し付き合いますよ!」
暗い思考に沈みそうになったとき、体育館の中から明るい声が響いてきた。
こっそり中を覗くと、頭にヘアバンドを巻いた後輩と思しき少年が、宗一郎に元気良く駆け寄っていくのが見えた。
「ありがとう、ノブ。それじゃあお言葉に甘えてよろしく頼むよ」
こちらからでは宗一郎の表情は見えないが、きっと微笑んでいるんだろうことが声でわかる。
結花はその表情を思い浮かべた。
宗一郎にちゃんとした笑顔を向けてもらったのは、もしかしたらあの告白された日が最後だったかもしれない。
教室ではバレないことに必死になって、いつもこっそりメールでのやりとりだけで、そういえば付き合う前よりも宗一郎の顔をちゃんと見ていない。
なにやってんだろう。
再び入り口の陰に身を潜めて、結花は短く息を吐く。胸が一気に重くなった。
こんなの本末転倒だ。今すぐにでもこんなことはやめなくては。そうでないと、友人の言っていたように、きっとすぐに宗一郎に愛想を尽かされてしまう。
沈んだ心に気合を入れたとき、ふいにまた少年の声が耳に飛び込んできた。