CASE:神
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すまなそうに眉を下げて言う宗一郎に、結花の胸がきゅんと甘い痛みを訴えた。
気分を害してもおかしくないことを言ったのに、宗一郎は怒るどころか、結花を尊重して妥協案を示してくれた。しかも、自分は隠したくないなんて嬉しい言葉をくれて。
この人を好きになってよかった。
そう実感して結花は瞳を潤ませる。
「もちろんだよ! ありがとう、神くん」
こうして、二人の秘密の生活は始まった。
次の日。
登校すると、ふいにスカートのポケットが振動した。
結花は席に着くとそこから携帯を取り出して中を確認する。
宗一郎からだった。
一気に弾んだ心臓が周りに聞こえないかとどきどきしながら、結花はそっと携帯を押し開く。
おはよう。今日の髪型、かわいいね。似合ってる。
そこに書かれた文面に、思わず顔が赤くなる。
今日は、いつもより少しだけ時間をかけて、髪の毛をヘアピンでアレンジしてみたのだ。こういう些細な事に気づいてくれて、メールとはいえさらっとこんなことを言ってくれちゃうなんて、きっとこんな高校生全国どこを探しても見つからないに違いない。
結花は喜びを噛み締めながら、緊張に震える指で一生懸命文字を打つ。
ありがとう。神くんに、少しでも喜んでもらえたらと思って。
文章に、少しだけ勇気を込めて返信した。
携帯が沈黙する。
一時間目の授業、二時間目の授業、三時間目の授業と過ぎて昼休みになり、もしかしたら自意識過剰の面倒くさい子と思われてしまったかもしれないとメールの内容を後悔し始めた頃、再び携帯が震えた。
今度は急いで取り出して、慌てて携帯を確認する。
差出人神宗一郎と書かれた新着メールにカーソルを合わせて、ごくりと喉を鳴らしてそれを開いた。
さっきのメール、かわいすぎ。……俺のために、ありがとう。
最後の一文に、結花の表情が自然とほころぶ。
よかった。面倒くさい子とは思われずに済んだみたいだ。
ホッと胸を撫で下ろす結花の元に、友人がお弁当を抱えてやってくる。
「なあに? なんだか結花、楽しそうじゃん」
「え、ううん、そんなことないよ! 早くお弁当食べよう、もうお腹ぺっこぺこ」
鋭い友人に内心ひやひやしながら、結花はにこにこと笑顔を貼りつける。
その引き攣った頬に、友人の瞳がきらんとあやしく光った。
「……なんか隠してるでしょ」
「隠してないよ」
「うっそだ! わたしに秘密を作るとろくなことにならないぞ! さあ、正直に吐け! ゲロッと!」
「ちょっと、お昼時なのに汚いよって……わあ、やめてやめてほんとうになにも隠したりなんてしてないから!」
友人に軽くヘッドロックを決められ、結花は首に巻きついた腕をぱたぱた叩きながら抗議した。
その時、教室の奥で友人と談笑していた宗一郎と目があった。
宗一郎は悪戯っぽく口の端を持ち上げると、結花に向けて素早く片目をつぶった。そうして何事もなかったかのようにまたすぐ談笑に戻っていく。
結花はその大胆な行動に仰天して、目だけを動かしてこっそり周囲の様子を窺った。そのウインクに気づいた人が誰もいなかったとわかると、心の中だけでホッと息をつく。
いまさらながらに頬が熱い。
胸の中で恨めしげに宗一郎へ文句を言っていると、ふいに腕に巻きついた友人の腕がきつくなった。
「なぁにため息なんてついてんのよ! うぉら、吐けー!」
「ひぃー、ギブギブ!」
さらに強く首を締め上げられながら、結花はほんのちょっぴりのスリルを含んだ、けれど濃密で甘い時間を噛み締めていた。