バレンタインにおける多重観点とその相違
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もう一度呟くと、藤真は結花を優しく抱きしめた。
いつもは体の力を抜いて甘えてくる結花が、きつく体を強張らせていることに少しの寂しさを感じながら、結花の首筋に顔を寄せる。
「そんなつもりじゃなかったんだ。俺、チョコ好きだし、そんなに深く考えないで、タダでチョコたくさんもらえるラッキーくらいにしか思ってなくて。まさかそれがこんなにお前を傷つけるなんて思ってもみなかった。――ほんとうにごめん」
「……透からなんか聞いたの?」
「…………」
その問いに答えるのは悔しかったので、藤真は返事の代わりに沈黙した。
けれど結花には、これで充分伝わったみたいだった。
「わ、わたしのチョコ、いらないって言ったじゃない」
結花が少し震えているのが、抱きしめた腕から伝わってくる。
宥めるように、抱きしめる腕にほんの少し力を込めた。
「売り言葉に買い言葉だった。お前のことが嫌いになったから言ったんじゃない。そもそも、お前からのチョコが一番欲しいに決まってんだろ? でもあんまりうるせぇから、他にもたくさんもらえるしじゃあいらねえよって、思わず言っちまっただけ」
「……気持ちじゃなくて、物量の問題だと?」
「よくわかってるじゃないか。さすが俺の選んだ女」
「…………」
腕の中で、今度は結花が沈黙する。
どういった意味で受け取るべきなのか迷って眉根を寄せている表情を想像して、藤真は喉の奥でこっそり笑った。
それを感じたのか、結花が怒ったようにさらに体を強張らせる。
藤真はご機嫌をとるように、わざととびきりの猫なで声を出した。
甘えるように囁く。
「お前のこと、嫌いになったりしない。振ったりするわけないだろ。俺にはお前だけだし、お前にも俺だけだ。というか、そうじゃなきゃ許さねえ」
「……横暴」
「文句あんのか」
「文句ならいっぱいあるわよ! このキングオブチョコ好き! でも、その文句を全部飲み込んででも、それでも健司のそばにいたいよ……っ。そう思わせられるのが、またむかつく~っ!」
腕の中できぃ~っと悔しそうに声を荒げる結花に、藤真は破顔した。
こつんと優しくおでこを寄せて、掠めるようにして口づける。
「バーカ。かわいすぎんだよ。下僕体質」
「なによ、俺様」
「おお。これからも良く俺に尽くせ」
「うわむかつく」
「でも、今回は、俺が歩み寄ってやる」
「…………うん」
やっと、結花が体の力を抜いて藤真に甘えてきた。
藤真は心の中だけでそっと安堵する。
「他のやつのチョコも、お前がそんなに嫌がるならもうもらわない。だから、お前のチョコよこせ」
「………………残念だけど、それはできません」
たっぷりの沈黙を含んだ後にきっぱりと否定されて、今度は藤真が体を硬くした。
ゆっくりと体を離して、気まずそうに顔を背けている結花を、じっと高圧的に見下ろす。
「――ほう。こんだけ俺が下手に出てるのに、断るとはいい度胸だな」
冷たく言ってやると、結花がヒッと短く悲鳴をあげた。
「いや、そうじゃなくて! あげたいのはやまやまなんだけど……っ!」
「まさか、花形にあげたのか?」
あのやろう断ったと言ったくせにと、不機嫌に鼻に皺を刻むと、結花がぶんぶんと大きく首を横に振った。
「ち、違うの。透にあげようとも思ったんだけど断られちゃったし、なんかもうそうなったらチョコ持ってることがこの上なくみじめに感じちゃって、地面に叩きつけちゃったっていうか……!」
「…………」