バレンタインにおける多重観点とその相違
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深い眠りの底から意識を呼び覚ますように、遠い彼方でチャイムが響いた。
藤真は突っ伏した体勢のまま何度かまばたきすると、ゆっくり体を起こす。
藤真の豪快な眠りっぷりが気に入らなかったのか、教壇に立っていた教師とばっちり目が合った。
藤真はそれに取り合うことなく時計に視線を滑らす。
そこを睨みつけたまま、時が過ぎるのをじっと待ち続けた。
最後の授業の教師が出て行って、担任が入ってくる。いくつかの連絡事項を告げて、担任が解散の号令を出すのと同時に、藤真は勢い良く席を立つと、結花の教室へと駆け出した。
その拍子に机の横にかけていた紙袋が外れて中に入っていたチョコが床に散らばったけれど、もうその時の藤真にはそんなことなんにも気にならなかった。
「結花!」
結花の教室に着くと、藤真は結花の名前を叫びながら勢い良くドアを開けた。
結花の席は一番窓際の席だ。そこに座って、隣りの席の花形と向かい合うようにして喋っていた結花が、仰天したように藤真を見た。
こちらに背を向けるようにして結花と話していた花形も、ゆっくりとこちらを振り返る。肩で息をしている藤真と目が合うと、ふ、と薄く口元をゆるませた。
その余裕の態度が、藤真の神経を少しだけ逆撫でする。
なによりも、この教室には結花と花形の二人きりだった。
日が落ちるのも早くなった冬の季節、うっすらとしたオレンジ色の陽射しが照らす二人の姿がなんだか妙にお似合いで、藤真はおもしろくない気持ちになった。
「……なにしにきたの?」
怒っているような、警戒しているような結花の声音が、さらに藤真の不機嫌に拍車をかける。
「別に」
フンと鼻で息を吐き出しながら顔をそむけて言うと、結花が息を呑む気配がした。
まずいと藤真が取り繕う前に、花形が苦笑しながら席を立つ。
「別に、ってことはないだろ。あれだけ大声で結花の名前を叫んでおきながら」
「っるせぇな。お前がいたから調子狂ったんだよ。お前こそ結花とふたりきりでなにしてやがる」
「お前が来ると思って結花を引き止めておいたんだよ。感謝くらいされてもいいはずだが」
「……なんか、今回いいようにお前に操られてる気がしてむかつく」
心底忌々しく思って呟くと、花形がくつくつと喉の奥で笑った。
「俺は滅多にない機会で楽しかったよ」
「あぁ!?」
「冗談だ。――がんばれよ」
花形はゆっくり歩いて藤真の前まで来ると、ぽんと藤真の肩に手を置いて、教室を出て行った。
それもいちいち様になっていて、ほんとうに腹が立つ。
けれど、肩に置かれた手の温かみはそれとはまた違う感情を藤真の中に呼び起こして、藤真は気持ちを落ち着けるように息を吐いた。
ここで怒鳴り散らしたら、元の木阿弥。勝負どころを見誤らないのが、藤真健司だ。
腹を決めて結花をまっすぐ見つめる。
両足で踏ん張るように立って、必死で虚勢を張る結花の姿が、なんだか強く胸に来た。
愛しむように瞳を細めた藤真に驚いて、結花が目を瞠る。
「な、なによ……」
「別に」
さっきと同じせりふを、今度は違う温度で呟いて、足を一歩結花の元へ踏み出した。
びくりと結花の体が怯えたように震える。
藤真は構わず歩き続けると、結花の前に立った。
毅然と藤真を睨みつける結花の頬を、そっと愛でるように撫でる。
「悪かった」
自然と、言葉が口をついて出た。
結花が驚いたように目を丸くする。
「……え?」
「悪かった」
藤真は突っ伏した体勢のまま何度かまばたきすると、ゆっくり体を起こす。
藤真の豪快な眠りっぷりが気に入らなかったのか、教壇に立っていた教師とばっちり目が合った。
藤真はそれに取り合うことなく時計に視線を滑らす。
そこを睨みつけたまま、時が過ぎるのをじっと待ち続けた。
最後の授業の教師が出て行って、担任が入ってくる。いくつかの連絡事項を告げて、担任が解散の号令を出すのと同時に、藤真は勢い良く席を立つと、結花の教室へと駆け出した。
その拍子に机の横にかけていた紙袋が外れて中に入っていたチョコが床に散らばったけれど、もうその時の藤真にはそんなことなんにも気にならなかった。
「結花!」
結花の教室に着くと、藤真は結花の名前を叫びながら勢い良くドアを開けた。
結花の席は一番窓際の席だ。そこに座って、隣りの席の花形と向かい合うようにして喋っていた結花が、仰天したように藤真を見た。
こちらに背を向けるようにして結花と話していた花形も、ゆっくりとこちらを振り返る。肩で息をしている藤真と目が合うと、ふ、と薄く口元をゆるませた。
その余裕の態度が、藤真の神経を少しだけ逆撫でする。
なによりも、この教室には結花と花形の二人きりだった。
日が落ちるのも早くなった冬の季節、うっすらとしたオレンジ色の陽射しが照らす二人の姿がなんだか妙にお似合いで、藤真はおもしろくない気持ちになった。
「……なにしにきたの?」
怒っているような、警戒しているような結花の声音が、さらに藤真の不機嫌に拍車をかける。
「別に」
フンと鼻で息を吐き出しながら顔をそむけて言うと、結花が息を呑む気配がした。
まずいと藤真が取り繕う前に、花形が苦笑しながら席を立つ。
「別に、ってことはないだろ。あれだけ大声で結花の名前を叫んでおきながら」
「っるせぇな。お前がいたから調子狂ったんだよ。お前こそ結花とふたりきりでなにしてやがる」
「お前が来ると思って結花を引き止めておいたんだよ。感謝くらいされてもいいはずだが」
「……なんか、今回いいようにお前に操られてる気がしてむかつく」
心底忌々しく思って呟くと、花形がくつくつと喉の奥で笑った。
「俺は滅多にない機会で楽しかったよ」
「あぁ!?」
「冗談だ。――がんばれよ」
花形はゆっくり歩いて藤真の前まで来ると、ぽんと藤真の肩に手を置いて、教室を出て行った。
それもいちいち様になっていて、ほんとうに腹が立つ。
けれど、肩に置かれた手の温かみはそれとはまた違う感情を藤真の中に呼び起こして、藤真は気持ちを落ち着けるように息を吐いた。
ここで怒鳴り散らしたら、元の木阿弥。勝負どころを見誤らないのが、藤真健司だ。
腹を決めて結花をまっすぐ見つめる。
両足で踏ん張るように立って、必死で虚勢を張る結花の姿が、なんだか強く胸に来た。
愛しむように瞳を細めた藤真に驚いて、結花が目を瞠る。
「な、なによ……」
「別に」
さっきと同じせりふを、今度は違う温度で呟いて、足を一歩結花の元へ踏み出した。
びくりと結花の体が怯えたように震える。
藤真は構わず歩き続けると、結花の前に立った。
毅然と藤真を睨みつける結花の頬を、そっと愛でるように撫でる。
「悪かった」
自然と、言葉が口をついて出た。
結花が驚いたように目を丸くする。
「……え?」
「悪かった」