バレンタインにおける多重観点とその相違
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「心ゆくまで、楽しんでるな。バレンタインを」
「でしょ!? ひどいよねえ……。健司がチョコ好きなのは知ってるけど、バレンタインってそういうものじゃないじゃない?」
何を作るか悩む時間、材料や器具の買い出し、作っている時間、ラッピングの包装から最後にリボンをかけるまで。全ての瞬間に、女の子は想いを託す。
どうかこの気持ちがあの人に届きますように。
そんな祈りにも似た願いを込めて、彼女たちはチョコを用意する。
けれど、藤真はそのことになにひとつ気がついていない。
チョコレートがただで手に入るという事実に目がくらみまくっていて、そこに込められた意味になど気づこうともしていない。
グリコのおまけ菓子で例えたら、おまけが気持ちで、お菓子がチョコだ。主役はおまけの気持ちのほうだ。
普段、他のことには察しがよすぎるくらいの藤真なのに、どうしてチョコになるとそのことに気づけなくなるのか、とても不思議だった。
というか、それほどまでにチョコが好きなんだろうけど、なんだかそれは非常に情けなくて認めたくない。
チョコに盲目的すぎる藤真も、チョコにすら敵わない自分も。
「健司が、チョコが大好きなんだってのは知ってる。だけど、健司がただのチョコとして見てるそのひとつひとつには、全部女の子たちのかけがえのない想いが詰まってるんだよ。それをただのモノとして言い切っちゃう健司も健司だと思うし、それを受け取るということがどういうことなのか、きちんと理解していない健司も健司だと思うの」
「ああ」
「わたしだって、一応健司の彼女ってことで認識されてはいるみたいだけど、でもそれでも毎日、いつだって蹴落としてやるっていう、女の子たちの怨念のようなものを感じながら生きてるし」
「それは……怖ろしいな」
「でしょ? 女の子の争いは水面下ではめっちゃくちゃ激しいんだよ。男の子に悟られないようにやるところがまた姑息でいやらしいよね。――まあ、しょうがないんだけど……」
藤真健司は、それだけこの学校で人気者だ。
強豪の翔陽高校バスケ部で、ただひとり一年の頃からレギュラーで活躍し、さらに三年の現在では、惜しくも夏のインターハイ出場とはならなかったものの、それでも立派に選手兼監督の重責をこなしている。そのご尊顔がアイドル顔負けのイケメンともくれば、多少性格に難ありだったとしても、世の女の子たちが放っておかないことなど火を見るより明らかだ。
一応名誉のために言っておくが、結花は藤真の顔だけに惚れたわけではない。もちろん顔にも強く惹かれたというか、むしろ最初はそれがきっかけだったことは認めるけれど、でも断じてそれだけじゃない。
藤真の、爽やかな外見には似合わない燃えるような闘志だとか、傲岸不遜な態度の裏に隠された繊細な気遣いだとか、そういうところに惚れたのだ。
時々今日のように、一部のものに関して盲目的なところがあるのは困りものだけど。
「だからね、これまでは付き合ってるわけでもなかったから健司がいくらバレンタインのチョコ受け取ってても構わなかったけど、はじめて彼女がいる状態で迎える今年は、誰からのチョコも受け取らないで欲しかった。そうすることで、もしかしたら女の子たちも健司のこと諦めてくれるんじゃないかって思ったし、それになにより……」
卒業をする前に、自分が藤真の彼女だという確信が欲しかったのだといえば、藤真は笑うだろうか。
これまで部活最優先で、この一年、ちっとも彼氏彼女らしいことをしてこれなかった。それが不満だったわけじゃない。結花も部活が楽しかったし、バスケをしている藤真を見ているのは幸せだった。だから不満があるわけじゃない。
でもだけど、不安にならなかったわけじゃない。ちっとも縮まらない二人の距離だとか、自分よりもバスケのことにばかりに目を輝かせる藤真に、ほんの少しだけでもいいから自分を見て欲しいと願わなかったわけじゃない。
「…………」
不自然に言葉を止めた結花に、花形が参考書から顔をあげて結花を見た。
結花は、泣きそうに引きつる頬を無理矢理引っ張って、なんとか笑顔を浮かべる。
「わたしのチョコだけ、いらないって言われちゃった」
自分の欲が生んだ結果がこれなのだと、結花にはわかっていた。
藤真が自分を好きじゃなかったとは思わない。
だけど、彼の中のほんとうに大切なものの中には、結花は入れなかった。
きっと、ただそれだけのことだ。
きちんと笑顔を浮かべているはずなのに、どうしてか視界が揺らいだ。
喉がなにか熱いものでふさがれて、息が出来ない。
ぱたぱたと、膝の上に置いた手の甲に、冷たいものがとめどなく降り注いだ。
「……今度は、誰も見てない。思う存分、泣いておけ」
「でしょ!? ひどいよねえ……。健司がチョコ好きなのは知ってるけど、バレンタインってそういうものじゃないじゃない?」
何を作るか悩む時間、材料や器具の買い出し、作っている時間、ラッピングの包装から最後にリボンをかけるまで。全ての瞬間に、女の子は想いを託す。
どうかこの気持ちがあの人に届きますように。
そんな祈りにも似た願いを込めて、彼女たちはチョコを用意する。
けれど、藤真はそのことになにひとつ気がついていない。
チョコレートがただで手に入るという事実に目がくらみまくっていて、そこに込められた意味になど気づこうともしていない。
グリコのおまけ菓子で例えたら、おまけが気持ちで、お菓子がチョコだ。主役はおまけの気持ちのほうだ。
普段、他のことには察しがよすぎるくらいの藤真なのに、どうしてチョコになるとそのことに気づけなくなるのか、とても不思議だった。
というか、それほどまでにチョコが好きなんだろうけど、なんだかそれは非常に情けなくて認めたくない。
チョコに盲目的すぎる藤真も、チョコにすら敵わない自分も。
「健司が、チョコが大好きなんだってのは知ってる。だけど、健司がただのチョコとして見てるそのひとつひとつには、全部女の子たちのかけがえのない想いが詰まってるんだよ。それをただのモノとして言い切っちゃう健司も健司だと思うし、それを受け取るということがどういうことなのか、きちんと理解していない健司も健司だと思うの」
「ああ」
「わたしだって、一応健司の彼女ってことで認識されてはいるみたいだけど、でもそれでも毎日、いつだって蹴落としてやるっていう、女の子たちの怨念のようなものを感じながら生きてるし」
「それは……怖ろしいな」
「でしょ? 女の子の争いは水面下ではめっちゃくちゃ激しいんだよ。男の子に悟られないようにやるところがまた姑息でいやらしいよね。――まあ、しょうがないんだけど……」
藤真健司は、それだけこの学校で人気者だ。
強豪の翔陽高校バスケ部で、ただひとり一年の頃からレギュラーで活躍し、さらに三年の現在では、惜しくも夏のインターハイ出場とはならなかったものの、それでも立派に選手兼監督の重責をこなしている。そのご尊顔がアイドル顔負けのイケメンともくれば、多少性格に難ありだったとしても、世の女の子たちが放っておかないことなど火を見るより明らかだ。
一応名誉のために言っておくが、結花は藤真の顔だけに惚れたわけではない。もちろん顔にも強く惹かれたというか、むしろ最初はそれがきっかけだったことは認めるけれど、でも断じてそれだけじゃない。
藤真の、爽やかな外見には似合わない燃えるような闘志だとか、傲岸不遜な態度の裏に隠された繊細な気遣いだとか、そういうところに惚れたのだ。
時々今日のように、一部のものに関して盲目的なところがあるのは困りものだけど。
「だからね、これまでは付き合ってるわけでもなかったから健司がいくらバレンタインのチョコ受け取ってても構わなかったけど、はじめて彼女がいる状態で迎える今年は、誰からのチョコも受け取らないで欲しかった。そうすることで、もしかしたら女の子たちも健司のこと諦めてくれるんじゃないかって思ったし、それになにより……」
卒業をする前に、自分が藤真の彼女だという確信が欲しかったのだといえば、藤真は笑うだろうか。
これまで部活最優先で、この一年、ちっとも彼氏彼女らしいことをしてこれなかった。それが不満だったわけじゃない。結花も部活が楽しかったし、バスケをしている藤真を見ているのは幸せだった。だから不満があるわけじゃない。
でもだけど、不安にならなかったわけじゃない。ちっとも縮まらない二人の距離だとか、自分よりもバスケのことにばかりに目を輝かせる藤真に、ほんの少しだけでもいいから自分を見て欲しいと願わなかったわけじゃない。
「…………」
不自然に言葉を止めた結花に、花形が参考書から顔をあげて結花を見た。
結花は、泣きそうに引きつる頬を無理矢理引っ張って、なんとか笑顔を浮かべる。
「わたしのチョコだけ、いらないって言われちゃった」
自分の欲が生んだ結果がこれなのだと、結花にはわかっていた。
藤真が自分を好きじゃなかったとは思わない。
だけど、彼の中のほんとうに大切なものの中には、結花は入れなかった。
きっと、ただそれだけのことだ。
きちんと笑顔を浮かべているはずなのに、どうしてか視界が揺らいだ。
喉がなにか熱いものでふさがれて、息が出来ない。
ぱたぱたと、膝の上に置いた手の甲に、冷たいものがとめどなく降り注いだ。
「……今度は、誰も見てない。思う存分、泣いておけ」