バレンタインにおける多重観点とその相違
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「だから、あげたくてもあげられないの。叩きつけた拍子に中身も出ちゃったから汚れちゃったし、もちろん入れ物だってもうボロボロだし、とにかく渡せない」
「……手作りか?」
ふと、思うことがあって訊ねると、結花がこっくりと頷いた。
「……一応」
「いいから出せ」
「え!? ちょ、健司、さっきの話聞いてた?」
「いいから」
「むりむりむり! だってほんとうに目も当てられない状態なんだよ!?」
「何度も言わすな。いいから出せ」
「…………」
有無を言わさずピシャリと言うと、結花がしぶしぶと自分のカバンの中から四角いかたまりを取り出した。
おずおずと藤真の前に差し出されたそれは、確かに見るも無惨な状態だった。
所々破れて薄汚れたピンクの包装紙に、ほどけてぐちゃぐちゃになったこげ茶のリボン。ひしゃげた箱から顔を覗かせている、土のついた丸い形のチョコ。
今なら、花形の言っていたことがわかる。
箱を買うにも、作るにも、ラッピングするのも、きっと一生懸命やってくれたんだろう。そのことが、一目見るだけで伝わってきた。
苦い後悔が胸を掠めて、同時に強い愛しさが藤真の胸を激しく揺り動かす。
「これ、なに」
「元トリュフ。今は……なんだろう……」
遠い目をして結花が呟いた。
藤真は小さく笑うと、結花が気をそらしているうちにそのひとつをひょいとつまんで口へ放り投げた。
「あっ!?」
気づいた結花が鋭く叫ぶ。
「まずっ」
口に入れた瞬間にほどけるようにとけて広がった甘い香り。思わず表情がほころびそうになるのをグッとこらえて、胸に浮かんだことと反対のことを叫んでやると、結花が神妙な顔で黙り込んだ。
「…………」
「お前、ホント料理の腕いまいちだよな」
「…………ごめん」
数拍の後、結花ががっくりとうなだれて謝った。
藤真は笑顔をこぼしてその頭を撫でてやる。
「バーカ。ウソに決まってんだろ。――世界一うまいよ。ありがとう」
「……っ。け、健司……っ」
顔を真っ赤に染めて、結花が藤真に抱きついた。
藤真もそれをしっかりと抱きとめる。
少しだけ口の中が土でざらついたけど、でもこれを食べたことを後悔はしていない。
自分は、もっとつらい思いを結花にさせたはずだ。
それがチョコへの執念というのがよくよく考えなくともはてしなく申し訳なくて、これくらいむしろなんでもなかった。
「結花。好きだぜ。悲しい思いさせて、悪かった」
「……うんっ」
藤真はそれだけ言うと、腕の中の結花の震えが止まるまで、ずっとその背を撫で続けてやった。
その日の帰り道。
月明かりに照らされて仲良く並ぶ影法師が二つ。
「でもあれだな。お前、これから大変だな」
ぽつりと藤真がそんなことを呟いた。
不思議に思った結花が、隣りの藤真を振り仰ぐ。
「え、なにが?」
にこにこと嬉しそうに微笑む結花の顔に、藤真の心が穏やかになっていく。けれど、脈ばかりはとくとくと速まって、なんともアンバランスでくすぐったかった。
悪戯心がむくむくと湧いてきて、藤真はわざとからかうような表情を浮かべる。
「バレンタイン。これからは、お前が俺が今までもらった分と同じチョコ、ひとりでくれるんだろ?」
「え!? ちょっと待って、そういう話!?」
「当たり前だろ。バレンタイン、俺が一年で一番楽しみにしてた行事だったんだから」
「えぇ~……」
結花が、魂の抜けたような顔で間抜けな声を出す。
その表情がなんともかわいくて、愛しくてたまらない。
もっともっと、いじめてやりたくなる。
「あ! じゃあ、チロルチョコでも……っ!」
「いいわけねぇだろ、バーカ」
すげなく言うと、結花が小さく悲鳴をあげた。
こちらの想像通りの反応すぎて、ほんとうになんてかわいらしい生き物なんだろう。
胸の甘いむずがゆさに堪えきれずに声をだして笑うと、藤真はやにわに結花を抱きしめた。
「わっ、ちょ、健司!?」
驚いて目を白黒させている結花の唇にそっとキスをして、藤真はひとり満足げに微笑む。
これからはたくさんのチョコなんてもらえなくても、結花ひとりので充分だ。
「……手作りか?」
ふと、思うことがあって訊ねると、結花がこっくりと頷いた。
「……一応」
「いいから出せ」
「え!? ちょ、健司、さっきの話聞いてた?」
「いいから」
「むりむりむり! だってほんとうに目も当てられない状態なんだよ!?」
「何度も言わすな。いいから出せ」
「…………」
有無を言わさずピシャリと言うと、結花がしぶしぶと自分のカバンの中から四角いかたまりを取り出した。
おずおずと藤真の前に差し出されたそれは、確かに見るも無惨な状態だった。
所々破れて薄汚れたピンクの包装紙に、ほどけてぐちゃぐちゃになったこげ茶のリボン。ひしゃげた箱から顔を覗かせている、土のついた丸い形のチョコ。
今なら、花形の言っていたことがわかる。
箱を買うにも、作るにも、ラッピングするのも、きっと一生懸命やってくれたんだろう。そのことが、一目見るだけで伝わってきた。
苦い後悔が胸を掠めて、同時に強い愛しさが藤真の胸を激しく揺り動かす。
「これ、なに」
「元トリュフ。今は……なんだろう……」
遠い目をして結花が呟いた。
藤真は小さく笑うと、結花が気をそらしているうちにそのひとつをひょいとつまんで口へ放り投げた。
「あっ!?」
気づいた結花が鋭く叫ぶ。
「まずっ」
口に入れた瞬間にほどけるようにとけて広がった甘い香り。思わず表情がほころびそうになるのをグッとこらえて、胸に浮かんだことと反対のことを叫んでやると、結花が神妙な顔で黙り込んだ。
「…………」
「お前、ホント料理の腕いまいちだよな」
「…………ごめん」
数拍の後、結花ががっくりとうなだれて謝った。
藤真は笑顔をこぼしてその頭を撫でてやる。
「バーカ。ウソに決まってんだろ。――世界一うまいよ。ありがとう」
「……っ。け、健司……っ」
顔を真っ赤に染めて、結花が藤真に抱きついた。
藤真もそれをしっかりと抱きとめる。
少しだけ口の中が土でざらついたけど、でもこれを食べたことを後悔はしていない。
自分は、もっとつらい思いを結花にさせたはずだ。
それがチョコへの執念というのがよくよく考えなくともはてしなく申し訳なくて、これくらいむしろなんでもなかった。
「結花。好きだぜ。悲しい思いさせて、悪かった」
「……うんっ」
藤真はそれだけ言うと、腕の中の結花の震えが止まるまで、ずっとその背を撫で続けてやった。
その日の帰り道。
月明かりに照らされて仲良く並ぶ影法師が二つ。
「でもあれだな。お前、これから大変だな」
ぽつりと藤真がそんなことを呟いた。
不思議に思った結花が、隣りの藤真を振り仰ぐ。
「え、なにが?」
にこにこと嬉しそうに微笑む結花の顔に、藤真の心が穏やかになっていく。けれど、脈ばかりはとくとくと速まって、なんともアンバランスでくすぐったかった。
悪戯心がむくむくと湧いてきて、藤真はわざとからかうような表情を浮かべる。
「バレンタイン。これからは、お前が俺が今までもらった分と同じチョコ、ひとりでくれるんだろ?」
「え!? ちょっと待って、そういう話!?」
「当たり前だろ。バレンタイン、俺が一年で一番楽しみにしてた行事だったんだから」
「えぇ~……」
結花が、魂の抜けたような顔で間抜けな声を出す。
その表情がなんともかわいくて、愛しくてたまらない。
もっともっと、いじめてやりたくなる。
「あ! じゃあ、チロルチョコでも……っ!」
「いいわけねぇだろ、バーカ」
すげなく言うと、結花が小さく悲鳴をあげた。
こちらの想像通りの反応すぎて、ほんとうになんてかわいらしい生き物なんだろう。
胸の甘いむずがゆさに堪えきれずに声をだして笑うと、藤真はやにわに結花を抱きしめた。
「わっ、ちょ、健司!?」
驚いて目を白黒させている結花の唇にそっとキスをして、藤真はひとり満足げに微笑む。
これからはたくさんのチョコなんてもらえなくても、結花ひとりので充分だ。
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