バレンタインにおける多重観点とその相違
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今年もあのイベントがやってきた。
二月十四日。チョコ盛りだくさんの、バレンタインデー。
「健司。お願いがあるの」
藤真は選手たちの練習を眺めながら、ちらりと真剣な表情でこちらを見る柏木結花を一瞥した。
その卓越したバスケセンスでいち早く大学の推薦合格を手にした藤真は、卒業までの間、バスケ部の監督業を続けていた。
近々やっとのことで学校側が見つけた新しい監督が来るらしいが、それまでの間監督不在というわけにはいかない。
藤真はすぐにまた目を選手たちに戻して、結花に短く問いかける。
「なんだ?」
「今日なんだけど、絶対にわたし以外の子からチョコもらわないで」
「はぁ、なんだよいきなり」
結花は、高校三年になってから付き合い始めた彼女だ。
結花はバスケ部のマネージャーで、一年の時から仲は良かったけれど、選手兼監督に藤真が抜擢された時、支えになりたいと告白されてオーケーしたのがはじまりだった。
藤真と同じくこちらは勉学で大学の推薦合格を一足早く決めていて、そのおかげなのかなんなのか、結花も藤真に付き合って今でもバスケ部を補佐してくれている。
正直言って、公私ともに気心の知れている結花がそばにいてくれるのはありがたい。
現役時代だって、結花がいなければ選手兼監督を続けることは厳しかっただろう。彼女という以前に盟友とも呼ぶべき結花に、口に出さなくとも藤真は常に感謝していた。
だが、それとこれとは話が別だ。
「珍しく朝練手伝ってくれてると思ったらそんなこと言いに来たのか?」
「そんなことってなに。重要なことなんです」
「重要なことねえ……。別にチョコくらいどうってことないだろ。減るもんじゃねえんだし」
「あ。その考え方はとっても問題だと思う」
ぷくっと頬を小さく膨らませて、結花が言う。
藤真はその表情を横目で盗み見て、唇だけで笑った。
こちらが見てないと思ってそういう表情をこっそりする結花の癖は、とても愛しい。藤真のお気に入りだ。
「問題か問題じゃないかはともかく、今は練習の邪魔だ。そんな話をしに来たならさっさと帰れ。今すぐにだ」
「……言うと思った。ちゃんとお手伝いだってしますよーっだ」
拗ねたようにこちらに舌を突き出して、結花がぱたぱたと休憩中の部員たちのもとへ駆けていく。
笑顔でドリンクを差し出す結花を遠くからじっと見つめながら、藤真はさっき結花に言われたことを、心の中で反芻していた。
(結花以外からチョコをもらうな……だと? 冗談じゃない。俺は、毎年この日が楽しみなんだ)
バレンタインデー。それは、ただでチョコがもらえる日。
バイトもできない金欠高校生にとっては、とても貴重な一日だ。
普段女の子にもてはやされることにそう特別な興味を抱かない藤真も、この日ばかりは自分の外見にひどく感謝していた。
なぜなら、チョコレートが大好きだから。
神様。チョコに困らない美形にしてくれてありがとう。
(悪いな、結花。俺はもらうぞ、チョコを。心ゆくまでな……!)
藤真は心の中だけでガッツポーズを決めると、たくさんのチョコに埋もれる自分を想像して、ひとり表情をゆるませた。
昼休みになると、もう藤真の机もロッカーも女の子のくれたチョコで溢れかえっていた。
結花と別れ朝練から教室へ戻る時、授業の間にトイレへ立つとき。どのタイミングでも、どこからともなく大事そうにチョコを抱えた女子生徒が現れ、藤真にチョコを渡しては消えていく。
まさに藤真歩けばチョコに当たる。入れ食いとはこのことだ。
藤真は山積みになったチョコを見て満足げに微笑むと、カバンの中から大きな紙袋を取り出した。
二月十四日。チョコ盛りだくさんの、バレンタインデー。
「健司。お願いがあるの」
藤真は選手たちの練習を眺めながら、ちらりと真剣な表情でこちらを見る柏木結花を一瞥した。
その卓越したバスケセンスでいち早く大学の推薦合格を手にした藤真は、卒業までの間、バスケ部の監督業を続けていた。
近々やっとのことで学校側が見つけた新しい監督が来るらしいが、それまでの間監督不在というわけにはいかない。
藤真はすぐにまた目を選手たちに戻して、結花に短く問いかける。
「なんだ?」
「今日なんだけど、絶対にわたし以外の子からチョコもらわないで」
「はぁ、なんだよいきなり」
結花は、高校三年になってから付き合い始めた彼女だ。
結花はバスケ部のマネージャーで、一年の時から仲は良かったけれど、選手兼監督に藤真が抜擢された時、支えになりたいと告白されてオーケーしたのがはじまりだった。
藤真と同じくこちらは勉学で大学の推薦合格を一足早く決めていて、そのおかげなのかなんなのか、結花も藤真に付き合って今でもバスケ部を補佐してくれている。
正直言って、公私ともに気心の知れている結花がそばにいてくれるのはありがたい。
現役時代だって、結花がいなければ選手兼監督を続けることは厳しかっただろう。彼女という以前に盟友とも呼ぶべき結花に、口に出さなくとも藤真は常に感謝していた。
だが、それとこれとは話が別だ。
「珍しく朝練手伝ってくれてると思ったらそんなこと言いに来たのか?」
「そんなことってなに。重要なことなんです」
「重要なことねえ……。別にチョコくらいどうってことないだろ。減るもんじゃねえんだし」
「あ。その考え方はとっても問題だと思う」
ぷくっと頬を小さく膨らませて、結花が言う。
藤真はその表情を横目で盗み見て、唇だけで笑った。
こちらが見てないと思ってそういう表情をこっそりする結花の癖は、とても愛しい。藤真のお気に入りだ。
「問題か問題じゃないかはともかく、今は練習の邪魔だ。そんな話をしに来たならさっさと帰れ。今すぐにだ」
「……言うと思った。ちゃんとお手伝いだってしますよーっだ」
拗ねたようにこちらに舌を突き出して、結花がぱたぱたと休憩中の部員たちのもとへ駆けていく。
笑顔でドリンクを差し出す結花を遠くからじっと見つめながら、藤真はさっき結花に言われたことを、心の中で反芻していた。
(結花以外からチョコをもらうな……だと? 冗談じゃない。俺は、毎年この日が楽しみなんだ)
バレンタインデー。それは、ただでチョコがもらえる日。
バイトもできない金欠高校生にとっては、とても貴重な一日だ。
普段女の子にもてはやされることにそう特別な興味を抱かない藤真も、この日ばかりは自分の外見にひどく感謝していた。
なぜなら、チョコレートが大好きだから。
神様。チョコに困らない美形にしてくれてありがとう。
(悪いな、結花。俺はもらうぞ、チョコを。心ゆくまでな……!)
藤真は心の中だけでガッツポーズを決めると、たくさんのチョコに埋もれる自分を想像して、ひとり表情をゆるませた。
昼休みになると、もう藤真の机もロッカーも女の子のくれたチョコで溢れかえっていた。
結花と別れ朝練から教室へ戻る時、授業の間にトイレへ立つとき。どのタイミングでも、どこからともなく大事そうにチョコを抱えた女子生徒が現れ、藤真にチョコを渡しては消えていく。
まさに藤真歩けばチョコに当たる。入れ食いとはこのことだ。
藤真は山積みになったチョコを見て満足げに微笑むと、カバンの中から大きな紙袋を取り出した。
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