笑顔の奥
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ひやりと冷たい手で心臓をわしづかみにされたような気がした。
いやだ。そんなこと。
近づいて、もっと結花を知って。
そうして。
(そうしてわたしのことを嫌いになって、わたしから離れてしまうに決まってる!)
からだを激しい恐怖が支配して、気づいたときには大きな声で叫んでいた。
「もうお願いだからほうっておいて!」
「どうして?」
宗一郎が怖いくらい真剣な眼差しで結花を見つめてくる。
その視線に耐えられなくて、結花は顔を背けた。
結花の腕を掴む宗一郎の手に、ぐっと力がこもる。
「俺は柏木さんのそばにいたい。困ってるなら助けたいし、力になりたいんだ」
「やめてよ!」
ぴしゃりと言い放つ。
「神くんがそばにいると苦しいの。もういやなの! どうせ神くんだって、そうやっていい人ぶって、優越感に浸ってるだけでしょう? わたしみたいな鈍くさい子には、自分みたいなしっかり者がついてなくちゃダメだって、そうやってわたしを蔑んで自尊心を満たしてるんだ!」
言ってしまってから、結花はハッと言葉を止めた。言い過ぎたと思ってももう遅い。
一度放った言葉が戻ってくることは二度とない。
宗一郎の顔が悲しそうにゆがめられていく。
「……そっか。そんな風に……見えてたんだ……。よく、わかった」
力なく呟かれたその言葉に、結花の胸がずきんと痛んだ。
宗一郎が淋しそうに眉を下げて結花を見つめてくる。
「ただ、これだけは覚えておいて。俺は柏木さんのこと一度もそんな風に思ったことないよ。いつも君の笑顔がみたくて、ただそれだけだったんだ。はじめて君が俺に笑ってくれた時から、その笑顔を守りたいって、俺はずっとそう思ってた」
「神……くん……」
自分を嘲るようにそう呟いて、宗一郎が力なく笑う。
その笑顔がとても悲しくて、結花の胸がぎゅっと締め付けられた。
違う。ほんとうはそうじゃない。すぐに否定したいのに、言葉がなにも出てこなかった。
(どうして……!?)
かわりに涙だけが次から次へとと溢れていく。
こんな時に泣いたってどうしようもないのに。なんにも伝わらないのに。
涙でぼやけた視界の先で、宗一郎が淋しそうに瞳を伏せる。
結花の腕を掴んでいた宗一郎の手がそこを離れ、ゆっくりと結花の頬に移動した。
震える指先で、優しく涙を拭っていく。
「こんな顔をさせたいわけじゃなかったんだ……。今までごめんね」
後悔さえも滲むような切ない宗一郎の声音が、強く結花の胸を揺さぶった。
「ちが……うの」
「え?」
「ちがう! ちがうの、神くん! ごめんなさい……!」
離れていこうとした宗一郎のからだを掴んで、結花は顔を伏せた。
ぼたぼたと零れた涙が、教室の床に大きな黒い染みを作っていく。
「悪いのはわたし! 自分に自信を持てないわたしなの! 神くんが気にかけてくれたり、話しかけてくれたり、ほんとうはわたし、そのたびにすごくすごく嬉しかった! でも、いつのまにか神くんのこと好きになって、そうしたら、どんどんどんどん、こわく……なって……!」
もしもこれがただの同情だったら。
ただ単に、クラスメイトが困っているのをほうっておけないだけだったら。
「そう、思うと、神くんが向けてくれる笑顔が、だんだんわからなくなって、どんどん疑心暗鬼になっていって、ほんとうは嫌われてたら、どうしようとか……そんなこと、ばっかり……っ! どんどん話す機会が増えるうちに、こんな暗いことばかり考えてるのがわかったら嫌われちゃうって思って、だからそうなる前に自分から距離を置こうと思って……っ」