君の速度で
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「なんか……よくわかったわ……。ありがと……。……呼び出してごめんね」
「え? いえ……。あ、あの、また何かお力になれることがありましたら、どうぞ……」
「うん。…………ありがと」
ぐったりとした様子でそれだけ言い残して、先輩たちはよろよろとその場を去っていった。
残された結花も、その背中を見送りながらひとり困惑の表情を浮かべる。
(えっと……。一応誤解も解けて、万事オッケーってこと……だよね……?)
なんともいえない不思議な時間にまだ頭の半分以上をもっていかれつつ、結花も残りのお弁当を食べようと急ぎ足で教室に向かった。
ところ変わって二年の教室。
仙道は食べ終えたお弁当をしまうと、ふうと頬杖をついた。
時間割表に目を向ける。なんと次の授業は世界史だった。
(うげえ)
これは確実に寝てしまう。
だいたいが馴染みのないカタカナのつなぎばっかりで、どうしても言葉が体の中に入ってこないのだ。
じゃあ日本史は得意なのかと言われればそれもそれで話が違うけれど。
(だって、あれはあれで似たような名前ばっかりじゃん?)
世界史と同じく日本史も近現代の範囲を履修しているので、決してそんなことはないはずなのだが、ぼんやり蛍光灯を眺めながら仙道はそんなことを思う。
名字が同じとかそういうことではなく、覚える気のない名前は、仙道にとってどうやらすべて似たような記号として処理されるらしかった。
幸い席は後ろのほうだ。次の授業は遠慮なく寝てしまおう。
そう考えた時。
「ちょっと仙道くん!」
突然、目の前に数人の女の子が現れた。
既に落ちかけていたまぶたを持ち上げて、仙道はびくっと背筋を伸ばす。
「え!? な、なに!?」
自分の席で次の授業の準備をしていた越野も、この騒ぎに気づいて慌てたように仙道のそばにやってきた。
お前何したんだよと耳打ちしてくる越野に、目線は女の子たちにやったままで仙道はふるふると首を横に振る。まるで心当たりがない。
と、仙道と目があった一番気の強そうな女の子が、勢い良く手の平を仙道の机に振りおろした。
バンと心臓が跳ねるくらい大きな音が教室中に響く。
「なに、じゃないわよ! あの一年生のことよ!」
ハッと目を瞠った。
あの一年生。きっと結花のことだ。
仙道の胸に熱い怒りがひらめく。
「結花ちゃんに何かしたの?」
険を帯びた眼差しできつく睨みつける仙道の様子に怯むことなく、その女の子が語調を荒げる。
「しようとしたわよ! 仙道くんに好かれてるからっていい気になって、彼の気持ちもてあそんでんじゃないわよって文句のひとつやふたつ言ってやろうと思ってたわよ! それは謝るわよ! でもなによ……っ! あの子ったらまったく仙道くんの気持ちに気づいてないじゃないのよ!! それどころかきっぱり友情って言い切っててわたしたち全員びっくりして放心しちゃったでしょうなにやってんのよ仙道くん、しっかりしなさいよぉおおおおおお!」
「え。えぇえええええー!!」
(そっちぃいいいいい!?)
まくし立てるように言われたその言葉に、仙道は絶句した。
この方向は全く予想していなかった。否、いったい誰に予想できただろうか。