呑気にそんなことを考えていた結花は咄嗟に反応できずに、びくっとその場で足を止めた。
目の前に対峙する先輩たちの鋭い表情を見て、結花は現実に立ち返る。
取り巻きのひとりが、すごい剣幕で口を開いた。

「ちょっと！　あなた仙道くんとどういう関係よ！　何様のつもりか知らないけど、仙道くんになれなれしくしないでよね!!」

そうよそうよと、他の先輩たちからも口々に罵声が飛んでくる。
結花はそれをどこか他人事のように受け止めながら、へらっと笑った。
もうどうしていいかわからず、それ以外の表情が思いつかなかった。

「え、と。仙道先輩とは一応お友達だと思っています。ので、お友達として仲良くさせてもらってます」

結花の中の真実を述べて、なにか問題でもあるでしょうかといわんばかりに、にこっと重ねて笑う。
また別のひとりが血相を変えて叫んだ。

「はあ!?　友達!?　なによ、あんた！　仙道くんの気持ち知っててもてあそんでんの!?」
「え？」

その言葉に、結花はきょとんと目を白黒させた。
気持ち？　もてあそぶ？　なんの話だろう。

「え、と……。ごめんなさい先輩。意味がよくわかりません」

本気で戸惑う結花の表情に、リーダー格の先輩が訝しげに眉を寄せた。結花の心のうちを探るような目つきで、用心深く言う。

「だから、気づいてるのよね？」
「なににです？」
「……だから。仙道くんの気持ち」
「えと……。友達ですよね？」

同じ言葉を繰り返すと、取り巻きのひとりが痺れを切らしたように叫んだ。

「だから、仙道くんがあんたのこと好きってことよ！　気づいてて曖昧な態度とって、仙道くんのこともてあそんでんでしょ!?」
「――へ!?」

今度こそ結花は素っ頓狂な声をあげた。
それにつられたように、先輩たちも間抜けな声をあげる。

「――え？」
「え？」
「…………」
「…………」

しばらく両者の間に奇妙な沈黙が流れた。
いち早くリーダー格の先輩がハッと我に返って、苦い顔でこめかみを押さえながら、おそるおそる口を開く。

「えっと……。一応、もう一度聞くけれど……。だから、気づいてるわよね？　好きなのを。仙道くんが。あなたを？」

先輩の日本語がめちゃくちゃだ。きっとひどく動揺しているに違いない。
結花も負けないくらい混乱しながら、必死で自分の気持ちを言う。

「えっと！　ですから友達だと思ってると思いますよ！　仙道先輩もわたしのことを！　――それに、わたし、恋とかってまだよくわかんないですし」

ぽつりと、最後の言葉を呟いた。

「……………………え？」

それを聞いた先輩たちが目に見えて脱力する。

「……あ、ああ。そう……」

やっとという感じでそれだけ言うと、完全に疲れ切った表情で結花を見た。
その顔が大きく引き攣っている。