君の速度で
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結花は教室に入ると、まっすぐに自分の席を目指した。
「おはよう」
時折すれ違うクラスメイトに挨拶を交わしながら席に着くと、カバンの中身を机にしまう。
結花の席は、廊下側の一番前の席だ。
時計を確認する。
朝のHRまであと五分。そろそろだ。
「おはよう、結花ちゃん」
思ったところで、予想していた人物が教室の前方入り口からひょっこりと顔を出した。
結花の一学年上の先輩、仙道彰だ。
「おはようございます、仙道先輩」
にっこり微笑む仙道に結花も笑顔を返すと、仙道が満足げに口の端を持ち上げる。
「うん。やっぱり結花ちゃんの笑顔は良いね。今日も一日元気に過ごせそうだ」
「あはは、わたしも仙道先輩に朝のご挨拶できて嬉しいです」
心からそう思って口にすると、仙道が優しげに瞳を細めて、それじゃあと言ってその場を去っていった。
それを見計らったかのようなタイミングで、友達の祥子が結花のそばに来る。
「今日も来たんだ、仙道先輩」
「うん」
「いつからだっけ? 仙道先輩が毎朝教室に寄っていくようになったの」
「えーと、いつからだったっけなー?」
祥子の言葉に結花は天井を見上げて考える。
仙道と知り合ったのが新入生向けの部活紹介の時で、それからずっとだから……。
「一ヶ月くらい?」
「そんなに! 愛されてるねえ、結花」
祥子が驚いたように目を丸くして、感心したように言った。
「愛されてる?」
今度は結花が目を丸くする。
「何言ってるの、祥子。そんなわけないじゃん。仙道先輩はただわたしのこと妹みたいに思ってかわいがってくれてるだけだよ」
「……あんたそれ本気で言ってるの? 仙道先輩だよ! 相手はあの仙道先輩!」
祥子が力説する。
「入学してからいろいろ耳にしたけど、あの人去年結構色んな人と遊んでたみたいじゃない。それが、今年になったらぱったりそういうのなくなったって話よ! あんたに夢中だからに決まってんでしょう!?」
「えー。そんなことないよ。まあ、祥子がそう言う気持ちもわからなくはないけど」
そうなのだ。結花も最近になってようやく知ったけれど、仙道彰は陵南高校いちの有名人だった。天才的なバスケセンスと、甘いマスク。そしてなにより、その浮名。泣かせた女は数知れずという話だ。
けれど、それとこれとは関係のない話だと結花は思う。
その証拠に、結花は一度として仙道に言い寄られたことなどない。ただ毎朝教室に寄ってくれて、廊下ですれ違ったり顔をあわせたりしたら少しお話をする程度の間柄だ。それ以上でもそれ以下でもないし、だから仙道が自分を好きだと言われてもいまいちピンと来なかった。
(それに、わたし恋なんてしたことないし)
初恋もまだの結花に、仙道の行動こそが結花に好意を寄せている証拠だと言われても、ふうんという感想程度で、しっくりこない。恋愛とはもっと劇的で激しいものじゃないのだろうか。少なくとも、結花がこれまで読んできた物語の中ではそうだった。とても今の自分の状態とは似ても似つかない。
「でもさ。仙道先輩、もう一ヶ月以上も結花のところに通ってるんだよ? 絶対好かれてるに決まってるって」
「でも友達と思ってくれてるんだとしたら、それこそ期間なんて関係ないんじゃない?」
「友達……」
「おはよう」
時折すれ違うクラスメイトに挨拶を交わしながら席に着くと、カバンの中身を机にしまう。
結花の席は、廊下側の一番前の席だ。
時計を確認する。
朝のHRまであと五分。そろそろだ。
「おはよう、結花ちゃん」
思ったところで、予想していた人物が教室の前方入り口からひょっこりと顔を出した。
結花の一学年上の先輩、仙道彰だ。
「おはようございます、仙道先輩」
にっこり微笑む仙道に結花も笑顔を返すと、仙道が満足げに口の端を持ち上げる。
「うん。やっぱり結花ちゃんの笑顔は良いね。今日も一日元気に過ごせそうだ」
「あはは、わたしも仙道先輩に朝のご挨拶できて嬉しいです」
心からそう思って口にすると、仙道が優しげに瞳を細めて、それじゃあと言ってその場を去っていった。
それを見計らったかのようなタイミングで、友達の祥子が結花のそばに来る。
「今日も来たんだ、仙道先輩」
「うん」
「いつからだっけ? 仙道先輩が毎朝教室に寄っていくようになったの」
「えーと、いつからだったっけなー?」
祥子の言葉に結花は天井を見上げて考える。
仙道と知り合ったのが新入生向けの部活紹介の時で、それからずっとだから……。
「一ヶ月くらい?」
「そんなに! 愛されてるねえ、結花」
祥子が驚いたように目を丸くして、感心したように言った。
「愛されてる?」
今度は結花が目を丸くする。
「何言ってるの、祥子。そんなわけないじゃん。仙道先輩はただわたしのこと妹みたいに思ってかわいがってくれてるだけだよ」
「……あんたそれ本気で言ってるの? 仙道先輩だよ! 相手はあの仙道先輩!」
祥子が力説する。
「入学してからいろいろ耳にしたけど、あの人去年結構色んな人と遊んでたみたいじゃない。それが、今年になったらぱったりそういうのなくなったって話よ! あんたに夢中だからに決まってんでしょう!?」
「えー。そんなことないよ。まあ、祥子がそう言う気持ちもわからなくはないけど」
そうなのだ。結花も最近になってようやく知ったけれど、仙道彰は陵南高校いちの有名人だった。天才的なバスケセンスと、甘いマスク。そしてなにより、その浮名。泣かせた女は数知れずという話だ。
けれど、それとこれとは関係のない話だと結花は思う。
その証拠に、結花は一度として仙道に言い寄られたことなどない。ただ毎朝教室に寄ってくれて、廊下ですれ違ったり顔をあわせたりしたら少しお話をする程度の間柄だ。それ以上でもそれ以下でもないし、だから仙道が自分を好きだと言われてもいまいちピンと来なかった。
(それに、わたし恋なんてしたことないし)
初恋もまだの結花に、仙道の行動こそが結花に好意を寄せている証拠だと言われても、ふうんという感想程度で、しっくりこない。恋愛とはもっと劇的で激しいものじゃないのだろうか。少なくとも、結花がこれまで読んできた物語の中ではそうだった。とても今の自分の状態とは似ても似つかない。
「でもさ。仙道先輩、もう一ヶ月以上も結花のところに通ってるんだよ? 絶対好かれてるに決まってるって」
「でも友達と思ってくれてるんだとしたら、それこそ期間なんて関係ないんじゃない?」
「友達……」
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