恋に落ちて
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遠山の金さんよろしく片腕を捲り上げて言う由美に、げんなりと結花は頬を引き攣らせた。
女の子はどうしてこの手の話が大好きなんだろう。
結花も例に漏れずこの手の話は大好きだけど、自分が尋問される側となれば話は別だ。
だが話さないことにはこの話題から解放されそうにもない。
「…………」
らんらんと期待に満ち溢れた目でじっと結花の言葉を待つ二人を見て、結花はついに降参した。
できれば自分だけの大切な思い出にしておきたかったけど、しょうがない。実は、少しだけ誰かに聞いてもらいたいという気持ちもあった。
「あのね」
結花は当時の事を思い出しながら、ゆっくりと口を開く。
優しい思い出に、結花の胸の鼓動が心地よい心音を奏で始めた。
「初めての席替えの後すぐくらいのことなんだけど」
「うんうん」
「わたし、授業中すごく具合悪くなっちゃったことがあったのね。風邪だったのか、熱っぽくて頭もひどく痛くて、保健室に行きたかったんだけど、だけど手をあげて先生にそれを言う勇気もなくて、ほんとうにどうしようもなくて困ってたの」
「うんうん!」
「そしたらちょうどその時隣りの席だった水戸くんが手をあげて、先生に保健室に行きたいって言い出して……」
『先生、ちょっと体調わりぃんで保健室行ってもいいっすか?』
『お、おお。じゃあ誰か……』
『柏木さんに連れてってもらいます。――行こ』
そう言って、足元がふらつく結花をみんなにわからないように庇いながら保健室まで連れて行ってくれた洋平。
廊下に出てしばらく歩いた時に、だいじょうぶか? あんまり無理すんなよって心配そうに眉尻を下げて優しく言ってくれて、その時はじめて洋平が結花を助けるためにこんなことをしてくれたんだって気づいて、それまで具合悪くて心細かった結花の心が一気に温かくなった。
苦しんでいることに気づいてくれたことや、結花が恥ずかしい思いしないように気づかってくれたこととか、泣きたくなるくらいすごくすごくうれしくて、恋に落ちるのなんてあっというまだった。
「水戸くん、怖い人なのかなってずっと思ってたんだけど、全然そんなことないんだってそれでわかって、気づいたら好きになってたの」
今でもあの時の事を思い出すと、とても幸せな気持ちになれる。
からだの芯にろうそくの火が灯ったような、とても優しくてやわらかな気持ち。
話を聞いていた由美と春菜の二人が、うっとりとした表情でほぅっと息を吐き出した。
「へえ~。あの水戸洋平がねえ」
「なんだか不良のくせに、そこらの男よりよっぽど王子様みたいじゃない」
「いいなぁ、そういうさりげない優しさがある男。わたしも好きになっちゃおうかな~」
「あ、わたしも~」
「!! だだだ、ダメ!! 絶対ダメ!!」
夢見心地の二人の言葉に、結花の体を一筋の焦燥が駆け抜けた。
勢い良く立ち上がり、顔色をなくして必死に首を横に振る結花を見て、二人が弾かれたように笑い出す。
「ぶっ! あはははははは、じょ、冗談だって!」
「じょ、冗談……!?」
「あったりまえでしょ! あんたの好きな人取ったりしないわよ」
「うう……。ほ、ほんとに……?」
にわかには信じられない。
だってだって洋平はほんとうにほんとうに素敵なのだ。
優しくて強くてかっこよくて、まさに王子様そのものなのだ。……まあ、王子にしては少しやんちゃすぎる感は否めないけれど、でもそれでも素敵なことには変わりない。
(やっぱり話すんじゃなかった……!)
激しく後悔する結花の頭を、由美と春菜の二人がぐしゃぐしゃと撫でてくる。
「じょ・う・だ・んだってば! もー、そんな恨めしげな目でこっちみないでよ!」
「だいじょぶだいじょぶ。わたしたちは結花の味方だから」