secret lesson
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後輩の清田信長が部室に入ってきた。
まだ練習の途中なのか、信長は手近にあったパイプイスに座って、汗をぬぐいながらドリンクを飲んでいる。
「ああ、うん。日課のシュートも終わったからね」
「ふうん……。神さん、なんか最近帰るの早いですよね。なんかあるんスか?」
ぎくりと宗一郎の心臓が音を立てた。
実は結花と一緒に練習をしていることはみんなには内緒にしていた。
自分とこんな風に二人で練習しているとわかったら大変なことになるからと、結花が嫌がったのだ。
だから二人は、いつも別々に学校を出て公園で待ち合わせをしていた。
先ほど結花が友達と一緒に体育館を出るのが見えたから、もう公園で待っているはずだ。
宗一郎は動揺を悟られないように努めて平静に言葉を返す。
「別に何もないよ」
「……あやしいッス」
「なんでだよ」
思わず苦笑した。
信長が拗ねたように下唇を突き出して、ぶうぶうと文句を言う。
「だって神さんといったら練習の鬼じゃないですか! 牧さんが言ってましたよ! あの神がこんなに早く帰るなんておかしい、どこかで秘密の特訓でもしてるんじゃないかって!」
「へえ」
さすが牧だ。侮れない。
感心する宗一郎に、信長が甘えるようにへばりつく。
「ねー神さぁ~ん! ほんとうはどっかで特訓してるんでしょ? オレにまで内緒にしないでくださいよ! オレも混ぜてくださいってば!」
「うわ、ノブくっつくなよ。ほんとうにそんなのしてないって」
「ぜったいウソだっ」
信長がさらに食い下がる。
「だって神さん、最近ドリブルうまくなったッスよね」
「へえ。お前、俺のことドリブル下手だと思ってたんだ」
矛先を変えようとわざと意地悪な返事を返すと、信長が地団駄を踏んだ。
「だー、違いますよ! そんなこと思うわけないじゃないッスか! そうじゃなくて、練習メニューでも自主練でも特別ドリブルの強化練習なんてしてないのに、短期間で上達するなんてぜぇったいおかしいってことッスよ!」
フンと鼻から息を吐いて信長が言い切った。
なるほどよく見ている。
(まいったな)
宗一郎は心の中で嘆息する。
これはなんとか信長の納得することを言ってやらないと、信長のことだ、あやしいからこっそりつけてきました、なんてこともやりかねない。
(それだけは絶対避けたい。……すこし、卑怯な手だけど……)
背に腹はかえられない。
罪悪感を胸の片隅に追いやって決意を固めると、宗一郎は信長の頭をくしゃっと撫でた。
「わっ、神さん?」
驚く信長に、優しく笑いかけてやる。
「俺がドリブルが上達したのは、きっとノブのおかげだよ」
「え?」
「ノブはドリブルがうまいからね。身体能力じゃとてもお前には敵わないけど、それならどうすればいいかって考えながら練習してたから、その分上達が早いんじゃないかな」
「神さん……!」
嘘は言っていない。この窮地から脱出するためとはいえ、今のは紛れもない本心だ。だけど、やはり瞳を潤ませて素直に喜ぶ信長を見ると、宗一郎の心が激しい罪悪感に苛まれた。