secret lesson
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「ね、結花ちゃん。それじゃあさ。今度から部活が終わったらここで俺と一緒に練習しない?」
ふと思いついて宗一郎が提案した。結花がそれにぎょっと身を引いて首を振る。
「え! そ、そんな! ダメですよそんなの!」
「ダメ? どうして?」
「だって! 神先輩は男バスのレギュラーじゃないですか! 男バスはただでさえ練習が厳しいのに、先輩にそんな迷惑なんてかけられません!」
「はは。別に迷惑じゃないよ。だいたい、そんな風に思ってたら自分から提案なんてしないでしょ?」
「でもダメです! 先輩、忙しいじゃないですか!」
「忙しい?」
宗一郎はきょとんとした。
別段自分は普通の高校生とくらべて忙しい生活を送っているわけではない。
確かに部活の拘束時間は長いけれど、その他になにかしているわけでもないし、学校の勉強も毎日予習復習して授業を真面目に受けていれば、特に時間を設けて勉強する必要もなかった。
「そんなことないと思うけど……」
一週間の行動を振り返りながら零す宗一郎に、結花がぐっと顔を寄せてきた。
その眼差しの強さに、宗一郎の心臓がどきりと音を立てる。
「あります。先輩、いつも遅くまで残って一生懸命練習してるじゃないですか。そんな先輩の貴重な時間を割いてもらうなんてできません。それに……なにより、理由がありません」
顔を伏せて結花が言う。
「先輩は有名人だし、わたしは先輩のこと知ってましたけど、でも先輩からしたらわたしなんて今日はじめて会ったどこの馬の骨ともしれない後輩じゃないですか。もしかしたら、海南大附属高校ってのもウソかもしれないですし」
「ウソなの?」
それは困った、というように宗一郎が訊きかえすと、結花が勢いよく否定した。
「ほんとですけど! そんなしょうもないウソつかないですけど! だけど、知り合って間もないわたしの練習に付き合うなんて、そんなのおかしいです、不自然です。なにより、先輩の負担になるんじゃないかってわたしも心苦しいです。……だから、先輩がそう言ってくれたのはすごく嬉しかったですけど、お言葉に甘えるわけにはいきません」
「……そっか」
きっぱりと言い切る結花の顔をみて、宗一郎は考えをめぐらせた。
こんな風に、自分の考えをしっかり持ってそれを言える子は好きだ。
ますます力になりたい。
だけどどうすれば首を縦に振ってくれるだろう。
(うーん。少し切り口を変えてみようかな)
思いついて、宗一郎は結花に向き直った。
結花の緊張をほぐすように、宗一郎はにこりと笑って見せる。
「結花ちゃんって、俺にすごく似てるんだ」
「え?」
脈絡のないその言葉に、結花がぽかんと宗一郎を見あげた。
そんな結花に悪戯に微笑んで、宗一郎は言葉を続ける。
「確かに結花ちゃんと知り合ったのはほんの数分前のことだけど、でも俺はいま君にとても親近感を抱いているよ。――俺も、一年生の時は結花ちゃんみたいに、こんな風にひとりで練習してたんだ。結花ちゃんを見てるとまるで昔の俺を見てるみたいで、どうしても放っておけない。力になりたいって気持ちになる」
「神先輩……」
「それに、俺にとっても結花ちゃんと練習することはいい刺激になるよ。『教える』って、普通の練習と違って、また人を成長させるんだ。だから俺にもちゃんとメリットはある。結花ちゃんが気後れする必要はないよ」
迷うように、結花が視線をさまよわせた。
俯いて、おそるおそるというように上目遣いで訊ねてくる。
「ほんとうに、いいんですか? 邪魔じゃないですか?」