secret lesson
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それはほんとうに偶然だった。
高校二年生の五月。今日発売の週刊バスケットボールを買うためにちょっと遠回りをした帰り道。
公園の側を通ったところで、ふいにボールの音が耳をついた。
(ドリブルの……音?)
宗一郎は思わず自転車をこぐ足を止めて、音のしたほうを振り返る。
オーソドックスな型の滑り台と、少し小さめの二人用のブランコ。馬とウサギの形をした遊具に、誰かが置き忘れたスコップのささった砂場。申し訳程度の緑と、その木陰に設置されたベンチ。
こじんまりとした公園の中央、その広場で、高校生くらいのひとりの少女がバスケの練習をしていた。
すらっとした細身の体。
街灯の明りを受けて綺麗に輝く肩までの黒い髪。
手元のボールを真剣に見つめる、凛とした表情。
その姿に、数瞬の間宗一郎は目を奪われる。
――と。
「あの……?」
いつのまにか少女がドリブルをやめて、警戒するようにじっとこちらを見ていた。
宗一郎はハッと我に返る。
まずい。変質者だと思われているかもしれない。
宗一郎は自転車を降りると、少女を安心させるように彼女から顔が見える位置に立って、慌てて弁解した。
「あ、すみません。怪しいものじゃないんです。ただ、ボールの音が聞こえたので気になって」
「あ、そうだったんです……か……、え……あれ……?」
少女の瞳がみるみる見開かれていく。
「神……先輩?」
「え?」
宗一郎は、驚いて目の前の少女を凝視した。
それから二人はベンチに移動して少し話をしていた。
少女は柏木結花という名前で、なんと同じ海南大附属高校の一年生らしい。
女子バスケ部に所属していて、それで宗一郎のことを知っていたらしかった。
「いつもここで練習してるの?」
訊ねると、結花が頷いた。
「毎日ってワケじゃないんですけど。部活のある日は、ここに来て今日習った事を復習したりしてます」
「そうなんだ。学校ではやらないの?」
女子バスケ部も男子バスケ部と同じように、部活後の自主練習を許可していたはずだ。
リングのない夜の公園でやるより、バスケをするのに最適な学校の体育館で練習をしたほうが、はるかに効率もいいし、なにより安全だ。
結花がその質問に小さく笑う。
「学校でも練習してますよ。でも、女子の方が男子よりも終わるのが早いんです。だから、学校ではリングが必要なシュートやリバウンドの練習を主にやって、ここではボールハンドリングやドリブルの練習をしてます」
「熱心なんだね」
「――わたし、バスケを始めたのは高校からなので。だから少しでも多く練習して、一日でも早くみんなに追いつきたいんです」
結花が遠くを見つめて言う。
その横顔がとても綺麗で眩しくて、宗一郎は目を細めてそれを見た。
「そうなんだ」
自然と口が笑みの形になる。
とても共感できた。
結花の感じている思い。いつかの自分と同じ思いだ。
少しでも早く上手くなって、いつかコートに立ちたい。あの中に入って、プレイがしたい。
高校二年生の五月。今日発売の週刊バスケットボールを買うためにちょっと遠回りをした帰り道。
公園の側を通ったところで、ふいにボールの音が耳をついた。
(ドリブルの……音?)
宗一郎は思わず自転車をこぐ足を止めて、音のしたほうを振り返る。
オーソドックスな型の滑り台と、少し小さめの二人用のブランコ。馬とウサギの形をした遊具に、誰かが置き忘れたスコップのささった砂場。申し訳程度の緑と、その木陰に設置されたベンチ。
こじんまりとした公園の中央、その広場で、高校生くらいのひとりの少女がバスケの練習をしていた。
すらっとした細身の体。
街灯の明りを受けて綺麗に輝く肩までの黒い髪。
手元のボールを真剣に見つめる、凛とした表情。
その姿に、数瞬の間宗一郎は目を奪われる。
――と。
「あの……?」
いつのまにか少女がドリブルをやめて、警戒するようにじっとこちらを見ていた。
宗一郎はハッと我に返る。
まずい。変質者だと思われているかもしれない。
宗一郎は自転車を降りると、少女を安心させるように彼女から顔が見える位置に立って、慌てて弁解した。
「あ、すみません。怪しいものじゃないんです。ただ、ボールの音が聞こえたので気になって」
「あ、そうだったんです……か……、え……あれ……?」
少女の瞳がみるみる見開かれていく。
「神……先輩?」
「え?」
宗一郎は、驚いて目の前の少女を凝視した。
それから二人はベンチに移動して少し話をしていた。
少女は柏木結花という名前で、なんと同じ海南大附属高校の一年生らしい。
女子バスケ部に所属していて、それで宗一郎のことを知っていたらしかった。
「いつもここで練習してるの?」
訊ねると、結花が頷いた。
「毎日ってワケじゃないんですけど。部活のある日は、ここに来て今日習った事を復習したりしてます」
「そうなんだ。学校ではやらないの?」
女子バスケ部も男子バスケ部と同じように、部活後の自主練習を許可していたはずだ。
リングのない夜の公園でやるより、バスケをするのに最適な学校の体育館で練習をしたほうが、はるかに効率もいいし、なにより安全だ。
結花がその質問に小さく笑う。
「学校でも練習してますよ。でも、女子の方が男子よりも終わるのが早いんです。だから、学校ではリングが必要なシュートやリバウンドの練習を主にやって、ここではボールハンドリングやドリブルの練習をしてます」
「熱心なんだね」
「――わたし、バスケを始めたのは高校からなので。だから少しでも多く練習して、一日でも早くみんなに追いつきたいんです」
結花が遠くを見つめて言う。
その横顔がとても綺麗で眩しくて、宗一郎は目を細めてそれを見た。
「そうなんだ」
自然と口が笑みの形になる。
とても共感できた。
結花の感じている思い。いつかの自分と同じ思いだ。
少しでも早く上手くなって、いつかコートに立ちたい。あの中に入って、プレイがしたい。
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