不器用な二人
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ぽつりと呟いたかと思うと、掴んでいた手を乱暴に振り解かれた。
振り返った越野にきつく肩をつかまれ、そのまま壁に力強く押し付けられる。
打ちつけた背中が痛い。
だけどそれよりも、覆いかぶさるようにしてすぐ近くにある越野の表情に、結花の胸がきつく締め上げられた。
苦しげに、越野の瞳が細められる。
深い、悲しみの色。
「こし……の……?」
戸惑うように名前を呼ぶと、肩を掴む越野の手に、いっそう力が入った。
「いたっ」
思わずもらした声に越野がハッとした表情になって、ゆるゆると肩から手を離す。
越野は壁に両肘をついて結花を腕の中に閉じ込めると、その体勢のまま結花の肩口に顔を埋めた。
頬にあたる越野の少し硬い髪の感触に、結花の心臓が急激に加速する。
「お前……オレをどうしたいんだよ……」
「え?」
弱々しい越野の声。
「あの日から、お前のことが片時も頭を離れねぇんだ……! お前との距離はどんどん遠くなっていくのに、それとは反対にお前がどんどんどんどんオレの中に居座ってきて……!」
「越野……」
「なんであんなこと言っちまったんだろうって、ずっと後悔してた。この一週間、毎日毎日苦しくて、息がつまりそうだった。お前とケンカしたくらいでなんでこんなんなってんだって必死で考えて、やっと気づいたんだ。オレ、お前が好きだって……」
「!」
越野がゆらりと顔をあげた。
苦しげな表情。
「あの時、お前が冗談で言ってるって、オレ気付いてた。でも、悔しかったんだ。お前がオレじゃなくて、仙道を庇ったことが、この上もなく悔しかったんだ。だから……カッとなって……あんなこと……」
「越野」
「謝るのはオレのほうだ。悪かった、結花。許してくれ。お前がいないなんて、オレにはもう耐えられねぇんだ……!」
「越野……!」
結花の瞳から、涙が溢れた。
うそみたいだ。越野がこんな風に思ってくれてたなんて。
同じ気持ちでいてくれてたなんて。
「越野、越野……! ごめんね。変な意地張ってごめんね。わたしも越野が好き。好きだよ、越野……!」
想いを伝えると同時に、目の前にある越野の胸に飛び込んだ。
越野がおそるおそるというように、結花のからだにそっと腕をまわしてくる。
「結花……ほんとか……?」
「うん、ほんとうだよ。わたしも、越野と話せなくってつらかったよ!」
「結花……!」
ぎゅっと越野の腕が強くなった。
結花が顔をあげると、越野がやわらかく笑う。
見た事のない越野の表情に、結花の心臓が一際大きく脈打った。
「よかった。結花」
「……うん」
「大事にするから」
「うん、ありがとう」
結花は越野を見つめて微笑んだ。
越野は優しく結花の頬をひと撫ですると、それから嬉しそうに微笑み返した。
結局その日、結花と越野は仲良く部活に遅刻していった。
それを見た仙道が、にやにやと口もとを愉快そうに緩める。
「ふうん、よかった。うまくまとまったんだ?」
「るっせえな!」
からかうように言う仙道に、越野がぶっきらぼうに返す。
越野の初々しい反応に仙道は意地悪く瞳を細めると、越野の横にいた結花に勢い良く抱きついた。
「ぎゃあ!」
驚いて抵抗するが、仙道にがっちり体をホールドされて、身じろぎすることができない。
「あ、仙道! てめえ何やってやがる!」
仙道は憤る越野を無視して、よしよしと腕の中の結花の頭を撫でた。
「わっ!」
「結花~、越野に泣かされそうになったら、いつでもオレが守ってあげるからね!」
「ばかやろう、誰が泣かすか! いいから今すぐに結花から離れやがれっ!!」
越野が結花を助け出そうと伸ばした手を、仙道はひょいと避ける。
越野が悔しそうに歯を食いしばった。
「くっそ、バカ仙道! お前なんかだいっきらいだぁあああ!」
「あっはは! オレは越野と結花大好き~!」
そういって、仙道は結花を抱きしめている腕をのばして、越野とも肩を組んだ。
本気で嫌がる越野を見て仙道はおもしろそうにけらけら笑うと、ふいに真剣な表情になる。
つられて結花と越野も真剣な表情で仙道を見返した。
仙道はしばらく表情を引き締めて結花と越野を見つめて、それから優しく微笑んだ。
「よかったね」
「うん!」
「ああ!」
ほんとうに嬉しそうに言ってくれた仙道に、結花と越野は幸せいっぱいの笑顔を返した。
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