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風が運んできたもの

 放課後。
 当番だった外掃除を終えて教室への道を歩いていると、ふわりと優しい風が宗一郎の頬を撫ぜた。
 生命力に溢れた春も終わりに近づき、力強い夏の匂いのせまった、あたたかく柔らかな風。
 その風に乗って、微かな旋律が宗一郎の耳をくすぐった。
(誰かの歌声?)
 宗一郎は立ち止まって校舎を仰ぎ見る。
 どこから流れてきた旋律だろう。
 再び風が空気を渡って、泳ぐように宗一郎の耳にもまた歌声が届く。
 穏やかで、とてもあたたかな歌声。
 ずっと聞いていたくなる。
 その歌声に誘われるように、宗一郎の足が校舎へと急いだ。
 昇降口を抜けて、階段を上って、風に流れてきた旋律を追いかける。
 着いた先は、自分の教室だった。
 少し意外に思って、宗一郎は目を瞬かせる。
 誰が歌っているんだろう。
 間近で聞こえてくる旋律は、宗一郎の聞いたことのない調べだった。
 優しいのに繊細なそのメロディは、宗一郎の胸の柔らかいところをそっと撫でて、どこか物哀しい気持ちにさせる。
 懐かしいような、愛しいような。
 胸の奥からそんな感情を呼び起こさせて、強く揺さぶってくる。
 声の主を知りたくて、一歩教室へ足を踏み出した。
 開いたドアから見えた視界の先。窓際の真ん中の机の上に腰を下ろして、開け放した窓の外を眺めながら、長く艶やかな髪を風に踊らせて、夕陽をうけて歌うクラスメイトの少女。
 目を、奪われた。
 曲がやむ。
 歌い終わった彼女は、瞳を細めて窓の外を見ている。
 すごく綺麗だと思った。

【風が運んできたもの】

それは、出会いとときめき。


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20180506 SDワンライ企画『風が運んできたもの』
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