諦めの悪い男
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「笠鷺ましろ! 好きだ! オレと付き合ってくれ!」
「お断り」
教室に入って早々、大声で告白をしてきた三井寿を、ましろは感情もなくあっさりと切り捨てた。
告白を断られた目の前の男・三井寿は、くそう今日もダメだったかと唇を噛んでいる。
ましろはそれを呆れたように半眼の眼差しで見やると、その横を通りすぎて自分の席へとついた。
まったく、三井もよくもまあ毎日毎日懲りずにフラれに来るものだ。
思ってもう一度ましろは肺のそこから深く深くため息を吐き出した。
三井が告白に来るのはこれがはじめてではない。
むしろもう、これは毎朝の恒例行事となりつつあった。
(そういえば、これっていつからはじまったんだっけ?)
考えてましろは眉根を寄せた。
ダメだ、思い出せない。
(三井がバスケ部に復帰したあとなのはたしかなんだけど……まあ、いっかどうでも)
ましろは思考を中断してカバンから教科書を取り出すと、次々と机の中に入れていく。
ましろはいつも一時間目の時間割りから順にして置いていた。
そうしておくと、あとは授業が終わったあとにカバンに戻していけば、最後の授業が終わった頃にはもうそのまま帰るだけになるのでとても効率がいいのだ。
中身がお弁当だけになったカバンを机の横にかけおえると、隣の席の男が席についた。
運の悪いことに隣の席は、さっきフッた三井その人だ。
三井はフラれたことが全然応えていない様子でにこにこと話しかけてくる。
「ましろってマジメだよな。ちゃんと授業の準備とかしっかりやってよ」
「いや、普通じゃない?」
「普通じゃねえって。オレなんて教科書全部置き勉だもん」
「ああそう。まあいいんじゃない? 人それぞれで」
「ははっ。だよなあ。なのにセンコーと来たらよー」
なにやら隣でぶちぶち言い始めた三井を横目にみながら、ましろはもう一度深くため息をついた。
そこに新たな声が乱入する。
「やあやあおふたりさん、おはよう! 今日も三井は元気にふられたかね?」
ましろの前の席の葛城涼子だった。
明瞭な発音で快活にそう言うと、ニッと笑って見せる。
涼子は個性的な話し方と中性的な雰囲気を持つ不思議なクラスメートだ。
「おはよう、涼子」
「うっせえばかつらぎ!」
両者両様の返事を返すと、涼子はそれに楽しそうに笑う。
「はは、相変わらずましろはクールビューティで、相変わらず三井はボキャブラリーの貧困さが憐れだね。いやー、けっこうけっこう!」
「てめえ、マジで一回ぶっとばしてやろうか……?」
「ああ、構わないよ。ただし、その際はましろ、録画を頼む!」
涼子が興味無さそうにそっぽを向いていたましろの手をがしっと握った。
ましろは迷惑そうに眉根を寄せてそれを見やる。
「録画? 構わないけど……。なんで? 自分が殴られてるところを鑑賞する危ない趣味でもあるの?」
「まさか! そのビデオを持って三井寿の恩師とやらに見せに行くのさ! ああ、楽しそうだねえ」
涼子の表情が恍惚と輝きだす。
ましろと三井はそれに若干引いて顔を見合わせた。
「三井、早めに謝っとけば? この子危ないよ」
「だな。どういう遺伝子が混じったらこんなやつができあがるんだ……?」
「お、知りたいかね? ならば教えてしんぜよう」
「いや、いい。涼子、そんなの興味ないから」
ましろと三井が二人仲良くぶんぶんと首を振った。
催眠術のような教師の授業を右から左へと流しつつ、ましろはあくびを噛み殺した。
前の席の涼子は、教科書をうず高く積み上げてそれを枕がわりに眠りこけている。
その度胸には、多少のことでは動じないましろも感服せざるを得ない。
今度は隣に視線を移すと、そこでは涼子に比べたらマシかもしれないが、それでも人目もはばからず大胆に居眠りをする三井の姿があった。
ましろはしばらくその寝顔をじっとみつめて考えた。
なにがいいんだろう?
三井寿は、なにがよくてわたしを好きだと言うんだろう?
三井と自分は特に良く話をする間柄というわけではない。
というよりも、ましろ自身がそんなに人と関わって生きていくタイプではなかった。
同じクラスで過ごしていても、涼子とこの三井以外はあまり話したこともない人がほとんどである。
もちろんなにか三井に特別なことをした覚えなどない。
それなのに、なぜ三井がこんなにも自分に執着するのか皆目検討もつかなかった。
ましろは不思議そうに眉根を寄せると、ちっとも興味をひかれない授業へ三十分ぶりに耳を傾けた。
授業も全部終わり、ましろが帰ろうとカバンに手をかけると、三井に腕を掴まれた。
ましろはまたかというようにため息をつくと、三井に呆れたような視線を向ける。
「三井、帰れないんだけど」
「うん。帰したくないんだけど」
「…………」
「…………」
ましろは真顔で、三井は笑顔でしばらく睨みあったのち、観念したようにましろが嘆息した。
「三井、ずっと前から聞きたかったんだけど、あんたわたしのなにがそんなにいいの?」
「んん? 言ったことなかったか?」
「たぶん。わたし、三井に好きだとか言われても全然ピンと来ないんだけど。特に仲が良いわけでもないし、なにかしてあげた覚えもないし……。いったいなにがそんなに引っ掛かって好きだなんて言うわけ?」
「んー? お前だけなんだよな」
照れたようにがしがしと頭をかきながら、三井が話し出した。
ましろはそれに静かに耳を傾ける。
「わたしだけ? なにが?」
「……オレさ、ちょっと前までグレてただろ?」
「そうね。目も当てられないくらいグレてたわね」
「…………おう。バスケ部入って更生してからはさ、いろんなヤツと仲良くなったし、オレのこと好きだって言ってくれるオンナもけっこういるんだ」
「へえ。それはよかったね」
ましろの興味無さそうなその返事に、三井が大袈裟なくらいがっくり肩を落として見せる。
「お前さ、少しは妬いたりとかしてくんないわけ?」
「ごめん。妬くほどの距離感じゃないと思って」
「……くそっ。オレは負けねえ……」
拗ねたように三井はそう言うと、気を取り直すようにひとつ咳ばらいをして口を開く。
「だから。お前はそんな風にウソがつけねえだろ? ウソがつけねえし、そもそもつかねえ」
「うん」
「オレがグレてたときも、バスケ部に入ってからも、態度が変わらなかったのがお前だけだったんだよ」
「……!」
「最初は、グレてるオレにも話しかけてくるお前にすげービビったんだ。まあ、話しかけてくるって言っても必要最低限だったけど、でも普通不良のオレに今日日直当番一緒だから三井くんはゴミ捨てよろしくなんて言わねえだろ?」
「……言わないの?」
「言わねえんだよ。オレはグレてた中ではじめて言われたんだよそんなこと」
「……え、まさかゴミ捨てを頼まれたから好きになったとか言うわけ?」
ましろがあからさまに眉を寄せて言った。
三井がそれに顔を赤くして反論する。
「ちげえよ! だから、お前は見てくれとか態度じゃなくて、ちゃんとオレ自身と接してくれてたってことだろ? それがちゃんと更生したら見えてきたんだよ。そうしたら、なんかすごく……嬉しくなって、愛しくなって……」
言いながら三井の顔が赤く染まっていく。
ましろはその言葉に一瞬驚いたように瞠目すると、なんとなく微笑ましい気持ちになって口許を緩めた。
それをみて三井は驚いたように目を丸くし、耳まで真っ赤に染めた。
「なっ、おまえ……! 笑えるんじゃねえか……!」
「当たり前でしょ? 人間だもの。でもそっか。なるほど、そういう理由でわたしのこと好きだって思っててくれてたんだ。ふうん。なんかちょっと見直したかも」
ましろは言ってくすくす笑い続けた。
思っても見ない理由だった。
まさか三井がそんな風に思って好きでいてくれたなんて。
ガラにもなくましろは嬉しくなる。
自慢じゃないが、ましろは自分の容姿が端麗なのを自覚している。
それを鼻にかけるとかではなく、世の中ではそういう認識になるようだという事実として把握していると言ったほうが正しいか。
とにかくましろのその容姿と、クールでまわりにあまり関心のない性格は最悪な相乗効果をもたらし、普通に答えたつもりが冷たいといわれ、ちらりと視線をやれば睨んでるといわれ、冷血人間、人の心がないなど様々なことを言われてきた。
ましろは幸い、ひとりでいることが苦ではなかったけれど、それでも寂しい時がないといったら嘘になる。
容姿だけが気に入ったという男子から、告白だって何度もされたことがあった。
だから三井もどうせそれと同じだと思っていたのだ。
(三井も、わたしの中身を見ててくれたんだ)
ましろの心に暖かいものが広がっていく。
そのままにこにこ微笑んでると、ふと視界に影が射した。
顔をあげると、三井が真剣な顔でこちらに腕をのばしていた。
ましろは状況を察すると、ひょいとその腕をかわした。
抱き締めようなんて、百年早い。
「ちょっと。痴漢行為で訴えるよ」
「お前がかわいい顔で笑うからいけないんだろっ!」
「わたしに笑うなって?」
「いや、違う! そういうわけじゃなくて……っ」
「わかってる。冗談だよ」
あわてふためく三井に、ましろはおかしそうに喉の奥で小さく笑った。
「なあ、オレ、本気なんだけど……。付き合ってくんねえか?」
「ダメね」
「なんで!」
「好きじゃないもの」
「!」
さすがに三井がショックを受けて表情を止めた。
それを見て、ましろはしょうがないなあというように苦笑する。
「まだね。まだ好きじゃないよ。でも、さっきの理由で大分好きになったから、頑張る気があるなら頑張ってみたら? けっこうすぐ投げ出しがちな三井寿さん」
そのましろの言葉に、三井がパッと表情を輝かせた。
勝ち気な笑みをその唇にのせ、強気に宣言して見せる。
「バーカ! オレは、あきらめの悪い男、三井寿だ!」
「お断り」
教室に入って早々、大声で告白をしてきた三井寿を、ましろは感情もなくあっさりと切り捨てた。
告白を断られた目の前の男・三井寿は、くそう今日もダメだったかと唇を噛んでいる。
ましろはそれを呆れたように半眼の眼差しで見やると、その横を通りすぎて自分の席へとついた。
まったく、三井もよくもまあ毎日毎日懲りずにフラれに来るものだ。
思ってもう一度ましろは肺のそこから深く深くため息を吐き出した。
三井が告白に来るのはこれがはじめてではない。
むしろもう、これは毎朝の恒例行事となりつつあった。
(そういえば、これっていつからはじまったんだっけ?)
考えてましろは眉根を寄せた。
ダメだ、思い出せない。
(三井がバスケ部に復帰したあとなのはたしかなんだけど……まあ、いっかどうでも)
ましろは思考を中断してカバンから教科書を取り出すと、次々と机の中に入れていく。
ましろはいつも一時間目の時間割りから順にして置いていた。
そうしておくと、あとは授業が終わったあとにカバンに戻していけば、最後の授業が終わった頃にはもうそのまま帰るだけになるのでとても効率がいいのだ。
中身がお弁当だけになったカバンを机の横にかけおえると、隣の席の男が席についた。
運の悪いことに隣の席は、さっきフッた三井その人だ。
三井はフラれたことが全然応えていない様子でにこにこと話しかけてくる。
「ましろってマジメだよな。ちゃんと授業の準備とかしっかりやってよ」
「いや、普通じゃない?」
「普通じゃねえって。オレなんて教科書全部置き勉だもん」
「ああそう。まあいいんじゃない? 人それぞれで」
「ははっ。だよなあ。なのにセンコーと来たらよー」
なにやら隣でぶちぶち言い始めた三井を横目にみながら、ましろはもう一度深くため息をついた。
そこに新たな声が乱入する。
「やあやあおふたりさん、おはよう! 今日も三井は元気にふられたかね?」
ましろの前の席の葛城涼子だった。
明瞭な発音で快活にそう言うと、ニッと笑って見せる。
涼子は個性的な話し方と中性的な雰囲気を持つ不思議なクラスメートだ。
「おはよう、涼子」
「うっせえばかつらぎ!」
両者両様の返事を返すと、涼子はそれに楽しそうに笑う。
「はは、相変わらずましろはクールビューティで、相変わらず三井はボキャブラリーの貧困さが憐れだね。いやー、けっこうけっこう!」
「てめえ、マジで一回ぶっとばしてやろうか……?」
「ああ、構わないよ。ただし、その際はましろ、録画を頼む!」
涼子が興味無さそうにそっぽを向いていたましろの手をがしっと握った。
ましろは迷惑そうに眉根を寄せてそれを見やる。
「録画? 構わないけど……。なんで? 自分が殴られてるところを鑑賞する危ない趣味でもあるの?」
「まさか! そのビデオを持って三井寿の恩師とやらに見せに行くのさ! ああ、楽しそうだねえ」
涼子の表情が恍惚と輝きだす。
ましろと三井はそれに若干引いて顔を見合わせた。
「三井、早めに謝っとけば? この子危ないよ」
「だな。どういう遺伝子が混じったらこんなやつができあがるんだ……?」
「お、知りたいかね? ならば教えてしんぜよう」
「いや、いい。涼子、そんなの興味ないから」
ましろと三井が二人仲良くぶんぶんと首を振った。
催眠術のような教師の授業を右から左へと流しつつ、ましろはあくびを噛み殺した。
前の席の涼子は、教科書をうず高く積み上げてそれを枕がわりに眠りこけている。
その度胸には、多少のことでは動じないましろも感服せざるを得ない。
今度は隣に視線を移すと、そこでは涼子に比べたらマシかもしれないが、それでも人目もはばからず大胆に居眠りをする三井の姿があった。
ましろはしばらくその寝顔をじっとみつめて考えた。
なにがいいんだろう?
三井寿は、なにがよくてわたしを好きだと言うんだろう?
三井と自分は特に良く話をする間柄というわけではない。
というよりも、ましろ自身がそんなに人と関わって生きていくタイプではなかった。
同じクラスで過ごしていても、涼子とこの三井以外はあまり話したこともない人がほとんどである。
もちろんなにか三井に特別なことをした覚えなどない。
それなのに、なぜ三井がこんなにも自分に執着するのか皆目検討もつかなかった。
ましろは不思議そうに眉根を寄せると、ちっとも興味をひかれない授業へ三十分ぶりに耳を傾けた。
授業も全部終わり、ましろが帰ろうとカバンに手をかけると、三井に腕を掴まれた。
ましろはまたかというようにため息をつくと、三井に呆れたような視線を向ける。
「三井、帰れないんだけど」
「うん。帰したくないんだけど」
「…………」
「…………」
ましろは真顔で、三井は笑顔でしばらく睨みあったのち、観念したようにましろが嘆息した。
「三井、ずっと前から聞きたかったんだけど、あんたわたしのなにがそんなにいいの?」
「んん? 言ったことなかったか?」
「たぶん。わたし、三井に好きだとか言われても全然ピンと来ないんだけど。特に仲が良いわけでもないし、なにかしてあげた覚えもないし……。いったいなにがそんなに引っ掛かって好きだなんて言うわけ?」
「んー? お前だけなんだよな」
照れたようにがしがしと頭をかきながら、三井が話し出した。
ましろはそれに静かに耳を傾ける。
「わたしだけ? なにが?」
「……オレさ、ちょっと前までグレてただろ?」
「そうね。目も当てられないくらいグレてたわね」
「…………おう。バスケ部入って更生してからはさ、いろんなヤツと仲良くなったし、オレのこと好きだって言ってくれるオンナもけっこういるんだ」
「へえ。それはよかったね」
ましろの興味無さそうなその返事に、三井が大袈裟なくらいがっくり肩を落として見せる。
「お前さ、少しは妬いたりとかしてくんないわけ?」
「ごめん。妬くほどの距離感じゃないと思って」
「……くそっ。オレは負けねえ……」
拗ねたように三井はそう言うと、気を取り直すようにひとつ咳ばらいをして口を開く。
「だから。お前はそんな風にウソがつけねえだろ? ウソがつけねえし、そもそもつかねえ」
「うん」
「オレがグレてたときも、バスケ部に入ってからも、態度が変わらなかったのがお前だけだったんだよ」
「……!」
「最初は、グレてるオレにも話しかけてくるお前にすげービビったんだ。まあ、話しかけてくるって言っても必要最低限だったけど、でも普通不良のオレに今日日直当番一緒だから三井くんはゴミ捨てよろしくなんて言わねえだろ?」
「……言わないの?」
「言わねえんだよ。オレはグレてた中ではじめて言われたんだよそんなこと」
「……え、まさかゴミ捨てを頼まれたから好きになったとか言うわけ?」
ましろがあからさまに眉を寄せて言った。
三井がそれに顔を赤くして反論する。
「ちげえよ! だから、お前は見てくれとか態度じゃなくて、ちゃんとオレ自身と接してくれてたってことだろ? それがちゃんと更生したら見えてきたんだよ。そうしたら、なんかすごく……嬉しくなって、愛しくなって……」
言いながら三井の顔が赤く染まっていく。
ましろはその言葉に一瞬驚いたように瞠目すると、なんとなく微笑ましい気持ちになって口許を緩めた。
それをみて三井は驚いたように目を丸くし、耳まで真っ赤に染めた。
「なっ、おまえ……! 笑えるんじゃねえか……!」
「当たり前でしょ? 人間だもの。でもそっか。なるほど、そういう理由でわたしのこと好きだって思っててくれてたんだ。ふうん。なんかちょっと見直したかも」
ましろは言ってくすくす笑い続けた。
思っても見ない理由だった。
まさか三井がそんな風に思って好きでいてくれたなんて。
ガラにもなくましろは嬉しくなる。
自慢じゃないが、ましろは自分の容姿が端麗なのを自覚している。
それを鼻にかけるとかではなく、世の中ではそういう認識になるようだという事実として把握していると言ったほうが正しいか。
とにかくましろのその容姿と、クールでまわりにあまり関心のない性格は最悪な相乗効果をもたらし、普通に答えたつもりが冷たいといわれ、ちらりと視線をやれば睨んでるといわれ、冷血人間、人の心がないなど様々なことを言われてきた。
ましろは幸い、ひとりでいることが苦ではなかったけれど、それでも寂しい時がないといったら嘘になる。
容姿だけが気に入ったという男子から、告白だって何度もされたことがあった。
だから三井もどうせそれと同じだと思っていたのだ。
(三井も、わたしの中身を見ててくれたんだ)
ましろの心に暖かいものが広がっていく。
そのままにこにこ微笑んでると、ふと視界に影が射した。
顔をあげると、三井が真剣な顔でこちらに腕をのばしていた。
ましろは状況を察すると、ひょいとその腕をかわした。
抱き締めようなんて、百年早い。
「ちょっと。痴漢行為で訴えるよ」
「お前がかわいい顔で笑うからいけないんだろっ!」
「わたしに笑うなって?」
「いや、違う! そういうわけじゃなくて……っ」
「わかってる。冗談だよ」
あわてふためく三井に、ましろはおかしそうに喉の奥で小さく笑った。
「なあ、オレ、本気なんだけど……。付き合ってくんねえか?」
「ダメね」
「なんで!」
「好きじゃないもの」
「!」
さすがに三井がショックを受けて表情を止めた。
それを見て、ましろはしょうがないなあというように苦笑する。
「まだね。まだ好きじゃないよ。でも、さっきの理由で大分好きになったから、頑張る気があるなら頑張ってみたら? けっこうすぐ投げ出しがちな三井寿さん」
そのましろの言葉に、三井がパッと表情を輝かせた。
勝ち気な笑みをその唇にのせ、強気に宣言して見せる。
「バーカ! オレは、あきらめの悪い男、三井寿だ!」
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