こうして勝負は始まった
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そこまで考えて、宗一郎は具体的な部分を曖昧にしながら、信長に言った。
「実はね、ノブ。その好きな子なんだけど……俺の身近なやつもどうやら同じ子が好きみたいなんだよね……」
「え! それは大変じゃないッスか!」
「……うん。その身近なやつもね、俺にとってはかわいい存在で、あんまり落ち込むところを見たくないんだ。かといって俺にも譲れない想いがあるから黙ってその二人がうまくいくのを見届けることもできないし、だけどそいつに俺がその子を好きだと言ったら、自分から身を引いてしまいそうで、それもあんまりだろ? だからちょっと困っててさ」
「うーん、むずかしいッスねえ……」
信長が眉間に皺を寄せて腕を組んだ。
信長はどんな答えを導き出すだろう。少し緊張しながら宗一郎は信長の返事を待った。
信長が心を決めたというように一度頷いて、それから静かに唇を持ち上げる。
「オレだったら全力排除ッスけど……。それならここは、正々堂々真っ向勝負! じゃないッスかね……」
「……やっぱり?」
「ライバルが近しいやつだからって遠慮する必要ないッスよ! 神さんは神さんで、そいつはそいつで頑張ればいいッス!」
「そっか。……やっぱりそれしかないかな」
「そうッスよ! でも、やっぱり神さんは優しいッスね」
信長がにこりと微笑んで言った。
「ライバルにもそんな風に思えるなんて、ほんと尊敬するッス!」
「はは。そんな風に言われると胸が痛いけどね。……そのライバルも、俺にとっては一応大事なやつだから」
「ふうん。でもオレは神さんを応援するッスよ!」
「……ありがと。じゃあ気持ちだけもらっておくよ」
元気よく宣言する信長を見て宗一郎は瞳を細めて微笑むと、手に持っていたドリンクボトルを元に戻した。
「さ。片付けに行くよ、ノブ」
次の日。
宗一郎はまた結花のノートを手に一年の教室へと向かっていた。
今度は数学のノートだ。
昨日の夜、英語のノートがなくて大変だったと散々嘆いていたのに、結花には学習能力が備わっていないんだろうか。
宗一郎は廊下の角を曲がると、見えてきた教室の入り口から聞こえてくる声に苦笑する。
そこからまた結花と信長の仲良さそうな声が漏れ聞こえてきていた。
一度足を止めて肺の奥に息を吸い込むと、宗一郎はうしと気合を入れて教室の中を覗き込んだ。
入り口近くにいた女生徒が宗一郎に気づいて、小さくあっと声をあげた。
それを契機に、その驚きの輪が波紋のように教室に広がっていく。
強豪ぞろいの海南大附属高校の部活の中でも、バスケ部は特に注目度が高い。
そこの二年生レギュラーの宗一郎も、校内ではちょっとした有名人だった。
驚きの余波が結花と信長まで届いて、二人が同時にこちらを振り向く。
信長より一瞬早く、結花が驚きに目をまん丸に見開いて大声を上げた。
「宗ちゃん!?」
結花の口から出た名前に、その横にいた信長が弾かれたように結花を見る。
宗一郎は苦笑すると、ゆっくり二人のほうに歩いていった。
二人の前まで来ると、手に持っていたノートでぱこりと軽く結花の頭を叩く。
「結花。今日は数学のノート忘れてるよ。せっかく予習しても、ノート忘れたら意味ないだろ?」
「はっ! なんと! わざわざ届けてくれたの、宗ちゃん! ありがとう!」
「どういたしまして」
「じ、神さん……。まさか……」
にこりと結花に微笑んでいると、信長の怯えたような声音が割り込んできた。
宗一郎は信長に顔を向けると、困ったように眉尻を下げる。
「そういうことなんだ、ノブ。ごめんね。昨日話した通り俺は本気で行くから、お前もちゃんと本気でぶつかってこいよ」
「――――!」
最後の言葉を不敵な笑みにのせて言うと、信長がおもしろいくらい顔を青ざめさせた。
あんまり驚いて言葉もないのか、餌を求める金魚みたいに信長が口を数度ぱくぱくと動かした。
そんな二人を交互に見つめて、結花がなにがなんだかわからないという表情で眉間に皺を寄せる。
「宗ちゃん? なんの話?」
「恋の話だよ」
「恋?」
言って首を傾げる結花の頬に、宗一郎はそっと唇を押し当てた。
瞬間、熟れたトマトみたいに顔を真っ赤にさせて、宗一郎の触れた頬を押さえた結花が上ずった声をあげる。
「な!? そ、宗ちゃ……!? なにす……!」
動転する結花を見て宗一郎は楽しげに肩を震わせると、くつくつと漏れる吐息の隙間から言葉を押し出した。
「ははは。じゃあね。しっかり勉強しなよ。ノブもね」
宗一郎はそれだけ言うと、身を翻した。
騒がしい二人の声を背に受けて、そのまま教室をあとにする。
この先、自分の恋が実るかどうかなんてわからない。
だけど、覚悟してて。必ず俺のものにしてみせるから。
「実はね、ノブ。その好きな子なんだけど……俺の身近なやつもどうやら同じ子が好きみたいなんだよね……」
「え! それは大変じゃないッスか!」
「……うん。その身近なやつもね、俺にとってはかわいい存在で、あんまり落ち込むところを見たくないんだ。かといって俺にも譲れない想いがあるから黙ってその二人がうまくいくのを見届けることもできないし、だけどそいつに俺がその子を好きだと言ったら、自分から身を引いてしまいそうで、それもあんまりだろ? だからちょっと困っててさ」
「うーん、むずかしいッスねえ……」
信長が眉間に皺を寄せて腕を組んだ。
信長はどんな答えを導き出すだろう。少し緊張しながら宗一郎は信長の返事を待った。
信長が心を決めたというように一度頷いて、それから静かに唇を持ち上げる。
「オレだったら全力排除ッスけど……。それならここは、正々堂々真っ向勝負! じゃないッスかね……」
「……やっぱり?」
「ライバルが近しいやつだからって遠慮する必要ないッスよ! 神さんは神さんで、そいつはそいつで頑張ればいいッス!」
「そっか。……やっぱりそれしかないかな」
「そうッスよ! でも、やっぱり神さんは優しいッスね」
信長がにこりと微笑んで言った。
「ライバルにもそんな風に思えるなんて、ほんと尊敬するッス!」
「はは。そんな風に言われると胸が痛いけどね。……そのライバルも、俺にとっては一応大事なやつだから」
「ふうん。でもオレは神さんを応援するッスよ!」
「……ありがと。じゃあ気持ちだけもらっておくよ」
元気よく宣言する信長を見て宗一郎は瞳を細めて微笑むと、手に持っていたドリンクボトルを元に戻した。
「さ。片付けに行くよ、ノブ」
次の日。
宗一郎はまた結花のノートを手に一年の教室へと向かっていた。
今度は数学のノートだ。
昨日の夜、英語のノートがなくて大変だったと散々嘆いていたのに、結花には学習能力が備わっていないんだろうか。
宗一郎は廊下の角を曲がると、見えてきた教室の入り口から聞こえてくる声に苦笑する。
そこからまた結花と信長の仲良さそうな声が漏れ聞こえてきていた。
一度足を止めて肺の奥に息を吸い込むと、宗一郎はうしと気合を入れて教室の中を覗き込んだ。
入り口近くにいた女生徒が宗一郎に気づいて、小さくあっと声をあげた。
それを契機に、その驚きの輪が波紋のように教室に広がっていく。
強豪ぞろいの海南大附属高校の部活の中でも、バスケ部は特に注目度が高い。
そこの二年生レギュラーの宗一郎も、校内ではちょっとした有名人だった。
驚きの余波が結花と信長まで届いて、二人が同時にこちらを振り向く。
信長より一瞬早く、結花が驚きに目をまん丸に見開いて大声を上げた。
「宗ちゃん!?」
結花の口から出た名前に、その横にいた信長が弾かれたように結花を見る。
宗一郎は苦笑すると、ゆっくり二人のほうに歩いていった。
二人の前まで来ると、手に持っていたノートでぱこりと軽く結花の頭を叩く。
「結花。今日は数学のノート忘れてるよ。せっかく予習しても、ノート忘れたら意味ないだろ?」
「はっ! なんと! わざわざ届けてくれたの、宗ちゃん! ありがとう!」
「どういたしまして」
「じ、神さん……。まさか……」
にこりと結花に微笑んでいると、信長の怯えたような声音が割り込んできた。
宗一郎は信長に顔を向けると、困ったように眉尻を下げる。
「そういうことなんだ、ノブ。ごめんね。昨日話した通り俺は本気で行くから、お前もちゃんと本気でぶつかってこいよ」
「――――!」
最後の言葉を不敵な笑みにのせて言うと、信長がおもしろいくらい顔を青ざめさせた。
あんまり驚いて言葉もないのか、餌を求める金魚みたいに信長が口を数度ぱくぱくと動かした。
そんな二人を交互に見つめて、結花がなにがなんだかわからないという表情で眉間に皺を寄せる。
「宗ちゃん? なんの話?」
「恋の話だよ」
「恋?」
言って首を傾げる結花の頬に、宗一郎はそっと唇を押し当てた。
瞬間、熟れたトマトみたいに顔を真っ赤にさせて、宗一郎の触れた頬を押さえた結花が上ずった声をあげる。
「な!? そ、宗ちゃ……!? なにす……!」
動転する結花を見て宗一郎は楽しげに肩を震わせると、くつくつと漏れる吐息の隙間から言葉を押し出した。
「ははは。じゃあね。しっかり勉強しなよ。ノブもね」
宗一郎はそれだけ言うと、身を翻した。
騒がしい二人の声を背に受けて、そのまま教室をあとにする。
この先、自分の恋が実るかどうかなんてわからない。
だけど、覚悟してて。必ず俺のものにしてみせるから。
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