こうして勝負は始まった
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ピーッとけたたましい電子音が体育館に響き渡った。
練習終了の合図だ。
宗一郎は手に持っていたボールをカゴに戻して、ドリンクボトルを取りに下がる。
と、そこに信長もやってきた。
部員全員分のドリンクボトルから目ざとく自分と宗一郎のドリンクボトルを見つけ出すと、宗一郎の隣りにたってそれをはいと差し出してくる。
「どうぞ、神さん」
「ありがとう、ノブ」
「こんくらいお安い御用ッスよ!」
にかっと歯をみせて明るく笑う信長。
宗一郎はそんな信長に、複雑な思いで微笑み返した。
元気で無邪気で屈託なくて、抜群のバスケセンスを武器にスポーツ推薦でこの海南大附属高校に入学したこの後輩は、どうしてか自分を慕ってくれている。
宗一郎はそんな信長をかわいく思っていたけれど、恋愛となったら話は別だ。
いくら信長といえど、長年想いを寄せてきた大切な結花を、何もせずに譲るわけにはいかない。
宗一郎は隣りで勢いよくドリンクボトルを傾けている信長を横目で見ると、そっと心の中で気合を入れた。
不自然にならないように気をつけながら、信長の好きな人を探るために唇を持ち上げる。
「今日さ、昼休みにノブの教室の近くを通ったんだけどさ」
「え、そうなんスか!? えー、それなら寄ってって欲しかったッスよ!」
「はは、ごめんごめん。今日はちょっと用事があって前を通りかかっただけだから。暇な時はそうするよ」
「絶対ッスよ!」
「うん。それでその時、中からノブと女の子の仲良さそうな声が聞こえてきたんだけど、もしかしてその子が前にノブの言ってた好きな子? コロッケがどうのこうの言ってたみたいだけど」
訊ねると、信長の顔が少し紅潮した。瞳を輝かせて、力強く頷く。
「あ! それ聞いてたんスか! そうなんスよ~。その子がオレの好きな子なんス」
「……そっか」
嫌な予感が的中した。
宗一郎の口の中に苦い味が広がる。微かに寄った宗一郎の眉間の皺には気付かず、信長は嬉しそうに好きな子、つまり結花の話を続けている。
しばらくそれを複雑な気持ちで聞いていると、ふと信長が言葉を切った。そういえばと宗一郎の瞳を覗きこむ。
「神さんは好きな人とどうなりました? たしか、神さんの好きな人って幼馴染みなんスよね?」
「え!? あ、うーん……」
突然矛先を向けられて、宗一郎は戸惑った。
その躊躇を見逃さず、信長が食いついてくる。
「あ、もしかしてうまくいってないんスか!?」
「うまくいってないというか……なんというか……」
どうしたものかと言葉を濁していると、信長がどんと自分の胸を叩いた。
「神さん! 悩んでることがあるならオレが力になるッスよ! いつも神さんにお世話になってるお礼、少しでもさせてください!」
「う、うーん……」
信長に言うべきかどうか。宗一郎は素早く思考をめぐらせた。
目の前の後輩は宗一郎の心境などお構いなしに、期待に溢れた目でじっと宗一郎の打ち明け話を待っている。
「…………」
宗一郎は一度大きく息を吐き出すと、決意を固めた。
迷っていてもしょうがない。二人とも結花が好きなのなら、いずれ衝突は避けられない。
だけど、信長の落ち込む姿も見たくはない。なにより信長はこう見えて先輩思いだ。不用意に打ち明けては、自分のために身を引く覚悟を決めかねない。