こうして勝負は始まった
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にこりと綺麗に笑う結花の笑顔を見ながら、宗一郎は胸のうちだけで考える。
結花は鈍感だ。しかもただの鈍感ではない。頭に超がつくほどの鈍感娘だ。
その証拠に、小さな頃からずっとそばにいる宗一郎の気持ちにもちっとも気づいていない。
結花にはゆっくり結花のペースで恋愛をしてもらえたらと、ずっと自分の気持ちに気づくのを待っていたけれど……。
(これはのんびりしているわけにもいかないかな……?)
再び英語の問題に取り掛かってうんうん唸り始めた結花の背中を見つめながら、宗一郎はふうと疲れたような息を吐き出した。
次の日の昼休み。宗一郎は結花の英語のノートを手に、彼女の教室に向かっていた。
今日のために昨日自分の家で予習をしていたはずなのに、肝心のノートを忘れていくなんておっちょこちょいこの上ない。
(そんなところがかわいいんだけど)
宗一郎の口元が自然とほころぶ。
これだからほうっておけないのだ。
そんなことを思いながら、二年の教室のある北校舎から一年の教室のある南校舎へと続く渡り廊下を抜け、結花のクラスのある階に着いたとき。なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「あー! わたしのコロッケー! 最後の楽しみに取っておいたのにー! なんで食べちゃったのよノブー!」
声の主はどうやら結花らしい。
廊下まで声が響くだなんて、コロッケが取られたことがそんなにショックだったんだろうか。
そのことをからかってやろうと足を速めて、ふと聞こえてきた名前に宗一郎はぴたりと足を止めた。
(ノブ……?)
まさか。
昨日感じた嫌な予感に拍車がかかる。胸が小さくさざめいた。
その予感を裏付けるように飛び込んでくる、もうひとつの声。
「なんだよ、そんなに怒るなよ! 全然手をつけねーからてっきりいらないんだとばかり!」
バスケ部後輩の清田信長だった。
宗一郎の脳裏に、二、三日前にその後輩と交わした会話がよみがえる。
『神さん神さん! 聞いてくださいよ! オレ最近、クラスに好きな子が出来たんッスよ!』
『へえ。かわいい子なの?』
『それがもうめっちゃくちゃ! しかも、明るいし元気だし、ちょっとおっちょこちょいで目が離せないっつーか! もうとにかくかわいくて、ついからかっていじめたくなっちゃうんスよねー!』
『はは。随分入れ込んでるね。意地悪したくなっちゃう気持ちはわかるけど、ほどほどにしておきなよ?』
『了解ッス!』
「…………」
キリッと敬礼して答えた後輩の姿が浮かんだのを最後に、宗一郎は現実へと意識を戻す。
まさか。こんな偶然って。
胸にちりちりと焦げつくような感覚が走った。
宗一郎の気持ちなんかお構いなしに、教室からは二人のじゃれあう声が元気よく飛び出してくる。
「そんなわけないでしょー!? あーん、お母さんのコロッケは絶品だから、今日は一日それを楽しみにがんばって生きてきたのにー!!」
「ああ、確かに絶品だった。おまえのお母さん、料理上手なのな」
「そんな感想いらないっ! だ~せ~!!」
「うぎゃあ、やめろ、揺らすんじゃねえ!」
「…………」
前に言っていた信長の好きな子。もうほとんど間違いなく相手は結花だろう。
(これは……困ったな……)
宗一郎はひとり廊下に立ち尽くして小さくため息をつくと、英語のノートを結花に渡すことなく、自分の教室へと引き返した。
結花は鈍感だ。しかもただの鈍感ではない。頭に超がつくほどの鈍感娘だ。
その証拠に、小さな頃からずっとそばにいる宗一郎の気持ちにもちっとも気づいていない。
結花にはゆっくり結花のペースで恋愛をしてもらえたらと、ずっと自分の気持ちに気づくのを待っていたけれど……。
(これはのんびりしているわけにもいかないかな……?)
再び英語の問題に取り掛かってうんうん唸り始めた結花の背中を見つめながら、宗一郎はふうと疲れたような息を吐き出した。
次の日の昼休み。宗一郎は結花の英語のノートを手に、彼女の教室に向かっていた。
今日のために昨日自分の家で予習をしていたはずなのに、肝心のノートを忘れていくなんておっちょこちょいこの上ない。
(そんなところがかわいいんだけど)
宗一郎の口元が自然とほころぶ。
これだからほうっておけないのだ。
そんなことを思いながら、二年の教室のある北校舎から一年の教室のある南校舎へと続く渡り廊下を抜け、結花のクラスのある階に着いたとき。なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「あー! わたしのコロッケー! 最後の楽しみに取っておいたのにー! なんで食べちゃったのよノブー!」
声の主はどうやら結花らしい。
廊下まで声が響くだなんて、コロッケが取られたことがそんなにショックだったんだろうか。
そのことをからかってやろうと足を速めて、ふと聞こえてきた名前に宗一郎はぴたりと足を止めた。
(ノブ……?)
まさか。
昨日感じた嫌な予感に拍車がかかる。胸が小さくさざめいた。
その予感を裏付けるように飛び込んでくる、もうひとつの声。
「なんだよ、そんなに怒るなよ! 全然手をつけねーからてっきりいらないんだとばかり!」
バスケ部後輩の清田信長だった。
宗一郎の脳裏に、二、三日前にその後輩と交わした会話がよみがえる。
『神さん神さん! 聞いてくださいよ! オレ最近、クラスに好きな子が出来たんッスよ!』
『へえ。かわいい子なの?』
『それがもうめっちゃくちゃ! しかも、明るいし元気だし、ちょっとおっちょこちょいで目が離せないっつーか! もうとにかくかわいくて、ついからかっていじめたくなっちゃうんスよねー!』
『はは。随分入れ込んでるね。意地悪したくなっちゃう気持ちはわかるけど、ほどほどにしておきなよ?』
『了解ッス!』
「…………」
キリッと敬礼して答えた後輩の姿が浮かんだのを最後に、宗一郎は現実へと意識を戻す。
まさか。こんな偶然って。
胸にちりちりと焦げつくような感覚が走った。
宗一郎の気持ちなんかお構いなしに、教室からは二人のじゃれあう声が元気よく飛び出してくる。
「そんなわけないでしょー!? あーん、お母さんのコロッケは絶品だから、今日は一日それを楽しみにがんばって生きてきたのにー!!」
「ああ、確かに絶品だった。おまえのお母さん、料理上手なのな」
「そんな感想いらないっ! だ~せ~!!」
「うぎゃあ、やめろ、揺らすんじゃねえ!」
「…………」
前に言っていた信長の好きな子。もうほとんど間違いなく相手は結花だろう。
(これは……困ったな……)
宗一郎はひとり廊下に立ち尽くして小さくため息をつくと、英語のノートを結花に渡すことなく、自分の教室へと引き返した。