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仙道は琴梨に微笑み返すと、瞬間湯沸かし器に水を入れてスイッチを押した。
温まる間に食器棚からマグカップをふたつ取り出して、今度は流しの上の棚を開けて、紅茶のティーパックをふたつ取り出す。
それをひとつずつマグカップの中にいれてスティックシュガーを手にすると、琴梨を振り返った。
「琴梨、砂糖いる?」
「あ、うん」
「何本?」
「一本でいいよ。ありがとう」
「ミルクは?」
「大丈夫。あれ? 彰くんは砂糖とミルク入れるんだったっけ?」
「ううん。オレはストレート派」
「そうだよね。じゃあそれは……彼女用、かな」
「え?」
ポツリと呟かれた琴梨の言葉が聞き取れなくて、仙道は琴梨を振り返った。
艶めく綺麗なストレートの髪を揺らしながら、琴梨が小さく首を横に振る。
「ううん。なんでもない」
その姿に、それまで治まっていた仙道の胸がどきんと高鳴った。
次第に速くなる鼓動を琴梨に悟られない様に、必死に平静を装って相槌を打つ。
「ふうん」
お湯が沸いた、ぱちんという合図の音に、仙道の心臓が飛び跳ねた。
動揺をごまかすように湯沸かし器を手に取ると、勢いよくお湯をティーパックの入ったマグカップに注ぐ。
琴梨がその様子をじっと見つめながら、くすりとかわいらしい声をあげた。
再び高鳴る仙道の心臓。ずっとしまいこんでいた感情がにわかによみがえる。
「ふふ。意外。彰くん、手馴れてるね」
「とは言っても、ティーパックだけどね。……昔、琴梨が淹れてくれた紅茶の味が懐かしいよ」
琴梨は紅茶にとてもこだわりがあって、昔遊びに行くといつも茶葉から丁寧に淹れてくれた。
あれより美味しい紅茶を、仙道はいまだに飲んだことがない。
「ありがとう。またいつか、機会があったら淹れてあげるね」
「うん。ぜひお願い」
「うん」
にこりと綺麗に微笑む琴梨。
昔から琴梨は大人びていて、同世代の女の子たちから頭ひとつ飛び抜けて綺麗だった。
おまけに賢く聡明で、誰にも分け隔てなく優しくて、みんなの憧れの存在だった。
実際は落ち着いた雰囲気に似合わないおっちょこちょいなところもあったけれど、それは仙道しか知らない琴梨の姿だった。
琴梨が自分の前でだけは、みんなに求められる優等生の仮面を剥がして、甘えてくれるのがすごく嬉しくて、同時にそれがすごく優越感だった。自分だけが、琴梨にとって特別な存在なのだと思えた。
だけど、いつからだろう。
そんな琴梨がすごく愛しくて、触れたくてたまらなくなって、その感情を気づかれてしまうことがすごく照れ臭くて、段々と琴梨と距離を空けるようになってしまったのは。
「…………」
仙道が砂糖をかき混ぜる、かちゃかちゃという硬質な金属音だけが、二人きりの部屋に響き渡る。
ふいに落ちた沈黙に仙道の心臓が再び早鐘を打ち始めたとき、その沈黙を破るように、琴梨の凛と澄んだ声音が部屋に響いた。
「ね、彰くん」
どきんと大きく跳ねる心臓。これまた平静を装って仙道は返事をする。
「うん?」
「それにしても今日、よくわたしだってわかったね。もうとっくにわたしのことなんか忘れてるって思ってたから、びっくりしちゃった」
「忘れる? オレが、琴梨を?」
意外な言葉に仙道はきょとんと琴梨を見つめた。
琴梨が眉尻を下げてどこか切なげに微笑む。
温まる間に食器棚からマグカップをふたつ取り出して、今度は流しの上の棚を開けて、紅茶のティーパックをふたつ取り出す。
それをひとつずつマグカップの中にいれてスティックシュガーを手にすると、琴梨を振り返った。
「琴梨、砂糖いる?」
「あ、うん」
「何本?」
「一本でいいよ。ありがとう」
「ミルクは?」
「大丈夫。あれ? 彰くんは砂糖とミルク入れるんだったっけ?」
「ううん。オレはストレート派」
「そうだよね。じゃあそれは……彼女用、かな」
「え?」
ポツリと呟かれた琴梨の言葉が聞き取れなくて、仙道は琴梨を振り返った。
艶めく綺麗なストレートの髪を揺らしながら、琴梨が小さく首を横に振る。
「ううん。なんでもない」
その姿に、それまで治まっていた仙道の胸がどきんと高鳴った。
次第に速くなる鼓動を琴梨に悟られない様に、必死に平静を装って相槌を打つ。
「ふうん」
お湯が沸いた、ぱちんという合図の音に、仙道の心臓が飛び跳ねた。
動揺をごまかすように湯沸かし器を手に取ると、勢いよくお湯をティーパックの入ったマグカップに注ぐ。
琴梨がその様子をじっと見つめながら、くすりとかわいらしい声をあげた。
再び高鳴る仙道の心臓。ずっとしまいこんでいた感情がにわかによみがえる。
「ふふ。意外。彰くん、手馴れてるね」
「とは言っても、ティーパックだけどね。……昔、琴梨が淹れてくれた紅茶の味が懐かしいよ」
琴梨は紅茶にとてもこだわりがあって、昔遊びに行くといつも茶葉から丁寧に淹れてくれた。
あれより美味しい紅茶を、仙道はいまだに飲んだことがない。
「ありがとう。またいつか、機会があったら淹れてあげるね」
「うん。ぜひお願い」
「うん」
にこりと綺麗に微笑む琴梨。
昔から琴梨は大人びていて、同世代の女の子たちから頭ひとつ飛び抜けて綺麗だった。
おまけに賢く聡明で、誰にも分け隔てなく優しくて、みんなの憧れの存在だった。
実際は落ち着いた雰囲気に似合わないおっちょこちょいなところもあったけれど、それは仙道しか知らない琴梨の姿だった。
琴梨が自分の前でだけは、みんなに求められる優等生の仮面を剥がして、甘えてくれるのがすごく嬉しくて、同時にそれがすごく優越感だった。自分だけが、琴梨にとって特別な存在なのだと思えた。
だけど、いつからだろう。
そんな琴梨がすごく愛しくて、触れたくてたまらなくなって、その感情を気づかれてしまうことがすごく照れ臭くて、段々と琴梨と距離を空けるようになってしまったのは。
「…………」
仙道が砂糖をかき混ぜる、かちゃかちゃという硬質な金属音だけが、二人きりの部屋に響き渡る。
ふいに落ちた沈黙に仙道の心臓が再び早鐘を打ち始めたとき、その沈黙を破るように、琴梨の凛と澄んだ声音が部屋に響いた。
「ね、彰くん」
どきんと大きく跳ねる心臓。これまた平静を装って仙道は返事をする。
「うん?」
「それにしても今日、よくわたしだってわかったね。もうとっくにわたしのことなんか忘れてるって思ってたから、びっくりしちゃった」
「忘れる? オレが、琴梨を?」
意外な言葉に仙道はきょとんと琴梨を見つめた。
琴梨が眉尻を下げてどこか切なげに微笑む。