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綺麗に微笑む琴梨に激しく脈打つ鼓動を必死に隠しながら、仙道は微笑み返した。
なるべく余裕たっぷりに見えるように。動揺していることを悟られないように。
頭のてっぺんからつま先まで、全身に神経を張り巡らせる。
ナンパ男を撃退してから、仙道は琴梨をお茶に誘っていた。
これじゃあナンパする人が入れ替わっただけだねなんておかしそうに笑いながら、琴梨は快くオーケーしてくれた。
琴梨とこんな風にちゃんと話すのは何年ぶりだろう。
琴梨とはいわゆる幼馴染みというやつで、小さな頃からずっと一緒にいた。
だけど、中学にあがってしばらくしてから、だんだんと疎遠になってしまった。
その頃のことを思い出すと、今も仙道の胸が苦い後悔でしめつけられる。
「彰くん、こっちに戻ってきてたんだね」
「うん。会社が東京にあるからさ」
隣りを歩く琴梨が眩しくて、仙道は瞳を細めた。
記憶の中の琴梨はいつだって綺麗だったけれど、目の前の琴梨はそれ以上だった。
胸が騒いで顔を見ることさえままならないのに、惹きつけられて目を離すことができない。
まるで少年に戻ったみたいだ。
持て余す感情を隠すように、仙道は眉尻をさげて、顔に笑顔をはりつける。
「ふふ、知ってるよ。そこの実業団でバスケしてるんだよね。この前はオリンピックにも選出されたみたいだし、相変わらずビッグスターだね、彰くんは」
屈託ない笑顔で言われたせりふに、仙道は目を見開いた。
「知ってたんだ……」
驚きのままにそう口にすると、琴梨が一瞬きょとんとして、すぐにおかしそうに笑い声をあげる。
変わらないその笑顔に、仙道の胸がぎゅっと縮んだ。
「あったりまえでしょう? なんていったって、かけがえのない幼馴染みのことですから」
えっへんと胸を反らせて琴梨が言う。そのすぐ後に、何かに気づいたように「あ……」と表情を曇らせた。
「でも、中学あがってからは全然交流もなかったし、こんな風にチェックされてたなんてちょっと気味悪いかな……。ごめんね」
琴梨の淋しげな笑顔に、仙道の心に小さな棘が刺さる。
琴梨にこんな顔をさせてるのは、幼い日の自分だ。
口の中に広がる苦い後悔の味を噛み締めながら、仙道は琴梨の不安を吹き飛ばすように、わざと明るく笑ってみせる。
「はは。なんで。気味悪いわけないよ。……嬉しいよ、琴梨がオレのこと気にしててくれて」
「そう?」
はかるようにじっと見つめてくる琴梨を、仙道は真摯に見つめ返す。
「もちろん。まあ、オレは琴梨の情報なんて全然入ってこなかったから、フェアな気はしないけどね。すっごく知りたかったのに」
「あはは! なあにそれ。わたしはだって彰くんと違ってただの一般ピープルだもの。しょうがないよね。それに、そんなことなら連絡くれればよかったのに」
連絡先、変わってなかったよ。首を傾げた拍子に、琴梨の綺麗な髪がさらりと流れる。
どきんと一際大きく拍動した胸を落ち着けるように、仙道は琴梨から慌てて視線をそらすと、こほんと咳払いした。
「……できるなら、したかったよ」
しぼり出した言葉は唇から出て行かず、琴梨には届かなかったようだ。
え? と聞きかえす琴梨の声に、ううんと仙道は首を振る。
「なんでもない」
「そう?」
「うん、なんでもないよ」
「……ふうん」
どこかまだ引っかかってる様子で琴梨は相槌を打つと、それ以上詮索してはこなかった。