この手の先に
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ねえ、彼女。暇? 僕とお茶しない?」
お決まりの捻りのないナンパ文句がふいに耳に飛び込んできて、仙道は何の気なしにそちらへ視線を向けた。
高校を卒業して早7年。所属している実業団のバスケチームの練習と、仕事との両立の日々にもようやく慣れ始め、久々の丸一日の休みにのんびり買い物に出た午後だった。
今日は薄い雲がちりばめられた涼やかな青い空が印象的な、いい天気だ。
こんな爽やかな日にナンパなどよくやるもんだと、半ば感心しながら仙道は眉をあげる。
ナンパされている女性は同い年くらいだろうか。
こちらからだと後ろ姿しか見ることはできないけれど、陽の光を反射してきらめく髪はさらさらと彼女の動きに合わせて流れ、とても綺麗だ。きっとその髪からは甘い匂いがふわりと香るに違いない。
背丈はちょうど女子の標準くらいで、シルエットはとても華奢だ。品良く着こなされたカーディガンと、膝丈のワンピースから覗く手足が、雪のように白くて目に眩しい。
あれはきっと、美人に違いない。
(でもナンパ男があれじゃ、ダメだな)
こちらから見える、いかにも軽そうなナンパ男の顔を見て、仙道は思った。
格好も、いかにもファッション雑誌を見て研究しましたといわんばかりで、まるで自分のものになっていない。
同じものを着せられたマネキンのほうが、まだサマになるはずだ。
あれでは彼女に限らず、今日一日ナンパしたところで、ろくな成果はあげられないだろう。
仙道は小さく嘆息すると、ゆっくりとそちらへ足を向けた。
普段、こういったことにはあまり関わらないタチだけれど、ナンパされている女性に興味が湧いた。
あんなに魅力的な後ろ姿を持つ彼女の顔を、ぜひとも拝んでみたくなったのだ。
距離が縮まるに連れて聞こえてくる彼女の声も、とても澄んでいて美しく、仙道の好きな声音だった。
胸の柔らかいところに大切にしまってある、懐かしいその響きの持ち主の顔が、ふいに仙道の脳裏をよぎる。
(……まさかな)
仙道は記憶の底から浮かびあがってきた懐かしい面影を振り払うと、少し足を速めた。
彼女のほうへ伸ばされたナンパ男の手を、力強く掴む。
「な、なんだよ……お前!」
ナンパ男が突然の闖入者に驚いて目を見開いた。
仙道はその瞳をしっかり見据えながら、にっこりと笑う。
「ごめんね。この人、オレのツレなの。ナンパなら他をあたってね」
にこにこ笑顔の奥に鋭さを潜ませながら言うと、ナンパ男が見るからにたじろいだ。
「な、なんだよ……。男連れかよ! ケッ、なら最初ッからそう言えよな!」
(あらま、最後までだっさいなぁ)
ぱちくりと目を瞬かせながら、ナンパ文句同様なんの捻りもない捨て台詞を吐いて去っていく男ににこやかに手を振ると、仙道は彼女を振り返った。
「だいじょうぶだった? ここら辺、変なやつ多いからそういうとき……は……」
その顔を見て、絶句する。
頭の中が驚きと混乱でいっぱいになって、周囲から切り離されたようになった。
それは彼女のほうも同じなようで、仙道を見たまま、睫毛の長い綺麗な瞳を驚きに見開いている。
「あ、きら……くん……?」
「琴梨……」
仙道は驚愕に息することを忘れていたからだになんとか酸素を送り込むと、宝物のように大切にしまいこんでいた名前を口にした。
「それにしても、ほんとうに久しぶりだね。彰くん、元気にしてた?」
「それなりにね。琴梨は?」
「わたしも同じかな」
お決まりの捻りのないナンパ文句がふいに耳に飛び込んできて、仙道は何の気なしにそちらへ視線を向けた。
高校を卒業して早7年。所属している実業団のバスケチームの練習と、仕事との両立の日々にもようやく慣れ始め、久々の丸一日の休みにのんびり買い物に出た午後だった。
今日は薄い雲がちりばめられた涼やかな青い空が印象的な、いい天気だ。
こんな爽やかな日にナンパなどよくやるもんだと、半ば感心しながら仙道は眉をあげる。
ナンパされている女性は同い年くらいだろうか。
こちらからだと後ろ姿しか見ることはできないけれど、陽の光を反射してきらめく髪はさらさらと彼女の動きに合わせて流れ、とても綺麗だ。きっとその髪からは甘い匂いがふわりと香るに違いない。
背丈はちょうど女子の標準くらいで、シルエットはとても華奢だ。品良く着こなされたカーディガンと、膝丈のワンピースから覗く手足が、雪のように白くて目に眩しい。
あれはきっと、美人に違いない。
(でもナンパ男があれじゃ、ダメだな)
こちらから見える、いかにも軽そうなナンパ男の顔を見て、仙道は思った。
格好も、いかにもファッション雑誌を見て研究しましたといわんばかりで、まるで自分のものになっていない。
同じものを着せられたマネキンのほうが、まだサマになるはずだ。
あれでは彼女に限らず、今日一日ナンパしたところで、ろくな成果はあげられないだろう。
仙道は小さく嘆息すると、ゆっくりとそちらへ足を向けた。
普段、こういったことにはあまり関わらないタチだけれど、ナンパされている女性に興味が湧いた。
あんなに魅力的な後ろ姿を持つ彼女の顔を、ぜひとも拝んでみたくなったのだ。
距離が縮まるに連れて聞こえてくる彼女の声も、とても澄んでいて美しく、仙道の好きな声音だった。
胸の柔らかいところに大切にしまってある、懐かしいその響きの持ち主の顔が、ふいに仙道の脳裏をよぎる。
(……まさかな)
仙道は記憶の底から浮かびあがってきた懐かしい面影を振り払うと、少し足を速めた。
彼女のほうへ伸ばされたナンパ男の手を、力強く掴む。
「な、なんだよ……お前!」
ナンパ男が突然の闖入者に驚いて目を見開いた。
仙道はその瞳をしっかり見据えながら、にっこりと笑う。
「ごめんね。この人、オレのツレなの。ナンパなら他をあたってね」
にこにこ笑顔の奥に鋭さを潜ませながら言うと、ナンパ男が見るからにたじろいだ。
「な、なんだよ……。男連れかよ! ケッ、なら最初ッからそう言えよな!」
(あらま、最後までだっさいなぁ)
ぱちくりと目を瞬かせながら、ナンパ文句同様なんの捻りもない捨て台詞を吐いて去っていく男ににこやかに手を振ると、仙道は彼女を振り返った。
「だいじょうぶだった? ここら辺、変なやつ多いからそういうとき……は……」
その顔を見て、絶句する。
頭の中が驚きと混乱でいっぱいになって、周囲から切り離されたようになった。
それは彼女のほうも同じなようで、仙道を見たまま、睫毛の長い綺麗な瞳を驚きに見開いている。
「あ、きら……くん……?」
「琴梨……」
仙道は驚愕に息することを忘れていたからだになんとか酸素を送り込むと、宝物のように大切にしまいこんでいた名前を口にした。
「それにしても、ほんとうに久しぶりだね。彰くん、元気にしてた?」
「それなりにね。琴梨は?」
「わたしも同じかな」
1/8ページ