snow magic
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「おっはよ~!!」
言葉とともに、勢い良く雪玉を投げつける。
「おわっ!」
ゆっくりとこちらを振り返った仙道が、咄嗟のことに対応できず、間抜けな声をあげて結花の投げた雪玉を胸で受け止めた。
黒い学生服の胸元に、白い雪玉の名残がこびりつく。
仙道は整った顔を困ったように歪めてそれを叩き落とすと、眉尻を下げて結花を見た。
「おはよ、結花。朝からご挨拶だね」
「うふふ、雪が積もってたからつい!」
「それ、全然言い訳になってないって気づいてる?」
「えー、仙道の読解力が足りないんじゃない? ちゃんと勉強してる?」
「うん。国語は毎回赤点だけど」
「あはは、ダメじゃん」
いつもの軽いやりとりをしながら、結花は弾んだ心と同じように軽快なステップを踏んで仙道のもとへ向かった。
こちらを向いたまま、なにも言わなくても結花がとなりに来るのを待ってくれている仙道が嬉しくて、結花の顔に自然と笑顔が広がっていく。
「はは。ずいぶん上機嫌だね。雪がそんなに嬉しいの?」
結花が仙道の隣りにたどり着くと、仙道が大人びた調子でそんな事を言ってきた。
言外にしょうがないなぁという雰囲気がたっぷりと含まれたその言葉に、結花はむぅと拗ねたように唇を突き出す。
「なによう、仙道はうれしくないの? 雪」
「うーん。俺はこう見てリアリストだからなぁ。嬉しさよりも、滑ったら大変とか、この雪で今日の体育の授業はサッカーなしだなぁとか、そういうことしか考えられないな」
「えー、意外。仙道、雪とかはしゃぎそうなのに」
「はは、そりゃ一緒にはしゃぐ相手がいればね。ひとりなのに結花みたいにはしゃいだりはしないよ」
どういう意味よと、ゆっくり歩き出した仙道の肩を思いっきりこぶしで殴りつける。
仙道は、はははと楽しそうに笑うと、それにしてもと結花を見た。
「結花も遅刻? 珍しいね」
「うん。昨日、うっかり夜遅くまで雪を眺めてたら、寝坊しちゃった」
「へえ。そんなに雪が嬉しい?」
「だってさ、神奈川じゃあ滅多に積もらないじゃない? たった三年間の高校生活のうちで、おまけに仙道と知り合えた二年生の時に、こんな風に雪が積もってうれしいよ」
おかげで仙道に雪玉もぶつけられたし。にやりとわらってそう言うと、仙道が長い睫毛が縁取る綺麗な目を、ぱちくりと瞬かせた。
なにかを考えるように一度瞳を伏せた後、それから悪戯っ子のように瞳をきらきら輝かせて、にんまりと笑う。
「じゃあさ、ちょっと遊んでいこうか」
「え?」
「雪。この近くに、ちょっとした穴場があるんだ。どうせ結花だって、もう学校に間に合うつもりなんてないんでしょ?」
「そりゃそうだけど……。でも、仙道、リアリストだから雪にははしゃがないって言ってなかった?」
疑問に思って仙道に訊くと、仙道は穏やかな表情で笑った。
「ひとりだったらって言ったでしょ? 遊ぶ相手がいたら別。ほんとうは越野あたりに思いっきり雪玉ぶつけて遊んでやろうと思ってたんだけど、予定変更」
「え、まさかわたしと雪合戦するの?」
嫌な予感がして、結花は表情をひきつらせた。
結花は中学高校と文化部だ。体を動かすことは好きだけど、はっきり言って県内でも有名なバスケット選手である仙道と雪合戦をして勝てる気などしない。
「えっと、わたしだけ雪玉に石をつめてもよければ、受けてたちます」
きりっと表情を引き締めて言えば、今度は仙道が大げさなほどに表情をひきつらせた。
「うわ、結花は俺を殺す気だ」