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今でも覚えている。彼女がいなくなってしまったあの日のこと。
思い出しただけで、恐怖や絶望や後悔の念が、今でも変わることなく仙道の内側を激しく焼き焦がす。
――あの夏の日。毎月欠かさず買っていたテニス雑誌を購入しようと仙道は本屋に入った。
その月の号で、全国中学大会の結果が発表されることになっていたのだ。
少し緊張しながらスポーツ雑誌のコーナーへ行って、目的の雑誌を見つけて、仙道は息が止まった。
表紙に躍る文字。
『全中大会に大波乱! テニス界の期待の新星、まさかの負傷! 選手生命は絶望的か!?』。
信じられない思いで雑誌を買って、急いで中身を読んで、伊織が選手生命に関わる大変な怪我をした事を知った。
いてもたってもいられなくなってその足でそのまま電車に飛び乗り、伊織の家の前まで行って。そこから仙道は足がすくんだ様に動けなくなった。
伊織に、なんと声をかけていいかわからなかった。
伊織がテニスとどんな風に向き合ってきたか。伊織がテニスをどれほど好きで大切にしていたか。まわりにも期待されて、それに応えるために伊織がどれほど血の滲むような努力をしてきたか。
全てをわかっている仙道だからこそ、その扉を叩くことができなかった。
慰めの言葉も、励ましの言葉も、何を言っても彼女を追い詰める刃になってしまう気がした。
今はまだ会うときではない。
そんなことを自分に言い聞かせながら、伊織の家の前まで行っては引き返す日々を何日も繰り返した。
けれどそんなある日。
伊織の家が、もぬけの殻になっていた。
鈴村と書かれていた表札も消えている。
驚いて近所のひとに話を聞くと、引っ越したと言われた。行き先は誰も知らなかった。
伊織の家に通いつめているときに偶然知り合った、伊織の弟の月にも連絡を入れたけれど、メアドも番号も変えてしまったようでまったく繋がらなかった。
伊織を探したくても、なんの手がかりもない。
伊織ともう二度と会えない。そのことだけが、なにも考えられなくなった頭にじわじわと染み渡っていく。
そのときになって、仙道ははっきり気付いた。
ほんとうは、何も出来ないんじゃなくてただ逃げていただけだってこと。自分が彼女を支えられるか自信がなくて、それが怖くて、もっともらしい言い訳をして。ただ逃げていただけだったということに、はっきりと気がついた。
彼女がどんな気持ちでいるのかを考えたら、言葉なんかなくても、ただそばにいるだけでもよかったはずなのに……。
いまさら後悔してもなにもかも遅かった。
鈴村家の引っ越し先も連絡先も誰も知らない。もうどうあっても探せない。
あの時、躊躇さえしていなければ。
あの時、逃げ出さずにちゃんと向き合っていれば。
こんなことにならなかったはずなのに。
手を伸ばせば届く距離にいたのに。
もう二度と会えなくなってしまった。
永遠に。伊織を失ってしまった。
「…………」
昔を思い出し、仙道はきつく目をつむった。
悲鳴を上げる胸をぎゅっと掴む。
海南で伊織を見たとき、奇跡だと思った。
出会った後も、起きたら全部夢だったんじゃないかと凄く怖かった。
今でも毎朝、ケータイのメモリに伊織の名前があるのを確認して、夢じゃないことを確かめている。
あんな想いは、もう二度としたくない。
仙道はゆっくり息を吐き出すと、閉じていた目を開けて、腕時計を確認した。
あと十分後に目的の電車が出てしまう。
仙道はいけねと呟くと、過去の後悔を振り払うように地面を力強く蹴った。
伊織は慌てて体育館へ向かって駆けていた。
もう時計は午後五時を指そうとしている。
今日はLHR委員で担任に呼び出されたため、部活に出るのが遅くなってしまった。
なんでも明日のLHRで球技大会の種目決めを行うから、事前に段取りを打ち合わせとくようにとの仰せだった。
生真面目な相方のせいで、たった二人の話し合いがまさかの三時間弱にも及んでしまった。
伊織は適当に終わらせればいいと思っていたのだが、相方は違った。
思い出しただけで、恐怖や絶望や後悔の念が、今でも変わることなく仙道の内側を激しく焼き焦がす。
――あの夏の日。毎月欠かさず買っていたテニス雑誌を購入しようと仙道は本屋に入った。
その月の号で、全国中学大会の結果が発表されることになっていたのだ。
少し緊張しながらスポーツ雑誌のコーナーへ行って、目的の雑誌を見つけて、仙道は息が止まった。
表紙に躍る文字。
『全中大会に大波乱! テニス界の期待の新星、まさかの負傷! 選手生命は絶望的か!?』。
信じられない思いで雑誌を買って、急いで中身を読んで、伊織が選手生命に関わる大変な怪我をした事を知った。
いてもたってもいられなくなってその足でそのまま電車に飛び乗り、伊織の家の前まで行って。そこから仙道は足がすくんだ様に動けなくなった。
伊織に、なんと声をかけていいかわからなかった。
伊織がテニスとどんな風に向き合ってきたか。伊織がテニスをどれほど好きで大切にしていたか。まわりにも期待されて、それに応えるために伊織がどれほど血の滲むような努力をしてきたか。
全てをわかっている仙道だからこそ、その扉を叩くことができなかった。
慰めの言葉も、励ましの言葉も、何を言っても彼女を追い詰める刃になってしまう気がした。
今はまだ会うときではない。
そんなことを自分に言い聞かせながら、伊織の家の前まで行っては引き返す日々を何日も繰り返した。
けれどそんなある日。
伊織の家が、もぬけの殻になっていた。
鈴村と書かれていた表札も消えている。
驚いて近所のひとに話を聞くと、引っ越したと言われた。行き先は誰も知らなかった。
伊織の家に通いつめているときに偶然知り合った、伊織の弟の月にも連絡を入れたけれど、メアドも番号も変えてしまったようでまったく繋がらなかった。
伊織を探したくても、なんの手がかりもない。
伊織ともう二度と会えない。そのことだけが、なにも考えられなくなった頭にじわじわと染み渡っていく。
そのときになって、仙道ははっきり気付いた。
ほんとうは、何も出来ないんじゃなくてただ逃げていただけだってこと。自分が彼女を支えられるか自信がなくて、それが怖くて、もっともらしい言い訳をして。ただ逃げていただけだったということに、はっきりと気がついた。
彼女がどんな気持ちでいるのかを考えたら、言葉なんかなくても、ただそばにいるだけでもよかったはずなのに……。
いまさら後悔してもなにもかも遅かった。
鈴村家の引っ越し先も連絡先も誰も知らない。もうどうあっても探せない。
あの時、躊躇さえしていなければ。
あの時、逃げ出さずにちゃんと向き合っていれば。
こんなことにならなかったはずなのに。
手を伸ばせば届く距離にいたのに。
もう二度と会えなくなってしまった。
永遠に。伊織を失ってしまった。
「…………」
昔を思い出し、仙道はきつく目をつむった。
悲鳴を上げる胸をぎゅっと掴む。
海南で伊織を見たとき、奇跡だと思った。
出会った後も、起きたら全部夢だったんじゃないかと凄く怖かった。
今でも毎朝、ケータイのメモリに伊織の名前があるのを確認して、夢じゃないことを確かめている。
あんな想いは、もう二度としたくない。
仙道はゆっくり息を吐き出すと、閉じていた目を開けて、腕時計を確認した。
あと十分後に目的の電車が出てしまう。
仙道はいけねと呟くと、過去の後悔を振り払うように地面を力強く蹴った。
伊織は慌てて体育館へ向かって駆けていた。
もう時計は午後五時を指そうとしている。
今日はLHR委員で担任に呼び出されたため、部活に出るのが遅くなってしまった。
なんでも明日のLHRで球技大会の種目決めを行うから、事前に段取りを打ち合わせとくようにとの仰せだった。
生真面目な相方のせいで、たった二人の話し合いがまさかの三時間弱にも及んでしまった。
伊織は適当に終わらせればいいと思っていたのだが、相方は違った。