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「なんかわたし……宗先輩の前で泣いてばっかりですね……。すみません」
しばらくして伊織は泣き止むと、自分の体勢に改めて気付いたのか、顔を真っ赤にして大慌てで離れていった。
宗一郎は心の片隅で少し名残惜しく思いながらもおとなしく伊織を腕から開放し、自販機でポカリを買って、はい涙の水分補給とか言いながら伊織にポカリを差し出すと、伊織は情けなさそうに眉尻を下げてそう言った。
宗一郎はそれに小さく首を振って、微笑を返す。
「いいよ。人生には時には涙も必要だよ」
「ふふ。おじいちゃんですね」
「――いい度胸してるね。伊織ちゃん」
宗一郎は、唇の端を持ち上げて言う伊織を横目で見て言った。
すると、伊織は慌てたように手を顔の前で横に振る。
「あわわ、冗談です!!」
「ふうん」
「ほんとですってば!」
信じてなさそうに返事をすれば、伊織が慌てて身を乗り出して言う。
宗一郎はそれをみて声を上げて笑った。
「はは、わかってるよ」
ほんとうに伊織は表情がころころ変わる。
いくら見ても飽きなかった。
その全てが可愛くて、愛しくて、……守ってやりたくて。
(こんなにも大切なんだ……)
もう、からかって! と隣りでぷうと頬を膨らませる伊織を、再び抱きしめたい衝動に駆られながら、宗一郎は表情を緩めた。
「宗先輩。……今はまだ、わたしが弱くて、過去がこわくて、とても、話せないけれど……。いつか、わたしが話せるときがきたら、そのときは、また聞いてくれますか?」
「――うん。待ってる」
「ふふ、ありがとうございます。……宗先輩は、強いですね」
不意に伊織が、目を伏せてそう言った。
宗一郎は小さく笑ってそれを否定する。
「そんなことないよ。俺だって落ち込んだりするよ」
「泣いたり……?」
「それは……ないかな。俺、強い子だから」
おどけてそう返すと、伊織がええー! と口を尖らせた。
「なんですか、それー! 人には涙も必要だって言っといて!」
「はは、そうだね。……うん。じゃあ、俺もこれからは、悲しいときは泣こうかな」
「それがいいです!」
ぐっと伊織が拳を握り締めて言う。
(ああ、そんなしぐさも好きだな)
宗一郎は、思ってふわりと笑った。
怒った顔も、拗ねた顔も、泣いた顔も、笑った顔も。全部が好き。
宗一郎は目を細めて伊織を見た。
「ね、伊織ちゃん。そのときは……俺、伊織ちゃんの隣りがいいな」
「え?」
「俺が泣きたいとき、伊織ちゃんは隣りにいてくれる?」
宗一郎は、伊織をじっと見つめた。
視線の先の伊織は、耳まで真っ赤に染めて、池の鯉みたいに何度も口をぱくぱくさせている。
正直言ってとても変な顔だった。
「っはは!」
ついにこらえきれずに、宗一郎は吹き出した。
ブランコの柵から腰を上げると、左手をぐっと頭の上にあげて伸びをする。
「冗談だよ、伊織ちゃん。変なこと言ってごめんね。さ、帰ろっか。……!」
そう言って自転車へ向けて歩き出した宗一郎は、突然後ろに引っ張られて立ち止まった。
「あ、あの!」
首をめぐらせると、伊織が顔を真っ赤にして宗一郎の服の裾を掴んでいる。
「伊織ちゃん?」
「わ、わたし、そばにいますから!」
「え?」
「宗先輩が泣きたいときは、わたし、必ず宗先輩のそばにいます! どんなに離れてても、絶対絶対飛んでいきます! ――だから、だから必ず、悲しいときはひとりになったりせずに、わたしを呼んでくださいね……?」
「!」
そう言って、高潮した頬と、潤んだ瞳にまっすぐ見上げられて、今度は宗一郎が耳まで真っ赤になった。
(ああ、もう。この子はどんだけ俺のことを夢中にさせれば気が済むんだろう)
愛しさにぎゅっとなる胸に、なんだか泣き出したい気持ちになった。
愛しさで胸が詰まって。呼吸さえままならなくて。
目の前のキミが、今こんなにも愛しい。
宗一郎は溢れる愛しさが零れないように気をつけながら、笑った。
「うん。ありがとう」
いつかきっと、キミにこの気持ちを伝えたい。
でもそれは……。
(もうちょっと先……かな)
宗一郎はふう、と息を吐き出すと、伊織を振り返った。
「ほら、伊織ちゃん。後ろに乗って」
「はい!」
元気良く飛び乗った伊織の体重を肩に感じながら、宗一郎は自転車をこぎだした。
To be continued…
しばらくして伊織は泣き止むと、自分の体勢に改めて気付いたのか、顔を真っ赤にして大慌てで離れていった。
宗一郎は心の片隅で少し名残惜しく思いながらもおとなしく伊織を腕から開放し、自販機でポカリを買って、はい涙の水分補給とか言いながら伊織にポカリを差し出すと、伊織は情けなさそうに眉尻を下げてそう言った。
宗一郎はそれに小さく首を振って、微笑を返す。
「いいよ。人生には時には涙も必要だよ」
「ふふ。おじいちゃんですね」
「――いい度胸してるね。伊織ちゃん」
宗一郎は、唇の端を持ち上げて言う伊織を横目で見て言った。
すると、伊織は慌てたように手を顔の前で横に振る。
「あわわ、冗談です!!」
「ふうん」
「ほんとですってば!」
信じてなさそうに返事をすれば、伊織が慌てて身を乗り出して言う。
宗一郎はそれをみて声を上げて笑った。
「はは、わかってるよ」
ほんとうに伊織は表情がころころ変わる。
いくら見ても飽きなかった。
その全てが可愛くて、愛しくて、……守ってやりたくて。
(こんなにも大切なんだ……)
もう、からかって! と隣りでぷうと頬を膨らませる伊織を、再び抱きしめたい衝動に駆られながら、宗一郎は表情を緩めた。
「宗先輩。……今はまだ、わたしが弱くて、過去がこわくて、とても、話せないけれど……。いつか、わたしが話せるときがきたら、そのときは、また聞いてくれますか?」
「――うん。待ってる」
「ふふ、ありがとうございます。……宗先輩は、強いですね」
不意に伊織が、目を伏せてそう言った。
宗一郎は小さく笑ってそれを否定する。
「そんなことないよ。俺だって落ち込んだりするよ」
「泣いたり……?」
「それは……ないかな。俺、強い子だから」
おどけてそう返すと、伊織がええー! と口を尖らせた。
「なんですか、それー! 人には涙も必要だって言っといて!」
「はは、そうだね。……うん。じゃあ、俺もこれからは、悲しいときは泣こうかな」
「それがいいです!」
ぐっと伊織が拳を握り締めて言う。
(ああ、そんなしぐさも好きだな)
宗一郎は、思ってふわりと笑った。
怒った顔も、拗ねた顔も、泣いた顔も、笑った顔も。全部が好き。
宗一郎は目を細めて伊織を見た。
「ね、伊織ちゃん。そのときは……俺、伊織ちゃんの隣りがいいな」
「え?」
「俺が泣きたいとき、伊織ちゃんは隣りにいてくれる?」
宗一郎は、伊織をじっと見つめた。
視線の先の伊織は、耳まで真っ赤に染めて、池の鯉みたいに何度も口をぱくぱくさせている。
正直言ってとても変な顔だった。
「っはは!」
ついにこらえきれずに、宗一郎は吹き出した。
ブランコの柵から腰を上げると、左手をぐっと頭の上にあげて伸びをする。
「冗談だよ、伊織ちゃん。変なこと言ってごめんね。さ、帰ろっか。……!」
そう言って自転車へ向けて歩き出した宗一郎は、突然後ろに引っ張られて立ち止まった。
「あ、あの!」
首をめぐらせると、伊織が顔を真っ赤にして宗一郎の服の裾を掴んでいる。
「伊織ちゃん?」
「わ、わたし、そばにいますから!」
「え?」
「宗先輩が泣きたいときは、わたし、必ず宗先輩のそばにいます! どんなに離れてても、絶対絶対飛んでいきます! ――だから、だから必ず、悲しいときはひとりになったりせずに、わたしを呼んでくださいね……?」
「!」
そう言って、高潮した頬と、潤んだ瞳にまっすぐ見上げられて、今度は宗一郎が耳まで真っ赤になった。
(ああ、もう。この子はどんだけ俺のことを夢中にさせれば気が済むんだろう)
愛しさにぎゅっとなる胸に、なんだか泣き出したい気持ちになった。
愛しさで胸が詰まって。呼吸さえままならなくて。
目の前のキミが、今こんなにも愛しい。
宗一郎は溢れる愛しさが零れないように気をつけながら、笑った。
「うん。ありがとう」
いつかきっと、キミにこの気持ちを伝えたい。
でもそれは……。
(もうちょっと先……かな)
宗一郎はふう、と息を吐き出すと、伊織を振り返った。
「ほら、伊織ちゃん。後ろに乗って」
「はい!」
元気良く飛び乗った伊織の体重を肩に感じながら、宗一郎は自転車をこぎだした。
To be continued…