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夢小説設定
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「チューッス!」
信長の元気なその声に、体育館にいた全員が振り返り挨拶を返す。
伊織とまりあも同じように挨拶をし、体育館へと入る。
「しつれいしまーす」
「あっ、宗ちゃん!」
まりあは宗一郎の姿を見つけて、伊織の腕から抜け出してそちらへ駆け出していった。
伊織は心細い気持ちでそろそろと入って行くと、牧が出迎えてくれた。
「おう、鈴村。いいところにきた。ワックスがけの後だから今日はまずモップで床をからぶきしてくれ。俺たちはウォームアップするから、すまないがマネージャーだけで頼む」
「ハッ! 了解です!」
牧の手からモップを受け取ると、伊織はおそるおそる牧を見上げた。
「……牧先輩。この前のこと、何も聞かないんですね」
「なんだ? 聞いて欲しいなら聞くぞ。なんならホワイトボードを囲んでメモをとりながら、部員全員でお前を質問攻めにしてやってもいいが」
「…………。もしかして、バスケ部ってみんなけっこう性格悪いんですか?」
「ほおう。鈴村は座談会が希望……か。じゃあホワイトボードを……」
「わああ、嘘です嘘です!」
おもむろに体育倉庫へむかおうとした牧の腕にしがみついて、伊織は必死に止めた。
牧が快活に笑い出す。
「ははっ! 冗談だ、冗談」
(うう、冗談にみえないところがおそろしい……)
思って伊織は心で涙した。
絶対さっきの半分くらいは本気だったような気がする!
「まあ、遊びはこれくらいにして。もしお前が本当に話を聞いて欲しいんだったらいつでも来い。どれほど力になれるかはわからないが、俺でよければいつだって話を聞いてやる。――鈴村、あんまりひとりで抱え込むなよ」
牧はそう言って伊織の髪をくしゃくしゃっと撫でると、部員たちのもとへ歩いていった。
伊織はその背中を感謝の瞳で見つめて、モップを抱えて歩き出す。
小百合に自分は右端からかけていくことを伝えると、伊織は位置についた。
モップを体の後ろにおいて、両手でひっぱるようにしながらからぶきをしていく。
ウォームアップをしている面々の中に宗一郎の姿を見つけて、伊織はふうとため息をついた。
(なんだか宗先輩と顔あわせづらいな)
『伊織ちゃんのためにやったわけじゃないから』
あの時宗一郎に言われた言葉が、伊織の頭から離れなかった。
ちょっとでもうぬぼれてしまった自分が恥ずかしい。きっとそれを見透かされたから、あんな風に言われたんだ。なんだかもう消えてしまいたかった。
もしかしたら、ずうずうしいやつだって嫌われてしまった可能性もある。
おまけに、その後に仙道とあんなことになってしまって、変な誤解をされてしまったかもしれない。
(まあ、宗先輩にとってわたしはただの後輩だろうから、誤解どころかなんとも思ってないかもしれないけど……さ)
悲しくなって伊織はくすんと鼻を鳴らすと、モップがけに没頭した。
伊織はまりあと並んでぼんやりと信長と宗一郎の自主練習を眺めていた。
最近は信長が宗一郎と一緒に自主練をするようになったため、四人で一緒に帰ることが増えてきた。
宗一郎が500本目のボールを放り、みごとそれがネットを揺らすのを見届けると伊織とまりあは立ち上がった。
二人を着替えに行かせ、自分たちはボールをひろってカゴにおさめ、フロアをモップがけする。