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宗一郎は、思い出して机の上の拳をぐっと握り締めた。
『お前は伊織ちゃんのこと何も知らない』
脳裏にひらめく、あのときの仙道の言葉。
宗一郎は唇を噛み締めた。
仙道の言うとおりだった。
今の自分は、伊織がなぜ泣いているのか、仙道の言葉が何を意味するのか、まったく何もわからない。
このまま諦めるしかないのだろうか。
(くそっ)
宗一郎はさらに強く拳を握り締めた。
そんなのは嫌だった。諦めたくはない。
伊織と出会ってまだ二ヶ月も経ってないけど、もうこんなにも彼女は自分の内側を占めている。
それなのに、あのとき何も言い返せず突っ立ってただけの自分が情けなかった。
一瞬でも、敵わないと、入っていけないと感じた自分が許せなかった。
あまりの力に、握り締めた拳が白くなっている。
悔しい。
こんなにも力になりたいと望んでいるのに、なにもできないなんて。
脳裏によぎる伊織の泣き顔。
彼女にあんな表情をさせたくない。いつでも笑顔でいられるように守ってやりたい。
「……ん、じ……! じん!」
そのとき、突然大きな声で誰かに名前を呼ばれた。
急に思考の海から拾い上げられ、宗一郎は一瞬混乱した。
(え……と?)
「神!」
再び鋭く名前を呼ばれ、突如として現実感が迫ってくる。
そうだ。今は授業中。この声は、数学教師の松本の声だ。
はっきり理解すると、宗一郎は慌てて返事をして教科書を手に持って立ち上がった。
「ぅわ、はい!」
すると、先ほど名前を呼んだ教師・松本がなにやら呆れたような笑顔を浮かべてこちらを見た。
「問2の(2)を解いてみろ……と言いたいところだが、その様子じゃあ無理そうだな」
言って、松本は手にしている巨大な三角定規で宗一郎の手もとを指した。
導かれるままに視線を自分の手元に向けると、なんとその手には英語Rの教科書が握られていた。しかも上下逆さまに。
「え、あれ、英語!?」
驚いて声を上げた宗一郎に、教室がどっと沸いた。
なにやってんだよ神~という声が、教室のそこここから巻き起こる。
「はは。めずらしいな、神。優等生のお前がこんな失態とは。まあ、一度きりの青春だ。時には授業を忘れて物思いに耽るのもいいだろう。――だがしかし!」
松本はそこで、わざとらしいくらい真剣な表情で宗一郎を見た。
そして言う。きっぱりと。
「それはオレ以外の授業で頼む」
そこで、またも教室が笑いに包まれた。
ほんとうに松本はなんて教師だろう。
宗一郎も一緒になって笑うと、その合間から縫うように謝罪の言葉を述べる。
「はは、先生、すいませんでした。次からは気をつけます」
「よし! じゃあ座れ、神。あと教科書も数Ⅱに戻せよ」
「はい」
それだけ言って宗一郎は席に着いた。
教室では、まだ生徒たちが松本に向けてぎゃあぎゃあ言っている。
『お前は伊織ちゃんのこと何も知らない』
脳裏にひらめく、あのときの仙道の言葉。
宗一郎は唇を噛み締めた。
仙道の言うとおりだった。
今の自分は、伊織がなぜ泣いているのか、仙道の言葉が何を意味するのか、まったく何もわからない。
このまま諦めるしかないのだろうか。
(くそっ)
宗一郎はさらに強く拳を握り締めた。
そんなのは嫌だった。諦めたくはない。
伊織と出会ってまだ二ヶ月も経ってないけど、もうこんなにも彼女は自分の内側を占めている。
それなのに、あのとき何も言い返せず突っ立ってただけの自分が情けなかった。
一瞬でも、敵わないと、入っていけないと感じた自分が許せなかった。
あまりの力に、握り締めた拳が白くなっている。
悔しい。
こんなにも力になりたいと望んでいるのに、なにもできないなんて。
脳裏によぎる伊織の泣き顔。
彼女にあんな表情をさせたくない。いつでも笑顔でいられるように守ってやりたい。
「……ん、じ……! じん!」
そのとき、突然大きな声で誰かに名前を呼ばれた。
急に思考の海から拾い上げられ、宗一郎は一瞬混乱した。
(え……と?)
「神!」
再び鋭く名前を呼ばれ、突如として現実感が迫ってくる。
そうだ。今は授業中。この声は、数学教師の松本の声だ。
はっきり理解すると、宗一郎は慌てて返事をして教科書を手に持って立ち上がった。
「ぅわ、はい!」
すると、先ほど名前を呼んだ教師・松本がなにやら呆れたような笑顔を浮かべてこちらを見た。
「問2の(2)を解いてみろ……と言いたいところだが、その様子じゃあ無理そうだな」
言って、松本は手にしている巨大な三角定規で宗一郎の手もとを指した。
導かれるままに視線を自分の手元に向けると、なんとその手には英語Rの教科書が握られていた。しかも上下逆さまに。
「え、あれ、英語!?」
驚いて声を上げた宗一郎に、教室がどっと沸いた。
なにやってんだよ神~という声が、教室のそこここから巻き起こる。
「はは。めずらしいな、神。優等生のお前がこんな失態とは。まあ、一度きりの青春だ。時には授業を忘れて物思いに耽るのもいいだろう。――だがしかし!」
松本はそこで、わざとらしいくらい真剣な表情で宗一郎を見た。
そして言う。きっぱりと。
「それはオレ以外の授業で頼む」
そこで、またも教室が笑いに包まれた。
ほんとうに松本はなんて教師だろう。
宗一郎も一緒になって笑うと、その合間から縫うように謝罪の言葉を述べる。
「はは、先生、すいませんでした。次からは気をつけます」
「よし! じゃあ座れ、神。あと教科書も数Ⅱに戻せよ」
「はい」
それだけ言って宗一郎は席に着いた。
教室では、まだ生徒たちが松本に向けてぎゃあぎゃあ言っている。