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そのとき突然、頭の中の感触と現実の感触が一致して、伊織はハッと我に返った。
「は、離してください!」
叫ぶと同時に、目の前にある仙道のたくましい胸板を強く押した。
体育館中の視線が、身体中に突き刺さって痛い。
けれど、いまはそんなことどうでもよかった。
早く、仙道彰から逃れたい。伊織の頭はその一点に集中された。
戸惑うようにこちらを見る仙道から視線を外し、伊織は声を張り上げた。
「わっ、わたしは伊織じゃありません!」
「へ!?」
予想もしないその言葉に、仙道が素っ頓狂な声を上げた。
海南の部員たちも、みんな一様に伊織の言葉に口をぽかんと開けている。
伊織はかまわず続けた。
「さっ、三枝!」
「え?」
「三枝みどりって言います!」
「え? それって、伊織ちゃんのコーチの名前じゃ……?」
「! えと、若松! 若松佳織です!」
「……それは、伊織ちゃんのライバル」
「ああ! じゃあ、上田です。上田笙子(しょうこ)!」
「それは、伊織ちゃんの親友」
ことごとく返され、伊織がぐっと言葉に詰まった。
その瞬間を見逃さず、仙道は膝を折って伊織の顔を覗き込むと、伊織を安心させるようににこりと微笑んだ。
変わらない、仙道の優しい微笑み。伊織の胸が、ずきりと音を立てる。
「伊織ちゃん、もういいでしょ? 君は、鈴村伊織ちゃんだよね?」
「いえ……、わたしは、あの……っ」
もう言葉がなにも出てこない。
それでもなんとかごまかしたくて、伊織が何度も口をぱくぱくさせていると、仙道が伊織の頬に大きな手で優しく触れた。
伊織の体が、びくりと揺れる。
「……元気そうでよかった」
仙道はそう言って目を細めて微笑んだ。
伊織の胸がぎしぎしと痛み、悲鳴を上げる。
会いたくなかった。会えなかった。こんな自分で、再び出会うはずではなかったのに。
頭をかすめる、あの頃の自分。
全てを手にして笑っていた、過去。
果たせなかった、大切な約束。
「どうして……」
絞り出すように、伊織が言った。
「どうして彰さんが神奈川にいるんですか! 東京に進学するって言ってたのに……!」
「うん。部活引退したときはそう思ってたんだけど。直前で変えたんだ、進路。そのときには伝えないって約束をしてたから言えなくて……。それより、伊織ちゃん。伊織ちゃんこそ何でここにいるの? ずっと心配してたんだ。全然連絡もとれなくて」
「わたし……っ、わたしは……っ!」
そこまで言って、伊織は顔を伏せた。
視界がにじむ。
どうして。
思考がうまく定まらない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
なんで。どうして。
そのとき、ふいに後ろから伊織の肩に手が置かれた。
伊織のただならぬ様子に心配してやってきた宗一郎だった。
「伊織ちゃん、大丈夫?」
「宗……先輩!」
伊織は宗一郎を見てほっとしたように緊張した顔を緩めると、宗一郎の後ろに隠れた。
「は、離してください!」
叫ぶと同時に、目の前にある仙道のたくましい胸板を強く押した。
体育館中の視線が、身体中に突き刺さって痛い。
けれど、いまはそんなことどうでもよかった。
早く、仙道彰から逃れたい。伊織の頭はその一点に集中された。
戸惑うようにこちらを見る仙道から視線を外し、伊織は声を張り上げた。
「わっ、わたしは伊織じゃありません!」
「へ!?」
予想もしないその言葉に、仙道が素っ頓狂な声を上げた。
海南の部員たちも、みんな一様に伊織の言葉に口をぽかんと開けている。
伊織はかまわず続けた。
「さっ、三枝!」
「え?」
「三枝みどりって言います!」
「え? それって、伊織ちゃんのコーチの名前じゃ……?」
「! えと、若松! 若松佳織です!」
「……それは、伊織ちゃんのライバル」
「ああ! じゃあ、上田です。上田笙子(しょうこ)!」
「それは、伊織ちゃんの親友」
ことごとく返され、伊織がぐっと言葉に詰まった。
その瞬間を見逃さず、仙道は膝を折って伊織の顔を覗き込むと、伊織を安心させるようににこりと微笑んだ。
変わらない、仙道の優しい微笑み。伊織の胸が、ずきりと音を立てる。
「伊織ちゃん、もういいでしょ? 君は、鈴村伊織ちゃんだよね?」
「いえ……、わたしは、あの……っ」
もう言葉がなにも出てこない。
それでもなんとかごまかしたくて、伊織が何度も口をぱくぱくさせていると、仙道が伊織の頬に大きな手で優しく触れた。
伊織の体が、びくりと揺れる。
「……元気そうでよかった」
仙道はそう言って目を細めて微笑んだ。
伊織の胸がぎしぎしと痛み、悲鳴を上げる。
会いたくなかった。会えなかった。こんな自分で、再び出会うはずではなかったのに。
頭をかすめる、あの頃の自分。
全てを手にして笑っていた、過去。
果たせなかった、大切な約束。
「どうして……」
絞り出すように、伊織が言った。
「どうして彰さんが神奈川にいるんですか! 東京に進学するって言ってたのに……!」
「うん。部活引退したときはそう思ってたんだけど。直前で変えたんだ、進路。そのときには伝えないって約束をしてたから言えなくて……。それより、伊織ちゃん。伊織ちゃんこそ何でここにいるの? ずっと心配してたんだ。全然連絡もとれなくて」
「わたし……っ、わたしは……っ!」
そこまで言って、伊織は顔を伏せた。
視界がにじむ。
どうして。
思考がうまく定まらない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
なんで。どうして。
そのとき、ふいに後ろから伊織の肩に手が置かれた。
伊織のただならぬ様子に心配してやってきた宗一郎だった。
「伊織ちゃん、大丈夫?」
「宗……先輩!」
伊織は宗一郎を見てほっとしたように緊張した顔を緩めると、宗一郎の後ろに隠れた。