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『これで一旦お別れだね、伊織ちゃん』
脳裏に響く、懐かしい愛しいあの声。
胸の苦しくなるような、泣きたくなるようなあの言葉。
そうだ。わたしはあのとき、そう言ったあの人に、笑顔を返した。伊織はぼんやり思い出す。
目の前の彼、仙道彰。手には卒業証書を持って。ぽっかり空いた彼の制服の第二ボタンは、今は伊織の手の中にある。
愛おしむようにそれを親指の腹でさっと撫でて、その裏の感情を隠すように伊織は眉尻を下げてにっこり笑った。
『……はい』
『伊織ちゃん……。オレ……』
そこまで言いかけて、一瞬の躊躇ののち仙道は首を振る。
『いや……、今は、ダメだね』
『――はい』
何かを堪えるような仙道のその声に、伊織は視線を足元に落とし、笑顔を零した。
将来を嘱望されたアスリートの二人。仙道はバスケで。伊織はテニスで。
特にテニスはメンタルスポーツだ。
多感な時期の恋愛は、もっとも精神面に反映する。
必死で積み上げた練習の成果も、精神状態が不安定に陥るだけでまったく無になってしまうことも少なくはない。
伊織も仙道もそれがわかっていたから、伊織のコーチが唱えた恋愛禁止を素直に受け入れた。
恋愛と同じくらい、自分たちにとってはテニスが、バスケが大切だった。
だけど、無理に気持ちを殺すことはしないで。好きな気持ちはそのままで。お互いに距離を保って寄り添いあいながら、もしも自分たちがもう少し大人になって、もう少し上手に精神をコントロールすることができるようになったなら。そのときまでお互いの気持ちを変わらず持っていられたなら、その時は……。
伊織の視界が、ぼんやりとかすむ。
仙道と離れたくなかった。
悲しい別れじゃないはずなのに。そう、これはきっと、二人の新たな始まり。
それなのに……。
『彰さん』
『うん?』
『わたし……。わたし、きっと中学大会で三連覇します。だから……その時まで、待っていてください』
『――うん』
仙道の瞳が、優しい色に染まる。
『その時までには、オレも雑誌に載るくらい活躍しておくよ』
『絶対ですよ。わたし、それを頼りに会いにいきますからね』
『うん……』
暗黙の約束だった。
連絡先も、進学先も、お互いに何も伝えないと決めた。
だから、それが達成できなかったときには――。
『伊織ちゃん……』
仙道は、そっと目の前の伊織に手を伸ばす。
伊織をそのたくましい腕の中にすっぽりとおさめると、仙道はその存在を確かめるようにぎゅっと回した腕に力を込めた。
伊織を見つめる睫毛を震わせて、仙道は胸の中に溢れる想いをこらえるように、小さく囁く。
『伊織ちゃん……。大好きだよ』
『わたしも、大好きです』
『伊織ちゃん。――きっと、また』
『はい』
『そしたら、その時は……』
『はい……!』
脳裏に響く、懐かしい愛しいあの声。
胸の苦しくなるような、泣きたくなるようなあの言葉。
そうだ。わたしはあのとき、そう言ったあの人に、笑顔を返した。伊織はぼんやり思い出す。
目の前の彼、仙道彰。手には卒業証書を持って。ぽっかり空いた彼の制服の第二ボタンは、今は伊織の手の中にある。
愛おしむようにそれを親指の腹でさっと撫でて、その裏の感情を隠すように伊織は眉尻を下げてにっこり笑った。
『……はい』
『伊織ちゃん……。オレ……』
そこまで言いかけて、一瞬の躊躇ののち仙道は首を振る。
『いや……、今は、ダメだね』
『――はい』
何かを堪えるような仙道のその声に、伊織は視線を足元に落とし、笑顔を零した。
将来を嘱望されたアスリートの二人。仙道はバスケで。伊織はテニスで。
特にテニスはメンタルスポーツだ。
多感な時期の恋愛は、もっとも精神面に反映する。
必死で積み上げた練習の成果も、精神状態が不安定に陥るだけでまったく無になってしまうことも少なくはない。
伊織も仙道もそれがわかっていたから、伊織のコーチが唱えた恋愛禁止を素直に受け入れた。
恋愛と同じくらい、自分たちにとってはテニスが、バスケが大切だった。
だけど、無理に気持ちを殺すことはしないで。好きな気持ちはそのままで。お互いに距離を保って寄り添いあいながら、もしも自分たちがもう少し大人になって、もう少し上手に精神をコントロールすることができるようになったなら。そのときまでお互いの気持ちを変わらず持っていられたなら、その時は……。
伊織の視界が、ぼんやりとかすむ。
仙道と離れたくなかった。
悲しい別れじゃないはずなのに。そう、これはきっと、二人の新たな始まり。
それなのに……。
『彰さん』
『うん?』
『わたし……。わたし、きっと中学大会で三連覇します。だから……その時まで、待っていてください』
『――うん』
仙道の瞳が、優しい色に染まる。
『その時までには、オレも雑誌に載るくらい活躍しておくよ』
『絶対ですよ。わたし、それを頼りに会いにいきますからね』
『うん……』
暗黙の約束だった。
連絡先も、進学先も、お互いに何も伝えないと決めた。
だから、それが達成できなかったときには――。
『伊織ちゃん……』
仙道は、そっと目の前の伊織に手を伸ばす。
伊織をそのたくましい腕の中にすっぽりとおさめると、仙道はその存在を確かめるようにぎゅっと回した腕に力を込めた。
伊織を見つめる睫毛を震わせて、仙道は胸の中に溢れる想いをこらえるように、小さく囁く。
『伊織ちゃん……。大好きだよ』
『わたしも、大好きです』
『伊織ちゃん。――きっと、また』
『はい』
『そしたら、その時は……』
『はい……!』