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夢小説設定
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「ダメだよ。傷つくのがわかってて見過ごせるわけないだろ? ホラ、まりあはあっちいって準備しておいで」
「う、うん」
そう言われて、子リスのように駆け出すまりあの背中を、仙道は残念そうに目で追った。
「あーあ、行っちゃった。まりあちゃんて言うんだ。まだ番号も聞いてなかったのにな」
「だから、ダメだって言ってるだろ」
「ハハ。ガード固いね」
たいしてがっかりしている風でもなくそう言う仙道に、宗一郎は深く嘆息した。
「女に対してはなんだってそんなにいい加減なの? 仙道」
「うん? オレはいつだって真剣だよ?」
感情の読めない笑顔で、仙道が言う。
「――とてもそうは見えないけど」
「はは」
「俺には理解できないな」
そう言って去っていく宗一郎の背中に、仙道は言うでもなく呟いた。
「――でも、本当はたったひとりだけを探し続けてるのかもな」
「え?」
聞こえても聞こえなくてもどちらでもかまわない。そう思って投げた言葉は、しっかり宗一郎に届いたらしい。
前を行く宗一郎が足を止めて振り返ってきた。
仙道はそれを見て、口の端を持ち上げた。
仙道の笑顔は、まるでペルソナのようだ。
何を考えているのか、他人に読む事を決して許さない。
「なんてな。じゃあ、神。またあとで」
仙道の態度に訝しそうに眉を寄せる宗一郎に手を振ると、仙道は陵南の集合場所へ足を向けた。
選手たちがちょうど更衣室に案内されるところだった。
良いタイミングだ。
そんなことを思いながら、仙道は体育館を何の気になしにもう一度見回した。
そこで、息が止まりそうになった。
「――ウソォ!?」
仙道はぽつりとそう呟くと、自分でも気付かないうちに駆け出していた。
伊織は得点板を信長と一緒に用意していた。
宗一郎は近くにおらず、信長がぶらぶらと手持ち無沙汰にしていたので、それを呼び止め手伝ってもらった。
信長はぶーぶー文句を言いながらも、それでも重いほうを自分が持って手伝ってくれる。
伊織はそんな信長に笑いながらお礼を言った。
なんだかんだで、得点板を出すのは伊織の仕事になってしまった。
とはいっても、一人では運べないので、宗一郎か信長のどちらかが必ず犠牲になるのだが。
得点板を所定位置に運び終えると、伊織はホコリを払うように手を軽く叩いた。
「よし。ありがと、ノブ」
「おう。あー、疲れたぜ!」
そう言って、信長はわざとらしく右腕をぐるんぐるんとまわしてみせる。
伊織は苦笑した。
「わかったわかった。帰りに肉まんかなんかおごってあげるから」
「やった! 伊織、その約束忘れんなよ」
「オッケー」
伊織の返事を聞くと、信長は牧のもとへ走り出していく。
これからアップをするんだろう。
かくいう伊織にも、まだまだ仕事がたくさんあった。
もう陵南のひとたちも来てしまっている。急がなくては。
思って伊織は駆け出そうとした。
が。
「待って!」
そんな声とともに、突然強い力で横から腕をつかまれた。
体育館中が、その声に驚いたように一斉にこちらを注目する。
伊織も同様に振り返り、そして。
時が止まったかのように動けなくなった。
(まさか……)
息がうまく吸えず、喉がヒュっと鳴った。
目の前の人物は、そんな伊織にはお構いなしに、驚きに支配されていた表情を段々とほころばせていく。
「やっぱり、伊織ちゃん……!」
「あ、きら……さん?」
まさかまさかまさか。
伊織は愕然と目を見開いた。
このひとは、仙道彰?
(まさか、そんなはずは……! だってここは、神奈川なのに……)
伊織は目の前が真っ暗になったように感じた。
嘘だ。そんなわけない。
そんな言葉ばかりが脳内を駆け巡る。
体は硬直して、ぴくりとも動かない。
そんなばかな。こんなとこにいるわけない。だって、だって……。
あまりの驚きに、一瞬平衡感覚がおかしくなった。
ぐんと腕を強く引かれたと思ったら、すぐに頬に固いものがぶつかった。
ついで、体にまわされる力強い腕。
「ずっと捜してたんだ……! 伊織ちゃん、会いたかった!」
仙道の胸から、耳に直接響くその声を伊織はただ驚愕に目を瞠ったまま呆然と聞いていた。
(どうして……? どうして彰さんがここに……?)
仙道彰に抱きしめられている。
そう気付くには、あまりにも衝撃が大きすぎた。
To be continued…
「う、うん」
そう言われて、子リスのように駆け出すまりあの背中を、仙道は残念そうに目で追った。
「あーあ、行っちゃった。まりあちゃんて言うんだ。まだ番号も聞いてなかったのにな」
「だから、ダメだって言ってるだろ」
「ハハ。ガード固いね」
たいしてがっかりしている風でもなくそう言う仙道に、宗一郎は深く嘆息した。
「女に対してはなんだってそんなにいい加減なの? 仙道」
「うん? オレはいつだって真剣だよ?」
感情の読めない笑顔で、仙道が言う。
「――とてもそうは見えないけど」
「はは」
「俺には理解できないな」
そう言って去っていく宗一郎の背中に、仙道は言うでもなく呟いた。
「――でも、本当はたったひとりだけを探し続けてるのかもな」
「え?」
聞こえても聞こえなくてもどちらでもかまわない。そう思って投げた言葉は、しっかり宗一郎に届いたらしい。
前を行く宗一郎が足を止めて振り返ってきた。
仙道はそれを見て、口の端を持ち上げた。
仙道の笑顔は、まるでペルソナのようだ。
何を考えているのか、他人に読む事を決して許さない。
「なんてな。じゃあ、神。またあとで」
仙道の態度に訝しそうに眉を寄せる宗一郎に手を振ると、仙道は陵南の集合場所へ足を向けた。
選手たちがちょうど更衣室に案内されるところだった。
良いタイミングだ。
そんなことを思いながら、仙道は体育館を何の気になしにもう一度見回した。
そこで、息が止まりそうになった。
「――ウソォ!?」
仙道はぽつりとそう呟くと、自分でも気付かないうちに駆け出していた。
伊織は得点板を信長と一緒に用意していた。
宗一郎は近くにおらず、信長がぶらぶらと手持ち無沙汰にしていたので、それを呼び止め手伝ってもらった。
信長はぶーぶー文句を言いながらも、それでも重いほうを自分が持って手伝ってくれる。
伊織はそんな信長に笑いながらお礼を言った。
なんだかんだで、得点板を出すのは伊織の仕事になってしまった。
とはいっても、一人では運べないので、宗一郎か信長のどちらかが必ず犠牲になるのだが。
得点板を所定位置に運び終えると、伊織はホコリを払うように手を軽く叩いた。
「よし。ありがと、ノブ」
「おう。あー、疲れたぜ!」
そう言って、信長はわざとらしく右腕をぐるんぐるんとまわしてみせる。
伊織は苦笑した。
「わかったわかった。帰りに肉まんかなんかおごってあげるから」
「やった! 伊織、その約束忘れんなよ」
「オッケー」
伊織の返事を聞くと、信長は牧のもとへ走り出していく。
これからアップをするんだろう。
かくいう伊織にも、まだまだ仕事がたくさんあった。
もう陵南のひとたちも来てしまっている。急がなくては。
思って伊織は駆け出そうとした。
が。
「待って!」
そんな声とともに、突然強い力で横から腕をつかまれた。
体育館中が、その声に驚いたように一斉にこちらを注目する。
伊織も同様に振り返り、そして。
時が止まったかのように動けなくなった。
(まさか……)
息がうまく吸えず、喉がヒュっと鳴った。
目の前の人物は、そんな伊織にはお構いなしに、驚きに支配されていた表情を段々とほころばせていく。
「やっぱり、伊織ちゃん……!」
「あ、きら……さん?」
まさかまさかまさか。
伊織は愕然と目を見開いた。
このひとは、仙道彰?
(まさか、そんなはずは……! だってここは、神奈川なのに……)
伊織は目の前が真っ暗になったように感じた。
嘘だ。そんなわけない。
そんな言葉ばかりが脳内を駆け巡る。
体は硬直して、ぴくりとも動かない。
そんなばかな。こんなとこにいるわけない。だって、だって……。
あまりの驚きに、一瞬平衡感覚がおかしくなった。
ぐんと腕を強く引かれたと思ったら、すぐに頬に固いものがぶつかった。
ついで、体にまわされる力強い腕。
「ずっと捜してたんだ……! 伊織ちゃん、会いたかった!」
仙道の胸から、耳に直接響くその声を伊織はただ驚愕に目を瞠ったまま呆然と聞いていた。
(どうして……? どうして彰さんがここに……?)
仙道彰に抱きしめられている。
そう気付くには、あまりにも衝撃が大きすぎた。
To be continued…