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夢小説設定
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「先輩、忘れ物ですか? もう生徒用の昇降口は閉まってるんで、職員用のとこからじゃないと入れないですよ。あと、二十時になったらセコムかけるって言ってたから、先に職員室に寄って少し遅らせてもらったほうがいいですよ。今なら松本先生が職員室にいますから」
伊織は早口にそれだけ言うと、それじゃあといって宗一郎の脇を通り過ぎようとした。
「待って、伊織ちゃん」
その腕を、宗一郎に掴まれる。
普段の優しい宗一郎からは、想像がつかないくらい強い力。ふりほどけない。
心臓が、壊れるんじゃないかって言うくらいバクバクと激しく脈打った。
宗一郎につかまれたところから、熱が一気に全身を駆け巡る。
体中が熱い。
「せ、せんぱい。はなして」
「離さない。ねえ、俺、忘れ物してないよ。ここで、伊織ちゃんを待ってたんだ」
「!」
心臓が痛い。
これ以上心臓が早く動いたら、きっとわたしは死んでしまう。
「や、やだなあ、神先輩。冗談きつい……っ!」
宗一郎から顔を背けてそう言うと、ふいに肩を掴まれた。
すごい力で正面を向かされる。
間近に、宗一郎の綺麗な顔。零れるほどおおきな黒い瞳としっかり目が合う。
「伊織ちゃん、俺をみて。――冗談言ってるように見える?」
宗一郎の顔が、真剣に、けれど切ないようにゆがめられた。
冗談だなんて、最初から思うわけがない。
伊織は無言でふるふると首を大きく横に振った。
宗一郎の、瞳。
心の奥底まで見透かされるような、綺麗な黒曜石のような瞳。
伊織の目から、ぽたりと涙が零れ落ちる。
笑顔の似合う宗一郎に、こんな悲しそうな顔をさせているのは、わたし。
そう思うと、胸がつまって息が吸えなかった。
宗一郎の前で泣きたくなんかないのに、そんな伊織の気持ちなんかおかまいなしにぽろぽろと勝手に涙があふれだす。自分の感情を、自分で制御することが出来なかった。
宗一郎がハッと息を呑む気配がした。
伊織はもう一度、首を横にふる。
「ちが……っ。先輩のせいじゃ……っ! ……わたしがっ、わたしが、いけ、ないんで……すっ」
宗一郎は肩を掴んだ手をゆっくりほどくと、その手を伊織の頭に添えた。
優しく、落ち着かせるようにその頭をゆっくりと撫でる。
「うん……」
伊織は温かい宗一郎のぬくもりを感じながら、いままで我慢してきた分を一気に放出させるように、声を上げて大泣きした。
「すこしは落ち着いた?」
あれから三十分ばかり延々と泣き続け、伊織はようやく泣き止むことが出来た。
その間、ずっとなにも言わず、ただひたすらに伊織の頭を撫で続けてくれた宗一郎。伊織がその宗一郎を見上げると、宗一郎は安心させるようににこりと微笑んだ。
「ああ、だいぶ目が腫れちゃったね。ほら、これで冷やすといいよ」
そう言って、宗一郎はレモンティーを伊織のまぶた近くにぴたりとあてがった。
伊織は目を閉じた。ほどよく冷えた缶が、冷たくて気持ち良い。
中途半端な季節なのもあって、レモンティーはぬるくもなく冷たくもない温度を保っていた。
伊織は早口にそれだけ言うと、それじゃあといって宗一郎の脇を通り過ぎようとした。
「待って、伊織ちゃん」
その腕を、宗一郎に掴まれる。
普段の優しい宗一郎からは、想像がつかないくらい強い力。ふりほどけない。
心臓が、壊れるんじゃないかって言うくらいバクバクと激しく脈打った。
宗一郎につかまれたところから、熱が一気に全身を駆け巡る。
体中が熱い。
「せ、せんぱい。はなして」
「離さない。ねえ、俺、忘れ物してないよ。ここで、伊織ちゃんを待ってたんだ」
「!」
心臓が痛い。
これ以上心臓が早く動いたら、きっとわたしは死んでしまう。
「や、やだなあ、神先輩。冗談きつい……っ!」
宗一郎から顔を背けてそう言うと、ふいに肩を掴まれた。
すごい力で正面を向かされる。
間近に、宗一郎の綺麗な顔。零れるほどおおきな黒い瞳としっかり目が合う。
「伊織ちゃん、俺をみて。――冗談言ってるように見える?」
宗一郎の顔が、真剣に、けれど切ないようにゆがめられた。
冗談だなんて、最初から思うわけがない。
伊織は無言でふるふると首を大きく横に振った。
宗一郎の、瞳。
心の奥底まで見透かされるような、綺麗な黒曜石のような瞳。
伊織の目から、ぽたりと涙が零れ落ちる。
笑顔の似合う宗一郎に、こんな悲しそうな顔をさせているのは、わたし。
そう思うと、胸がつまって息が吸えなかった。
宗一郎の前で泣きたくなんかないのに、そんな伊織の気持ちなんかおかまいなしにぽろぽろと勝手に涙があふれだす。自分の感情を、自分で制御することが出来なかった。
宗一郎がハッと息を呑む気配がした。
伊織はもう一度、首を横にふる。
「ちが……っ。先輩のせいじゃ……っ! ……わたしがっ、わたしが、いけ、ないんで……すっ」
宗一郎は肩を掴んだ手をゆっくりほどくと、その手を伊織の頭に添えた。
優しく、落ち着かせるようにその頭をゆっくりと撫でる。
「うん……」
伊織は温かい宗一郎のぬくもりを感じながら、いままで我慢してきた分を一気に放出させるように、声を上げて大泣きした。
「すこしは落ち着いた?」
あれから三十分ばかり延々と泣き続け、伊織はようやく泣き止むことが出来た。
その間、ずっとなにも言わず、ただひたすらに伊織の頭を撫で続けてくれた宗一郎。伊織がその宗一郎を見上げると、宗一郎は安心させるようににこりと微笑んだ。
「ああ、だいぶ目が腫れちゃったね。ほら、これで冷やすといいよ」
そう言って、宗一郎はレモンティーを伊織のまぶた近くにぴたりとあてがった。
伊織は目を閉じた。ほどよく冷えた缶が、冷たくて気持ち良い。
中途半端な季節なのもあって、レモンティーはぬるくもなく冷たくもない温度を保っていた。