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慌てて返事をかえし、蛇口を捻って水を止めると、小百合に向き直る。
(……怒られるのかなあ)
ここのところ、自分でいうのもなんだが失敗続きだ。
今日だけでもう五回以上はミスをしている。いい加減、大目玉を食らってもおかしくはなかった。
伊織は緊張した面持ちで小百合を見る。
小百合はそれを感じ取ったのか、一度穏やかに微笑むと、ゆるやかに唇を持ち上げた。
「ここ二、三日、なんだか調子が悪いみたいだけど大丈夫?」
「あ、はい……。すみません、ご迷惑をおかけして」
「それはいいのよ。別に謝って欲しくて声をかけたわけじゃないの。ただ、このままだとちょっと困っちゃうわよね。伊織ちゃん、絶対大ケガするわよ」
「……ですかね」
「そうよ。もしかしたら、吊り上げ式のバスケットゴールの下敷きになっちゃうかもしれないわよ」
「え!? あれ、落っこちてくるんですか!?」
「ふふ。そうだったら怖いわね」
「…………えっと…………」
からかわれているのだろうか。
伊織がどうしていいかわからずに戸惑っていると、小百合が困ったように笑った。
「ふふ、ダメね、わたしも。肝心なことはなかなか言い出せなくて……」
「?」
「よし、思い切って聞くわね」
小百合はかわいらしく気合をいれると、気遣うような眼差しで伊織を見た。
「なにか悩みでもあるの?」
「あ、いえ……そういうのじゃないんです。ちょっとここのところ気にかかることがあって」
「……それを、世間は悩みっていうんじゃないかしら」
「ああ、そうか。そうですね……」
「わたしでよければ、話してもらえないかな」
「…………」
伊織は沈黙した。
まさか、わたしとまりあちゃんが神先輩を好きででもわたしはそれを隠して二人を協力するって約束しちゃったちょっと複雑な三角関係なんですうふふなんて言えるはずがなかった。
ましてやそれが原因で部活に支障をきたすミスの連続だなんて知れたら、辞めるよう言い渡されてしまうかもしれない。
せっかくマネージャーの仕事にも慣れてきたのに、ここでやめるのは嫌だった。
(どうしよう)
何か他に、ごまかす口実はないだろうか。
必死に頭をフル回転させる伊織の沈黙を、小百合は違うように受け取ったらしい。
小百合はためらうように何度か唇を震わせた後、覚悟を決めるようにそれを一度ぎゅっと引き結んだ。
伊織は直感的に、ここからが本当の本題だと悟った。
二人の間に、妙な緊張感が走る。
小百合が静かに唇を開いた。
「伊織ちゃん。わたしね、実は伊織ちゃんのこと知ってるの」
「え?」
その含みのある言い方に、伊織はぎくりと体の動きを止めた。
嫌な予感がした。
足が竦む。今すぐこの場から逃げ出したいのに、それはまったく言う事を聞かない。
この先を、聞いてはいけない。
聞きたくない。
伊織の背を得体の知れない恐怖が駆け抜けた。
蛇口から、水滴がぽたりと落ちる音が、やけに耳に響く。
目の前の小百合の口が、スローモーションのように動く。
「伊織ちゃんが入部してくる……ううん、入学するずっと前から、わたし、あなたのこと知ってる」
「!」
ざあっと、まわりからすべてのものが奪われたような気がした。
わんわんと耳鳴りがしている。景色が揺らぐ。
立っているのか、座っているのかさえもわからない。
(……怒られるのかなあ)
ここのところ、自分でいうのもなんだが失敗続きだ。
今日だけでもう五回以上はミスをしている。いい加減、大目玉を食らってもおかしくはなかった。
伊織は緊張した面持ちで小百合を見る。
小百合はそれを感じ取ったのか、一度穏やかに微笑むと、ゆるやかに唇を持ち上げた。
「ここ二、三日、なんだか調子が悪いみたいだけど大丈夫?」
「あ、はい……。すみません、ご迷惑をおかけして」
「それはいいのよ。別に謝って欲しくて声をかけたわけじゃないの。ただ、このままだとちょっと困っちゃうわよね。伊織ちゃん、絶対大ケガするわよ」
「……ですかね」
「そうよ。もしかしたら、吊り上げ式のバスケットゴールの下敷きになっちゃうかもしれないわよ」
「え!? あれ、落っこちてくるんですか!?」
「ふふ。そうだったら怖いわね」
「…………えっと…………」
からかわれているのだろうか。
伊織がどうしていいかわからずに戸惑っていると、小百合が困ったように笑った。
「ふふ、ダメね、わたしも。肝心なことはなかなか言い出せなくて……」
「?」
「よし、思い切って聞くわね」
小百合はかわいらしく気合をいれると、気遣うような眼差しで伊織を見た。
「なにか悩みでもあるの?」
「あ、いえ……そういうのじゃないんです。ちょっとここのところ気にかかることがあって」
「……それを、世間は悩みっていうんじゃないかしら」
「ああ、そうか。そうですね……」
「わたしでよければ、話してもらえないかな」
「…………」
伊織は沈黙した。
まさか、わたしとまりあちゃんが神先輩を好きででもわたしはそれを隠して二人を協力するって約束しちゃったちょっと複雑な三角関係なんですうふふなんて言えるはずがなかった。
ましてやそれが原因で部活に支障をきたすミスの連続だなんて知れたら、辞めるよう言い渡されてしまうかもしれない。
せっかくマネージャーの仕事にも慣れてきたのに、ここでやめるのは嫌だった。
(どうしよう)
何か他に、ごまかす口実はないだろうか。
必死に頭をフル回転させる伊織の沈黙を、小百合は違うように受け取ったらしい。
小百合はためらうように何度か唇を震わせた後、覚悟を決めるようにそれを一度ぎゅっと引き結んだ。
伊織は直感的に、ここからが本当の本題だと悟った。
二人の間に、妙な緊張感が走る。
小百合が静かに唇を開いた。
「伊織ちゃん。わたしね、実は伊織ちゃんのこと知ってるの」
「え?」
その含みのある言い方に、伊織はぎくりと体の動きを止めた。
嫌な予感がした。
足が竦む。今すぐこの場から逃げ出したいのに、それはまったく言う事を聞かない。
この先を、聞いてはいけない。
聞きたくない。
伊織の背を得体の知れない恐怖が駆け抜けた。
蛇口から、水滴がぽたりと落ちる音が、やけに耳に響く。
目の前の小百合の口が、スローモーションのように動く。
「伊織ちゃんが入部してくる……ううん、入学するずっと前から、わたし、あなたのこと知ってる」
「!」
ざあっと、まわりからすべてのものが奪われたような気がした。
わんわんと耳鳴りがしている。景色が揺らぐ。
立っているのか、座っているのかさえもわからない。