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夢小説設定
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「お前さあ、最近どうしたんだよ」
得点板を引きずりながら、信長が言う。
「え? 何が?」
「ここのとこ様子がおかしい」
「そんなことないよ? 普通だよ」
「普通じゃないだろ」
伊織の返答に、信長が不愉快そうに眉をしかめた。
伊織は、誤魔化すように眉尻を下げて微笑む。
得点板の配置まであと少し。
「やだな、そんなことないよ。普通だって」
「いいや、絶対におかしい。お前、最近いつもにましてドジばっかしてるじゃねえか。この前なんか、弁当のときに玉子焼きと間違えてアルミカップ食ったり、どう考えても普通じゃねえだろ」
「あれはっ……、考え事、しててっ……。いやっ、自分でもさすがに驚いたけど……」
高校生活始まって以来の大恥といってもいいくらいのことを持ち出されて、伊織はあたふたと言い返した。
あれは三日前のことだったか。気付いたときには口のなかに鉄の味が広がっていて、なんともいえない絶望感を味わった。
再びよみがえりそうになったあの味を首を振ることによって追い払うと、伊織はごほんと咳払いをする。
「まあ、あのことは忘れてよ。わたしも忘れたい……」
「だから。それくらいおかしいってことだろ。特に神さんに対して、お前の態度は不自然すぎる。――神さんとなにかあったのか?」
「ふふ。なによう、ノブったらわたしが神先輩に取られちゃうんじゃないかって嫉妬してるの?」
「マジでぶっ飛ばすぞお前」
「……ごめん」
伊織は俯いて謝ると、得点板を所定の位置にセットして手を放した。
真剣な瞳でみつめてくる信長に、何かを堪えるような笑顔を向ける。
「なんにもないよ。神先輩とはなんにもない。いままでだってそうだし、これからだってそうでしょ、ノブ」
「伊織、お前……」
まるで自分に言い聞かせるように言葉をつなぐ伊織に、信長が二の句をつげずにいると、この話はもう終わりとばかりに伊織は大きく手を打った。
「さ! 得点板も用意し終わったし、タオルでも準備してよーっと」
「あ、おい、伊織!」
信長の呼び止める声を背に、伊織は駆け出した。
(神先輩とはなにもない。それに、なにかあっちゃいけないの。それが、わたしの選んだことなんだから……)
まさか、この俺がこんな失態をするなんて。午後練のウォーミングアップの最中、信長は思った。
気付いたときにはボールはもう目の前で、よけることができなかった。
当たり前だが、この後すぐに信長は顔面にボールを受けることになる。
仰向けに倒れた信長に気付いた小百合がコート外に連れ出してくれて、現在に至る。
信長は、先ほどまで自分も加わっていたスクエアパスの音を仰向けになって聞きながら、低く唸った。
体育館の照明が、目にささってまぶしい。
こんなことになったのも、全部伊織のせいだ。
(あいつ、なんにも言わねえなら表面にだすなっての!)
相変わらず伊織はどこか上の空で、ドジばかりを繰り返していた。今もどこかで何かをひっくり返したような音が響いてきた。おそらく伊織だろう。
得点板を引きずりながら、信長が言う。
「え? 何が?」
「ここのとこ様子がおかしい」
「そんなことないよ? 普通だよ」
「普通じゃないだろ」
伊織の返答に、信長が不愉快そうに眉をしかめた。
伊織は、誤魔化すように眉尻を下げて微笑む。
得点板の配置まであと少し。
「やだな、そんなことないよ。普通だって」
「いいや、絶対におかしい。お前、最近いつもにましてドジばっかしてるじゃねえか。この前なんか、弁当のときに玉子焼きと間違えてアルミカップ食ったり、どう考えても普通じゃねえだろ」
「あれはっ……、考え事、しててっ……。いやっ、自分でもさすがに驚いたけど……」
高校生活始まって以来の大恥といってもいいくらいのことを持ち出されて、伊織はあたふたと言い返した。
あれは三日前のことだったか。気付いたときには口のなかに鉄の味が広がっていて、なんともいえない絶望感を味わった。
再びよみがえりそうになったあの味を首を振ることによって追い払うと、伊織はごほんと咳払いをする。
「まあ、あのことは忘れてよ。わたしも忘れたい……」
「だから。それくらいおかしいってことだろ。特に神さんに対して、お前の態度は不自然すぎる。――神さんとなにかあったのか?」
「ふふ。なによう、ノブったらわたしが神先輩に取られちゃうんじゃないかって嫉妬してるの?」
「マジでぶっ飛ばすぞお前」
「……ごめん」
伊織は俯いて謝ると、得点板を所定の位置にセットして手を放した。
真剣な瞳でみつめてくる信長に、何かを堪えるような笑顔を向ける。
「なんにもないよ。神先輩とはなんにもない。いままでだってそうだし、これからだってそうでしょ、ノブ」
「伊織、お前……」
まるで自分に言い聞かせるように言葉をつなぐ伊織に、信長が二の句をつげずにいると、この話はもう終わりとばかりに伊織は大きく手を打った。
「さ! 得点板も用意し終わったし、タオルでも準備してよーっと」
「あ、おい、伊織!」
信長の呼び止める声を背に、伊織は駆け出した。
(神先輩とはなにもない。それに、なにかあっちゃいけないの。それが、わたしの選んだことなんだから……)
まさか、この俺がこんな失態をするなんて。午後練のウォーミングアップの最中、信長は思った。
気付いたときにはボールはもう目の前で、よけることができなかった。
当たり前だが、この後すぐに信長は顔面にボールを受けることになる。
仰向けに倒れた信長に気付いた小百合がコート外に連れ出してくれて、現在に至る。
信長は、先ほどまで自分も加わっていたスクエアパスの音を仰向けになって聞きながら、低く唸った。
体育館の照明が、目にささってまぶしい。
こんなことになったのも、全部伊織のせいだ。
(あいつ、なんにも言わねえなら表面にだすなっての!)
相変わらず伊織はどこか上の空で、ドジばかりを繰り返していた。今もどこかで何かをひっくり返したような音が響いてきた。おそらく伊織だろう。