番外編 恋愛は計画的に
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「宗くん! 今日晴れたね」
「ほんとだね。最近だと雨が多かったのに、珍しいこともあるもんだね」
伊織の言葉に、宗一郎が星空を見上げながら答えた。
今日は七月七日。
世間でいう七夕だ。
年に一度、織り姫と彦星が会うことを許された日。
「この天気だと、今日は織り姫と彦星も会えそうだね!」
「そうだね」
さらりと無感動に答える宗一郎に、伊織は不満げに唇を尖らせる。
「ちょっと、宗くん。冷たいなぁ。なんでそんなにあっさりしてるの? とても愛し合ってるのに引き離された夫婦が、年に一回だけ会うことを許された日なんだよ? こう、もっと魂に訴えかけてくるものがあるでしょ?」
握り拳を作って力説すると、おかしそうに宗一郎が笑った。
それからすまなそうに眉尻をさげて、優しい瞳で伊織を見つめてくる。
「俺はないなあ、そういうの」
「なんで?」
「七夕に、みんながいうようなロマンチックなイメージ持ってないからかな」
「……なんで?」
伊織はわけがわからなくて眉を寄せた。
年に一回しか会えないかわいそうな夫婦。
日本中の誰もがその切なさに胸を震わせて、二人の逢瀬を願ってるのに。
「宗くんひどい。年に一回しか会えない夫婦の再会すら望んであげないなんて……」
伊織は拗ねたように呟いた。上目遣いで、困ったように微笑む宗一郎を、恨めしげににらみつける。
「宗くんはさ、きっとわたしと一年に一回しか会えない関係でも、寂しくないんだ。だから他人の逢瀬もどうでもいいなんて思えるんだ……」
思わず涙ぐんで鼻を鳴らしながらそう言うと、宗一郎が笑いながら頭を撫でてきた。
「はは。そんなわけないだろ。なんで泣くの。かわいいなぁ、もう」
「なによう」
いじけて返すと、宗一郎がその大きな瞳を細めて優しく微笑んだ。
「大丈夫、安心して。俺たちはそうはならないから」
「うん? どういう意味?」
「ねえ、伊織。なんで織り姫と彦星が年に一回しか会えないか知ってる?」
「え? 知らない」
なんで? そう訊くと宗一郎が笑った。
「あの二人はね、それまで真面目な働きものだったのに、出会った途端全く仕事しなくなっちゃったんだよ。だから親に怒られて、年に一回しか会えなくなっちゃったんだ」
「え!? そうなの!?」
「うん。そんなことしてたら会えなくなって当然だと思わない?」
「う……。それは……思う」
伊織は織り姫と彦星に抱いていた甘い幻想を打ち砕かれて絶望しながらも、宗一郎の言葉に頷いた。
ロミオとジュリエットみたいな、もっと不可抗力でロマンチックな理由を想像していたのに、まさかそれがお互いの自堕落が招いた結果だったとは。
いくら好きでも、やらなければならないことを放棄してお互いに夢中になっていれば、引き裂かれて当たり前だ。
そこはやはり、けじめをつけなければ。
「でしょ? 俺は、伊織のこと大好きだし愛してるけど、だからこそそんな愚かなことはしないよ。将来伊織を養っていける立派な大人になれるように、勉強もしてバスケもして、なおかつ伊織も大事にする」
「宗くん……! 嬉しい、大好きっ!!」
感極まって伊織は宗一郎の腰に抱き着いた。
「うおっと……」
宗一郎は少しよろけながらも、優しく伊織の体に腕を回してくれる。
「それにしても……」
しばらく宗一郎のぬくもりに酔いしれていると、宗一郎が呟いた。
伊織は、ん? と顔をあげる。
「なに? 宗くん」
「七夕はさ、年に一回夫婦が会える日じゃなくてさ、恋愛に現を抜かしてばかりいると、いつか引き離されますよっていう教訓話にしたらいいのにね。俺、前にまりあにこの話したら、宗ちゃん夢がなぁーい、そんなことばっかいう宗ちゃんには一生彼女できないんだからー! とか言われちゃったんだよね。あれにはさすがに傷ついた」
途中まりあの声真似をしながら言う宗一郎に、伊織はくすくすと笑い声を漏らした。
その思い出がよっぽど嫌な記憶なのか、宗一郎の整った眉がきつく絞られている。
「でも宗くん、彼女出来たよ?」
「うん。伊織に引かれなくてよかった」
「あ。もしかして、ちょっと不安だった?」
「そりゃあね。女の子は夢見がちだからね」
「あはは。わたしはどっちかっていうとリアリストだから。愛がなければ生きていけないけど、愛だけでは生きていけないもんねえ」
伊織はしみじみと呟いた。
やっぱり多少のお金がなければ、いまの世の中生きてはいけない。
「だよね。だから伊織は俺がちゃんと幸せにするよ。安心して」
にっこり微笑んで言ってくる宗一郎に、伊織は頬を赤らめた。
「なんだかそれって、プロポーズみたい」
「はは。俺は高校生だし、まだ正式なプロポーズはできないけどね。将来、俺が伊織にプロポーズする時まで、待っててくれる?」
「……宗くん」
少し照れ臭そうに言った宗一郎に、伊織の視界が滲んだ。
こんなにも宗一郎に想われて、なんて幸せものなんだろう。
伊織は縦に大きく首を振ると、じっと宗一郎を見つめた。
「宗くん。今の、織り姫と彦星に誓える?」
「え、織り姫と彦星に!? うーん、あの二人には誓いたくないなぁ。もっと別のものになら誓えるよ」
「別のもの? 例えばなに?」
「伊織のお父さんとか」
「!! そ、宗くん……。最後までリアリスト……!!」
「はは、まあね。でも実際にお願いに行くのは本番までとっておくことにして、今は伊織に誓うよ。伊織、愛してる」
言葉とともに、宗一郎のやわらかな唇が伊織のおでこに触れた。
「わたしも愛してるよ、宗くん」
二人は微笑みあうと、満天の星空を見上げた。
空で年に一度の逢瀬を楽しんでいる織り姫と彦星には悪いけれど、どうやらわたしたちは離れ離れにはならずにすみそうです。
「ほんとだね。最近だと雨が多かったのに、珍しいこともあるもんだね」
伊織の言葉に、宗一郎が星空を見上げながら答えた。
今日は七月七日。
世間でいう七夕だ。
年に一度、織り姫と彦星が会うことを許された日。
「この天気だと、今日は織り姫と彦星も会えそうだね!」
「そうだね」
さらりと無感動に答える宗一郎に、伊織は不満げに唇を尖らせる。
「ちょっと、宗くん。冷たいなぁ。なんでそんなにあっさりしてるの? とても愛し合ってるのに引き離された夫婦が、年に一回だけ会うことを許された日なんだよ? こう、もっと魂に訴えかけてくるものがあるでしょ?」
握り拳を作って力説すると、おかしそうに宗一郎が笑った。
それからすまなそうに眉尻をさげて、優しい瞳で伊織を見つめてくる。
「俺はないなあ、そういうの」
「なんで?」
「七夕に、みんながいうようなロマンチックなイメージ持ってないからかな」
「……なんで?」
伊織はわけがわからなくて眉を寄せた。
年に一回しか会えないかわいそうな夫婦。
日本中の誰もがその切なさに胸を震わせて、二人の逢瀬を願ってるのに。
「宗くんひどい。年に一回しか会えない夫婦の再会すら望んであげないなんて……」
伊織は拗ねたように呟いた。上目遣いで、困ったように微笑む宗一郎を、恨めしげににらみつける。
「宗くんはさ、きっとわたしと一年に一回しか会えない関係でも、寂しくないんだ。だから他人の逢瀬もどうでもいいなんて思えるんだ……」
思わず涙ぐんで鼻を鳴らしながらそう言うと、宗一郎が笑いながら頭を撫でてきた。
「はは。そんなわけないだろ。なんで泣くの。かわいいなぁ、もう」
「なによう」
いじけて返すと、宗一郎がその大きな瞳を細めて優しく微笑んだ。
「大丈夫、安心して。俺たちはそうはならないから」
「うん? どういう意味?」
「ねえ、伊織。なんで織り姫と彦星が年に一回しか会えないか知ってる?」
「え? 知らない」
なんで? そう訊くと宗一郎が笑った。
「あの二人はね、それまで真面目な働きものだったのに、出会った途端全く仕事しなくなっちゃったんだよ。だから親に怒られて、年に一回しか会えなくなっちゃったんだ」
「え!? そうなの!?」
「うん。そんなことしてたら会えなくなって当然だと思わない?」
「う……。それは……思う」
伊織は織り姫と彦星に抱いていた甘い幻想を打ち砕かれて絶望しながらも、宗一郎の言葉に頷いた。
ロミオとジュリエットみたいな、もっと不可抗力でロマンチックな理由を想像していたのに、まさかそれがお互いの自堕落が招いた結果だったとは。
いくら好きでも、やらなければならないことを放棄してお互いに夢中になっていれば、引き裂かれて当たり前だ。
そこはやはり、けじめをつけなければ。
「でしょ? 俺は、伊織のこと大好きだし愛してるけど、だからこそそんな愚かなことはしないよ。将来伊織を養っていける立派な大人になれるように、勉強もしてバスケもして、なおかつ伊織も大事にする」
「宗くん……! 嬉しい、大好きっ!!」
感極まって伊織は宗一郎の腰に抱き着いた。
「うおっと……」
宗一郎は少しよろけながらも、優しく伊織の体に腕を回してくれる。
「それにしても……」
しばらく宗一郎のぬくもりに酔いしれていると、宗一郎が呟いた。
伊織は、ん? と顔をあげる。
「なに? 宗くん」
「七夕はさ、年に一回夫婦が会える日じゃなくてさ、恋愛に現を抜かしてばかりいると、いつか引き離されますよっていう教訓話にしたらいいのにね。俺、前にまりあにこの話したら、宗ちゃん夢がなぁーい、そんなことばっかいう宗ちゃんには一生彼女できないんだからー! とか言われちゃったんだよね。あれにはさすがに傷ついた」
途中まりあの声真似をしながら言う宗一郎に、伊織はくすくすと笑い声を漏らした。
その思い出がよっぽど嫌な記憶なのか、宗一郎の整った眉がきつく絞られている。
「でも宗くん、彼女出来たよ?」
「うん。伊織に引かれなくてよかった」
「あ。もしかして、ちょっと不安だった?」
「そりゃあね。女の子は夢見がちだからね」
「あはは。わたしはどっちかっていうとリアリストだから。愛がなければ生きていけないけど、愛だけでは生きていけないもんねえ」
伊織はしみじみと呟いた。
やっぱり多少のお金がなければ、いまの世の中生きてはいけない。
「だよね。だから伊織は俺がちゃんと幸せにするよ。安心して」
にっこり微笑んで言ってくる宗一郎に、伊織は頬を赤らめた。
「なんだかそれって、プロポーズみたい」
「はは。俺は高校生だし、まだ正式なプロポーズはできないけどね。将来、俺が伊織にプロポーズする時まで、待っててくれる?」
「……宗くん」
少し照れ臭そうに言った宗一郎に、伊織の視界が滲んだ。
こんなにも宗一郎に想われて、なんて幸せものなんだろう。
伊織は縦に大きく首を振ると、じっと宗一郎を見つめた。
「宗くん。今の、織り姫と彦星に誓える?」
「え、織り姫と彦星に!? うーん、あの二人には誓いたくないなぁ。もっと別のものになら誓えるよ」
「別のもの? 例えばなに?」
「伊織のお父さんとか」
「!! そ、宗くん……。最後までリアリスト……!!」
「はは、まあね。でも実際にお願いに行くのは本番までとっておくことにして、今は伊織に誓うよ。伊織、愛してる」
言葉とともに、宗一郎のやわらかな唇が伊織のおでこに触れた。
「わたしも愛してるよ、宗くん」
二人は微笑みあうと、満天の星空を見上げた。
空で年に一度の逢瀬を楽しんでいる織り姫と彦星には悪いけれど、どうやらわたしたちは離れ離れにはならずにすみそうです。
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