終
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
頭を撫でてくれていた宗一郎の手が、伊織の耳に触れた。
顔をあげると、優しく微笑む宗一郎と目があって、伊織はそっと目を閉じた。
唇に触れる、やわらかくてあたたかい感触。
からだじゅうが、愛しさで満たされる。
「宗くん」
「うん?」
「わたしのこと、好きになってくれてありがとう」
「俺のほうこそ、好きなってくれてありがとう、伊織」
「うん。……ねえ、宗くん。わたしは宗くんのおかげで過去を克服することが出来たけど、宗くんも辛かった過去とかあるの?」
「…………。ないよ」
「――なに今の間ぁ!?」
伊織は宗一郎から勢い良くからだを離すと、目の前の宗一郎をじっと見つめた。
宗一郎は冷や汗を浮かべた不自然な笑顔で、にっこりと微笑んでいる。
(これは……間違いなくなにかを隠そうとしている……!)
貼り付けたような宗一郎の笑顔に、伊織の胸に確信にも近い予感が生まれる。
「宗くん、なに隠してるの?」
「…………なにも?」
めげずに宗一郎が微笑んでくる。
伊織はしばらく量るようにそれをじっと見つめると、宗一郎から静かにからだを離した。
まるで昼ドラマのような大げさな演技で、伊織は目元にハンカチを当ててわざとらしくすすり泣く真似をする。
「うう。いいんだ。結局宗くんにとってはわたしなんてその程度の存在なのね。都合の悪いことは包み隠して、調子の良いことだけ言って、そんなうわべだけの関係なんだ」
「わわ、違うよ伊織。そんなんじゃないよ」
「じゃあ、なにを隠してるの? 教えて?」
「う、それは……」
まっすぐに宗一郎の瞳を見つめる伊織の目から、ふいっと宗一郎が顔ごと視線をそらした。
「!」
そのあからさまな拒否に、今度は演技でもなんでもなく伊織の視界が涙でにじんでいく。
「……話したくないの?」
抑えた声で訊ねると、宗一郎が顔を背けたまま小さく頷いた。
「話したくないって言うかなんていうか……。ほら、やっぱりあんまり自分のかっこ悪いところって知られたくないだろ? いつでも伊織にとって頼られる存在でありたいっていうか……」
「……じゃあ宗くんは、これから先もつらいことがあってもわたしには話してくれないの?」
言ったら涙が零れた。
胸がちぎれそうだ。
今までも、これから先も、伊織がどんなに傍にいても、宗一郎はひとりで辛いことに耐えていくなんて。そんなのって。
(わたしが傍にいるほうが、きっとツライ)
傍にいて宗一郎に無理をさせるくらいなら、いっそ自分がいなくなったほうが良いように思えた。
ぽろぽろと涙が溢れてきて止められないでいると、伊織が泣いているのに気付いた宗一郎が慌てた様子で伊織の涙を親指の腹でぬぐった。
「わわ、伊織! ごめん、泣かないで!」
「だ、だって……。そんなのやだよ……。宗くん、これからもわたしには辛いことはなにも話してくれないの? わたしの隣りでなんでもないようにいつもみたいに笑いながら、心の中ではひとりで苦しんでるの? そんなのってそんなのって、悲しいよ……っ」
伊織は頬にある宗一郎の手を乱暴に払うと、両手で顔を覆った。
涙が止まらなかった。
宗一郎は伊織を過去から救い出してくれたのに、自分は宗一郎の痛みさえ共有させてもらえないなんて。
……なんの力にもなれないなんて。
(きっと、わたしが頼りないから……)
顔をあげると、優しく微笑む宗一郎と目があって、伊織はそっと目を閉じた。
唇に触れる、やわらかくてあたたかい感触。
からだじゅうが、愛しさで満たされる。
「宗くん」
「うん?」
「わたしのこと、好きになってくれてありがとう」
「俺のほうこそ、好きなってくれてありがとう、伊織」
「うん。……ねえ、宗くん。わたしは宗くんのおかげで過去を克服することが出来たけど、宗くんも辛かった過去とかあるの?」
「…………。ないよ」
「――なに今の間ぁ!?」
伊織は宗一郎から勢い良くからだを離すと、目の前の宗一郎をじっと見つめた。
宗一郎は冷や汗を浮かべた不自然な笑顔で、にっこりと微笑んでいる。
(これは……間違いなくなにかを隠そうとしている……!)
貼り付けたような宗一郎の笑顔に、伊織の胸に確信にも近い予感が生まれる。
「宗くん、なに隠してるの?」
「…………なにも?」
めげずに宗一郎が微笑んでくる。
伊織はしばらく量るようにそれをじっと見つめると、宗一郎から静かにからだを離した。
まるで昼ドラマのような大げさな演技で、伊織は目元にハンカチを当ててわざとらしくすすり泣く真似をする。
「うう。いいんだ。結局宗くんにとってはわたしなんてその程度の存在なのね。都合の悪いことは包み隠して、調子の良いことだけ言って、そんなうわべだけの関係なんだ」
「わわ、違うよ伊織。そんなんじゃないよ」
「じゃあ、なにを隠してるの? 教えて?」
「う、それは……」
まっすぐに宗一郎の瞳を見つめる伊織の目から、ふいっと宗一郎が顔ごと視線をそらした。
「!」
そのあからさまな拒否に、今度は演技でもなんでもなく伊織の視界が涙でにじんでいく。
「……話したくないの?」
抑えた声で訊ねると、宗一郎が顔を背けたまま小さく頷いた。
「話したくないって言うかなんていうか……。ほら、やっぱりあんまり自分のかっこ悪いところって知られたくないだろ? いつでも伊織にとって頼られる存在でありたいっていうか……」
「……じゃあ宗くんは、これから先もつらいことがあってもわたしには話してくれないの?」
言ったら涙が零れた。
胸がちぎれそうだ。
今までも、これから先も、伊織がどんなに傍にいても、宗一郎はひとりで辛いことに耐えていくなんて。そんなのって。
(わたしが傍にいるほうが、きっとツライ)
傍にいて宗一郎に無理をさせるくらいなら、いっそ自分がいなくなったほうが良いように思えた。
ぽろぽろと涙が溢れてきて止められないでいると、伊織が泣いているのに気付いた宗一郎が慌てた様子で伊織の涙を親指の腹でぬぐった。
「わわ、伊織! ごめん、泣かないで!」
「だ、だって……。そんなのやだよ……。宗くん、これからもわたしには辛いことはなにも話してくれないの? わたしの隣りでなんでもないようにいつもみたいに笑いながら、心の中ではひとりで苦しんでるの? そんなのってそんなのって、悲しいよ……っ」
伊織は頬にある宗一郎の手を乱暴に払うと、両手で顔を覆った。
涙が止まらなかった。
宗一郎は伊織を過去から救い出してくれたのに、自分は宗一郎の痛みさえ共有させてもらえないなんて。
……なんの力にもなれないなんて。
(きっと、わたしが頼りないから……)