終
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「仙道」
宗一郎は離れた足場でひとりぼんやり座っている仙道に近づいて声をかけた。
海を眺めていた仙道が、ゆっくりと首をめぐらせてこちらを振り返る。
「お、神」
「何やってるの、こんなところでひとりで」
「んー? ちょっとたそがれてた……かな」
「……伊織のこと?」
仙道の座っているすぐ横、足場の下に立ち、宗一郎は下を向いて問いかけた。
傍らで仙道が息を呑んだ気配がして、宗一郎は口許に苦笑を滲ませる。
「やっぱりね」
「やっぱりって?」
「仙道、ほんとはまだ伊織のこと諦められてないだろ?」
言いながら仙道の瞳を覗き込むと、仙道はわざとらしいくらい爽やかな笑顔にだりだりと汗を流して、ふいと視線をそらした。
「はて、なんのことでしょう?」
「……それでごまかせてるつもりなの、仙道」
「…………」
「…………」
根競べのような沈黙のあと、仙道が観念したようにため息をつく。
「やっぱり神はごまかせない……か」
「まあね。仙道の伊織を見つめる目。……わかるよ」
愛しくて、切なくて、大切で。そんな色を含んだ仙道の伊織を見つめる瞳。
こちらの胸が苦しくなる。
「……伊織ちゃんに言う?」
「言わないよ。……手は出さないんでしょ?」
「ああ。神と伊織ちゃんの邪魔をするつもりはないよ。その点についてはしっかりあきらめがついてる」
「……なんか、俺の胸が痛くなってきた」
なんとなく心苦しくなって胸を押さえながらそう言うと、仙道がははっと渇いた声で笑った。
「じゃあ伊織ちゃんオレにくれる?」
「それは絶対だめ。たとえそれで地獄に落ちたとしても、俺は伊織を誰にも渡さないよ」
「うん。それでこそ神だ。オレが伊織ちゃんを任せた男なだけある」
「…………」
満足そうにいう仙道に、多少複雑な気持ちになって宗一郎は黙り込んだ。
思えば仙道とも不思議な縁だ。
出会った頃はバスケのライバルで。少し前は伊織を巡ってのライバルで。今はライバルでも友情でもない、ある種の特別な同志のような感覚さえする。
「なあ、神」
「ん?」
「やめろって言わないんだな」
「え?」
仙道が何のことを言っているのかわからなくて、宗一郎は眉をひそめた。
仙道が自嘲するような笑みを口の端にのぼらせて言う。
「神はさ、伊織ちゃんの彼氏で、だからこそオレに伊織ちゃんのこときっぱりあきらめろって言える立場なのに、じゃなかったらあきらめるまで会うなって言ったっていい立場なのに、オレが完全にあきらめられてないのを知っても、なにも言わないんだな」
「……そんな簡単にあきらめられるようなもんでもないだろ。本気だったならなおさら。だから俺はなにも言わないよ。まあ、陰ながら嫉妬には狂うけどね」
「はは。神、相当なヤキモチ焼きらしいね」
「当たり前だろ。伊織はあんなにかわいくて無防備なんだ。俺の見てないところで変な男にひっかかるかもしれないとか思ったらほんとにもう気が気じゃないよ。自分がモテるって自覚も全然ないみたいだし」
「でも、そんなところがかわいいんだろ?」
「…………」
にこりと仙道が笑って言ってくる。
宗一郎はそれにため息混じりに同意した。
「そうだよ」
「――ありがとな、神」
宗一郎は離れた足場でひとりぼんやり座っている仙道に近づいて声をかけた。
海を眺めていた仙道が、ゆっくりと首をめぐらせてこちらを振り返る。
「お、神」
「何やってるの、こんなところでひとりで」
「んー? ちょっとたそがれてた……かな」
「……伊織のこと?」
仙道の座っているすぐ横、足場の下に立ち、宗一郎は下を向いて問いかけた。
傍らで仙道が息を呑んだ気配がして、宗一郎は口許に苦笑を滲ませる。
「やっぱりね」
「やっぱりって?」
「仙道、ほんとはまだ伊織のこと諦められてないだろ?」
言いながら仙道の瞳を覗き込むと、仙道はわざとらしいくらい爽やかな笑顔にだりだりと汗を流して、ふいと視線をそらした。
「はて、なんのことでしょう?」
「……それでごまかせてるつもりなの、仙道」
「…………」
「…………」
根競べのような沈黙のあと、仙道が観念したようにため息をつく。
「やっぱり神はごまかせない……か」
「まあね。仙道の伊織を見つめる目。……わかるよ」
愛しくて、切なくて、大切で。そんな色を含んだ仙道の伊織を見つめる瞳。
こちらの胸が苦しくなる。
「……伊織ちゃんに言う?」
「言わないよ。……手は出さないんでしょ?」
「ああ。神と伊織ちゃんの邪魔をするつもりはないよ。その点についてはしっかりあきらめがついてる」
「……なんか、俺の胸が痛くなってきた」
なんとなく心苦しくなって胸を押さえながらそう言うと、仙道がははっと渇いた声で笑った。
「じゃあ伊織ちゃんオレにくれる?」
「それは絶対だめ。たとえそれで地獄に落ちたとしても、俺は伊織を誰にも渡さないよ」
「うん。それでこそ神だ。オレが伊織ちゃんを任せた男なだけある」
「…………」
満足そうにいう仙道に、多少複雑な気持ちになって宗一郎は黙り込んだ。
思えば仙道とも不思議な縁だ。
出会った頃はバスケのライバルで。少し前は伊織を巡ってのライバルで。今はライバルでも友情でもない、ある種の特別な同志のような感覚さえする。
「なあ、神」
「ん?」
「やめろって言わないんだな」
「え?」
仙道が何のことを言っているのかわからなくて、宗一郎は眉をひそめた。
仙道が自嘲するような笑みを口の端にのぼらせて言う。
「神はさ、伊織ちゃんの彼氏で、だからこそオレに伊織ちゃんのこときっぱりあきらめろって言える立場なのに、じゃなかったらあきらめるまで会うなって言ったっていい立場なのに、オレが完全にあきらめられてないのを知っても、なにも言わないんだな」
「……そんな簡単にあきらめられるようなもんでもないだろ。本気だったならなおさら。だから俺はなにも言わないよ。まあ、陰ながら嫉妬には狂うけどね」
「はは。神、相当なヤキモチ焼きらしいね」
「当たり前だろ。伊織はあんなにかわいくて無防備なんだ。俺の見てないところで変な男にひっかかるかもしれないとか思ったらほんとにもう気が気じゃないよ。自分がモテるって自覚も全然ないみたいだし」
「でも、そんなところがかわいいんだろ?」
「…………」
にこりと仙道が笑って言ってくる。
宗一郎はそれにため息混じりに同意した。
「そうだよ」
「――ありがとな、神」