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「あ、それを言うならまりあもー! まりあも全然できなかったけど、伊織ちゃんに教わってできるようになった!」
「オレも最初ホームランばっかりだったけど、今じゃ完璧にコートに入るようになったぜ」
「うん。俺も伊織に教えてもらってからはホームランしなくなったよ」
口々にそう言ってくるみんなに、伊織は照れたように頬をかく。
「へへ。なんだか照れちゃいますね。今まではわたしは練習ばっかりで教えたことなかったんですけど……コーチの教え方がよかったのかな?」
「いや、鈴村のセンスがいいんじゃないか? 俺もいろいろ見てもらったが、問題点を提示して改善点を教えてくれるだろう? 意識しながら出来てわかりやすかった」
言いながら牧が全員注文が決まったか確認して、店員を呼んだ。
オーダーを済ますと、にやりと口の端を持ち上げて牧がこちらを見てくる。
「もうすっかりテニスのトラウマはいいようだな」
「あ、はい。自分でも思ってたよりそんなに抵抗なくてびっくりしました」
「はは、そうか」
牧が自分の正面に座る小百合を見て、言う。
「お前がテニスに決まったって知って、小百合が心配してたんだ。今日の練習を言い出したのも小百合なんだぞ。本番前に、一回テニスに触れさせたほうがいいってな」
「小百合さん……!」
伊織は感動して隣りに座る小百合を見た。
小百合が照れたように頬を薄く染めて、牧を睨む。
「ちょっと紳一。それは言わない約束でしょ」
「そうだったか?」
「そうよ。ああ、もう。意外なとこで紳一ってイジワルなのよね。だからじいなんて言われるのよ」
「なっ! それは関係ないだろう、小百合」
「ふふ。それにしても傑作だったわねえ。じいって言われて怒る紳一。しまいには赤木の方が老けてるぞ、だものね。気にしてたのね紳一、その老け顔」
「老け顔って言うな!」
不機嫌に鼻を鳴らして言う牧に、全員が小さく吹き出した。
宗一郎と信長は牧に、「ほおう、いい度胸だな」と凄まれて、慌てて表情を引き締めている。
伊織はそんな二人を見てくすくす笑っていると、ふいに小百合の優しい瞳と視線がぶつかった。
「それにしても、ほんとうによかったわ、伊織ちゃんがなんでもなくて。またあの時みたいになったらどうしようかと思っちゃった」
肩を竦めて言う小百合に、伊織の反対隣に座るまりあが力強く頷いた。
「うん。あのときの伊織ちゃん、ほんとう別人みたいだったもんね」
一瞬、その頃を思い出しているかのような重い空気がテーブルを支配した。
伊織はその空気を断ち切るように手をパンと大きく打つと、わざと明るい声を出す。
「いやあ、あの頃は迷惑かけちゃってほんとうにごめんなさい! でも、もう大丈夫ですから!」
「でもよ、伊織。もしも明日、お前が元有名選手だって全校にバレちゃったらどうすんだ?」
信長のその言葉に、伊織はウッと言葉を詰まらせた。
よみがえる、昔の記憶。
今まで全く言葉を交わしたこともないような人たちから向けられる、興味本位の視線。中身のない、空虚な慰め。
そのひとつひとつに追い詰められた、あの頃。
「伊織」
思わず表情を曇らせた伊織に、宗一郎が心配そうに声をかけてきた。
伊織はハッと顔をあげた。
同じように心配そうに自分を見つめてくるみんなの顔を見て、安心させるように笑ってみせる。
「大丈夫です。――みんなが、いてくれますから」
言うと、全員が力強く微笑んでくれた。
胸にあたたかいものがじんわりと広がっていく。
大丈夫。
今なら大丈夫。
あの時はつらいだけで、まわりに目を向けるなんてできなかったけど。
笙子も種田もコーチも家族も、みんなみんな心配してくれてたのに気付かなくて、ひとりぼっちだなんて思ってしまったけれど。
でも今の自分は違う。
ちゃんとわかってる。
(牧先輩も小百合先輩もまりあちゃんもノブも、宗くんもいてくれる。わたしはひとりじゃない)
それに、つらくなったら宗一郎の胸で泣けばいい。
つらいときに受け止めてくれる場所があるって思うだけで、立ち向かう勇気がわいてくる。
怖くないといったらもちろんウソになるけれど。
でも大丈夫。
乗り越えていける。
伊織は一緒に立ち向かってくれる仲間がいることの心強さに、みんなに気付かれないよう少しだけ涙した。
「オレも最初ホームランばっかりだったけど、今じゃ完璧にコートに入るようになったぜ」
「うん。俺も伊織に教えてもらってからはホームランしなくなったよ」
口々にそう言ってくるみんなに、伊織は照れたように頬をかく。
「へへ。なんだか照れちゃいますね。今まではわたしは練習ばっかりで教えたことなかったんですけど……コーチの教え方がよかったのかな?」
「いや、鈴村のセンスがいいんじゃないか? 俺もいろいろ見てもらったが、問題点を提示して改善点を教えてくれるだろう? 意識しながら出来てわかりやすかった」
言いながら牧が全員注文が決まったか確認して、店員を呼んだ。
オーダーを済ますと、にやりと口の端を持ち上げて牧がこちらを見てくる。
「もうすっかりテニスのトラウマはいいようだな」
「あ、はい。自分でも思ってたよりそんなに抵抗なくてびっくりしました」
「はは、そうか」
牧が自分の正面に座る小百合を見て、言う。
「お前がテニスに決まったって知って、小百合が心配してたんだ。今日の練習を言い出したのも小百合なんだぞ。本番前に、一回テニスに触れさせたほうがいいってな」
「小百合さん……!」
伊織は感動して隣りに座る小百合を見た。
小百合が照れたように頬を薄く染めて、牧を睨む。
「ちょっと紳一。それは言わない約束でしょ」
「そうだったか?」
「そうよ。ああ、もう。意外なとこで紳一ってイジワルなのよね。だからじいなんて言われるのよ」
「なっ! それは関係ないだろう、小百合」
「ふふ。それにしても傑作だったわねえ。じいって言われて怒る紳一。しまいには赤木の方が老けてるぞ、だものね。気にしてたのね紳一、その老け顔」
「老け顔って言うな!」
不機嫌に鼻を鳴らして言う牧に、全員が小さく吹き出した。
宗一郎と信長は牧に、「ほおう、いい度胸だな」と凄まれて、慌てて表情を引き締めている。
伊織はそんな二人を見てくすくす笑っていると、ふいに小百合の優しい瞳と視線がぶつかった。
「それにしても、ほんとうによかったわ、伊織ちゃんがなんでもなくて。またあの時みたいになったらどうしようかと思っちゃった」
肩を竦めて言う小百合に、伊織の反対隣に座るまりあが力強く頷いた。
「うん。あのときの伊織ちゃん、ほんとう別人みたいだったもんね」
一瞬、その頃を思い出しているかのような重い空気がテーブルを支配した。
伊織はその空気を断ち切るように手をパンと大きく打つと、わざと明るい声を出す。
「いやあ、あの頃は迷惑かけちゃってほんとうにごめんなさい! でも、もう大丈夫ですから!」
「でもよ、伊織。もしも明日、お前が元有名選手だって全校にバレちゃったらどうすんだ?」
信長のその言葉に、伊織はウッと言葉を詰まらせた。
よみがえる、昔の記憶。
今まで全く言葉を交わしたこともないような人たちから向けられる、興味本位の視線。中身のない、空虚な慰め。
そのひとつひとつに追い詰められた、あの頃。
「伊織」
思わず表情を曇らせた伊織に、宗一郎が心配そうに声をかけてきた。
伊織はハッと顔をあげた。
同じように心配そうに自分を見つめてくるみんなの顔を見て、安心させるように笑ってみせる。
「大丈夫です。――みんなが、いてくれますから」
言うと、全員が力強く微笑んでくれた。
胸にあたたかいものがじんわりと広がっていく。
大丈夫。
今なら大丈夫。
あの時はつらいだけで、まわりに目を向けるなんてできなかったけど。
笙子も種田もコーチも家族も、みんなみんな心配してくれてたのに気付かなくて、ひとりぼっちだなんて思ってしまったけれど。
でも今の自分は違う。
ちゃんとわかってる。
(牧先輩も小百合先輩もまりあちゃんもノブも、宗くんもいてくれる。わたしはひとりじゃない)
それに、つらくなったら宗一郎の胸で泣けばいい。
つらいときに受け止めてくれる場所があるって思うだけで、立ち向かう勇気がわいてくる。
怖くないといったらもちろんウソになるけれど。
でも大丈夫。
乗り越えていける。
伊織は一緒に立ち向かってくれる仲間がいることの心強さに、みんなに気付かれないよう少しだけ涙した。