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「で、でもジュニア大会や全中で優勝経験あるとか、海外遠征も経験してるとかは言いたくなくて……!」
事実を隠してテニスの腕を表現する方法が、伊織の頭ではあれしか思い浮かばなかったのだ。
宗一郎があー……と声を詰まらせる。
「なるほど、それは確かに言いたくないよね。……伊織、ほんとうにテニス凄かったんだね」
「ふふん、そうだよ見直した?」
伊織は小さく胸を突き出した。
自慢じゃないが、現役時代は本当にすごかったのだ。
「って胸張ってる場合じゃなくて!」
伊織は仕切りなおすようにぶんと大きく腕を振ると、先ほどから胸に引っかかっていた疑問を口にした。
「ねえ、宗くん。過去にそういう経験がある人が、その種目にエントリーしても平気なのかな。後でバレて失格にはならない?」
「ああ、それは平気だよ。ルールにも『現在当該部に所属してないこと』としか書かれてないし、過去の球技大会にもそういう全国経験者出たこともあるし」
「へえ、そうなんだ……」
失格になるようならこっそり担任の松本に伝えて変更させてもらおうと思ったのに。
伊織はがっかりしてため息をついた。
「ねえ伊織。俺から松本先生に言ってあげようか? 一応、球技大会は体育祭実行委員の管轄だけど、担任にも種目決定の権限があったハズだから、事情を言えば松本先生ならなんとかしてくれるんじゃない?」
「うーん、でも失格にならないなら、そこまで事を大きくしたくないし……。がんばる」
「大丈夫? 無理してない?」
「無理、してないって言ったらうそになるけど……。でも、わたしも宗くんが違う女の子とペアになるのはいやだな」
せっかく今のままならミックスダブルスで宗一郎とペアを組ませてくれるというのに、みすみすそれを他の女の子に譲りたくはなかった。
さっき宗一郎のクラスで再確認したけれど、やはり宗一郎はモテるのだ。物凄く。
テニスをやめて宗一郎が違う子とペアを組んで、もしもその子と宗一郎がいい感じにでもなってしまったら、伊織は種目変えしたことを悔やんでも悔やみきれなくなる。
言うと、宗一郎が嬉しそうに微笑んだ。
「はは。そっか、ありがとう」
「うん。宗くん、さっきありがとうね」
「さっき?」
きょとんと問い返す宗一郎に、伊織は照れながら言う。
「く、九条先輩のとき」
まさかあんなところで告白されるなんて思わなかった。
付き合おうと言ってくる九条に、宗一郎が本気で止めてくれたことがすごく嬉しかった。
宗一郎は合点がいったのか、ああと小さく零す。
「当たり前だよ。九条、あいつ何考えてんだか。もっとこらしめてやればよかったな」
「あはは。宗くんは九条先輩とは仲良しなの?」
「仲良しっていうか……なんとなくウマが合ってよく一緒にいるかな。――なに、伊織。九条のことが気になるの?」
声のトーンを落として聞いてくる宗一郎に、伊織は慌てて首を振る。
「ち、違う違うそうじゃなくて! なんか、クラスにいる宗くんって新鮮っていうか。わたしの知らない宗くんをまたひとつ知れたみたいで嬉しかったの」
「ふうん? 九条には告白されるし?」
「だから、それは違うってば!」
重ねて言ってくる宗一郎に伊織は頬を膨らませて見せた。
それから先ほどあった情景を思い出して、拗ねるように唇を尖らす。
「それに、宗くんだって告白されてたじゃない」
「え? いつ?」