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心の中でだけそう毒づいて、宗一郎は信長を見やる。
伊織を失ったばかりで、今は余裕がない。
なんでもないフリをするだけで精一杯だった。
「で、話ってなに?」
「神さん、どういうことっすか?」
「なにが?」
問い返すと信長が表情を険しくしてこちらを見てきた。
「伊織と別れたって」
信長の怒りを抑えるようなその声音に、宗一郎の内側にも苛立ちが芽生えた。
どうして俺が責められなくちゃいけないんだろう。
信長だって昨日あの場にいて、種田と伊織のあの会話を聞いているはずなのに。
「そのこと? 情報早いね、ノブ」
「昨日……っ! 伊織から電話が来て……。それで……」
「へえ。伊織、あれからすぐノブに話したんだ。お前たち仲良いもんね」
「神さん! そんな風に言うのやめてくださいよ! あいつ、かわいそうなくらいぼろぼろに落ち込んでて……! 神さん、なんで!」
「なんで? そもそもなんで俺のほうが責められるの? なぐさめられたっていいと思うけど」
「なんでですか!? 伊織が相手のことを大切にできなかったからっすか!?」
「――ちがうよ。そうじゃないだろ」
「じゃあなんでですか!!」
まるで噛み合わない会話に、宗一郎が小さくため息を零した。
心の中に他に想い人がいると知って、そのまま付き合っていくなんてできるわけないのに。
どうして信長にはそれがわからないんだろう。
宗一郎にはそのことの方がわからなかった。
「ノブ。いつからこの国ではふたまたがOKになったの?」
「はぁ!? 神さん、何言ってんすか! こういうのはふたまたって言わないっすよ!」
「そう。ならもういいよ。俺とノブじゃあ考え方が違う。これ以上話したって意味がない」
言いながら宗一郎は踵を返した。
傍らに置いていた荷物を持って、歩き出す。
「な、神さん!」
背中から追いかけてくる焦ったような信長の声に、宗一郎は振り返った。
なんとか口許だけ微笑の形をつくる。
「ノブ。伊織に伝えて。ショウとうまくいくことを願ってるって」
「はぁ!? ちょ、神さん! ――神さん!!」
追いすがるような信長の声に今度は振り返ることなく、宗一郎はその場を去った。
「…………」
宗一郎は、汗を拭いながら重苦しい息を吐き出した。
伊織を避けながらの部活は思った以上に苦行だった。
今日部活に現れた伊織はすっかり泣き腫らした目をしていた。
こちらに気付いて駆け寄ってきた伊織を冷たく無視したときの、伊織の傷ついた顔が脳裏にこびりついて離れない。
(これで心おきなくショウのところに行けるのに、そんな顔するなよ)
我を忘れて抱きしめてしまいたくなる。別れるなんてウソで、やり直そうって言ってしまいそうになる。
宗一郎は不毛なその考えを頭の中から振り払うようにドリンクをひとくちすすった。
今日のドリンクも昨日と同じ味がして、だけど昨日とは違う自分と伊織との関係に、宗一郎は思わず涙ぐみそうになった。
昨日は頑張って飲み干したけど、今日はとても飲み干せる気がしない。
眉間に皺を寄せてドリンクを床に置いたそのとき、騒々しい声がすぐ脇の体育館入り口から響いた。
伊織を失ったばかりで、今は余裕がない。
なんでもないフリをするだけで精一杯だった。
「で、話ってなに?」
「神さん、どういうことっすか?」
「なにが?」
問い返すと信長が表情を険しくしてこちらを見てきた。
「伊織と別れたって」
信長の怒りを抑えるようなその声音に、宗一郎の内側にも苛立ちが芽生えた。
どうして俺が責められなくちゃいけないんだろう。
信長だって昨日あの場にいて、種田と伊織のあの会話を聞いているはずなのに。
「そのこと? 情報早いね、ノブ」
「昨日……っ! 伊織から電話が来て……。それで……」
「へえ。伊織、あれからすぐノブに話したんだ。お前たち仲良いもんね」
「神さん! そんな風に言うのやめてくださいよ! あいつ、かわいそうなくらいぼろぼろに落ち込んでて……! 神さん、なんで!」
「なんで? そもそもなんで俺のほうが責められるの? なぐさめられたっていいと思うけど」
「なんでですか!? 伊織が相手のことを大切にできなかったからっすか!?」
「――ちがうよ。そうじゃないだろ」
「じゃあなんでですか!!」
まるで噛み合わない会話に、宗一郎が小さくため息を零した。
心の中に他に想い人がいると知って、そのまま付き合っていくなんてできるわけないのに。
どうして信長にはそれがわからないんだろう。
宗一郎にはそのことの方がわからなかった。
「ノブ。いつからこの国ではふたまたがOKになったの?」
「はぁ!? 神さん、何言ってんすか! こういうのはふたまたって言わないっすよ!」
「そう。ならもういいよ。俺とノブじゃあ考え方が違う。これ以上話したって意味がない」
言いながら宗一郎は踵を返した。
傍らに置いていた荷物を持って、歩き出す。
「な、神さん!」
背中から追いかけてくる焦ったような信長の声に、宗一郎は振り返った。
なんとか口許だけ微笑の形をつくる。
「ノブ。伊織に伝えて。ショウとうまくいくことを願ってるって」
「はぁ!? ちょ、神さん! ――神さん!!」
追いすがるような信長の声に今度は振り返ることなく、宗一郎はその場を去った。
「…………」
宗一郎は、汗を拭いながら重苦しい息を吐き出した。
伊織を避けながらの部活は思った以上に苦行だった。
今日部活に現れた伊織はすっかり泣き腫らした目をしていた。
こちらに気付いて駆け寄ってきた伊織を冷たく無視したときの、伊織の傷ついた顔が脳裏にこびりついて離れない。
(これで心おきなくショウのところに行けるのに、そんな顔するなよ)
我を忘れて抱きしめてしまいたくなる。別れるなんてウソで、やり直そうって言ってしまいそうになる。
宗一郎は不毛なその考えを頭の中から振り払うようにドリンクをひとくちすすった。
今日のドリンクも昨日と同じ味がして、だけど昨日とは違う自分と伊織との関係に、宗一郎は思わず涙ぐみそうになった。
昨日は頑張って飲み干したけど、今日はとても飲み干せる気がしない。
眉間に皺を寄せてドリンクを床に置いたそのとき、騒々しい声がすぐ脇の体育館入り口から響いた。