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(伊織……)
宗一郎は伊織の髪にそっと口付けると、震える唇を一度噛み締めて、決意を固めて重い口を押し開いた。
「大丈夫だよ、伊織。キミならきっと、そのショウってやつとやり直せる……」
「…………うん」
「――でもひどいな、伊織は。そんな話を俺にするなんて……。まあ、聞いたのは俺なんだけど」
「……え?」
腕の中の伊織が顎をあげて下から顔を覗き込んできた。
そうして伊織がハッと息を呑んで両目を思いっきり見開いた。
手を伸ばして宗一郎の頬に触れてくる。
「ど、どうしたの、宗くん。なんで泣いて……」
伊織のその言葉で、さっきからゆらゆらと視界が揺らめいていたわけがわかった。
だけどその涙を拭う余裕も、止める余裕も宗一郎には残されてなかった。
伊織の額に自分の額を押し当てて、荒れ狂う感情の波を抑えるように声をしぼりだす。
「残酷だよ、伊織。そんなに想うヤツがいるのに、どうして俺を好きだと言ったの? 俺は……俺は、こんなにも伊織が好きなのに……!」
言って宗一郎は伊織を強く抱きしめた。
腕の中で伊織が小さく身じろぎをする。
からだを離して、なにかを言おうと開かれた伊織の唇を宗一郎は自分の唇で強引に塞いだ。
「んっ」
そのまま伊織の口腔内を侵食するように舌を這わせる。
逃げる伊織の舌をつかまえて。歯列をなぞって。下唇に軽く吸い付いて。もう一度伊織の唇についばむように優しくキスをして。そうしてやっと宗一郎は唇を離した。
顔を赤く染めて、潤んだ瞳でぼんやり見上げてくる伊織を、宗一郎は狂おしいくらい切ない気持ちで見つめた。
このままショウにやるぐらいなら、この場で壊して自分のものにしてしまいたかった。
「別れよう、伊織」
「――え?」
焦点の定まらなかった伊織の瞳が、その言葉に一瞬で正気を取り戻す。
宗一郎は、自分の内側で狂ったように暴れだす感情全てにふたをして、もう一度繰り返す。
「別れよう」
「……や!」
瞬間、伊織の顔が苦痛に歪んだ。
宗一郎はそんな伊織から顔を背けた。
卑怯だ。そんな傷ついた顔をするなんて。
(伊織が俺のことを捨てるくせに……!)
宗一郎の胸に、伊織がすがるように取り付いてくる。
「や、どうして!? わたしがショウにひどいことをしたから!? 宗くん、だからなの!?」
伊織の綺麗な瞳から透明な涙がぽろぽろといくつも零れ落ちていく。
思わずその頬に伸ばしかけた手を、宗一郎はぐっと握り締めてとどめた。
もう伊織の涙を拭う役目は自分にはない。
そう言い聞かせて、感情を押し殺して淡々と言葉をつなぐ。
「伊織。これ以上俺を苦しめないで」
乱暴に伊織のからだを自分から引き剥がして、宗一郎は言った。
「や、やだ! なんで!? やだ、宗くん!」
泣き叫ぶ伊織の声を背に受けて、宗一郎は部室へ入った。
伊織の鞄を持ってそこを出ると、ずいとそれを伊織に差し出す。