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種田と伊織がショウのことについて話していたシーンばかりが繰り返し頭の中に思い出される。
わかったのは、伊織にとって自分が邪魔になってしまっているのだということ。
伊織とショウは、両想いだということ。
宗一郎は小さく首を振ると、その考えを追い払うようにシュートを放った。
集中しきれない頭で放ったボールはリングに嫌われた。
弾かれたボールがてんてんと転がりながら伊織の足元で止まる。
今この体育館には宗一郎と伊織の二人きりだった。
自主練のため残っていた信長たちも、先ほど練習を終えて引き上げている。
伊織は転がってきたボールを手に取ると、眉尻を下げて微笑んだ。

「宗くん、今日はシュート成功率が低いね」
「そうかな」

伊織のせいだよ。
思わず口をついて出そうになったその言葉を、宗一郎はすんでのところで飲み込んだ。
ケンカ別れにはしたくない。
宗一郎は伊織からパスを受け取ると、その場でボールをついた。
リズムよく手の中でボールをバウンドさせながら、用心深く言葉を選ぶ。
伊織を傷つけないように。
声を荒げないように。
……声が、震えないように。

伊織はさ、……ショウってやつのことが、好きなんだ?」

手元のボールを見ながら、宗一郎はなんとかその言葉を吐き出した。
伊織が息を呑む気配がする。
そして、紡がれる言葉。

「――うん」

その言葉の威力は絶大で。
ガラスに大きな石を投げつけたみたいに、宗一郎の心がばらばらに砕け散った。
ドリブルなんてからだに染み付いてしまっているはずなのに、ボールをつく手元が空を切った。
手から外れたボールが小さくその場で弾み、やがて静止する。
まったくの無音になった体育館に、まるで最後の審判を告げるように響く伊織の声。

「多分、ショウにはじめて会ったときから、わたし、ショウのことが大好きだったの……。ショウは何も言わなくてもわたしの気持ちをわかってくれて、わたしも、ショウが何も言わなくてもショウの気持ちが全部わかった。ほんとうに以心伝心で、最高のパートナーだったの」
「……うん」

伊織の話す言葉のひとつひとつが重力のある石となって、もうほとんど原形を保っていない宗一郎の心の破片をさらに粉々に砕いていく。

「だけど、やっぱりケガをしたあの時にわたしがダメにしちゃった……。もう二度とショウみたいな人には会えないってわかってたのに。かけがえのない存在だってわかってたのに、そんなショウにさえ、わたしは何も言わずに裏切るように神奈川に出てきちゃったの。……あんなに大切だったのに」

苦しそうに眉を寄せて胸を抑えて、伊織が目を伏せる。

(そんな切なそうに、他の男のことを語るなよ……)

宗一郎は思わず伊織を抱きしめた。
するとぎゅっとしがみついてくる伊織の腕。
宗くん……と、甘えるようなすがるような声音で囁かれる自分の名。
胸が切り刻まれた気がした。
やっと、手に入れたと思ったのに……。
宗一郎は突き刺さるような胸の痛みを堪えるように小さく深呼吸をする。

「ショウってやつは、伊織のこと待ってるんだろ?」
「……そうみたいだけど。でも……」
「大丈夫」

言いながら宗一郎は伊織の頭を撫でた。
本当は手放したくなんてない。
自分よりもショウのことを好きでいていいから、それでも伊織にそばにいてほしかった。
二人で一緒にいろんなところに行って。おいしいものを食べて。楽しいことも悲しいことも分かち合って。
そうやって長い年月をずっと一緒に過ごしていきたかった。
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