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「ちょっと伊織ちゃん! 宗ちゃんは伊織ちゃんだからそれを持ってきたんじゃないんだからね! 宗ちゃんが優しくて、伊織ちゃんがマネージャーだからよ! それにそもそも、まりあのついでだったから持ってきたんだから! 勘違いしないで!!」
まりあの怒声に、驚いたように伊織がこちらを見た。
今まできゃいきゃい騒いでいた周囲も、まりあのその剣幕にしんと静まり返る。
全員の注目が集まって、まりあはハッと我に返った。
しまった、こんなところで。
震える手つきで口元を押さえると、まりあはかわいらしいその顔を儚げにゆがめた。
こんな風に人前で声を荒げたり、ののしったりしてはいけない。雪原まりあは、誰もが守ってあげたくなるような女の子でなくては。
まりあは小さく息を吸い込むと、唇を持ち上げた。
「伊織ちゃんごめんなさい。わたし、ちょっとやきもち妬いちゃって……。なんだか宗ちゃんが伊織ちゃんに取られちゃうような気がしてびっくりして、それで……。いきなり怒鳴ったりなんかして、ほんとうにごめんなさい!」
まりあはがばりと体を二つに折り曲げた。
目の前の伊織はそれを見て慌ててまりあの体を起こすと、眉尻を下げて微笑んだ。
「やだなぁまりあちゃん、びっくりしちゃったよ。やきもち? もう、わたしなんかに妬いてもしょうがないよ? まりあちゃんと神先輩の間に入れる人なんか誰もいないって。それに、わたしなんかまりあちゃんと比べたら月とすっぽんですから」
「ううん、そんなことない。ほんとうにごめんね、伊織ちゃん」
まりあは目を潤ませて、伊織を見上げた。
気にしないでというように微笑む伊織。その横で、信長が伊織の先ほどの言葉にうんうんと頷いている。
「ほんとほんと、たしかにまりあちゃんと比べたら伊織なんか月とすっぽんだよな。――いや、それじゃすっぽんに失礼か」
「……ちょっと、どういう意味よ」
あまりに失礼な発言に、伊織は信長の頭をポカリと殴りつけている。
その様子を見て、まりあはくすりと微笑んだ。
砂糖菓子のような微笑みを浮かべたまま、口を開く。
「それに、伊織ちゃんはまりあの親友だもんね。だから、大丈夫だもんね」
「え? う、うん」
伊織の返事を聞いて、まりあは満足げに微笑んだ。
そのとき、ちょうど予鈴が鳴り響く。
「あ、もう席に戻らなくちゃ。じゃあね、伊織ちゃん、ノブくん」
まりあは、伊織と信長に背を向け、自分の席へ向かいながら唇を片方持ち上げた。
親友。この立場を利用しない手はない。
(いーいこと思いついちゃった)
まりあは、もう一度ふふと小さく笑うと、楽しげに席に着いた。
* * *
伊織は自分の席に着き、まりあの背中を見つめながら小さく首をひねった。
『伊織ちゃんはまりあの親友だもんね。だから大丈夫だもんね』
(……あれは、どういう意味だろう)
顔は笑顔なのに、なんだか怖かった。
次の授業の地理の教科書を机に用意すると、伊織は制服の上着から小さな折りたたみ式の鏡を取り出した。
その中に自分の顔を映しこむと、先ほど宗一郎にもらった軟膏を少量手に取り、くるくると円を描くようにおでこに塗りこんでいく。
鏡に映った自分の顔。たいしてかわいくもなんともない、平凡な顔。
(ほんとうに、まりあちゃんが不安になることなんてないのに……)
宗一郎が、あんなにかわいいまりあを差し置いて、自分なんかを相手にするはずがないのに。
自然と下がっていく眉尻。
伊織は胸の痛みを吐き出すように深くため息をつくと、パタンと鏡を閉じた。
まりあの怒声に、驚いたように伊織がこちらを見た。
今まできゃいきゃい騒いでいた周囲も、まりあのその剣幕にしんと静まり返る。
全員の注目が集まって、まりあはハッと我に返った。
しまった、こんなところで。
震える手つきで口元を押さえると、まりあはかわいらしいその顔を儚げにゆがめた。
こんな風に人前で声を荒げたり、ののしったりしてはいけない。雪原まりあは、誰もが守ってあげたくなるような女の子でなくては。
まりあは小さく息を吸い込むと、唇を持ち上げた。
「伊織ちゃんごめんなさい。わたし、ちょっとやきもち妬いちゃって……。なんだか宗ちゃんが伊織ちゃんに取られちゃうような気がしてびっくりして、それで……。いきなり怒鳴ったりなんかして、ほんとうにごめんなさい!」
まりあはがばりと体を二つに折り曲げた。
目の前の伊織はそれを見て慌ててまりあの体を起こすと、眉尻を下げて微笑んだ。
「やだなぁまりあちゃん、びっくりしちゃったよ。やきもち? もう、わたしなんかに妬いてもしょうがないよ? まりあちゃんと神先輩の間に入れる人なんか誰もいないって。それに、わたしなんかまりあちゃんと比べたら月とすっぽんですから」
「ううん、そんなことない。ほんとうにごめんね、伊織ちゃん」
まりあは目を潤ませて、伊織を見上げた。
気にしないでというように微笑む伊織。その横で、信長が伊織の先ほどの言葉にうんうんと頷いている。
「ほんとほんと、たしかにまりあちゃんと比べたら伊織なんか月とすっぽんだよな。――いや、それじゃすっぽんに失礼か」
「……ちょっと、どういう意味よ」
あまりに失礼な発言に、伊織は信長の頭をポカリと殴りつけている。
その様子を見て、まりあはくすりと微笑んだ。
砂糖菓子のような微笑みを浮かべたまま、口を開く。
「それに、伊織ちゃんはまりあの親友だもんね。だから、大丈夫だもんね」
「え? う、うん」
伊織の返事を聞いて、まりあは満足げに微笑んだ。
そのとき、ちょうど予鈴が鳴り響く。
「あ、もう席に戻らなくちゃ。じゃあね、伊織ちゃん、ノブくん」
まりあは、伊織と信長に背を向け、自分の席へ向かいながら唇を片方持ち上げた。
親友。この立場を利用しない手はない。
(いーいこと思いついちゃった)
まりあは、もう一度ふふと小さく笑うと、楽しげに席に着いた。
* * *
伊織は自分の席に着き、まりあの背中を見つめながら小さく首をひねった。
『伊織ちゃんはまりあの親友だもんね。だから大丈夫だもんね』
(……あれは、どういう意味だろう)
顔は笑顔なのに、なんだか怖かった。
次の授業の地理の教科書を机に用意すると、伊織は制服の上着から小さな折りたたみ式の鏡を取り出した。
その中に自分の顔を映しこむと、先ほど宗一郎にもらった軟膏を少量手に取り、くるくると円を描くようにおでこに塗りこんでいく。
鏡に映った自分の顔。たいしてかわいくもなんともない、平凡な顔。
(ほんとうに、まりあちゃんが不安になることなんてないのに……)
宗一郎が、あんなにかわいいまりあを差し置いて、自分なんかを相手にするはずがないのに。
自然と下がっていく眉尻。
伊織は胸の痛みを吐き出すように深くため息をつくと、パタンと鏡を閉じた。