番外編 キミまであと少し
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「えぇえー!?」
陵南高校男子バスケットボール部部室。部活終了後、帰宅準備も終えた仙道彰はケータイのメールを開いて情けない叫び声をあげた。
そのままずるずると地面に力なくうずくまる。
陵南高校は先の夏の大会、決勝リーグで惜しくも敗れ、今は二年生が主体で部活動を取り仕切っていた。
その中心人物、次期キャプテンの仙道彰の醜態に、チームメイトである越野宏明と福田吉兆が顔を見合わせる。
「おい、なんだよ仙道。どうしたんだよ」
「聞いてよ越野! ひどいんだよ! 中学からの親友に、先日伊織ちゃんにフラれてしまいましたってメールしたの! そしたらさ、そしたらさ、なんて返信来たと思う!?」
「あ? 妥当な線ならドンマイとか頑張れとかだろ?」
越野がなんだよそんな話題かよとめんどくさそうに顔をしかめながら、隣にいる福田になあと同意を求めた。
福田もそれにこくこくと頷きを返す。
「だよねえ! 普通そうだよねえ!? なのにさ、見てよこれ!」
言って仙道は越野と福田にメール画面をみせた。
そこに無機質に表示されるひらがな五文字。
『おめでとう』
「うわ……」
それまでだるそうに問答に答えていた越野も、そのメールを見て絶句した。
仙道のここ数日間の落ち込みようを間近で見てきた越野は、この文面に頬をひきつらせる。
福田も、驚いたように目を見開いた。
「え、オレメールの文面間違えたのかな? もしかして伊織ちゃんと付き合うことになったみたいなこと送った……?」
言いながら仙道は手元のケータイを素早く操作した。
メールの送信履歴を読み出し、自分が送ったメールを確認する。
『この前、伊織ちゃんにフラれたよ。オレさすがに今回ばかりは立ち直れないかも』
「…………」
間違ってない。それどころか確認したことによって返信内容のひどさがよりいっそう浮き彫りになった。
仙道はそれを見て疲れたように深くうなだれる。
越野と福田も仙道のケータイのディスプレイを覗き込んでそこにかかれた文面を確認すると、今度はふたりともあー……と言葉もない様子でうめいた。
『立ち直れないかも』と書かれたメールに『おめでとう』。
いったいどういう友情を築いたらそんな返信が来るのか、越野と福田には見当もつかなかった。
「あー、マジでひどすぎるー! 種田めあいつ地獄に落ちたらいいんだ……!」
「おまえ、その種田ってやつとどういう友情築いてんだよ」
「普通に健全なチームメイトだよ中学の頃の!」
「健全なチームメイトは、仲間が落ち込んでるときにこんなメール送らない」
福田が小さく首を振りながら答える。
越野もそれに大いに同意した。
「違うんだよ、こいつはそういうやつなんだよ、マジで悪魔なの! うう、こんなときいつもだったら伊織ちゃんが慰めてくれるのに……」
仙道が力なくつぶやく。
その名前に福田が顔をあげた。
「あ。そういえば、オレ昨日ジンジンとデート中の伊織ちゃんに会った」
「ウソォ!? どこでどこで?」
「鎌倉。一緒にバスケした」
「え、伊織ちゃんも?」
福田は小さく首を振る。
「あの子は見てただけ。あの子すごい。オレとジンジンがバスケに熱中して長時間ほったらかしにしても怒りもしない。それどころかオレにまで飲み物買ってくれた。……優しい」
「でしょでしょ!? 伊織ちゃん、自分もスポーツ選手だっただけあって、そういうとこわかってるっていうかさ、つーか神のやつ伊織ちゃんほったらかすなよ、あー好きだよ伊織ちゃーん!」
言葉の途中でいきなり仙道が空に向かってほえた。
越野がそんな仙道の背中を軽く蹴りつける。
「あーもう、未練がましいな、オイ!」
「でもそんな風に言えるようになっただけ進歩。ちょっと前までは触れもしなかった。仙道頑張ってる」
「…………!」
ふいに仙道が真顔になった。
顔を伏せて福田の肩をこぶしで小突く。
「……泣かせるなよ」
「ごめん」
「…………。幸せそうだった?」
福田が小さく頷く。
「意外なジンジンが見れた。あれは相当惚れてる」
「っておい! そっちじゃないよ! なんでオレが神に興味示すんだよ、伊織ちゃんだよ伊織ちゃん!!」
「……ああ!」
わざとらしく福田はぽんと手をうって、仙道に向き直った。
きりっと表情を引き締めて言う。
「幸せそうだった。大丈夫、ジンジンにすごく大事にされてる」
「……そっか。じゃあよかった」
仙道は嬉しくなって微笑んだ。
自分の手でしあわせにできないことにまだ胸は痛むけれど、どこかで伊織がしあわせに笑ってると思うだけで満たされた気持ちになった。
そんな仙道を見て、越野と福田が胸を詰まらせた。
やり場のない感情を仙道の頭を殴りつけることで表現する。
「イタッ! ちょ、何すんだよ!」
「仙道、メシ行こう! オレが奢ってやる!」
「オレも奢る」
「はは、ほんと? サンキュ」
「だから、この前お前がサボったときポカリにレモン汁大量に入れたの見逃してくれ!」
「ええ!? あれ越野だったの!?」
「オレもあのとき、仙道のロッカーに仙道の写真たくさん入れてゴメン」
「あれお前!? 帰るときにロッカー開けてすげぇ怖かったし!」
「さ、メシ行こう!」
驚いたように抗議を繰り返す仙道を尻目に、越野と福田は歩き出した。
仙道は二人の背中を慌てて追いかける。
「ええ!? この話もう終わりなの!? オレこれ以上追求できないの!? え!?」
「まあ細かいことは気にするな」
「ウソォ!? 全然細かくないじゃん! 失恋したときくらいちょっと練習サボったりして落ち込ませてくれたって……!」
「「それは日ごろの行い」」
越野と福田は見事に声をハモらせて、ばっさり仙道を切り捨てた。
「えー!?」
仙道の情けない叫び声が陵南高校に響き渡る。
「うるさいぞ仙道! お前新キャプテン候補なんだろ!? 自覚もて、しっかりしろ!」
「ぇえー!?」
「さ、つべこべ言ってねぇで行くぞ!」
越野は不満そうに唇を尖らせる仙道の首根っこを掴むと、その巨体をずるずると引きずった。
そんな越野に福田が呑気に提案する。
「オレ、ハンバーグ食べたい」
「お、いいな。じゃあびっくり○ンキーに行こうぜ!」
「しかもオレ選択権なし!」
自分が落ち込んでいるからご飯を奢ってくれるという流れのはずなのに、なぜ主役がご飯を選べないのだろうか。
仙道のその訴えにも耳を貸さず、どんどんと歩を進める二人。
(…………。まあ、いいか)
仙道は越野の手から逃れると、前を行く越野と福田の背中を見ながら思った。
伊織に振られたことからはまだ当分立ち直れそうもない。
けれど、自分には心配してくれる友人がいる。
(とんでもないメール返してくる悪魔みたいなやつもいるけど)
でもそんなあいつも心配してくれていることは間違いない。
仙道は目を細めて口角を上げる。
キミのことを忘れるにはまだ時間がかかるけど、もう少ししたらキミに会いにいけるかな。
そんなことを思って、仙道は目の前の二人の間に割り込んだ。
陵南高校男子バスケットボール部部室。部活終了後、帰宅準備も終えた仙道彰はケータイのメールを開いて情けない叫び声をあげた。
そのままずるずると地面に力なくうずくまる。
陵南高校は先の夏の大会、決勝リーグで惜しくも敗れ、今は二年生が主体で部活動を取り仕切っていた。
その中心人物、次期キャプテンの仙道彰の醜態に、チームメイトである越野宏明と福田吉兆が顔を見合わせる。
「おい、なんだよ仙道。どうしたんだよ」
「聞いてよ越野! ひどいんだよ! 中学からの親友に、先日伊織ちゃんにフラれてしまいましたってメールしたの! そしたらさ、そしたらさ、なんて返信来たと思う!?」
「あ? 妥当な線ならドンマイとか頑張れとかだろ?」
越野がなんだよそんな話題かよとめんどくさそうに顔をしかめながら、隣にいる福田になあと同意を求めた。
福田もそれにこくこくと頷きを返す。
「だよねえ! 普通そうだよねえ!? なのにさ、見てよこれ!」
言って仙道は越野と福田にメール画面をみせた。
そこに無機質に表示されるひらがな五文字。
『おめでとう』
「うわ……」
それまでだるそうに問答に答えていた越野も、そのメールを見て絶句した。
仙道のここ数日間の落ち込みようを間近で見てきた越野は、この文面に頬をひきつらせる。
福田も、驚いたように目を見開いた。
「え、オレメールの文面間違えたのかな? もしかして伊織ちゃんと付き合うことになったみたいなこと送った……?」
言いながら仙道は手元のケータイを素早く操作した。
メールの送信履歴を読み出し、自分が送ったメールを確認する。
『この前、伊織ちゃんにフラれたよ。オレさすがに今回ばかりは立ち直れないかも』
「…………」
間違ってない。それどころか確認したことによって返信内容のひどさがよりいっそう浮き彫りになった。
仙道はそれを見て疲れたように深くうなだれる。
越野と福田も仙道のケータイのディスプレイを覗き込んでそこにかかれた文面を確認すると、今度はふたりともあー……と言葉もない様子でうめいた。
『立ち直れないかも』と書かれたメールに『おめでとう』。
いったいどういう友情を築いたらそんな返信が来るのか、越野と福田には見当もつかなかった。
「あー、マジでひどすぎるー! 種田めあいつ地獄に落ちたらいいんだ……!」
「おまえ、その種田ってやつとどういう友情築いてんだよ」
「普通に健全なチームメイトだよ中学の頃の!」
「健全なチームメイトは、仲間が落ち込んでるときにこんなメール送らない」
福田が小さく首を振りながら答える。
越野もそれに大いに同意した。
「違うんだよ、こいつはそういうやつなんだよ、マジで悪魔なの! うう、こんなときいつもだったら伊織ちゃんが慰めてくれるのに……」
仙道が力なくつぶやく。
その名前に福田が顔をあげた。
「あ。そういえば、オレ昨日ジンジンとデート中の伊織ちゃんに会った」
「ウソォ!? どこでどこで?」
「鎌倉。一緒にバスケした」
「え、伊織ちゃんも?」
福田は小さく首を振る。
「あの子は見てただけ。あの子すごい。オレとジンジンがバスケに熱中して長時間ほったらかしにしても怒りもしない。それどころかオレにまで飲み物買ってくれた。……優しい」
「でしょでしょ!? 伊織ちゃん、自分もスポーツ選手だっただけあって、そういうとこわかってるっていうかさ、つーか神のやつ伊織ちゃんほったらかすなよ、あー好きだよ伊織ちゃーん!」
言葉の途中でいきなり仙道が空に向かってほえた。
越野がそんな仙道の背中を軽く蹴りつける。
「あーもう、未練がましいな、オイ!」
「でもそんな風に言えるようになっただけ進歩。ちょっと前までは触れもしなかった。仙道頑張ってる」
「…………!」
ふいに仙道が真顔になった。
顔を伏せて福田の肩をこぶしで小突く。
「……泣かせるなよ」
「ごめん」
「…………。幸せそうだった?」
福田が小さく頷く。
「意外なジンジンが見れた。あれは相当惚れてる」
「っておい! そっちじゃないよ! なんでオレが神に興味示すんだよ、伊織ちゃんだよ伊織ちゃん!!」
「……ああ!」
わざとらしく福田はぽんと手をうって、仙道に向き直った。
きりっと表情を引き締めて言う。
「幸せそうだった。大丈夫、ジンジンにすごく大事にされてる」
「……そっか。じゃあよかった」
仙道は嬉しくなって微笑んだ。
自分の手でしあわせにできないことにまだ胸は痛むけれど、どこかで伊織がしあわせに笑ってると思うだけで満たされた気持ちになった。
そんな仙道を見て、越野と福田が胸を詰まらせた。
やり場のない感情を仙道の頭を殴りつけることで表現する。
「イタッ! ちょ、何すんだよ!」
「仙道、メシ行こう! オレが奢ってやる!」
「オレも奢る」
「はは、ほんと? サンキュ」
「だから、この前お前がサボったときポカリにレモン汁大量に入れたの見逃してくれ!」
「ええ!? あれ越野だったの!?」
「オレもあのとき、仙道のロッカーに仙道の写真たくさん入れてゴメン」
「あれお前!? 帰るときにロッカー開けてすげぇ怖かったし!」
「さ、メシ行こう!」
驚いたように抗議を繰り返す仙道を尻目に、越野と福田は歩き出した。
仙道は二人の背中を慌てて追いかける。
「ええ!? この話もう終わりなの!? オレこれ以上追求できないの!? え!?」
「まあ細かいことは気にするな」
「ウソォ!? 全然細かくないじゃん! 失恋したときくらいちょっと練習サボったりして落ち込ませてくれたって……!」
「「それは日ごろの行い」」
越野と福田は見事に声をハモらせて、ばっさり仙道を切り捨てた。
「えー!?」
仙道の情けない叫び声が陵南高校に響き渡る。
「うるさいぞ仙道! お前新キャプテン候補なんだろ!? 自覚もて、しっかりしろ!」
「ぇえー!?」
「さ、つべこべ言ってねぇで行くぞ!」
越野は不満そうに唇を尖らせる仙道の首根っこを掴むと、その巨体をずるずると引きずった。
そんな越野に福田が呑気に提案する。
「オレ、ハンバーグ食べたい」
「お、いいな。じゃあびっくり○ンキーに行こうぜ!」
「しかもオレ選択権なし!」
自分が落ち込んでいるからご飯を奢ってくれるという流れのはずなのに、なぜ主役がご飯を選べないのだろうか。
仙道のその訴えにも耳を貸さず、どんどんと歩を進める二人。
(…………。まあ、いいか)
仙道は越野の手から逃れると、前を行く越野と福田の背中を見ながら思った。
伊織に振られたことからはまだ当分立ち直れそうもない。
けれど、自分には心配してくれる友人がいる。
(とんでもないメール返してくる悪魔みたいなやつもいるけど)
でもそんなあいつも心配してくれていることは間違いない。
仙道は目を細めて口角を上げる。
キミのことを忘れるにはまだ時間がかかるけど、もう少ししたらキミに会いにいけるかな。
そんなことを思って、仙道は目の前の二人の間に割り込んだ。