19
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
突然ぶつぶつと自分の世界に入り始めた真幸の腕を美奈子が小突いた。
「ちょっと真幸さん。話がずれてるわよ」
「お、おお。すまんすまん」
真幸は気分を切り替えるように一度大きく咳払いをすると、再び宗一郎に向き直る。
「だから、つまりだね。するなとはいわない。それは自然な感情で衝動だ。本気で相手のことを愛しいと思えばそれこそが自然だ。だけれど、一時の感情に流されてはいけないよ。予防は絶対にしてくれ。赤ちゃんはまわりに祝福されて誕生すべきだ。……そうは思わないか?」
「はい」
宗一郎が真剣な表情で頷いた。
満足げに真幸が片頬を持ち上げる。
「きちんと自分たちでその責任を負えるようになったら、わたしたちはもう何も言わない。だけれど、今はまだそのときではない。その事をしっかり念頭に置いて、これからも娘を大事にしてくれ」
「はい。大切にします、伊織さんのこと」
「うむ。もちろん、自分も大切にしてくれよ。君になにかあると伊織が悲しむ」
「はい。ありがとうございます」
「お父さん……」
伊織は感動して瞳を潤ませた。
最初は何を言い出すのかと思った。けれど、たしかにこれは大事な話だった。
愛し合うとはつまりそういうこと。
こんなこと面と向かって言う親なんて奇妙奇天烈だけど、それでも伊織はこの両親を誇らしく思った。
しんみりとした空気を感じ取って、美奈子がふんわりと微笑む。
「ふふ、なんだか伊織ちゃんをお嫁に出すみたいね、真幸さん」
「嫁ぇ!? ダメだダメだ、まだやらん! 伊織にはまだまだかわいいわたしの娘でいてもらわなければ!」
「ちょっとお父さんなに言ってるのよもう、感動が台無し!」
「いいか宗一郎くん。まだ嫁にやるとはいってないぞ! 確かに君なら合格点だが……いやそんな話はどうでもいい、わたしがまだ嫌だ! とにかく先の事を考えるのもいいが、今このときを積み重ねて、その一瞬一瞬すべてにおいて伊織を大事にしてくれ」
「はい」
真幸の慌てぶりに、宗一郎は笑いをかみ殺しながら頷いた。
伊織はそんな二人のやりとりを見て、痺れを切らしたように立ち上がった。
「はい、もうこの話はおしまい! もういいよね? 宗くん、上に行こう」
「あ、うん。ご飯、ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「いいえ、お粗末さまでした」
「あと、大切なお話、聞かせてくださってありがとうございます。俺、真剣に伊織さんが好きでお付き合いしてます。お二人を悲しませたりしないように、伊織さんを悲しませたりしないように、本当に大切にします」
言い終わると宗一郎は頭を下げた。
宗一郎のその言葉に、伊織の胸がきゅっと締め付けられた。
言葉ではとても表現しきれないような気持ちが胸いっぱいに広がって、呼吸さえ苦しくなる。
だけれども両親と宗一郎がそんな話をするのはやっぱりどこか気恥ずかしい。
伊織は宗一郎の背中を押すと、逃げるようにして二階の自分の部屋へと行った。
そうしないと、両親の前で嬉しくて泣いてしまいそうだった。
美奈子と真幸は、二階へ上がっていく伊織と宗一郎の背中を見守りながら微笑んだ。
「伊織は、いいひとを掴まえたな」
「そうね。普通だったら付き合ってすぐにこんな話されたら重いって引かれちゃうものね」
「……いつか、ほんとうに嫁にもらいに来たらどうしようかな」
「あら、宗一郎くんだったらいいじゃない。きっと伊織のことしあわせにしてくれるわよ」
「それはわかる、が……でもなあ……」
「ふふ。男親って複雑ねえ」
「これも、男が昔犯した罪ってやつなのかな……」
「なにわけのわからないこと言ってるの、真幸さんたら」
「いや、ほら、美奈子をおとうさんから奪った罪って言うか……」
「あら、うちのおとうさんと仲良しじゃない」
「それとこれとは別だろう」