19
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「い、いろいろ大変だった……!」
「はは、いろいろ?」
「息も吸えないし、なのに心臓はどきどきいってよけい苦しくなるし、し、死ぬかと……!」
「ごめんごめん。伊織がかわいかったからつい」
「だから、……外なのに!」
恨めしそうな表情をして上目遣いで伊織が睨んでくる。
そんな表情をされたって、赤い顔と潤んだ瞳で言われればこちらを狂わせようとしているようにしか思えない。
「それ、その表情。そんな顔して見つめられたら、俺おかしくなっちゃうよ」
紛れもない本音だけどわざと冗談ぽく言ってやれば、伊織が今度は顔を真っ赤にして頬を膨らませる。
「もう、宗くん!? そんなことばっかり……! もういいからとっととシュート練習してください!」
伊織は怒って立ち上がると、小さな手で宗一郎の背中をぐいぐいと押してスリーポイントラインに立たせた。
両手を軽くはたく真似をして、はいどうぞとにこにこ笑って言ってくる。
宗一郎はそんな伊織に苦笑しながらわかりました、と答えてシュート練習をはじめた。
伊織はゴール近くに移動して、ネットをくぐったボールを拾って宗一郎にパスをくれる。
ボールを追いかける様がなんとも愛らしくて、宗一郎の胸がじんわりあたたかくなった。
500本目のシュートがリングを通り抜けたとき、辺りはもうすでに暗くなっていた。
伊織は宗一郎に飲みかけのペットボトルを差し出した。
宗一郎が笑顔でそれを受け取って、中身を一気に呷る。
宗一郎の白く綺麗な喉が浮かび上がるように目に飛び込んできて、伊織は思わず目を逸らした。
心臓がどきどきうるさい。
赤くなった顔を誤魔化すように、伊織は汗拭きシートを宗一郎に差し出す。
「あ、汗拭かないと……!」
「ああ、うん。……でももうこれ、手遅れかも」
「?」
宗一郎の言葉に伊織は首をかしげた。
宗一郎が悪戯がばれた子供のような表情をして言う。
「服、中だけじゃなくて外までびっしょり」
伊織は宗一郎のポロシャツに手を伸ばした。
まるで雨に打たれたみたいにぐっしょり濡れていた。
この暑い中、何時間もバスケをしていたらそれも当然か。
思って伊織は眉根を寄せる。
「ほんとだ。どうしよう、風邪引いちゃう」
「ん、大丈夫だよ。よくあることだし」
「ダメだよ大会が近いんだし!」
「大丈夫。せっかくだし海行こうよ伊織。まだ時間大丈夫でしょ?」
「だー、海!? 風邪ひくダメダメなに考えてるの宗くん! 時間は大丈夫だけど……。あ、そうだ! それならうちにおいでよ宗くん! ね、そうしよう」
言うが早いか伊織は宗一郎の返答を待たずに家に電話を入れた。
「あ、ちょっと伊織!?」
戸惑う宗一郎の声をそのままに伊織は家族と話を続ける。
電話には母が出た。
事情を説明して、これから宗一郎をともなって家に帰る事を告げると、電話口から嬌声が上がった。
思わず伊織はケータイを耳から離す。
そこから漏れ聞こえる声に宗一郎も同じく目を見開いて驚いていた。
伊織は誤魔化すように宗一郎に笑顔を向けると、再びケータイを耳につける。